ソードアート・オンライン インテグラルファクターX ーアインクラッド・メモリーズー 作:No 77777
「なるほどな。それで行き詰まってるってことか……」
話を聞き終えたZは難しい顔をした。
やはり無理な相談だったかもしれないと思ったリクとコハルだったが、少しの間の後に答えは帰ってきた。
「……まあ、無いこともないけどな」
「そ、そうなのか⁉」
「本当にあるんですか⁉」
リクとコハルは意外そうな顔をして確認し、Zは「まあな」と返した。
「方法は二つある。まず一つは、圏内で完結するクエストをクリアすることだ」
「ああ、そういえばあったな」
リクは思い出したように納得した。
ベータテスト時代にも経験したことがある。記憶では、預かったものを目的の場所まで運ぶお使い系、目的のアイテム・人物を探す捜し物系、家の掃除やペットの散歩などがあったはず。
当時のリクからしてみれば面倒で退屈なクエだったが、まだまともに戦闘ができないシアンにとって、その手のものはありがたい。
(リク、また忘れてたんだ……)
コハルは内心そう思いつつも、もう呆れてツッコむ気にもなれなかった。
「じゃあ、その圏内でクリアできるクエだけやれば問題ありませんね」
「いや、そんな単純じゃない」
「えっ?」
安心したコハルに、Zは水を差した。
「クエストは無限にあるわけじゃない。一度クリアすれば二度とできないやつは少なくない」
「けど、一日一回できるデイリークエストもあるだろ。それを繰り返せば、生活費ぐらいは何とかなるんじゃないのか?」
「そういうのは噂ですぐ広がる。死に怯えるプレイヤーにとっては喉から手が出るほどやりたがるから、最初は良くてもいずれは受けるだけで待たされて時間を食う。結果として、早いうちに圏内クエは枯れる。おれのカンがそう言ってる」
「なるほどな。いずれは効率が悪くなるってことか……」
リクは自分の考えが安易だったことを悟った。
収入が安定しなければ、いずれシアンは路頭に迷うことになってしまう。だがそれは、他の戦えないプレイヤーも同じことなのだ。
「それで、もう一つの方は?」
コハルは訪ねた。圏内クエをやり続ける方法がすぐに限界を迎える以上、もう一つの方法だけが希望なのだ。
Zは少し間を置いて、答える。
「……戦闘職がダメなら、生産職になることだ」
「せ、生産職っていうのはアレだよな? 武器やアイテムを作るっていう」
「ああ、SAOでは生産系スキルで装備品を作っても経験値が手に入る。《はじまりの街》の周りにいるイノシシやオオカミなら、いずれは圧倒的なステータス差で倒せるから、生活に必要なコルは稼げる」
アマチュアのリクとコハルにとって、生産職という道は盲点であった。流石はベテランのMMORPGプレイヤーだと二人は感心した。
「それなら、なんとかなりそう」
「いや、まだ問題がある」
「またですか⁉」
コハルは再び水を刺された。
「生産系スキルの修行には金が掛かる。まず必要な道具を揃えなきゃだめだ。さらに熟練度を効率よく上げるには、素材アイテムを戦闘で入手するだけじゃなく、購入する必要もある。結局のところ、戦闘は必要だってことだ」
「そんな……」
「いや、それじゃ駄目だろ!」
コハルは落胆し、リクはツッコんだ。シアンは戦闘が苦手だから、どうにかできないかと相談しているのに、これではなぜ生産職を提案したのか理解できない。
「まあ待て。その問題を解決するには、道具や素材を支援してくれるプレイヤーが必要になる」
「そういうことか」
リクは納得した。確かに、誰かに頼れば生産職で生きていくということも不可能ではない。
だがそれは、悪く言えばシアンに縛られるということでもある。
「そのシアンって子には、ここに知り合いはいないのか?」
「まあ、いるにはいるけど……」
リクとコハルが真っ先に思いつくのは、GVことガンヴォルト。シアンを助けた恩人であり、デスゲーム化した後で最初にパーティーを組んでフレンド登録もした友達だ。
「なら、そいつと話し合って決めるといい。俺が言えるのはそれだけだ」
「……分かった。Z、ありがとな」
リクは再開した仲間にお礼を言った。
「役に立てたのなら何よりだ。そうだ二人とも、俺とフレンド登録しないか?」
「ああ、そうだな」
「じゃあ、私も」
三人はウインドウを開くと、慣れた手付きで操作してフレンド登録を済ませた。リクにとってMMORPGに詳しいZと情報交換ができるようになるのは大きなメリットなので、再開できたのは幸運である。
