ソードアート・オンライン インテグラルファクターX ーアインクラッド・メモリーズー 作:No 77777
途中でみゆりん、ウルリックの二人組と別れ、リクとコハルは《探求の草原》へと向かった。目的の場所に到着して目的のモンスターを見つけると、まずリクが戦い方の見本を見せてコハルに覚えてもらうことにした。
ここまで来る途中でリクは《ダイアー・ウルフ》の攻撃パターンを簡単に説明している。攻撃手段は飛びついてからの噛みつきと爪による切り裂きの二種類。どちらも初動で見切れる攻撃なのだが、コハルはまだ戦い慣れて間もないため、実際に敵の動きを見た方がいいと判断したのだ。百聞は一見に如かずである。
一体目を余裕で倒した時は目的のアイテムがドロップしなかったが、コハルはもう相手の行動を把握したらしく、二体目からは上手く連携して倒すことができた。その調子で狩り続け、十四体目を今まさに倒そうとしているところだ。
「はあぁぁぁ!!」
リクは裂帛した気合いで、右からの水平斬りによる片手直剣ソードスキル《ホリゾンタル》を《ダイアー・ウルフ》の顔めがけて放ち、口から頭部を横真っ二つにしてトドメを刺した。オオカミがポリゴン片になって消えると、リクとコハルはウインドウを開いて《豺狼の爪》がドロップしているかを確認する。
「よし、あった。これで五つだ」
「ふう、終わった」
コハルは胸を撫で下ろす。初めて戦うモンスター相手に緊張して、疲れたのだろう。
ちなみに《探求の草原》では《ダイアー・ウルフ》は一体だけであったが、少し先に行った所では二・三体の群れで襲ってくる。基本、オオカミは群れで行動するため、こちらのほうが自然である。一体だけなのは初心者への配慮なのだろうが、NPCの話によると、遠い場所から迷い込んできたとのことだ。それを成立させるための設定に違いない。
それはともかく、多数の敵相手に戦うことも今後はあり得る。その辺も考えておく必要がありそうだ。
「それじゃ、戻るとするか」
「うん、最後まで油断しないようにしないと」
こうしてノルマを達成した二人は《はじまりの街》へと戻るべく歩きだした。
待ち合わせ場所である転移門広場へ到着すると、既にみゆりんとウルリックが待っていた。さっそく依頼主の元へと向かい、アイテムを渡してクエストはクリア。報酬を受け取ると、みゆりんは「みゆりん、とっても大感激!」と嬉しそうに言うのを呆れたウルリックに突っ込まれ、リクとコハルも苦笑いした。本人曰く「オレに絡みついた運命の鎖は……もといネカマの習性は、簡単には抜けないのよね」とのこと。ちなみに報酬は、約束通り山分けとなった。
「二人とも、ありがとう。おおげさだって思うかもしんないけど、前に踏み出す勇気がついたわ」
「どういたしまして」
みゆりんの感謝の言葉に、リクは嫌味のない笑顔で返した。すると、ウルリックは語り始める。
「俺らはさ、他のゲームもけっこうやり込んでて、こういう状況でならヒーローになれる! なんて思わなくもなかったんだよ。でも甘かったよな。本当に死ぬかもしれないって思うと、足が竦んでどうしようもなくてさ。街のすぐ近くでできるだけ安全に戦って、ちょっとでもHPが減ったらすぐ戻ってきて……」
「本当は《探求の草原》にだって行けなくはなかったはずなのよ。でもね……いざとなるとやっぱり怖いのよね。けど、あんた達はすごいよ。オレ達の頼みなんて断ることもできたのに、まっすぐ外に出ていって、ちゃんと戻ってきた」
「俺らもこれから頑張ってみるよ。死なない程度にね。それじゃ、もう行くよ」
「ああ、それじゃ」
「そちらも、気をつけて」
こうしてリクとコハルの前から、ネカマとその相棒のコンビは去っていった。
「なんか、強烈な人たちだったね」
「ああ、個性的だったな」
二人は苦笑いで素直な感想を述べた。特にみゆりんの姿にはものすごい衝撃を受けた。本人は気づいているのか分からないが、会話の所々に女らしい話し方があった。本人の言う、ネカマの性というものなのだろう。
とにかくあの二人には明るく、精一杯頑張るという目標がある。例え死ぬのが怖くても、今行動を起こしている人達はできることを考え、必死になっているのだ。そこにベータテスターもそうでないプレイヤーも関係ない。
「それより、もうすぐ正午になるな。シアンとGVの様子を見に行くか」
「うん。そろそろお昼にしないといけないしね」
二人はそう言うと、すぐに中央広場へと向かった。そこには何十人となるプレイヤーがソードスキルを放つ練習をしていた。広場は一昨日のチュートリアルで一万人のプレイヤーが集められただけあってかなり広い。練習するにはもってこいの場所だ。
「リク、あそこ」
辺りを見渡すと、コハルが先に探している二人を見つけた。声を掛けるべく歩み寄ろうとするが、リクは肩を掴んで止める。
「ちょっと待ってくれ」
