ソードアート・オンライン インテグラルファクターX ーアインクラッド・メモリーズー 作:No 77777
ハッピー・バースデイ
「コハル、ここでいいのか?」
「うん、間違いないよ」
「リク、入ろう」
「いや、ちょっと待て。あれを見ろ」
ウキウキした気分で店に入ろうとしたコハルをリクは引き止め、ドアに掛かっているオープンプレートに向けて指を差す。
表示はclosed。つまり本日はやっていないということになる。
「大丈夫だって。ほら、早く」
「お、おい!」
しかしコハルはそんなことお構いなしと言わんばかりに、ドアを開けて中へ入っていく。止めようとするリクの言葉など聞く耳を持たない。
そんなコハルの行動に違和感を感じつつも、考える間もなくリクも続いて空いたままのドアから店内へと入った。
中に入ったリクは、カラン、カラーン! とドアーベルを鳴らしつつ律儀にドアを閉め、周りを見渡した。
店内は木造で、壁、四つのテーブル、カウンター席の革張りのスツール、目に見える全てが艶を放っている。手入れが行き届いている証拠だ。
「おう、お二人さん。よく来たな」
懐かしい張りのあるバリトンにリクは反応した。
声のした方に視線を向けると、カウンターの向こう側には店主と思わしき巨漢のチョコレート肌をした黒人男性がいた。
「エギルさん、こんにちは」
「すみません、休みなのに勝手に入ってしまって……」
コハルが朗らかに挨拶するのとは対象的に、リクは休日に勝手に店に入ったことを謝罪するが、エギルの表情は怒るどころか笑みを浮かべている。
「構わんさ。むしろタイミングが良かった」
「え、どういうことです?」
エギルの意味深な言葉に、リクが困惑した時だった。
パーン‼ パーン‼ パーン‼
カウンターからいきなり人影が出てきたと同時に、何かが弾ける音が不揃いに重なりつつも連続で店内に響いた。
「「「「「リク、誕生日おめでとう‼」」」」」
「……………………」
突然の事態に、リクは目を丸くしながら呆然としてしまう。
人影を見てみると、その正体は共に浮遊城で戦った仲間達だった。
キリト、アスナ、リーファ、シノン、アルゴ、クライン、サチ、GV、シアン、Z、K、マーベラスを始めとするD・S初期メンバー六人。そうそうたる顔ぶれだ。
「みんな、ありがとう」
「ああ、大成功だな」
コハルが感謝の意を述べると、キリトはサムズアップして返した。
五月四日。この日は『みどりの日』と呼ばれる祝日と同時に、リクの誕生日でもある。
SAOにいた時に誕生日を聞いていたコハルは、今回のサプライズを仲間達と共に計画していたのだ。
「にゃハハ、まさかエギルの店でオイラたちが待っているなんて思いもしなかったダロ?」
「……ああ、思わなかった……」
アルゴは愉快に笑うが、リクは未だ呆然としていた。
だが、今思えば納得だ。
誕生日だというのに、コハルはその事に関して何も言ってこなかった。
後でプレゼントを渡して、お祝いの言葉でも贈るのかと思っていたのだが、まさかここでサプライズを用意していたとは。
「けど、いつから企画してたんだ?」
「一週間前かな」
リクの疑問に答えたのはアスナだった。
話によると、コハルは誕生日に何を送ればいいか迷っていた時に、LINEでアスナに相談していたそうだ。
なぜ真っ先に相談したのがアスナかというと、彼女はSAOでキリトと(システム上で)結婚していたため、愛する人にリアルでどんなプレゼントをしたほうがいいか分かるかもしれないと思ったからとのこと。
アスナも少し悩んだそうだが、考えた末にあるアイデアが浮かんだ。
それが、浮遊城で出会った仲間達との再開というサプライズであった。
それ自体がみんなからリクへのプレゼントにもなるし、仲間達もリクに会える。互いに喜びあえるということで、リクに知られないよう密かにLINEで計画していたそうだ。
二日後には帰還者学校で会える者達もいるが、初日はオリエンテーション等で忙しいため、再開を喜ぶどころではないだろう。
何より、緑の勇者の誕生日という特別な日に再開した時の方が嬉しさは大きい。
