ソードアート・オンライン インテグラルファクターX ーアインクラッド・メモリーズー 作:No 77777
2022年 11月29日
RPGの定番の一つは、ダンジョンの攻略である。そこにいるボスを倒すのは勿論、探索でレアアイテムを入手したり、他所で受けたクエストをクリアすることにゲーマー達は喜びを感じるのだ。
とはいえSAOがデスゲームと化してからは、そんな余裕も無いだろうが。
SAOはそんなダンジョンの中でも重要なところがある。全百層で構成されているアインクラッドは、上下のフロアを繋ぐ階段の存在する《迷宮区》というダンジョンが存在し、上の層に進むためにはその階段を守るボスモンスター――フロアボスを倒さなければならないのだ。
一万人近くのプレイヤーがアインクラッドの虜囚となってから三週間が過ぎた頃、キリトはその迷宮区に最も近い街――《トールバーナ》にいた。つまり、攻略の最前線にいるということだ。
初日に《はじまりの街》を出て以降、キリトはベータテスト時代の知識を生かして行動してきた。より早く有益なクエストをクリアし、より早く効率のいい狩場で経験値を稼ぎ、自身をひたすら強化してきたのだ。
まるで友達を置いていった負い目から逃げるように。
この日、キリトはレベル上げと武器強化の素材集めのために午前から迷宮区でひたすら狩りをしていたが、疲れを感じたところで切り上げ、トールバーナへ帰ってきた。昼食を取るために、巨大な風車塔が立ち並ぶのどかな町を歩いていると……
「はあ、ふざけんじゃねーぞ‼」
急に怒鳴り声が聞こえてきた。発生したと思わしき場所に視線を向けると、プレイヤーの集団が揉めているところであった。人数は八人だが、五対三に分かれて言い争っているようだ。
五人組の方は野郎ばかりであり、リーダー格と思わしき男は髪を立たせた金髪で、チンピラの様な風貌である。
対して三人組の方は容姿の整ったプレイヤーが揃っており、中でも紅一点の女性プレイヤーは身長が高く、モデル並みの体型をしている。全体的に見てもカッコイイが、明るい茶髪のショートヘアをしているからか、どこかカワイさも感じる。そのルックスにキリトも思わず目を見張ってしまうほどだ。
「何よ、怒鳴らなくたっていいじゃない!」
「俺達は攻略目指してんだ! 生き延びるために、僅かなステータスでも貴重なんだよ! 攻略するかどうか迷ってる貴様らより、俺達の方が優先だろーが‼」
金髪男の怒声に女性プレイヤーは抗弁するが、相手は横暴に反論する。すると「まあまあ、アニキ」と言って金髪男の仲間が割って入る。
「俺達、別に寄越せって言ってるわけじゃないんだってー。あなたからその指輪を買いたいって言ってるんでしてー。全てのプレイヤー達のためにも、ジェネラルの兄貴に売ってくださってー」
「こういうのって早いもの勝ちでしょ! 言っとくけど、売るつもりはないから!」
猫なで声で説得する男に女性プレイヤーは毅然と言い返した。
キリトは女性の右手の中指にはまっている、リングに筆記体のような文字が刻まれた指輪をチラリと見た後、会話の内容から状況を推測した。
指輪には見覚えがある。ベータテスト時代にこの街の装身具店で見かけたオンリーワン商品だ。効果は敏捷力を+2するというものだが、かなり高いので購入する気にはなれなかった。現に今も生き残るために慎重なため、まだ残っていたとしても買わない。コルを回復アイテムに当てたほうがまだいいというのがキリトの考えである。
恐らく、背の高い女性プレイヤーが先に指輪を購入したが、同じく指輪を狙っていた野郎五人組は先を越され、目当ての指輪を身に着けている彼女を見かけたことで今の事態になったのだろう。
「いやー、そこを何とかー」
「いい加減にしろ」
なかなか食い下がらないジェネラルの取り巻きと思われるプレイヤーに、女性プレイヤーの味方と思わしき男の一人が厳かな声で言った。その黒髪のソフトモヒカンをした男の半袖から出ている二の腕はかなり鍛えられている。
「お前達が何を言おうが、指輪は先に購入したエトワールのものだ。そうだろ、スバル」
(スバルだって⁉)
「ああ、レグルスの言う通りだ。俺達も生き延びるのにステータスを上げてるんだ。攻略のためだからって、売るわけにはいかねえ」
もう一人の背の高いイケメンは黒髪のソフトモヒカンの男――レグルスに同意したが、様子を見ていたキリトは彼のアバター名に反応していた。なぜなら、ベータテスト時代にスバルと知り合っていたからだ。
キリトはベータテスターの中でもトップクラスの実力者だった。故に難易度の高いクエストに挑む他のプレイヤー達にその能力を見込まれ、ヘルプを求められたことが何度もある。それをきっかけに交流を持ったプレイヤーもいたが、スバルもその一人なのだ。
あの時のスバルのアバターは普通の男子の様な雰囲気だったが、まさかリアルがあんな長身でカッコイイとは、キリトは今日まで思いもしなかった。
「そういうこと。大体、あんたたちにこの指輪は似合いそうにないし」
エトワールは言い争いの原因でもある指輪を見せつけて言った。似合うか似合わないかはともかくとして、レグルスとスバルの言うことは正論である。卑怯な手を使わない限り、欲しいものは先に購入した人のものであり、三人も生きるのに必死なのだ。ジェネラルらの言い分は、大義名分を掲げてエゴを押し通そうとしているようにしか見えない。
