ソードアート・オンライン インテグラルファクターX ーアインクラッド・メモリーズー 作:No 77777
11月30日 トールバーナ
ポリ、ポリ、ポリ、ポリ。
とある宿屋の一室。Zは相変わらず好物のあげせんを食べていた。
時間が空いた時にはいつもそうしている。ベータテスト時代から彼を知るプレイヤーからは呆れられているが、本人は大して気にしない。
宿屋以外にもコルを払って借りられる部屋があることを、ベータテスターであるため知っている。
しかし、Zは他の最前線のプレイヤーと違い、これから先のことも考えた上で、SAO全体のために第一層を動き回っていた。
多忙の末にトールバーナに戻ってきた時には、既にいい場所は他のプレイヤーが押さえており、仕方なくボロい宿屋の狭い部屋に止まっているのだ。
だが問題ない。Zは大好物のあげせんさえあれば、大体のことは大丈夫なのだから。
既に夕食を食べ終え、時間は午後十時五分前。
今日の狩りやクエで手に入れたアイテムの整理、ステータス・スキルの確認も済ませている。
精神的な疲労を回復するために早く寝るのもいいが、Zはまだ起きていなければならない。
コン、コン。
ドアをノックする音が聞こえた。この時間に会う約束をしていたお客がやって来たのだ。
「ディアベルだ」
ドアの向こう側にいる人物が名乗った。
Zはボロい椅子から立ち上がると、ドアに近づいて
ドアを三十度ぐらい開けると、Zの視界に爽やかな笑顔をした青髪の男が写った。
「待ってたぜ」
笑みを浮かべたZは更にドアを開き、ディアベルを中へと誘う。
部屋の真ん中に長方形のテーブルが置かれており、Zが長辺のあたりにある椅子に座ると、ディアベルは向かい側の席に腰掛けた。
「あげせんもあるから、どうぞ」
テーブルの真ん中に置いてあった蓋の開いたメイソンジャーをZは手で示した。中に入っているのは、先程まで食べていたあげせんだ。
「ははっ、相変わらず好きだね」
爽やかな青髪の男は、愉快に笑いながら中のあげせんを一つ摘み、口の中に入れて味わった。
Zとディアベル。ベータテスターである二人が再開したのは、デスゲームが開始して数日のことであった。
見つけたのはディアベルの方だが、最初Zは誰だか分からなかった。外見が違うだけでなく、当時と名前すら違っていたからだ
向こうが見つけた理由はもちろん、あげせんを食べていたのを目撃したから。その際にフレンド登録もした。
Zが話を聞いたところ、ディアベルは仲間達と話し合った結果、攻略を目指すことに決めたそうだ。
キリトと比べて『はじまりの街』を出ていくのに数日は掛かったものの、ベータテスターとしての知識と仲間達との連携で最前線まで来ることができた。今では、一番早く迷宮区を駆け上がっている実力者である。
そんなディアベルとZが、宿屋の一室で密談の約束をしていたのは、情報交換のためだ。
「早速で悪いんだけど、迷宮区の攻略はどれくらい進んでる?」
Zが最初に切り出す。
「十八階まで来て、上の階に続く階段を発見した。この調子なら、あと数日でボス部屋の最上階に辿り着けそうだ」
「なるほど」
第一層の迷宮区は全二十階であり、既に九十パーセント近くがマッピングされたことになる。Zから見れば、早いペースだ。
「それで、仲間集めはどうだったんだい?」
今度はディアベルが訪ねてきたが、Zは難しい顔をする。
「うーん、悪いけど十人ぐらいだな」
その答えにディアベルは「そうか」と残念そうに返した。
Zが第一層を駆け回っていた理由の一つは、知り合いのプレイヤーと再開してフレンド登録をすることだった。
最初はベータテスターを中心に当たったが、当時と姿が変わっているせいで見つけるのは簡単ではなかった。
あげせんのおかげでZだと分かっても、デスゲーム化の影響で協力を拒んだプレイヤーは多い。
自分や仲間のことを優先してベータテスト時代の知識を独占する者もいれば、ただ単に死に怯えて『はじまりの街』に籠もっている者もいた。
最悪の場合、プレイヤーが既に死亡していることもあった。かつてHPが0となったプレイヤーが蘇生していた場所――
