ソードアート・オンライン インテグラルファクターX ーアインクラッド・メモリーズー 作:No 77777
「……いや、そのサポートは僕一人でやる」
「「「……え?」」」
あまりにも意外な答えに、周りの三人は僅かな間の後に意外な目を見開いた。
「僕は当分の間、シアンを支えるって決めてる。でも二人はまだ、これからどうするのかまだ決めてないんだろう?」
「そ、それは、そうだけど……」
確かに、コハルもリクもアインクラッドでこれからどうするのかを具体的に決めたわけではない。三人でサポートするという案も、SAOがデスゲーム化して最初にできた友達一人に押し付けたくはないと思うが故の意見であった。
「GV、お前はいい奴だから、シアンをサポートするってことは分かってた。だから三人で、って思ってたんだ。俺達のことを考えてくれるのはいいけど、本当にそれでいいのか? この浮遊城から脱出するには、現時点じゃ攻略するしかない。もしそれを考えているなら、お前は出遅れることになる。それを分かって言ってるのか?」
「うん、分かってる」
リクはGVの意思を尊重しつつ、冷静に説明した上で意思を確認したが、本人は真っ直ぐな瞳でハッキリと言った。
「昨日の朝、僕をクエストに誘ってくれた君たちを、僕は友達だと思ってる。だからこそ、自由に選択してほしいんだ。それに……」
GVはシアンの顔を見る。今にも泣きそうな表情をした少女の肩に優しく手を置き、優しい笑顔を向ける。
「攻略も大事だけど、SAOがデスゲームになって、絶望して泣いていた一人の女の子を笑顔にすること、希望を与えることが、僕が今したいことなんだ」
「GV……う、ううっ!」
気づけばシアンは、GVの胸の中に顔を埋めて泣いた。ただ一人の少女のために選択した少年は、優しく彼女の頭を撫でる。その光景を見ていたリクとコハルは微笑ましくなった。
「分かった。ここは甘えさせてもらうとするか」
「そうだね。でもGV、困ったことがあったら遠慮なく言ってね。私たちだってあなたのこと、友達だって思ってるから」
「二人とも、ありがとう」
GVはリクとコハルに感謝した。
それから数分間、三人はシアンが泣き止むのを待っていた。だがいざ治まると、当の本人はあまりの恥ずかしさに部屋を勢いよく出ていき、しばらく部屋に籠もってしまったのだった。
「えーっと、生産系スキルは……おっ、あったあった」
遅い夕食の後、四人はGVとシアンの部屋で生産系スキルについて調べていた。
メニューウインドウの一番下にはSAOに関する情報――リファレンスヘルプがあり、SAOで何か分からない事があれば、ここから調べたい情報を知ることができる。かつてその下にはログアウトボタンがあったが、もう存在しない。
現在、リクのウインドウを四人で見ており、目当ての情報を見つけたところだ。
生産系スキルと言っても、種類はいろいろである。《片手武器作成》《両手武器作成》《盾・防具作成》といった鍛冶スキル、《革細工》等、多岐に渡る。
「けっこうあるね……」
「ねえ、これ」
コハルがつぶやいていると、シアンは一つのスキルを指差した。
《細工》。説明文を見たところ、道具類やアクセサリーを作るスキルのようだ。
「RPGだと、アクセサリーはステータスを上げる装備品だ。道具類も、作ればフィールドで役に立つかもしれない」
GVは説明に、シアンは嬉々として尋ねる。
「それって、GVやみんなの役に立てるってこと?」
「ああ、そういうことだよ」
笑顔で答えるGV。生産系スキルの中には戦闘に関係ないものもあるので、そちらより有用なのは確かだ。シアンも反応からして、習得する気満々である。彼女も女の子なので、オシャレなアクセサリーに興味を持つのも当然だろう。
