ソードアート・オンライン インテグラルファクターX ーアインクラッド・メモリーズー 作:No 77777
「とりあえず、あげせん食う?」
「じゃ、遠慮なく」
Zがオブジェクト化したあげせん入りのメイソンジャーを机の真ん中に置くと、キリトは蓋を開けて食べ始めた。
現在、ZとキリトはK・O農家の二階の部屋で、向かい合う形で座っている。
ベータテスターである二人が再開できたのは、あげせんのおかげ、ではない。
SAO正式サービス開始日、Zはリアルでも知り合っているゲーム仲間と集まる約束をしており、出会えた一部の仲間達と共にフィールドでレベリングをしていた。
しかし午後五時、鐘の音がなってすぐに強制テレポートが発動し、全てのプレイヤーが中央広場に集められ、それからすぐに真紅のフードを被った人物――茅場晶彦が出現、SAOがデスゲームとなった事を伝えられた。
更にはプレイヤーのアバターをリアルと同じ姿にされ、全ての説明が終わると、怒号や絶叫などが飛び交う中、Zは冷静に考えた。
恐らく、外部からの助けは来ない。天才である茅場は、この日のために念入りに準備を重ねてきたはず。安々と警察にしっぽを握らせはしないだろう。
ならば、真っ向から攻略するしかない。そのために、優秀なプレイヤーの協力が必要不可欠なのは言うまでもない。
故に、まずはベータテスト時代に攻略の最前線に立っていたプレイヤーと情報交換できるよう、フレンド登録するべきだと思った。
Zはさらに考えた結果、いずれ《はじまりの街》のフィールドはmobを狩りつくされてすぐに枯渇するため、それを分かっているベータテスターは、早く次の村を拠点にすると結論づけた。
だから仲間達には自身の考えを伝え、さらにショックで投身自殺を図るプレイヤーが現れることを説明。悪いと思いつつも、自殺の防止とパニックの収拾を任せ、一人で『ホルンカの村』へ向かったのだ。
村に着いた後はアニール・ブレード獲得のクエストを受け、達成に必要なアイテムが手に入るフィールドの先でキリトと再開。途中、ハプニングはあったものの無事にフレンド登録をすることができた。
その後も次の日の朝まで村に留まって他のベータテスターにも協力を頼んだが、全員に断られてしまった。
仲間達のことも気がかりな上に、これ以上は無駄だと自身の勘が告げていたため、仕方なく『はじまりの街』に戻ることにした。しかし、それでもキリトと登録できたことは大きいとZは思っている。
「……で、話っていうのは?」
キリトは本題に入る。
やることを終えて早めに寝ようかと思った矢先、Zからメッセが来たのだ。『悪い。お前と会って大事な話がしたいけど、いいか?』と。
Zのことだから、重要な事なのだろう。そう思ってOKを出し、居場所も教えたのだ。
「キリト、単刀直入に聞くけど、お前はこの層のフロアボス戦で、LA取るつもりはあるか?」
何気ない感じで訪ねたZだったが、キリトはそんなことかよ、とでも言いたげに「はあ」とため息をついた。
「ないよ。そんなことしたら、目の敵にされるだろ」
予想した答えにZは「そうか」と返した。
他のMMORPGでも、数少ないレアアイテムを持っているというだけで嫉妬され、場合によってはPKまで仕掛けられるというケースをZは知っている。
特に、本物の命が掛かっているSAOでは、余計な恨みを買うリスクはなるべく避けなければならない。最前線のプレイヤー達との間に亀裂が走れば、攻略に悪影響が出てしまう。
最悪の場合には、非人道的な行為に走る者も……
「……Z、お前まさか……」
「いやいや、俺もキリトと同じだよ。確認のために聞いただけだ」
訝しむキリトに、Zは慌てることなく答えた。どうやら誤解を招いてしまったようだ。
とはいえ、流石にディアベルにLAを譲ってくれとは言えない。彼にそれを個人的に許しているのは、人を率いていくカリスマ性があるからだ。
優れた統率者がLAボーナスを取れば、わだかまりも最小限で済むだろうとZは考えている。
「まさか、そのためだけに俺のところに来たのか?」
キリトは疑惑と不満が入り混じったような複雑な表情を浮かべて尋ねる。
「いや、もう一つだけある。キリト、俺から提案があるんだが……」
Zは飄々とした態度を崩さずに話す。
キリトのところに来たのは、何もディアベルの目的のためだけではないのだ。
そんなZの提案とは……
「親睦会、開かないか?」
「……は?」
キリトは素っ頓狂な声を挙げてしまう。
「何でそんなことをする必要があるんだ? 大体、誰とやるっていうんだ?」
キリトの疑問は最もだ。
近いうちに第一層のフロアボス攻略が行われるかもしれないという時に、何を呑気なことを言っているのか?