「攻略してゲームクリアしなけきゃ、ここから出られねーだろーが! そんなことも分かんねーのか、あぁ⁉」
(まだ言うのか……)
キリトはなおも食い下がらないジェネラルに呆れてしまい、エトワール達の表情も険しくなる。
ジェネラル達は何が何でも指輪を手に入れたいようだ。このままでは埒が明かない上に、いずれジャンケンで決めようとか言い出しかねない。もしそうなった場合、エトワール達が負けて(代金を払うとはいえ)指輪を奪われることになれば、さぞ悔しいだろう。普通ならそのまま立ち去るキリトだったが、巻き込まれているのが知り合いだと分かった以上、見て見ぬ振りをする気にはなれなかった。
キリトは少し考えた。ジャンケン以外でこの問題に決着をつける方法は、無いこともない。ただ強引である上に双方が合意をしなければならず、デスゲームと化したアインクラッドでは躊躇われる方法なのだ。どうすれば心理的ハードルを下げられるかも考えてはいるが、後で噂になる可能性は高い。
やがてキリトは一呼吸置いて、割って入る覚悟をきめた。
「悪い、ちょっといいか?」
「あァ⁉」「……え?」
ジェネラルは不機嫌な声を上げてキリトの方を向いた。一方、エトワールは知らない少年の介入に唖然としている。
「話を聞く限り、アンタ達は指輪を手に入れたいけど、そっちは売るつもりはないってことでいいんだよな?」
「うん」
「そうだ! だからなんだってんだ⁉」
「だったら、この問題に決着をつける方法がある」
エトワールもジェネラルも互いに意思を曲げるつもりがないことを確認したキリトは、驚くべき提案をした。
「デュエルをするんだ」
「な、何だとっ⁉」
最初に驚いたのはスバルだった。彼はベータテスト時代にデュエルも経験済みなので当然の反応だが、レグルスも表情を険しくし、ジェネラル達も困惑している。
「えっ、SAOってそんなのがあるの?」
唯一、エトワールだけがそのシステムを知らなかったため、スバルに尋ねる。
「ああ、デュエルは一対一のHPの削り合いだ」
「…………マジ?」
エトワールは顔が引きつった。ようやく、キリトの提案がとんでもないことだということを理解したようだ。
「お前、正気なのか? HPが無くなれば死ぬんだぞ」
レグルスは何とか冷静さを保ちつつ、キリトに言った。だが本人はこの反応も想定内であった。次にどう言えば納得してもらえるのかも分かっている。
「心配ない。デュエルには三種類のルールがある。その中から《初撃決着モード》を選べばいい。それなら一撃がヒットした時点で終わるから、HPがイエローゾーンに突入することはない」
「な、なるほど。その手があったか」
(確かにな。けどこいつ、やけに詳しいな)
レグルスは何とか納得したが、スバルは女顔の少年がSAOのデュエルのルールを細かく知っていたことに疑問を感じていた。二人は顔見知りなのだが、当時とアバターの姿が違う。そのため、向こうは名前を聞いて知っていても、スバルの方はキリトだと気づいていない。
「へっ、じゃあそうするか。そっちの方が手っ取り早い」
「そうね。これ以上は話してもムダだと思うし」
「それじゃ、ルールはさっき言ったように《初撃決着モード》に加えて、代表者一人の一本勝負でいいな?」
「ああ!」「うん!」
ジェネラルとエトワールはキリトの提案を飲んだ。これで双方が合意したことになる。
「なら、こっちは俺が出るぜ!」
野郎五人組はジェネラルが名乗りを上げた。
「私たちはどうする? 一応、私が出ようと思ってるんだけど」
「いや、姉貴。ここはやっぱり、少しでもデュエルに慣れている奴が出るべきだ」
エトワールは自分が賭けの対象である指輪を装備しているので、責任を持って戦おうとしているが、スバルは勝利するために合理的な意見を述べる。
「だから、俺が ――」
「ちょっと待て」
デュエルの経験者であるスバルが出る意思を表示しようとしたところ、キリトが止める。次に言い出したのは、またしても予想外の言葉であった。
「お前たちの代表は、俺だ」
「「「…………え?」」」
「「「「「はぁぁぁぁ⁉」」」」」
エトワール達は唖然とし、野郎五人組は驚きの声を上げる。
「ちょっと待て! テメェは関係ねーだろーが‼」
「俺は言い出しっぺだし、こっちの意見に賛成だから、味方しないとな」
本来なら問題に無関係なプレイヤーが敵の代表になることにジェネラルは声を荒げるが、キリトはすました顔で返した。こればかりはジェネラルの言いたいことも分かるが、何とか自分とデュエルさせる方法もキリトは考えている。
「それとも、俺に負けるのが怖いのか?」
「なっ、言わせておけば! なら、その減らず口を二度と叩けないようにしてやらぁ‼」
「決まりだな」
ジェネラルはキリトの澄ました顔での挑発に、いとも簡単に乗った。相手の粗暴な口調からして、上手くいくだろうと思っていた。これで向こうが負けたとしても、部外者だから無効という言い訳はできまい。
こうして、キリトとジェネラルの指輪を賭けたデュエルが成立したのであった。