ちょうどシアンが《スラント》の構えを取ろうとしているところだった。GVが見守る中、やがて剣が淡い光を放ち「えいっ!」という掛け声で技を放つと、彼女は少しよろめいた。
技を見終えたリクはコハルの肩から手を離し、二人で近づいて声を掛ける。
「よう、がんばってるな」
「お疲れ様」
「あ、ふたりとも」
シアンは二人に気づき、GVも笑顔で返す。
「ソードスキルの練習はどう?」
「うん、GVが教えてくれたおかげで、技は出せるようになったんだ」
コハルが尋ねると、シアンはそう答えた。無理に取り繕っている笑顔で。
「じゃあコハル、シアンのソードスキルをちょっと見ててくれ。GVと話したいことがあるんだ」
「……うん」
コハルはリクの意思を悟り、頷いた。
「GV、ちょっと来てくれ」
「……うん」
GVは真剣な表情で答えると、コハルにシアンを任せてリクについていく。女子二人から少し距離を取り、リクは訪ねた。
「なあ、お前から見て、シアンはまともに戦えそうか?」
「……正直、難しいと思う」
「はあ、やっぱりか……」
言いにくそうに答えたGVに、リクはため息をついた。
リクは服の上からでも分かるシアンの華奢な体つきを見た時から、体を動かすのが得意でないことを察していた。先程ソードスキルを放つ姿も、全体的に動きがぎこちない。戦いで生き残れる気がしないのだ。
「……どうしようか?」
「……飯食ったらもう二時間ぐらい練習して、フィールドでmobと戦わせてみよう。俺達がいれば安全だし、やっぱり危ないからやめようって言うのは酷だからな」
「じゃあ……まずはそうしてみよう」
とりあえずGVはリクの提案を受け入れることにした。
* * *
同じ頃、一人の男性プレイヤーがベンチに座っていた。前髪をオールバックにしており、どこか飄々とした雰囲気を醸し出している。
男は隣に置いてある大きめの瓶――メイソンジャーから小さなあげせんをつまんで取り出しては口に入れ、ポリポリと食べているところだ。
そのプレイヤーの名は
元ベータテスターで、当時も攻略の最前線に立っていた。MMORPGもベテランであり、正式サービスが開始したSAOでも協力したり競い合ったりするのを楽しみにしていたが、デスゲームとなった今は浮遊城を攻略すべく行動している。
そのためにまず、ベータテスト時代、現実で知り合いの仲間達を探している。それぞれの今後の方針を確認し、情報を共有するためだ。もちろん、狩りによるレベル上げも怠ってはいない。今は休憩中である。
「相変わらずあげせんが好きだナ」
突然、声を掛けられた。相手はベータテスト時代からの付き合いである小柄な女性プレイヤーが不敵な笑みを浮かべており、顔には三本ひげがペインティングされている。
「よう、アルゴ。お前もあげせん食う?」
「じゃあ、遠慮なくもらうヨ」
とりあえずアルゴは隣に腰掛けると、差し出された瓶からあげせんを一つ取り出して口に入れ、味わった。
幼い頃から大のあげせん好きであるZにとって、それがSAOに存在していたのは意外であった。スタッフの中に好きな人がいたのか? ならその人とあげせんの魅力について大いに語り合いたいとZは思ったが、現実に帰還できなければ話にならない。
「それで、そっちの方はどうだ?」
「ああ、お金稼ぎは順調ダ。攻略本を作る目処も立ちそうだヨ」
アルゴは既に、この浮遊城で自分のすべきことを見つけている。彼女は情報屋として、敵の倒し方、フィールド、クエストといった情報等を載せた攻略本を作ることで、犠牲者を一人でも多く減らそうと考えているのだ。
「そっちの方はどうなんダ?」
「ああ、大体は再開できたな。ベータの時に出会った仲間は、姿が変わっても俺だって分かったよ。あげせんのおかげでな」
「そりゃ仮想世界に入ってまでそれを食うのは、お前ぐらいだからナ」
アルゴは呆れながら言った。生きるために必要なコルを、この男は呑気に好きなお菓子を買うために使っているのだから仕方がない。
だがあげせんの入った瓶を抱えて歩いたり、休む時も隣に置いて食べていたこともあって知人に見つけてもらえたのも事実なのだ。馬鹿にはできない。実際、アルゴもベータテスト時代からのトレードマークである三本ひげのおかげで自分だと分かってもらえたのだ。
「とはいえ、ここで時間を掛けてたら、攻略に乗り遅れるからな。あと数日したら、ここを出るつもりだ」
「そうカ。ならせっかくだし、オイラの気になるプレイヤーに会ってみたらどうダ?」
「……ほう、どんな奴だ?」
Zは笑みを崩さないまま食いついた。アルゴの目にかかるとは、よほど見どころのあるプレイヤーなのかもしれない。
「初日に偶然見かけて声を掛けたら、なかなか威勢のいい奴らでサ。男女の二人組で、名前は確か……リクとコハルだったナ」
(……そうか、リクか)
片方は知っている男性プレイヤーの名前だったが、Zは表情には出さなかった。