ソードアート・オンライン インテグラルファクターX ーアインクラッド・メモリーズー 作:No 77777
サチと別れたリクとコハルはさっそく宿屋へと戻り、食堂で作業を始めた。手帳は生き残る上で必要な情報を書き留めるために二つ買っておいた。予備はまた買い直せばいい。
二人は自分達の記憶を元に、モンスターの行動パターン、弱点と攻撃を当てるコツをどうすれば分かりやすく伝わるかを話し合いながら書き込んだ。昼食を食べに来たGVとシアンに言われるまで食事を忘れてしまっていたが、それほどまでに熱中していたのだ。
昼食を終えた後も作業は続いた。GVは手伝おうかと気にかけてくれたが、二人は丁寧に断った。気持ちはありがたいが、自分達だけでできる事なので、彼にはシアンのサポートに集中してほしいのだ。
やがて必要な情報を書き終え、二人はサチのいた場所へと戻った。『はじまりの街』は広いが、そこを待ち合わせ場所にしておけば互いに困らない。
待ち合わせの時刻は午後三時。宿泊している宿屋から目的地までの道はもう慣れたため迷うこともなく、五分前に到着した。そこにはサチは勿論、男四人が一緒にいる。彼女が言っていた仲間だと悟った。
「サチ!」
コハルは名前を呼ぶ。サチと仲間達が反応して手を振ると、二人は歩み寄った。
「悪い、待たせたな。その四人が話していた仲間か?」
「うん。私たち、リアルでも同じ高校に通ってるの」
「始めまして、僕はケイタ。よろしく」
リクと年の変わらない短髪の少年が名乗ると、他のメンバーもテツオ、ササマル、ダッカーと続いた。リクとコハルも自己紹介し、それぞれ握手を交わしたのだった。
「それで、約束のこれ。モンスターの情報の他にも、効率のいいクエストとか書いておいたから」
コハルは持っていた手帳をサチに渡した。「ありがとう」とお礼を言うと、サチは開いて仲間達と共に内容を確認する。
「かなり詳しく書かれていて、分かりやすい。これなら安心して狩りができそうだ。本当にありがとう」
ケイタの称賛にリクは「ああ」と笑顔で返したが、その流れで気になっている事を尋ねる。
「ところで、戦闘の方は大丈夫なのか? サチから苦戦してるって聞いたけど」
「そうなんだ……みんなソードスキルは出せるようになったけど、なかなか当たらなくて。テツオが盾で防いでる間に、他のみんなで敵を叩いて倒してるんだ」
やや不安げな声でケイタは打ち明けた。他のみんなも俯いたり、苦笑いをしている。
「でも盾だって耐久値があるし、途中で無くなって消滅したら危ないよ。鍛冶屋でメンテナンスするにしても、お金が掛かるし」
「うーん、そう言われてもなあ……」
その戦い方の問題をコハルに指摘され、ケイタは困り顔になる。
破壊不能オブジェクトという例外を除けば、SAOに存在する物には耐久値というHPが存在する。武器と防具、盾にも設定されており、主に敵の攻撃を受けることで減少してしまう。
ケイタ達がビギナーである事を考えれば、青イノシシを倒すのにも時間を掛けているはず。攻撃を受けることが盾の宿命だとしても、今の戦い方では盾の耐久値は早くなくなる上に効率も悪い。これではサチの長槍を買えるのもいつになるか分からない。最悪の場合、命を落とすことだってあり得る。
リクはそんな彼らを見かねて、提案した。
「だったら、俺達が戦い方を教えようか?」
「えっ、いいんですか!?」
「ああ。ここまで来たら、できる限りは付き合ってやるよ。コハルもいいよな?」
「うん。リクがそう言うなら」
「ありがとう、助かるよ!」
ケイタが歓喜の声を上げると、他のメンバーも「やった、ラッキー!」「よっしゃー!」と大いに盛り上がる。
早速リクとコハルはケイタ達の中に加わり、六人の即席パーティーを結成。彼らはまだクエストが途中だったらしく、その続きも兼ねて戦闘をレクチャーすることにし、サチを街に残してフィールドへと出たのであった。
「みんな、おつかれさま」
日の沈みかけた夕方、サチは帰ってきた六人に労いの言葉を掛け、リク達も笑顔で返した。
訓練の内容については、ソードスキルはキリトから教わった通り、システムのアシストに合わせるように力を調整するよう説明。近くに味方がいる際は攻撃が当たらないよう、横に薙ぎ払うソードスキルは避けて、縦に振り下ろす・振り上げるソードスキルを使うようアドバイスした。
