ソードアート・オンライン インテグラルファクターX ーアインクラッド・メモリーズー 作:No 77777
「ふーん、キリトはここで寝泊まりしてるんだ」
「ああ、この農家の二階を八十コルで借りてる。ちなみに、ここを見つけてすぐに家賃を十日分前払いした」
母屋の二階を眺めながら言うエトワールにキリトは説明した。
昼食後、キリトは三人を連れてトールバーナの東に広がる小さな牧草地沿いに移動した。そこにはキリトが寝床にしている農家があり、その近くでデュエルをするという話になったのだ。
農家の名はK・O農家。明らかにスタッフがナントカ牧場という西部劇の映画から名付けたとしか思えない。ここで行われるデュエルの敗者は名前の通りK・Oされるのだが、この流れは偶然なのか運命なのか、考えるだけ野暮である。
なぜ場所を変えてデュエルを行うのかは、単純な理由だ。前に行われたキリトとジェネラルのデュエルはかなり目立ってしまった。
さらに助けたプレイヤーとまたやるとなると、変な噂が立つ可能性は高い。そのリスクを避けるためだ。
「さてと、デュエルする場所は……よし、あそこがいいな」
キリトは周りを見渡し、母屋の庭と思わしき場所を指差した。そこはデュエルをするには十分なスペースがあった。
四人は移動すると、キリトとレグルスは真ん中で向かい合い、エトワールとスバルは少し離れた場所にある木製のベンチに腰掛けて見守る。
先程と同じように、キリトはウインドウを出現・操作し、レグルスにデュエルの申請を行う。もちろん、ルールは《初撃決着モード》だ。
申し込まれた本人は前に現れたシステムメッセージを確認すると、画面の【YES】をタッチ。ここから開始まで六十秒のカウントダウンが始まる。キリトは背中の、レグルスは腰の鞘からそれぞれ得物を抜刀した。
キリトはレグルスを観察する。武器は短剣。防具は鉄の胸当て。どこを攻撃すればいいのかはジェネラルの時と変わらないとして、違いは武器のリーチである。短剣は攻撃範囲が短い分、ソードスキルによる攻撃が早く、技後硬直・冷却タイムが短い。攻撃力もそこそこあるため、使いこなせば強い。
とはいえ、ルールが初撃決着モードなら、隙ができるソードスキルは使わないだろう。ならば、相手はこちらの隙をついて一撃を打ち込むしかない。だとすれば、AGI寄りである可能性が高い。
筋肉質なのでSTR寄りに見えるかもしれないが、それはただの偏見である。SAOはVRの世界、戦い方はステータスが影響するのだ。
「ねえスバル、さっきのデュエルでも思ったんだけどさ、開始まで六十秒って長くない?」
「姉貴の言いたいことは分かるけどよ、文句は運営に言ってくれよ」
開始まであと四十秒、エトワールの不満をスバルは淡々と返した。キリトもベータテスト時代は同じことを思っていた。だが強いプレイヤーに負け、リベンジするために勝つ方法を何度も考えた時、ふと気づいたのだ。
六十秒という時間は、対戦相手を見て作戦を考えるための猶予なのだ。
実際、どうやってレグルスに勝つかを今も考えている。武器のリーチはキリトの方が上、ならばその優位性を生かして相手を牽制しつつ、隙を見て一撃を叩き込む。まずはそんなセオリーに従うことにした。
残り十秒。キリトとレグルスは互いに身構え、戦闘態勢に入る。
五、四、三、二、一、ゼロ。
「なっ――!」
開始と同時にキリトは目を見開いた。レグルスは恐れずキリトの向かって勢いよくダッシュしてくる。
向こうは武器のリーチが短いため、隙を見つけるために慎重になると思っていたが、レグルスはそんなキリトの心理を予測して逆手に取ったのだ。
しかも予想以上に早い。キリトは突き出された刃をサイドステップで回避する。
「くっ!」
キンッ!
