ソードアート・オンライン インテグラルファクターX ーアインクラッド・メモリーズー 作:No 77777
仲間がいるから
「うわー、ゴールデンウィークだけあって人通りが多いな」
「うん。お店も多いし、目移りしちゃいそう」
リクとコハルは活気に満ちた周りや立ち並ぶ店を見て、互いに感想を述べた。
Zがダイシー・カフェに到着したその頃、二人はアメヤ横丁に入ったところであった。通称、アメ横と言われるこの場所は地元の人から観光客まで、多くの人が訪れるグルメ・ショッピングスポットであり、約四百軒もの店がひしめく商店街である。目的地であるダイシー・カフェに向かう途中、デートも兼ねて通ることにしたのだが、つい寄り道してしまいそうになってしまう。
「SAOにいた頃も、攻略の合間に街を見て回ったり、おいしいもの食べたりしたの思い出しちゃった」
「ああ、俺もだ」
コハルの昔を懐かしむ趣旨の発言にリクは同情した。
とはいえ、『はじまりの街』は流石に広すぎた。ベータテスト時代も何度か道に迷ったものだ。なぜあそこまで広いのかと愚痴をこぼすプレイヤーもいたが、SAOの初回ロットが一万本であること、茅場がそれだけのプレイヤーを中央広場に集めていたことを考えれば納得である。スタート地点が小さいと、人数を超えてパンクしてしまうからだ。
そんな『はじまりの街』を、リクとコハルはデスゲーム開始から七日目の朝に出ていった。
* * *
2022年11月13日
「ふう、とりあえず全部終わったな」
リクはそう言いながら、メモに書かれたクエスト名に赤鉛筆でチェックを入れた。
浮遊城に閉じ込められてから六日目、リクとコハルは転移門広場のベンチで休憩していた。メモに書かれたおすすめのクエストを全て消化し終えたところである。
SAOがデスゲーム化して四日目から現在、GVは別行動を取っている。シアンが《細工》スキルを上げられるよう、そのサポートをするために素材アイテムを入手するべく、狩りと金稼ぎに性を出しているのだ。
コルに関しては最初にクリアしたクエストを繰り返せばいいとして、素材集めに関するクエストはメモには書いてなかった。なので再びZにメッセージを送ったところ、その手のクエストを教えてもらい、今もGVは何度か周回している。
シアンもスキルを上げる傍ら、Zからリクを通して教えられた圏内クエをこなしている。
だが、最近は圏内クエのことも噂になり始めている。デイリークエストが時間待ちになるのもそう遠くはない。
早い段階で生産職を志し、自分を支えてくれる友達がいるシアンは、恵まれているようだ。
「ねえ、せっかくだし何か食べない? 少しおなか空いちゃった」
「そうだな、少し小腹を満たすか」
コハルの提案にリクは乗った。ひとまずクエストをやり遂げたことに安堵したのか、急に腹が減った気がしたからだ。
「あ、でも俺、食べ物持ってないぞ」
「大丈夫。こんなこともあろうかと、昨日パンを買っておいたの」
「おっ、流石だなコハル」
リクは気が利くパートナーに感心した。最近は空いた時間に気晴らしで『はじまりの街』を見て回るのだが、昨日立ち寄ったNPCベーカリーで買ったのだろう。コハルはウインドウを操作してアイテム欄からパンを二つオブジェクト化し、一つをリクに渡した。
「おいおい、何の変哲のなさそうな黒パンだな」
「それでも、立派な非常食でしょ」
「……悪い」
リクは憂鬱そうに言うとコハルに窘められ、謝った。てっきり調理パンを想像していたのだが、今の状況で贅沢は言ってられないと思い直す。
「それじゃ、いただきます」
「いただきまーす」
さっそく二人は黒パンにかじりつくのだが、
「――がっ!」
「なにこれ、固い」
とても噛み切れるようなものではなかった。フランスパンでも流石にここまで固くはない。
嫌な予感がしたリクはウインドウを出現させ、アイテム欄を見た。コハルからパンを受け取った時点でアイテムは彼のものになっている。一覧の中から、リクは《乾ききったパン》を見つけた。
「そんな、昨日まで《黒パン》だったのに」
「どうやら時間が経ちすぎて、食べられる代物じゃなくなったみたいだな」
落胆するコハルにリクは説明した。
「いくらゲームの中だからって、こんなのひどすぎるよ!」
「だよな! コンビニの調理パンでも二、三日は賞味期限あるのにな! たった一日近くで食えないってあんまりだろ!」
「ふふふっ……」