かつて攻略の最前線に立っていた何十人ものベータテスター達も、その中に入っているのだ。さらにアルゴの推計によると、そうでない中層プレイヤーも含めれば、その数は三百人近くにも登るらしい。
「ボス戦の攻略に応じてくれたベータテスターは、ジョーカー、ヒロ、クロム、ポルックスにスバル、そしてキリトの六人だ」
「うん、実力としては申し分ないね」
指を折り曲げながら、かつてボス戦で活躍したベータテスターの名前を挙げたZに、ディアベルは頷いて返した。
「それから、ポルックスとスバルはリアルでも交流のある仲間が、それぞれ二人いる。ジョーカーの仲間からも一人、後は俺がよく知るプレイヤーが一人参加する。これで十二人だ」
「その人たちは、大丈夫なのかい?」
「一昨日、ステータスを訪ねたけど、ちょっとレベルは低いかな。ただ、あれからレベリングを続けてれば安全マージンは取れる。それに、ここまで来たなら実力はあるはずだ。おれのカンがそう言ってる」
ベータテスターでないプレイヤー――ビギナーの適正を心配ながら訪ねたディアベルだったが、Zがそう言うなら問題ない気がした。
だが、それでも気を引き締めて行かなければならない。参加者を誰も死なせないためにも。
「それじゃあ、この辺で――」
「待ってくれ、ディアベルさん。一つ確認したいんだけど……」
椅子から立ち上がろうとしたディアベルだったが、Zに止められた。
互いに情報は教えたはず。一体、他に何があるのか?
「アンタ、
「……どうして、そう思うんだい?」
ディアベルは質問を質問で返す。
LAとは、その名の通り敵に止めを刺すことだ。
それには大きな意味がある。最後の一撃をあたえて敵を倒したプレイヤーは、経験値・スキル熟練度が他のプレイヤーよりも多く配分されるのだ。
だが、ボスの場合はそれだけではない。LAに成功したプレイヤーは、貴重なレアアイテムを確実に獲得することができるのだ。
「アンタのパーティーは、最前線にいるプレイヤーの中で一番攻略を進めているし、時間さえあれば、フロアボス戦に参加するプレイヤーを募っている。つまり、リーダーとなって攻略を指揮するつもりでいるってことだ。だとしたら、指揮官として死ぬわけにはいかない。ドロップアイテムを手に入れて自身を強化し、自分・仲間共に生存率を上げようって思うはずだ」
「…………ははっ、まいったね。その通りだよ」
ディアベルは観念した。Zは思ったより知恵の回る男だったようだ。
「まあ、安心しろ。俺はLAを取りに行く気はないよ。ベータテストの時から、アンタの指揮を評価している奴は多い。だから、攻略の中心になってほしい」
「Z……」
そこまで期待しているのなら、責任は重大だ。ディアベルは太腿に乗せていた両手を無意識に力ませる。
「あと、キリト以外のボス戦に参加するテスター達にも聞いたけど、みんなLAは取らないってさ」
「じゃあ、彼は取りに行くつもりなのか……」
内心、ディアベルは慌てた。
かつて共にボス戦に参加したプレイヤー達は、同じ敵を倒す仲間であると同時に、LAを狙うライバルでもあった。
特に、ほとんどをZとキリトに持っていかれたのだ。
「いや、この話が終わった後に、キリトの意思を確認しにいく。もし狙っているつもりなら説得する。ダメならデュエルを仕掛けてでも止める。俺が勝てば、向こうもさすがに従うさ」
「……強引だね」
「不安要素は取り除いておきたいからな」
SAOに囚われた全プレイヤーのためとはいえ、ディアベルは少し引き気味になってしまった。
だが、今日の朝も揉め事をデュエルで解決したプレイヤー達を目撃した上に、そんな彼らを攻略会議に誘ったのだ。今更だろう。
「じゃあ、話はこれで終わりだ。迷宮区の攻略、がんばれよ」
「そっちも、キリトのことは任せたよ」
こうして、二人の密談は終わった。
ディアベルが部屋から去った後、Zはウインドウを開いてメッセを飛ばす。
相手から返信が来ると、確認してから宿を出たのだった。
Zこと迅悠一、原作でも暗躍して組織に貢献していた彼ですが、ようやくアイメモでも描写できました。
今後も上手く書けたらと思います。
あと、名前が出てきた他のパロキャラもそう遠くないうちに登場します。お楽しみに。