突きは躱したものの、レグルスは素早く横に薙ぎ払うように切りつけ、キリトはそれを片手直剣で何とか防いだ。しかし、間髪入れずに腹めがけて再び突きを放ち、今度はバックステップで回避する。
予想通り、レグルスはAGI寄りであった。だが予想以上の果敢な攻めと速さにキリトの表情は険しくなる。このまま相手のペースに飲まれたらマズい。直感でそう判断したキリトは、相手を寄せ付けないよう早い剣さばきで対応した。そこからは、キリトが相手に間合いを詰めさせないよう牽制し、対してレグルスは隙あらば突く、その繰り返しである。
その間にキリトは思った。レグルスはビギナーではあるもののセンスはいい。キレのある動きからして、リアルでは何かスポーツをしていたのかもしれない。もし彼が攻略に加わるのならば、大きな戦力になるだろう、と。
だが、それはあくまで理性である。キリト自身の感情は、今のSAOがデスゲームであるにも関わらず、ワクワクしている。ベータテスト時代のデュエルでは、相手にどうやって勝つかという駆け引きを楽しんでいた。その時の気持ちが、呼び戻されているのだ。
「うーん、なかなか決着つかないね」
「ああ、ここまで長引くとはな」
デュエル開始から五分、黙って勝負の行方を見守っていたエトワールとスバルは口を開いた。
「ねえ、スバルはどっちが勝つと思う?」
「……普通に考えたら、キリトだな」
「いや、そこはウソでもレグルスでしょ!」
エトワールは弟の正直さにツッコんだ。
「仕方ないだろ。SAOでの対人経験は、ベータテスターのアイツに分がある」
スバルの言うことは最もだ。リアルのレグルスは黒帯の空手家であり、試合でも駆け引きは得意である。
しかし、武器での戦闘はまだ完全には慣れていないのが問題なのだ。対してキリトは、ベータテストの期間に片手直剣の戦い方に慣れている。デュエルでも様々なプレイヤーと多く戦っているため、駆け引きも上手い。
ならば、二人の差を分けるのはステータスと経験である。前者に関しては、ソロと少数パーティーでの行動という理由でレベルに多少の差はあれど、まだ第一層である上に、攻略の最前線であるトールバーナにまで来るほどだ。今回のデュエルに大きな影響はない。
だが後者はスバルの言う通り、ベータテスターとビギナーの差が出てしまう。更に武器のリーチでは明らかにレグルスは不利である。
だからこそ開始と同時に一気に攻めたのだが、失敗に終わった。もしかすると、勝利するための最初で最後のチャンスを逃したかもしれないのだ。
しかし、だからといってキリトも油断はしていない。実力ある短剣使いとのデュエルでは、相手を近づけさせないよう闇雲に剣を振ったのだ災いし、僅かな隙を突かれて大ダメージを受けたことが何度もあった。
しかも今は初撃決着モードであるため、一撃でも受けたら敗北はほぼ確定である。故に最小限の動きで剣を早く振るうのだ。
現在、双方ともに攻めあぐねている。決着をつけるには何らかの方法で相手の隙を作るしかない。
互いにどうやって一撃を与えるか考えている時、レグルスは思い出した。それはまだ《はじまりの街》にいた頃のことだ。夕食を食べている時に、スバルがベータテスト時代にある検証をしたプレイヤーがいたという話をしだしたのだ。世の中にはそんな物好きなヤツがいると言っていたが、今のレグルスにはその時の話が、勝利への道標かもしれない。
(ここだっ‼)
キリトが振った剣をバックステップで躱したレグルスは、ついに行動を起こした。
「「「――――っ‼」」」
対戦相手であるキリトは勿論、見ていたエトワールとスバルですら驚きを隠せない。レグルスはキリトの片目めがけて短剣を投げつけたのだ。狙ったのは、キリトから見て右目。咄嗟に逆方向へサイドステップして回避したキリトだったが、それを予測していたレグルスは高速で向かって来る。
そして、
原作の名もなき農家(SAOP1巻)は僕がK・O農家と名付けました。理由はただのノリとウケ狙いです。