ソードアート・オンライン インテグラルファクターX ーアインクラッド・メモリーズー 作:No 77777
「マーベラス、一体どうしたんだ?」
「クエストをクリアしたと思ったら、それからすぐに『先に宿に帰ってて』ってメッセ飛ばして来っし、何考えてんだよ!」
カストルとポルックスは依頼主に報告して報酬の軽量盾と経験値を受け取ったまでは良かったが、腐れ縁からの突然のメッセージに困惑していた。
間違いなくあの少女が関係している。長い付き合いである双子の兄弟は確信していたが、なぜ先に自分達を帰らせようとするのかが理解できなかった。
嫌な予感がした二人は、マーベラスの指示を無視して再び広場に向かっていた。やがて目的地にたどり着いたのだが……
「ポルックス、あそこ……」
「……人集り、できてんな……」
カストルが指を指した場所には、多くのプレイヤー達が集まっている。
彼らはまるで何かを見物しているようだった。そして遠くから見えてしまったのだ。
自分達のよく知る金髪の紳士が、他の男性プレイヤーと剣を交えているところを。
「「…………」」
目の前の光景から現実逃避したかった二人だが、とりあえず状況を確認すべく、カストルは近くにいたプレイヤーに尋ねる。
「あの、すみません。何かあったんですか?」
「何だか、プレイヤー同士でデュエルしてるらしい。しかも争いの原因が女の取り合いだそうだ。他の奴から聞いた話によると、女に恋人がいたらしくてな。他の男が取ろうとして口論になって、それでデュエルに勝った方が女を自分のものにするだとか言ってたらしい……」
「「ソ、ソウデスカ……」」
双子の兄弟はげんなりした。
プレイボーイなマーベラスだが、他の男から女を取るようなマネはしないことを、双子の兄弟は知っていた。
故に伝聞の過程で事実が湾曲していることは察していたが、それでも女に関する揉め事でデュエルをしていることに変わりはないのだ。いたたまれない気持ちである。
「カストル、逃げるぞ」
「いや、止めなくていいのか⁉」
「あのな、止めに入ったら俺達があの金髪と知り合いだって分かるだろ! ギャラリーに攻略目指してる奴らがいたら、フロアボス攻略とかで一緒に白い目で見られるに決まってるって!」
「……それもそうだな」
カストルはあっさり納得した。
金髪の腐れ縁はデュエルに集中しており、こちらには気づいていない。その内に双子の兄弟は、こっそりその場から離れるのであった。
* * *
(くっ、上手く攻め込めない!)
デュエルが開始してから既に五分が過ぎているが、リクは勝利の一撃を与えられずにいた。
開始までの六十秒の間に、リクはマーベラスのレイピアとカイトシールド、軽金属の鉄の胸当てという装備からして、ステータスはAGI寄りではないかと予想していた。
盾を持つには、STRをある程度上げておく必要がある。だが軽量盾はその名の通り軽く、取り回しのしやすさがメリットなので、素早く正確な防御ができるのだ。
デュエルが始まると、その予想は的中した。マーベラスはソードスキルを使ってないにも関わらず、高速の突きを放ってきたのだ。
リクは何とかその攻撃を躱して相手の腹にカウンターで突きを返すが、盾で防がれてしまった。
その後も華麗な剣捌きを回避しつつ反撃を試みるも、盾持ち相手のセオリーに従って逆手側へ回っても防御され、意表を突くつもりで利き手側へ回っても早い剣捌きで近づけない。
マーベラスがAGI寄りだということは証明されたが、攻撃も防御も想定以上の速さ。元テニスプレイヤーだったリクは、それがステータスを上げただけではないと直感で感じていた。
「……一ついいか?」
「何だい?」
「お前、リアルでスポーツでもやってるのか?」
デュエル中であるにも関わらず、リクは訪ねた。
リアルの話題を出すのは不躾であることは分かっているが、どうしても聞かずにはいられなかったのだ。
一方、マーベラスは澄ました顔をしながらも内心では警戒していた。
リアルに関する話を持ち出して、こちらを動揺させる作戦かもしれない。もしかすると、話の途中で攻撃をしかけるという卑劣な手を使う可能性もある。
だが、リクの真剣な表情を見て話すことにした。
「昔はフェンシングをやってた。でも、利き手の健を痛めてしまってね。辞めざるを得なかった」
「なるほどな。どうりで早いわけだ」
事情を知ったリクは納得した。
「俺も昔、テニスプレイヤーだった。でも、事故で利き腕を負傷してな。治った後も努力したけど、結局ダメだった」
リクは自身の過去をマーベラスに打ち明けた。
リアル情報を出会ったばかりの、しかも自分とコハルを引き離そうとしている男になぜ話したのかはリクにも分からなかった。
「お前は、プロを目指してたのか?」
「将来の可能性の一つとして、考えてた」
そう返したマーベラスの目は、どこか遠くを見つめているようだった。
華麗な剣捌きから才能はあったはず。きっと、目の前の金髪の男と自分を重ねてしまったのだ。故にリクは同情せずにはいられなかった。
お互い、プロの可能性を絶たれてしまったのだから。
「それじゃ、話は終わりだ。続きを始めるか」
「……そうだね」
両者は再び武器を構えた。
たとえ過去がどうであれ、今は互いに刃を向ける敵同士なのだ。これ以上感傷に浸っていては、掴める勝利も掴めない。
とはいえ、リクは自分が段々と追い詰められている気がしてならなかった。
早い剣捌きの理由を知ったところで、状況が変わったわけではない。だが、勝たなければコハルと離れ離れになってしまう。絶対に負けられない。
(……こうなったら、やってみるか!)