「でも、作成するための道具は鍛冶よりも多いぞ。ハンマーとか、ピンセットとか」
「もう、そういうこと言わないの!」
リクの水を差す発言でシアンはしゅんとなってしまい、コハルは注意した。
「ああ、悪い。習得するなって言ってるわけじゃないんだ。使う道具が多いってことを伝えたかっただけで――」
「それがいけないの!」
弁明しようとしたが、コハルにツッコまれてしまう。作成に使用する道具が多いということは金が掛かるということなので、間接的に足を引っ張ると言ってるようなものだ。
「あの、ちょっといいかな?」
やや空気が悪くなってきたところにGVが割って入った。
「《細工》に必要な道具って、全ての道具が必要なのかな?」
「どういうことだ?」
質問の意味が理解できず、リクは詳しい説明を求める。
「SAOのアクセサリーの中には宝石のない指輪があるんだけど、それだけを作るなら、必要な道具はそんなに多くないんじゃないかな?」
「……言われてみれば、そうだな」
リクは納得した。だがあくまでGVの推測であって、確証はない。一度シアンに習得してもらって確認するしかないのではないかと思っていたところ、コハルが提案してくる。
「ねえ、Zさんかキリトさんにメッセージを飛ばして、確認してもらうのはどうかな?」
「ああ、それがいいな」
コハルの言う通りだとリクは思った。ベータテスト時代に攻略の最前線に立っていた二人なら、その辺のことを知っているかもしれない。
「二人とも、Zさんとは知り合いなのか?」
リクとコハルが浮かれている中、目を丸くしたGVが尋ねてきた。
「あ、ああ、俺はベータテストの頃に会ってな。前に狩りで悩んでいた時に《索敵》スキルを教えてくれたプレイヤーのことは話しただろ? それがZだ」
「私は今日の夕方に初めて会ったの。何か悩んでるのかって聞かれてシアンのことを話したら、生産職のことを教えてくれたの」
「そうだったんだ」
GVは穏やかな笑みを浮かべた。
「実は僕も、ベータテスト時代にZさんから《索敵》スキルを教えてもらったんだ」
「「…………ええっ‼」」
リクとコハルは驚いた。ベータテスト時代の同じ恩人を持つ二人が、SAOがデスゲーム化した次の日に出会い、友達になるとは。
「と、とんだ偶然だな」
「ああ、僕も驚きだよ」
リクとGVは自分達の間に何か強い縁を感じた。運命を感じずにはいられないのだ。
「あ、あの、相談は?」
「おっと、そうだったな」
「ああ、ごめん」
シアンの一言でリクとGVは現実に引き戻された。
話し合ったところ、まずはZに伝えることにした。戦闘職ではあるが、生産職の話を出した彼のほうが知っている可能性が高いと判断したのだ。
さっそくリクはZにメッセージを飛ばし、数分後に答えは帰ってきた。
「リク、Zさんはなんて?」
「……GVの言ったとおりだ。『宝石なしの指輪なら、ハンマーとアンピルと芯金棒だけでいい』ってさ。あと、制作するときは装飾店や細工店で『工房を貸してください』って頼めばいいらしいし、低レベルたけど道具も借りることができるそうだ」
「そうか。よかったね、シアン」
「うん!」
GVが安心して言うと、シアンは元気に返した。まずは宝石なしの指輪を作ってスキルを上げ、必要な道具を徐々に揃えればいい。
「それじゃ、決まりだな」
「うん。シアン、スキルを習得する方法を教えるから」
「あ、その前に……」
《細工》スキルを習得する方向で話が進んでいたため、リクとコハルはその気でいたのだが、シアンは何故か待ったをかけ、立ち上がる。
「GV、リク、コハル、戦えない私のために考えてくれて、本当にありがとう」
その感謝の言葉に、三人は微笑んだ。
「いいよ、シアンを放っておけないし、僕がそうしたかっただけだから」
「ああ、俺も同じだ」
