ソードアート・オンライン インテグラルファクターX ーアインクラッド・メモリーズー 作:No 77777
デュエルの後、場所を喫茶店へと移動したリク、コハル、マーベラスの三名は建物の中に入って適当な席に座り、店員にドリンクを頼んだ。
その後、マーベラスは双子の兄弟に居場所をメッセージで伝え、頼んだドリンクがテーブルの上に置かれた数分後には、気難しそうな顔をしたカストルと呆れ顔をしているポルックスが現れた。
「やあ、来てくれたんだね」
「来てくれたんだね、じゃねーよ! 知らない女の子に関わるから、面倒なことになったんだろ‼ 揉め事でHP減らすなんてバカじゃねーの‼」
苦笑いのマーベラスにポルックス怒りをぶちまける。
無理もない。初撃決着モードとはいえ、HPが無くなれば死ぬというのにデュエルをしたのだ。
しかも原因が女性絡みなので尚更だ。
「ポルックス、少し落ち着くんだ」
カストルは双子の弟を宥めた。
落ち着いたのを確認すると、今度は冷静にマーベラスに尋ねる。
「それで、何でデュエルなんてしたんだ? ちゃんと理由を話してくれ」
「ああ、ちゃんと話すから、まずは席に座りなよ」
とりあえず双子の兄弟は、マーベラス達の隣の席にある木製のイスに腰掛けてドリンクを注文。飲み物が来ると、マーベラスは別れた後の出来事を話し始めた。
無難に自己紹介から始まり、辛そうな理由を聞いたこと。はじまりの街に戻ったほうがいいと説得したところでリクが現れ、互いの勘違いから口論となってマーベラスがデュエルを提案。激戦の末にリクが勝利し、互いの誤解が解けて今に至るどころまで説明した。
「ったく、面倒事起こしやがって。悪いな、コイツが迷惑かけてよ」
ポルックスは呆れつつ、リクとコハルに謝罪した。
「いや、もう過ぎたことだ。ところで、俺達は初対面だったな。俺はリク、よろしくな」
「メガネを掛けてる俺はカストル。よろしく」
「で、掛けてないオレは双子の弟のポルックス。そして、お前達に迷惑をかけたこの金髪の女ったらしは、腐れ縁のマーベラスだ」
「あれ、僕の紹介だけ随分憎ったらしい感じがするんだけど……」
「さあな、気のせいじゃねーか?」
惚けるポルックスにマーベラスは「あ、あははは……」と乾いた笑いを漏らした。まだ怒っているようだ。
「ところで、二人は友達を探すためにここまで来たんだな?」
「ああ、そうだ」
カストルの問いにリクは肯定の答えを返した。
「それなら、俺達も力になる。迷惑をかけたお詫びもしないと」
「だな。マーベラスもいいよな?」
「もちろんだよ」
双子の兄弟と金髪の紳士は、リクとコハルの友達探しを手伝いたいと申し出た。
だが、リクとコハルはその善意を素直に受け取っていいのか迷っていた。
三人は攻略を目指している。だとしたら、貴重な時間を人探しよりもクエストの攻略や狩りに当てたほうが合理的だ。
僅かな逡巡の末、リクは丁寧に断ることにした。
「いや、気持ちは嬉しいけどよ、お前達は攻略目指してるんだろ? だったら――」
「あれ……カストル、オレ達攻略目指してるって言ったか?」
「いや、言ってなかったはずだ」
「あ、それは僕が言ったんだ」
頭に疑問符を浮かべる双子の兄弟に、マーベラスはデュエル後に現れたディアベルというプレイヤーについて話し始める。
リクとマーベラスのデュエルを観戦していたディアベルは、フロアボスに挑戦するメンバーを集めて回ってると説明し、二人の実力を見込んで参加してほしいと頼まれた。
その時にマーベラスは参加の意を示したため、リクとコハルが知っているのは近くにいたからだと付け加えた。
最後に攻略会議が近いうちに開かれることを伝えると、双子の兄弟は揃ってげんなりしてしまう。
「つまり、フロアボス戦に参加するプレイヤーに、あのデュエルを見られたということか……」
「はあ……オレ達ぜってー白い目で見られるぞ……」
「……そ、それよりリク、コハル、確かに僕たちは攻略のために時間は使うけど、その合間に聞き込みをするだけなら、そんなに時間は使わない。そもそも、僕がコハルに話しかけたのが事の始まりなんだから、協力させてくれないかな?」
マーベラスは強引に話を戻し、自分達が負担にならない程度に手伝うと説得する。
「……分かった。そこまで言うなら、頼む。コハルもいいよな?」
「うん。お願いしよっかな」
「よし、それなら、君たちの力になることを約束するよ」
リクとコハルがOKの返事を出すと、マーベラスはディアベルにも負けないほどの爽やかな笑顔になった。未だ気持ちが沈んでいる双子の兄弟を差し置いて。