「それじゃ、俺はまた知り合いを探しに行ってくる。またな」
そう言ってZは去っていき、二人はその背中を見つめながら会話をする。
「なんかZさんって、強烈な人だね」
「ああ、個性的だな(あれ、昨日も同じようなこと言ってなかったか?)」
このやり取りにデジャブを感じたリクだったが、別にいいか、と気にせず続ける。
「Zは実力派を自称するだけあって、その強さは伊達じゃない。何度か戦いを見てたけど、動きを予測しての攻撃と回避は、まるで未来を見ているようだった」
「そ、そうなんだ……」
いくらなんでも大袈裟だと思ったコハルだが、小さくなっていくZの背中を見つめるリクの目は、彼に対する尊敬や憧れを感じさせる。
「それはそうとリク、生産職のこと、GVに話したほうがいいのかな?」
「…………」
コハルの問いに、リクは難しい表情で黙っていた。
内心、二人には同じ迷いがあった。GVがこれからどうするのかはまだ聞いていない。彼に先程のZの提案を話せば、シアンをサポートすることを選ぶだろう。しかし、もしアインクラッドの攻略を考えているなら、ここで時間をかければ他のプレイヤーとの差が開くことになってしまう。つまり、シアンのことをGVに押し付けることになってしまうのだ。
「……話さなきゃ、問題は解決しないだろ」
「そう、だよね」
僅かな沈黙の後に発したリクの言葉に、コハルは仕方なく納得したのだった。
「「ただいま」」
夜、宿屋のリクとコハルの部屋にGVとシアンがやって来た。だがシアンは元気がない。訓練で思うようにできなかったことをまだ気にしているようだ。
「来たか。まずは座ってくれ」
コハルと共に椅子に座ってスタンバイしていたリクは、机の向かいの席にGVとシアンに席につくよう促し、二人はそれに従った。
「それで、僕たちに話っていうのは?」
椅子に腰掛けたGVはさっそく本題に入る。宿に戻る前にリクからメッセージを受け取っていたが、『シアンの今後の事で話があるから、できるだけ早く帰ってきてほしい。俺達の部屋で待ってる』としか書かれていなかった。落ち着いてはいるが、早く内容を知りたいのだ。
「その前にまず、シアンに確認したい事があるんだ」
リクはGVを言葉で静止し、シアンに向き直る。
「シアン、正直に答えてくれ。お前は、モンスターと戦うのが怖いのか?」
「リク、それは――!」
「GV、落ち着いて!」
今後のことに悩む少女にとって、一番気にしているであろうことをストレートに尋ねるリクにGVは慌てるが、コハルに諭される。彼女の顔を見たGVは、その真剣な表情がリクを信じてほしいという無言のメッセージであることを悟り、冷静さを取り戻した。
「…………」
「大丈夫だ。怒ったりしないって」
俯いたまま答えないシアンに対し、どこか暗い感じに見えたリクは優しく言った。
「……うん……やっぱり、怖い」
ようやく、弱々しく本音をさらけ出したシアンに、リクは「そうか」と返した。
戦闘を教えてと自分で言っておきながら、恐怖によって自分が三人の足手まといになってしまっていると思い込んでいるが故に、やっぱりダメだと言い出せなかったのだろう。
本心を聞き出すことはできたが、本題はここからだ。
「じゃあ、提案がある。戦闘職がダメなら、生産職をやってみるか?」
「せいさんしょく?」
リクの口から出た、MMORPG未経験者に聞き慣れない言葉をシアンはオウム返しで発した。
「まあ、簡単に言えば、アイテムを作るプレイヤーだ」
そこからリクは説明した。SAOは生産職でも生産系スキルで武器やアクセサリーを作ることで経験値を貰えること。作り続ければ、いずれは圧倒的なステータスで『はじまりの街』の周りにいるモンスターを倒せること。
そしてそのためには、お金が掛かることも。
「だから、シアンが街の周りのmobを倒せるようになるには、他のプレイヤーが必要な道具や素材を支援する必要があるってことだ」
「「…………」」
話を聞いていたGVは真剣な表情を崩さなかったが、シアンはまた俯いている。
「それでGV、私たち三人でシアンをサポートしようと思ってるんだけど、どう?」
コハルは訪ねた。宿に戻る途中、リクと話し合って決めたのだ。三人で支援したほうが一人に掛かる負担は減らせる。
一方、GVはシアンを横目で見た。俯いている彼女は暗く見える。結局、一人ではどうにもできず、自分のせいで友達の足を引っ張ってしまうのが情けなく思っているのだろう。
GVは少し考え、決断した。
「……いや、そのサポートは僕一人でやる」