ソードアート・オンライン インテグラルファクターX ーアインクラッド・メモリーズー 作:No 77777
モンスターは残り二体。黒髪のイケメンは臆することなく前へ出た。
「下がって」
黒髪のイケメンはそう指示し、二人は言われた通りモンスターから離れるように距離を取った。
リク達から見て、敵は左右に並行するように立っており、まず左の敵が構えて突進ソードスキルを放ってきた。
だが黒髪のイケメンは右にサイドステップして余裕で回避。空かさず右手の片手剣を振りかぶり、ソードスキルの体勢に入る。前かがみになった敵の首めがけて単発の水平斬り《ホリゾンタル》を放った。
首と胴体が離れたため、そんな状態で生きていられるはずもなく、敵のHPは一気になくなって消滅した。
仲間が殺されて
対して対象となった本人は技後硬直にも関わらず落ち着いていた。やがてそれが解けると、今度は担ぐように剣を構える。剣にライトエフェクトが発生した時、敵は走りながら片手混を振りかぶっていた。
相手が武器を振り下ろす前に、黒髪イケメンは前方に飛び、上段突進技ソードスキル《ソニック・リープ》を放つ。頭部を斜めに分割された敵は呆気なく消えた。
「……マジか」
「強い……あっという間にやっつけちゃった」
リクとコハルは黒髪イケメンの圧倒的ともいえる実力に驚きを隠せなかった。恐らく、ベータテスターの中ではトップクラスのプレイヤーだろう。
「これで一安心だな」
黒髪イケメンはそう言うと、二人に歩み寄る。
「ここは決まった時間で強ザコがポップするんだ。レベリングするなら、他の場所にしたほうがいいよ」
「そ、そうなのか」
リクは自分の迂闊さを思い知らされた。
ベータテスターの中では中層プレイヤーであるため、攻略の最前線にいたわけではないが、一層なら高いレベルと自身の技術でどうにかなると思っていたのだ。
だが実際は一体相手に押される始末。自己犠牲でコハルを逃がすどころか、無様に殺られるところだった。
リクは思った。同じ失敗を繰り返さないためにも、正式版がリリースしたら情報収集はしっかりしておこう、と。
「あ……ありがとうございます! 助かりました!」
「ああ、おかげで命拾いした」
コハルとリクは自分達を助けてくれたヒーローに感謝の意を述べた。
「別に、通りかかっただけだから。それじゃあ」
黒髪イケメンは飄々とした感じで言うと、背を向けて去っていこうとした。
「待って下さい、せめてお名前を!」
「……は?」
「私はコハル、こっちはリクです」
「リアルでそんな台詞を聞くとは……いや、ここはVRの中だけど……」
助けた女の子に呼び止められて振り返った黒髪イケメンは、一方的に自己紹介されてやや困惑気味である。
無理もない。二次元でよくあるシチュエーションが、まさか本当に起こるとは思いもしないだろう。とはいえ、黒髪イケメンも悪い気はしなかったので「まあ……いいか」と了承した。
「俺はキリト、よろしく」
「キリトさん。ありがとうございました!」
「ありがとう。恩に着る」
「どういたしまして。じゃあな。最後まで楽しもうぜ」
二人は改めてお礼を言うと、颯爽と現れたヒーロー――キリトは笑顔で返し、森の奥へと消えていった。
「いまの人、強くてカッコよかったね」
「……ああ、そうだな」
ヒーローが去っていった通路を羨望の眼差しで見つめていたコハルの一言に、リクは内心を悟られないように返した。
助けてもらった事は素直に感謝しているリクだが、自分と友達になりたいと言った女の子に注目されたキリトに少し嫉妬してしまった。
「とにかく、まずは場所を変えるか」
「うん、そうだね」
ここに長居すればまたさっきの強ザコと戦う羽目になってしまうかもしれない。キリトの助言通りにリクとコハルは移動することにした。
やがて、『はじまりの街』の近くにあるフィールド『原始の草原』で訓練を再開。コハルは基本を押さえたこともあって戦い方が様になって来ており、今もちょうど青イノシシを余裕で倒したところだ。
「ねえ、今の良かったよね⁉」
「ああ、尻もちもつかなくなったしな」
「もう、それは言わないでよーっ」
リクが少し誂うと、コハルは可愛らしく顔を赤らめていじけた。森の中での失態を意外と気にしていたようだ。
「ところで今更だけど、リクはどれくらい強いの?」