「それで、友達の名前は何ていうのかな?」
「はい、キリトっていうんですけど」
「――っ! キリトだとっ‼」
マーベラスの問いにコハルが答えると、ポルックスが大きく反応し、隣にいたカストルもびっくりしてしまう。
「何だ、ポルックスはキリトのこと知ってるのか?」
「ああ。ベータテスト時代、キリトは攻略の最前線に立っていたプレイヤーの一人だ。攻略の難しいクエに、ヘルプで助けてもらったこともある。フロアボス戦もほぼ常連で、デュエルでも勝率は高かった。オレから見ても、アイツの実力はトップクラスだ」
真剣に話すポルックスの表情からして、リクはキリトが相当の実力者であることを感じた。
最終日に自分とコハルを襲った強ザコを簡単に倒した事から只者ではないと予想していたリクだったが、そんなに強いとは恐れ入る。
「それで、当時のキリトさんはどんな人でしたか?」
リクに続いて、今度はコハルが尋ねる。
二人はキリトのことを友達だと思っているが、まともに話をしたのは初日に出会ってから三時間だけ。キリトという人間をまだ深くは理解していないため、ベータテストの頃のキリトを知りたいのだ。
「そうだな……勇者プレイしていて面白い性格してたけどよ、なんか飄々としていて、何考えてるか分からないヤツだったな。何度かゲームについて楽しそうに話したことはあったけど、どこか人と距離を置きたがってる感じだった」
「なるほどな……」
「そうですか……」
リクとコハルは今日、自分達の知らないキリトの一面を知った。
何考えてるか分からない、人と距離を置きたがっているとポルックスは言うが、それでもリクとコハルはキリトが悪い人だとは思えなかった。
SAOがデスゲームと化した初日、キリトはリクとコハル、クラインに自分と一緒に来いと誘った。結局、三人ともはじまりの街に残ることにしたが、別れ際のキリトの寂しそうな背中を二人は今でも覚えている。
「……で、お前らはキリトとどういう関係なんだ?」
「ああ、俺達が初めて会ったのは、偶然でな……」
ポルックスに尋ねられ、今度はリクとコハルの方から語り始める。
まずド素人だったコハルが、半ば意地で『はじまりの街』から少し遠い森まで行ったが、結局はmobから逃げ続けてしまったことを話す。
次に、安全地帯で休憩しているときにリクと出会い、戦い方を教えてほしいとコハルの方から頼み、特訓を開始。基本が出来たところで強ザコがポップし、リクが苦戦している際にキリトが現れて助けられ、去り際にコハルが呼び止めて名前を聞き出した。
その後、安全なところで特訓を再開し、ベータテスト終了間際に再開の約束をしたところまでがベータテストの頃の話。
それから一ヶ月後、午後一時にナーヴギアを被ってダイブし、SAOの中で再開。ベータテスト時代の勘を取り戻すためにまた特訓するが、コハルは武器を短剣に変えたこともあって苦戦する。
そんな時、クラインというプレイヤーと出会い、彼を追いかけてきたキリトと再開。四人で特訓をしていたが、夕方になって事件に巻き込まれた、というところまで話したのだった。
「はははっ、ロマンチックな話だね」
「確かに、運命的な出会いって感じだな」
「「…………」」
話を聞き終えたマーベラスとカストルは楽しそうであったが、リクとコハルは少し恥ずかしくなって頬をほんのり赤く染めた。
「そういや、お前らが出会った森っていうのは、もしかして『狩猟の森』か?」
突然、ポルックスに聞かれたリクは「ああ、そうだ」と答える。
「ってことはリク。お前もあそこに来た目的はアレか?」
「多分、ポルックスの思ってる通りだと思うぜ」
「え、どういうこと?」
コハルは二人の話についていけなかった。マーベラスとカストルは既に察していたが。
「知ってると思うけど、ベータテストは終わりまで第九層までクリアされた。俺はともかく、攻略の最前線にいたキリトが、最終日に第一層にいるなんておかしいと思わないか?」
「あ、そうだよね……」
リクに言われたことで、コハルは今更ながら気づいた。
確かに、トッププレイヤーが第一層のフィールドにいたのは疑問だ。狩りをするにしても、より強いモンスターのいる上の層の方がコルや経験値を稼げるはず。
「ま、最前線にいたヤツらはmobの強さや残された期間を考えた結果、終了までに攻略はできないって判断した。だから終わりまで、それぞれやりたいことをし始めたんだよ。そんな中、最終日が近づいてきた時にこんな噂が出始めた。第一層にレアアイテムがあるかもしれないってな」
そこからポルックスが語りだしたのは、一部のベータテスター達の欲望・執念とも言える内容であった。