構えてから五秒近く、リクは決断した。
少し前、討伐系クエストでmobとの戦いを有利に進めるために、ある手段を試したことがある。
コハルには驚かれたが、現時点では自分にしかできない方法であり、リアルでも貴重な人材なので無理もない。
しかし、ただ単に使うだけでは駄目だ。上手く相手の意表を突かなければならないので、多少の工夫を凝らす必要がある。
やったことはないが、マーベラスの防御をすり抜けるには、覚悟を決めるしかない。
「来ないのかい? なら、こちらからっ!」
先にマーベラスが仕掛けてきた。助走をつけた鋭い突きである。
リクの中には既に勝利のイメージが出来上がっていた。
避けるためにサイドステップで飛んだ方向は……逆手側。
(何度やっても同じだよ!)
この場合、リクが取る行動パターンは二つ。腹に剣を突き刺すか、足を狙うかである。
前者は盾で弾き、後者は盾が届かないため、バックステップで避けている。
どちらであれ、反撃で真横に切り払い、その度にリクは片手直剣で防御している。フェイントを織り交ぜて来る時もあるが、マーベラスはそれすらも上手く対応しているのだ。
今のマーベラスはウインドフルーレを持つ腕を伸ばしきっている。だが、パターンは既に覚えているため、どんな攻撃も受けない自信があった。
今回はどちらか? 攻撃の体勢に入っているリクは、右手のアニールブレードの切っ先を斜めに地面に向けていた。
(足かっ!)
マーベラスは後方に軽く飛んだ。反撃できるよう距離を調整しているため、利き手の手首を返して同じように切り払おうとしたが……
カキンッ‼
(なっ――‼)
マーベラスは驚きを隠せなかった。
リクは剣で攻撃を防いでいた。それは先程までと同じである。
だが今回は、片手ではなく
片手直剣はその名の通り、片手にしか装備できない。しかし、だからといって両手で握れないわけではないのだ。
「うおぉぉぉぉぉ‼」
裂帛した気合と共に、リクはマーベラスの斬撃を弾いた。
マーベラスがAGI寄りのステータスなのに対し、リクはSTR寄り。しかもリクは両手で剣を持っているため、押し返されるのも当然である。
勢いよく弾かれたせいで体勢を崩しかけたマーベラスは目を見開くが、すぐに冷静さを取り戻した。
今のリクは両手で剣を持っている。そのまま両手で突きを放つにしても、右手に持ち替えて攻撃するにしても対処できる。
そう、思って盾を前方に持ってきたのだが……
(何っ、盾を掴んだだとっ‼)
接近してきたリクが取った行動はまたしても予想外だった。
マーベラスから見て盾の右側を右手で掴んだリクは、固い扉をこじ開けようとするかのように動かしている。
それに抗うように、マーベラスも逆方向に力を入れる。これを許せば、真ん中が無防備になってしまうからだ。
だがリクにしてみれば、この時点で勝敗は決していた。
ザクッ‼
「……え?」
一瞬、マーベラスは自分の身に何が起こったのか理解できなかった。分かるのは、自分の腹に何かを感じたということだった。
マーベラスが目線を下に向けると、自分の右脇腹にアニールブレードの切っ先が刺さっていた。
しかもその柄は、
【WINNER / Riku 7:03】
ファンファーレと同時に巨大なシステムウインドウが出現。この時点で、デュエルは終了した。
「……ゲームセット」
リクは勝ち誇るように言うと、すぐに剣を引き抜いた。
こうして、一人の女性プレイヤーを巡る(とギャラリーから思われている)男の戦いは、リクの勝利で幕を閉じた。
このデュエルをきっかけに、リクは二刀流の使い手として他のプレイヤーから一目置かれることになる。
やがて、アインクラッドの攻略が後期に差し掛かった頃、そのシステム外スキルはこう呼ばれるようになった。
元祖・二刀流、と。