ソードアート・オンライン インテグラルファクターX ーアインクラッド・メモリーズー 作:No 77777
「さて、まずは戦い方を見ないとな」
リクはそう言うと立ち上がって移動し、コハルも後に続く。
やがて一分もしないうちに、青い毛をしたイノシシのモンスターを一体発見した。《フレンジー・ボア》、SAOにおけるザコ中のザコである。
「まずはいつものように戦ってみてくれ」
「は、はい」
不安になるコハルだが、HPはすでにほぼ全回復しており、多少攻撃を受けても大丈夫だろうと思って前に出る。
そのまま戦闘を開始するが、やはり攻撃はうまく当たらず、しまいには「あぁぁぁぁぁ!」と可愛い叫び声を上げて尻もちをついてしまう。
イノシシはそこに突進攻撃を仕掛けて来たが、リクが割り込んで剣で防御。相手に勢いがあったため、左手で刀身を押さえつつも両足で踏ん張っている。
「一旦、下がってろ」
コハルは言う通りに離れた。一旦イノシシは飛び退き、今度はリクに向かって突進してくる。
リクは慌てる様子もなく、左へサイドステップして回避。と同時に素早く剣を横右上に突き出す。すると刀身は仄かな水色の光を放ち始める。
そして、高速で左下へ剣を振るう。ソードスキル《スラント》はイノシシの首を切り裂いた。
ポリゴンで構成されたデータであるが故に出血はしないが、イノシシはぷぎー! と苦悶の声をあげる。
表示されたHPバーはみるみる減少し、緑から黃、赤へと変化、やがてゼロとなって消える。イノシシは体から青い光を発してガラスの様に砕け散り、幾千ものポリゴン片となって消滅した。
リクが繰り出したソードスキルとは、簡単に言えば敵に大ダメージを与える必殺技であり、これこそがSAO最大のウリなのだ。
SAOには様々な武器が存在し、ソードスキルは全ての武器に存在する。
さらに攻撃すればするほど武器の熟練度が上がり、一定数に達するとより強力なソードスキルが使えるようになり、発動速度や射程も上昇するのだ。
発動方法は規定された位置と角度で武器をホールドするだけ。そうすれば武器から色のついた光――ライトエフェクトが発生し、体がシステムに則って高速で武器を振るう(公式ではこれをシステムアシストと呼んでいる)のだ。
例えば先程リクが発動した片手直剣ソードスキル《スラント》は、(右手で出す場合)
コハルもソードスキルを繰り出す練習をし、発動させること自体はできるようになった。しかし、それをモンスター相手に出そうと思うとうまく行かない。
ソードスキルは強力だがリスクもある。放った後は必ず
技の種類によって時間に差はあるが、外せば相手にスキを見せてしまうため、コハルは使うタイミングをなかなか見つけられずに躊躇ってしまうのだ。
「その様子だと、基本ができてないな」
振り返ったリクの表情に軽蔑さは微塵もなく、優しげである。
リクが言うには、モンスターとの戦いは行動パターンを見極めることが基本とのこと。
相手がどんな恐ろしい姿をしていようと所詮はプログラムされたデータの塊でしかない。相手の動きをよく見て防御・回避していけば、やがては初動で攻撃を見切れるようになり、攻撃のチャンスも分かるようになるそうだ。
話を聞き終えたコハルはリクと共にmobを探すために再び移動。すぐに青イノシシ一体を発見し、今度こそはと意気込んだ。
「さっき言った通りにすれば大丈夫だ」
リクはそう励ますとコハルと距離を取る。ターゲットがリクに向いてしまうと訓練にならないからだ。
「……ふう」
大きく深呼吸したコハルはジリジリとイノシシに近づいていく。やがて敵はこちらの存在に気づき、右前足で床を掻く。目の前のザコにすら逃げていたコハルだったが、その行動には見覚えがあった。
「――っ‼」
思った通り、三度床を掻いた後に突進してきた。それをコハルはよろけつつも横に走って避ける。
攻撃を外したイノシシは急ブレーキで止まり、Uターン。再び獲物を視界に捉えて再び床を掻いて突進してきた。今度は慌てることなく避ける。
(もしかして……)
リクのアドバイスもあって、ようやくコハルはあることに気づいた。それを確かめるべく、今度はあえて敵の視界に自ら入る。
するとイノシシは右前足で三度床を掻いて突進してきた。だがコハルは慌てることもなく、サイドステップで余裕を持って躱す。
そして確信した。今更になって。
(このモンスター、攻撃方法これしかなかったんだ)
こんなワンパターンな行動しか取れない相手に苦戦していたのかと思うと、コハルはついバカバカしくなってしまった。
だったら、と次の攻撃に備えて気を引き締め、イノシシを注視する。敵は目が合うや否や、お決まりの行動から突進してくる。それをタイミング良く左へ飛んで回避し《スラント》を放つ。
(やった‼)
攻撃は見事に命中、イノシシの脇腹を切り裂いた。
敵のHPはまだ残っているが、あと一、二回ヒットさせれば倒せる。そう思って相手の突進を先ほどと同じように避けて再び《スラント》の構えをとるが……
(あれ、なんで?)