ゲームのシステムに文句を言っていると、穏やかな笑い声が聞こえてきた。声の主は、コハルの近くに座っていた少女だった。黒髪のショートヘアで、泣きぼくろと落ち着いた雰囲気が印象的である。
「笑ったりしてごめんなさい。君たちが賑やかだから、なんだか嬉しくなっちゃて」
「ああ、悪い。うるさかったよな……」
リクは頭を抱えながら謝り、コハルも恥ずかしそうに俯いている。周りから見れば大人気なかったかもしれないと、二人は内心で反省した。
「そんなことないよ。モンスターやクエストじゃない会話を聞くと、なんだか落ち着くんだ」
優しい笑みで言う少女にリクは「そうか」と返した。確かに、今のSAOでは戦闘と関係のない会話は尊いものなのかもしれない。
「あなた、いつもここにいる子だよね。ずっと一人なの?」
コハルは気になって少女に尋ねた。それはリクにとっても同じである。最近、二人は今の場所でよく休憩するのだが、その度に少女を見かけている気がするのだ。
「ううん、仲間はいるよ。今はちょっと別行動だけどね」
少女は何気なく答えたが、二人はどこか苦しそうに感じた。
「あの、少しだけお話してもいいかな」
「うん、いいよ」
少女の頼みに、コハルは快く答えた。
「君って、私たちの間で噂になってるんだよ。私たちと同じくらいの女の子なのに、前線でがんばってるすごい子がいるって。私もね、遠くから見かけて本当にすごいなあって尊敬してたの」
「な……なんか照れるな」
コハルは頬を赤くした。彼女としてはリクのお荷物にならないために必死でついてきただけなのだが、一部の人達だけとはいえ、他の人に影響をあたえていたなど想像してなかったのだ。それなら自分がこの浮遊城にいる意味はあるのかもしれないと、コハルは思った。
「そういや、自己紹介がまだだったな。俺はリク。そんでもって、お前達の間で噂になっているこの女の子はコハルだ」
「よろしくね」
「私はサチ。こちらこそよろしくね」
それぞれ簡単に自己紹介を終えると、リクはもう一つ気になっていることを尋ねる。
「ところで、仲間は別行動を取ってるんだよな? サチは一緒に行かなかったのか?」
「……うん。私怖がりだから、モンスターが来るとどうしても足が竦んじゃって……それなら敵と距離を取れる長槍を買おうって話になって、みんなはそのために稼ぎに行ってくれてるんだ……私、みんなに迷惑かけてる」
話すサチの表情はどこか申し訳無さそうだ。そんな彼女をコハルは元気よく励ます。
「怖いのは当たり前だよ。少しずつでもがんばればいいよ」
「コハルも怖いの?」
サチは目を丸くして驚いた。自分が尊敬する少女にもそんな気持ちがあったことが意外だったのだろう。
「今でもすっごく怖い。一人じゃ何もできないけど、仲間がいるからがんばれる」
その言葉はコハルの嘘偽りない気持ちであった。今隣にいるリク、細工師の道を進み始めたシアンとそれを支えるGV、サービス開始初日に友達になったクライン、そしてベータテスト最終日に出会ったキリト。彼らと出会えたから、自分の足で歩くことができたのだ。
もしこの中の誰とも出会えなかったら、今の自分はいなかったに違いない。
「……そうだよね。仲間がいれば、私もいつかは……」
サチの表情が穏やかになった。コハルの言葉に勇気を貰ったのか、二人にはその瞳が輝いて見える。
「そうだ。私たちにもなにか手伝えることある? サチの仲間は稼ぎに行ってるんだよね?」
「うん、草原のあっちこっちに行って、クエストをがんばってくれてるみたい。四人で回ってるからあんまり危ない目には遭わないって言うけど、けっこう苦戦してるみたいで……」
「お、おい」
勝手に話を進めないでくれとリクは言いかけたが、コハルは止まらない。
「それなら、時間をくれないかな? 私たちが戦ってきたモンスターの情報を手帳に書くから。それなら敵の行動が分かって戦いやすいんじゃないかな?」
「い、いいの?」
「うん。こうして会えたのも、何かの縁だと思うしね」
(俺はまだ何も言ってないんだけどな……まあ、いいか)
コハルがイキイキと積極的になっているところを見てると、リクは自分が置いてけぼりになっていることなどどうでもよくなってしまった。
ネットで前もって調べたところ、MMORPGの人工の男女比は男のほうが圧倒的に多いらしい。フルダイブ型のSAOでもきっとそうだろう。だとするとコハルは、数少ない同性の友達を作りたくてたまらないのかもしれない。