その後、ケイタ達がある程度コツを掴んだと判断したリクは彼らに実践をさせた。青イノシシは手帳の情報もあったとはいえ、四人は上手く連携して撃破。これでテツオと盾の負担は前より軽くなるだろう。
ケイタ達は前より強くなったことを実感して大いに喜び、リクはその士気の高いうちに彼らのクエストを続行することした。
内容自体は《ダイアー・ウルフ》を十体討伐するというもの。苦戦していたケイタ達だったが、リクとコハルがサポートしたこともあってノルマは無事に達成した。後は依頼主に報告するだけである。
「君達には感謝してるよ。この調子なら、サチの長槍が買える日も近いし、ここでの生活もなんとかなりそうだ。本当にありがとう」
ケイタは改めてリクとコハルにお礼を言った。
「どういたしまして。それじゃリク、私たちはパーティーを解消しよっか」
「えっ、ちょっと待て。まだ依頼主に報告してないだろ」
「パーティー組んだままじゃ、報酬が私とリクにもいくでしょ。私たちはお金に余裕があるからいいけど、サチたちは五人だから、少しでも多いほうがいいじゃない」
「あ、ああ……そうだな」
コハルの案にリクは納得した。まさかそこまで考えていたとは思ってなかったのだ。
確かにリクとコハルは、今日クリアしたケイタ達のクエストよりも報酬の良いクエストをこの数日間でこなしているため、コルはかなり稼いでいる。今回の分け前を貰わなかったところで支障はない。
「……なんか、何から何まで悪いね」
「こんな時だから、助け合いは必要でしょ。それに、お礼はいつか返してくれればいいし」
色々と手を煩わせたことを申し訳なく感じたケイタだが、コハルの優しい言葉で気持ちが和らいだ気がした。
「ああ、そうするよ。じゃあ、せっかくだし僕達とフレンド登録しないかな? もちろん、無理にとは言わないけど」
「私はいいけど、リクは?」
「俺も構わないぜ」
フレンド登録の申し出をコハルとリクは受け入れた。自分達の間で話題になっていた女の子と知り合いに慣れたのが嬉しかったのか、他の男子達はめちゃくちゃ喜んでいた。その光景にサチは呆れていたが、とりあえず出現させたウインドウを操作して登録を済ませる。
「それじゃ、僕達はもう宿に戻ることにするよ。これからの予定をみんなで話し合わないと」
「二人とも、今日は本当にありがとう。じゃあね」
「ああ、じゃあな」
「じゃあね」
サチ達に別れを告げ、リクとコハルも宿へと帰っていった。
今日もまた、新たな出会いがあった一日であった。
「ふう、今日も一日終わったな」
「うん、新しい友達もできたしね」
夕食を食べ終えたリクとコハルはそう言いながら、それぞれのベットに横になった。午後は暇になりそうな気がしていたが、サチと仲間達に出会ったおかげで充実した一日となった。
アインクラッドの虜囚となってから、明日でちょうど一週間になる。その間に、フレンド登録をしている者からそうでない人まで、様々な出会い、再開があった。今日友達になったばかりのサチと仲間達、ベータテスターのZ、ネカマのみゆりんとその相方のウルリック、GVとシアン、アルゴにクライン。
そしてベータテスト最終日に助けてくれたヒーロー。
「キリト、今頃どうしてるんだろうな?」
「……やっぱり、心配?」
「……まあな」
何気なくリクはコハルに聞くが、質問を質問で返され、不安げに答えた。
二人にとってキリトのことは気がかりであった。彼はチュートリアルが終わり次第、自分達にちょっと来いと言ってクラインの腕を引っ張り、リクとコハルも後に続いた。人気のない路地まで来たところで合理的な説明をした後、三人に言った。お前たちも一緒に来い、と。
だが現状をまだ受け入れきれてないコハルは街を出る覚悟ができなかった。リクはそんな彼女を放っておけなかったから、まだ覚悟を決められないと嘘をついて残ることにした。そしてクラインも他の仲間達を置いていけないから断った。
三人の意思を聞いたキリトは別れを告げ、『はじまりの街』を出ていった。リクはその時の寂しそうな背中を今でも覚えている。だから、今でも思う。
キリトはきっと、共に歩む仲間を求めていたんじゃないか、と。
あれからたまにメッセージを送っているが、返事は帰ってこない。それが意味するのは、自分達を置いていったことへの罪悪感なのか? それとも、友達としての縁を切ったということか?
リクが物思いに耽っていると、コハルは上半身を起こし、ベットに腰掛けたままパートナーに視線を向けて尋ねる。
「ねえ、キリトさんを追いかけない?」