「俺さ、第一層を動き回って、フロアボス戦に参加してくれる元ベータテスターを探してたんだ。五人が応じてくれて、更にその仲間達五人と俺の知り合い一人、そして俺とお前を加えて、再開を祝う親睦会を明日の夜にこっそりするのさ。
「……なるほどな」
最初は頭の中が能天気なのかと思ったキリトだったが、Zが真顔で最後に話した部分を聞いて納得し、真剣な面持ちになる。
キリトも近い内に攻略会議が開かれることは既に情報屋から聞いていたが、滞りなくいくとは思っていない。
元ベータテスター達の存在がその原因となる。Zとキリトはそれを懸念しているのだ。
「けど、場所はどうするんだ?」
キリトの言う通り、十人以上のプレイヤーが集まるには、それなりに広い場所が必要になる。Zが泊まっている二十五平米の安い宿では狭苦しい。
レストランや酒場なら十分なスペースがあるものの、他のプレイヤーも出入りするため、話を聞かれると面倒事になってしまう。
「それなら心配ない。たった今、見つけた」
「……おい、まさか」
キリトは嫌な予感がした。そんな彼の気持ちなどお構いなしに、Zは右人差し指を下に向ける。
「ここだ」
「…………はあ」
やっぱり、と言いたげにキリトは再びため息をついた。
確かに、今キリトが借りている牧場の母屋の二階は二十畳ほどの広さがあり、十人近くの人数を入れることができる。
しかもコルを払って借りている部屋であるため、内側から鍵を掛ければ部外者が入ってくることはない。さらに(『聞き耳』スキルという例外はあるが)外から盗み聞きをされる心配もない。
「わかったよ。この部屋を貸してやるよ」
「ああ、ありがとな」
図々しく思ったキリトだったが、最終的には承諾した。
ベータテスト時代にも、こうしてZに乗せられた事が何度もあった。
人付き合いの苦手なキリトは、そういうところはZに一生勝てる気がしない気がした。
「それじゃ、時間は十時でいいか?」
「ああ、構わないぜ」
「よし、そうと決まれば人数分のあげせんを買わないとな」
「買うのは勝手だけど、俺は一コルも出さないからな」
「つれないなあ」
「場所は提供しただろ」
「それもそうだな。あ、そうだ、飲み物は――」
「飲み放題のミルクがある」
「なるほど。それ以外にも食べたいもの・飲みたいものがあるなら『各自持参』って伝えておくか」
「Z、一番の目的は攻略会議に関しての懸念材料を話すことだろ」
「そりゃそうだけどさ、せっかくみんなで集まるんだ。暗い話だけじゃつまらないだろ? それに一人女の子も参加するから、アタックしてみたらどうだ?」
「合コンかっ! お前、SAOがこんな状況だっていうのに余裕だな」
「こういう状況だから、時には楽しみを探すのもいいだろ。せっかくだし、この浮遊城で運命の出会いでも探したらどうだ?」
「あのな、MMORPGの男女比なんて圧倒的に男が多いだろ。そんな都合よく見つかるわけ――」
「少なくとも、キリトは見つかるな。おれのカンがそう言ってる」
「またそれかよ!」
キリトはZに会話の主導権を握られつつ、そんな愉快な会話を三十分も近くも続けたのだった。
なにはともあれ、再開を祝う親睦会の日時は決まった。
誰しもが浮遊城の未来に不安を抱いているが、それでも最前線のプレイヤー達は戦う。
希望を勝ち取るために。
今度はZとキリトの密会です。後半のセリフだけのやり取りは書いていて楽しかったです。
さて、キリトがリクとコハルに再開するまでもうすぐです。お楽しみに。