ライトエフェクトが発生しない。敵は勢いよく通過していく。
コハルはハッと気づいた。全てのソードスキルには
公式サイトのプレイマニュアルにも書かれていたことだが、コハルは初めてソードスキルをヒットさせた喜びのあまりつい忘れてしまっていた。
イノシシはすでにコハルに向かって突進してきたが、今度はリクが自分を守ったときと同じ方法で防御。踏ん張っているうちに視界下部にあるソードスキルの冷却待ちアイコンが消滅した。これで再び《スラント》が使える。
(次は一撃で倒さないと!)
コハルは自分を奮い立たせる。リクの情報によると、《フレンジー・ボア》の弱点は首の後ろ。そこにタイミングを合わせて技を打ち込めば敵のHPを削り切れる。
ド素人には簡単ではないかもしれないが、先程のリクの動きをイメージすればできるはず。
やがてイノシシは飛び退き、七回目の突進をしてくる。それを再び左へ飛んで躱す同時に《スラント》の構えをとる。刀身は仄かな水色の光を発し、コハルは斬撃を放つ。
ズサッ‼
見事、攻撃は首の後ろに当たった。叫ぶイノシシのHPはゼロとなり、そのまま消滅した。コハルの初勝利の瞬間だった。
「……倒した」
その喜びの声は呟くような小ささだった。今まで散々逃げたり殺られたりしていただけに、コハルは正直まだ信じられなかった。だがその事実を証明するかのように紫色のフォントで加算経験値の数字が浮かび上がっている。
「やったな、コハル」
リクが初勝利を祝うと、コハルは歓喜の声を上げる。
「……すごい……すごいよ! こんなにちゃんと戦えたの初めて!」
ついに自分の手でモンスターを倒した。できなかったことができるようになった喜びは何であっても大きい。
自分のことのように嬉しそうなリクの元へ、コハルはダッシュで近づいた。
「ようやくこれで一歩前進だな。おめでとう」
「ありがとうリク。本当にありがとう」
「これでコハルもまともに戦えるようになったけど、これからどうする? まだ不安なら、付き合ってあげてもいいぜ」
「えっ、いいんですか? それならお願いします。でもその前に……」
コハルは急に頬を赤くし、リクから目をそらす。そして再び目を合わせる。
「あの……リクさえよければ、私と友達になってほしいな」
「…………え?」
突然の申し出により、リクは固まってしまった。その様子にコハルは恥ずかしそうに尋ねる。
「……ダメですか?」
「……いいぜ、俺でよければ」
「ありがとう‼」
爽やかな笑顔で返したリクにとコハルは感謝した。
しかし彼女のそんな喜びもつかの間、思いもしないハプニングが起きた。
「えっ⁉」
「なっ⁉」
いきなりモンスターが出現したのだ。
通常、mobは一定の時間にポップするのだが、現れたのは全く違うモンスターである。二足歩行で灰色の肌に屈強な体、右手に片手棍を持ったその人外は、明らかにイノシシより強そうだ。
敵は三体。しかも悪いことに囲まれている状況だ。
「どうしよう、このままじゃ……」
コハルは不安に駆られた。レベル1で、ようやくキング・オブ・ザコを倒せるようになった彼女に倒せる敵でないことをリクは勘で悟った。
「コハル、俺がmobを引きつけてスキをつくる。その間に逃げろ!」
「で、でもっ!」
リクの自己犠牲ともいえる指示をコハルは躊躇った。
「大丈夫だ。俺一人でも何とかなる」
「リク……」
コハルを安心させるために落ち着いて言葉を返したリクだったが、彼女は納得しきれていなかった。
実際リクは内心、コハルとは別の意味で不安だった。相手は初めて見るモンスターであるため、敵に関する情報は少ない。さらにコハルを逃せば一対三になるため、明らかに不利である。
だが、それでも戦うしかない。ゲームとはいえ、自分と友達になりたいと言った女の子を無様に死なせたり見捨てたりすれば男が廃る。覚悟を決めたとほぼ同時に、敵の一体がリクに接近してきた。敵は片手混を構えたが、リクはその体勢に見覚えがあった。
(あれは《パワー・ストライク》だな)
それは片手混ソードスキルの基本技である。今の自分なら防ぎきれると思ったリクは剣で受け止める。
ガキィィィン‼
「――っ‼」
しかし、振り下ろされたその一撃は思ったより重く、片膝をついてしまった。
「リク‼」
コハルの悲痛な叫び声が響き渡る。
AIが高いのか、既にリクに近づいていたもう一体の敵がスキありと言わんばかりに片手混を構え、《パワー・ストライク》の体勢に入っていた。
相手は第一層のモンスターだが、ある程度レベルの高いリクが通常の攻撃を防ぎきれないほどである。まともに喰らえばHPが大幅に削られることは想像に難くない。最悪の場合、この一撃で殺られてしまうかもしれない。
万事休すかと思われたその時だった。
ウガァァァァァ――‼
今まさに一撃を加えようとしていた人外の化け物が森に響き渡るほどの叫び声をあげた。さらに敵の片手混を見ると、ライトエフェクトが段々と弱くなり、やがて消える。しかも相手に表示されているHPゲージが急速に減っており、敵はそれがなくなると同時に消滅した。
最初、二人は何が起きたのか理解できなかった。だが、モンスターが消滅したその先を凝視していたため、答えはすぐに分かった。
視線の先にはプレイヤーが立っていた。髪は黒く、表情はツリ目のイケメンである。
その人物が、リクを倒そうとしていたモンスターを背後から攻撃して倒したのだ。