コハルはふと気になったことを聞いた。リクは「うーん、そうだな」と言いながら考えた。
MMORPGで純粋にプレイヤーの強さを示すのはレベルだが、それを言ってもド素人だったコハルにはピンと来ないはず。ならば、自分の実力がどこまで通用するのかを伝えた方が分かりやすい。
「第七層のモンスターを五分五分で倒せるくらいかな」
「ええっ、すごいよリク!」
「いや、攻略の最前線に立っていたプレイヤーと比べれば大したことないって」
コハルは驚きの表情であったが、リクは苦笑いで対応した。
ベータテストでは第九層までが攻略されており、キリトの様なトッププレイヤーはきっとそこのmobを余裕で倒せるくらいの実力を身に着けているはず。でなければ森にポップした強ザコを簡単に倒せるはずがない。リクはそう考えていた。
「でも一緒に努力すれば、もっと上を目指せるよ。私はそう思ってる」
「それじゃ、正式版が待ち遠しいな」
「ふふ、楽しみにしてる」
「ああ、俺も楽しみだ」
リクはコハルの気持ちを否定せず、笑顔で対応した。キリトみたいに強くなれるのかは分からないが、楽しみにしてるという言葉は嘘偽りではない。トッププレイヤーになれなくても、一緒に楽しむことができればそれでいいのだ。
やがて、カララン、カラランとベルの音が鳴り響き、アナウンスが流れる。
『《ソードアート・オンライン》ベータテストにご参加いただきありがとうございました。本日、午後五時をもちましてベータテストを終了いたします。ベータテスト終了に伴い、全てのプレイヤーデータはリセットされます。正式版のご参加を心よりお待ち申し上げております』
「もう終わりかぁ。……最後にリクに会えて、本当によかった」
「ああ、俺もコハルに会えてよかった」
互いにそう言った二人は、表情には出さないが寂しい気持ちだった。
もうすぐこの世界から強制的に現実へと戻される。二人は当分の間、顔を合わせることなく、それぞれの日常に戻るのだ。
だが二人とも正式版をプレイすると決めている。だからまた会えると信じて互いに笑顔で告げた。
「リク、またね」
「またな、コハル」
やがて二人の視界は真っ白になり、意識は現実へと帰っていった。
長いようで短かった二ヶ月。なかなか思うようにいかなかったコハルだが、最終日には友達ができた。再開の約束もした。
しばしの別れであっても、近いうちにあの浮遊城でまた会える。その時はまだ見ぬ地へ踏み入れ、向こうの世界で初めてできた友達、これからできるかもしれない仲間達と共に、ワクワクしつつもドキドキした冒険をするのだろう。それはきっと楽しい思い出になる。
コハルはそう信じていた。
正式版がリリースされた翌日、あの宣告を聞くまでは。
***
「よっ、待たせたな」
「ひゃぁぁぁぁぁ!」
急に肩をポンと叩かれたコハルはびっくりして意識を現実へと引き戻され、可愛らしい悲鳴を上げながら振り返った。
そこにはさっきまで見ていた写真と同じ笑顔をした茶髪の男性がいた。彼こそ、浮遊城アインクラッドで出会った恋人にして、SAOの虜囚達を開放へと導いた二大英雄の一人――緑の勇者・リクである。
「もう、脅かさないでよ!」
「ああ、悪い。脅かすつもりはなかった。 ……って、あれ?」
可愛らしく起こるコハルに弁明するリクだったが、ふと気づいたことがあった。
「俺達、初めて会った時と似てないか? 悲鳴の上げ方とか、さっき俺が言った事とか」
「あ、言われてみれば」
コハルは顔を赤くしつつも、最愛の人を愛おしそうに見つめた。
「……覚えててくれたんだ」
「当たり前だろ。俺達の運命の出会いだからな」
「う、嬉しいけど、恥ずかしいな。人もいるし」
横目になったコハルに言われてリクが視線の先を見ると、人の行き通りが激しい中で、三人組の女子がこちらを見ながら面白そうに立ち話をしている姿を見つけた。 きっとアツアツのカップルだとか言って茶化しているのだろう。いつまでも見られていてはこちらも恥ずかしくなってしまう。
「……とりあえず、移動しよう」
「そ、そうだね」
コハルは恋人の漠然とした提案を受け入れ、手をつないで歩きだした。行き先は既に決めてある。到着する予定までまだ時間はあるが、デートも兼ねて辺りを見て回ればいいだけだ。
愛する人へのサプライズを楽しみに、コハルはリクと共に上野駅を出た。