しかし残念ながら、全員というわけにはいかなかった。予定が入っていた仲間達はどうしても来られなかったため、後でLINEにお祝いの言葉を送ってくれるらしい。
「みんな、わざわざ俺のために……」
「あったりめーよ。みんな、おめぇのことが大好きなんだ。ダチの誕生日、祝いたくもなるだろ」
友達なら当たり前とでも言いたげにニヤッと笑うクラインに、微笑む仲間達を見たリクは、感慨深くなって笑みを溢す。
現実に帰ってきても、自分と仲間達の強い絆を感じた瞬間だった。
「それじゃお前ら、クラッカー片付けて、料理運ぶの手伝え」
エギルがタイミングよく指示すると、みんな一斉にパーティーの準備を始めた。
厨房から様々な料理が運び出され、テーブルに並べられていく。その光景を見ていたリクにコハルが「お店の名物は、スペアリブとベイクドビーンズだって」と耳打ちして教えてくれた。
それからアスナら料理組がカウンターにガラスコップを置いていくと、キリトら掃除組がみんなに回していく。
コップが全員に行き渡ると、エギルが冷やしておいたコーラの栓を開け始め、Zら何もしていない組がコップに注いでいった。
ちなみにKはボトルとコップの距離を開け、カッコよく真上から注ごうとしたが、Zに止められた上に周囲から普通にやるよう咎められた。
やがて、コーラが全員に行き渡ると――
「それではみなさん。リクの誕生日と、SAO攻略を祝って――かんぱーい‼」
「「「「「かんぱーい‼」」」」」
コハルの音頭で、店にいる全員が大きく唱和したのだった。
それからはみんな、取皿を持ってテーブルの料理を取り分けたり、グラスに飲み物を注いだりして食事を楽しんだ。
みんながおしゃべりしながら食している中、キリトは本日の主役よりも食べていたのをリーファに突っ込まれたり、Kはスペアリブを取り分けたり食べたりする際に汁をこぼすのをエギルやアルゴに注意されたりと、なかなかに賑やかだった。
「ねえ、リク。思ったんだけど……」
「どうした?」
みんなの様子を見ていたコハルは、この場にいる人々の大半が一つの共通点を持っていることに気がついた。
「パーティーに参加しているほとんどの人たちって、第一層のフロアボス戦に参加していたプレイヤーだよね?」
「……ああ‼ 言われてみれば」
確かに、リクとコハル以外にも当時の参加者がここにいる。
キリト、アスナ、エギル、Z、K、D・Sの初期メンバー六人。あと、エギルによると遅れてくるメンバーがおり、その中のジョーカーとクロウもその時のメンバーだ。
「えっ、そうなんですか?」
そう声を挙げたのは、たまたま近くにいたリーファであった。隣にはシノンもいる。
「ああ。ジョーカーとクロウ、それからKは会議の前の親睦会で初めて顔を合わせて、アスナとエギルさんは攻略会議で出会ったんだ」
リクは過去を懐かしむように説明した。
彼らがいかに強いプレイヤーでも、最悪の可能性が起こるのがSAO。攻略のために危険なクエストに挑んだり、危うく命を落としかけたこともある。
そんな中で第百層のボスを倒し、リアルに帰って仲間達と再開できたのは奇跡のようなものだ。
「確か、ディアベルが率先して動いていたのよね。でも攻略会議もボスを倒した後も、ギクシャクしていたって噂で聞いたけど……」
「……まあ、そのとおりだ」
シノンはぎこちない表情で話すと、リクは重々しく答えた。コハルの表情も少し暗い。
「攻略のために一致団結するのが理想だけどな、簡単にはいかなかった。特に、攻略後はキリトが汚名を背負ったこともあるからな……」
そこからリクは、リーファとシノンに話し始める。
まず最初に話したのは、Zが集めたベータテスターとその仲間達を集めた親睦会と目的、そして最初の攻略会議で起きた諍いについてだった。
リクの誕生日については『正式サービス開始』と『リクとコハルの決意』でちょっと伏線を張ったつもりですが、今になって思えば、まだまだ未熟でした。
それを考えると、伏線を張り巡らす作品はすごいなと思わずにはいられません。
皆さんにとって、伏線とその回収が印象に残っている作品はなんですか?