「うん。それに私たち、友達だから」
自分達は当然のことをしただけ、困っている誰かを助けるのは当たり前だと言わんばかりの言葉をGV、リク、コハルは返した。シアンは涙目になりながらも、その優しさに嬉しくなる。
「それじゃあシアン、スキルを習得しよっか」
「うん!」
それからコハルの指示通りにシアンはウインドウを操作し、《細工》スキルを習得。
その夜、一人の少女が細工師としての一歩を踏み出したのであった。
* * *
「なるほどナ。そうしてシアっちは細工師になったってことカ」
GVとの出会いから《細工》スキルを習得するまでの話を聞いたアルゴの顔はニヤニヤしており、シアンは恥ずかしそうにしている。
「んにしてもよぉ、『絶望して泣いていた一人の女の子を笑顔にすること、希望を与えることが、僕が今したいことなんだ』ってか。GVのヤツ、イケメンすぎるだろーが!」
(クライン、お前はまず下心を表に出さない努力をしたらどうなんだ)
キリトは内心、嫉妬心丸出しで泣きそうな声を上げる仲間の一人に辛辣なツッコミを入れた。いい奴ではあるが、モテたい願望が表に出るせいで女性陣から引かれてしまうのが彼の欠点である。
「それを言うなら、お兄ちゃんも似たようなどのですけどねー」
「よせよ、スグ。俺はそんなカッコいい人間じゃない」
妹の呆れながら誂う言葉に、キリトは自分を卑下する言葉で返した。
黒の剣士と呼ばれた英雄になっても、サービス初日にできた三人の友達を《はじまりの街》に置いてきたことに変わりはない。特に、今ここにいるクラインに謝罪するのには、かなりの時が経ってしまった。その時まで、ずっと後悔していたのだ。
「そんなことない」
だがシアンはそんな自虐的な発言を否定した。
「リクからキリトのことは聞いてるよ。辛いことを一人で背負って、みんなのためにがんばってたんだよね? そんなキリトがいたから、SAOだってクリアできたんだよ。だから、私たちのために戦ってくれて、ありがとう」
そう言われると、黒の剣士と呼ばれた英雄は少しだけ気持ちが和らいだ気がした。
「そっか……シアン、ありがとな。俺達のために、アクセサリーを作ってくれたことも含めてな」
今度はキリトが感謝を述べ、シアンは遠慮しがちに返した。
「お、大袈裟だよ。私にできることなんて、それくらいだし、戦っているGVたちと比べたら、大したことないよ」
「僅かなステータスの差が命運を左右するのはよくある話だからな。シアンが俺達にアクセサリーを作ってくれたのは、本当に助かったよ」
キリトの言うことは単なるお世辞ではない。実際、SAOでは攻撃力や防御力がほんの少し低いか否かで生死を別けることも少なくなかった。黒の剣士ですら、危うく死にかけたことは一度や二度ではない。他の攻略組も同じである。
シアンはGVの支援のおかげで《細工》スキルの熟練度を上げ、リクを始めとした一部の攻略組や中層プレイヤーのためにステータスを上げるアクセサリーを作ったのだ。攻略やプレイヤーの生存に貢献したのは間違いない。
「ああ、俺のギルメンも喜んでたぜ!」
「シアンちゃんは十分みんなの役に立ってるよ!」
「……うん」
クラインとリーファからもお礼を言われ、シアンは照れくさくなって俯いた。その微笑ましい様子にキリトとアルゴの表情からも笑みが溢れる。
カラン、カラーン!
丁度その時、ドアーベルが鳴った。新たな来客が現れたのだ。
キリト達は音に反応して出入り口の方を向いた。今度の人数は六人で、男性が四人、女性が二人である。
その内の一人は、前髪をオールバックにした男性で、先程の話に出てきた人物だった。彼はSAOにいた頃と変わらない、掴みどころのない笑顔で名乗った。
「どうも、実力派プレイヤーZこと迅悠一、ただいま到着」