ソードアート・オンライン インテグラルファクターX ーアインクラッド・メモリーズー 作:No 77777
2022年 12月1日 トールバーナ
「このピザ、なかなか旨いな」
「生地がもっちりしていますね」
「だろ? チーズの味も悪くないしな」
リクとコハルが感激すると、今いるレストランを勧めたポルックスは、気持ちを分かち合えた気分になる。
時刻は正午。現在、リクとコハルは昼食中。マーベラス達も数日前に食べたピザを再び味わっている。
午前は迷宮区で狩りをしていて、マーベラス達とは昨日から引き続きパーティーを組んでいた。その理由は、迷宮区のmobとの戦い方をコハルが知らないからだ。
昨日もコハルにとって未知のモンスターと戦ったため、その点では同じである。だからリクは安全のために、また周辺で狩ろうという案を出した。
だが双子の兄弟は、周辺の効率のいい狩場は既に他のプレイヤーに押さえられているので、経験値・武器スキルの熟練度を上げるなら、迷宮区に行かないと効率が悪いと主張したのだ。
理解しつつも躊躇うリクだったが、マーベラスの「大丈夫だよ。誰も死なせはしないから」と真っ直ぐな瞳で言われ、コハルと共に了解したのだ。
敵は五階までは周辺のmobと同じだったものの、それより上からは、第一層の迷宮区でのみ出現するモンスターだ。
リクとポルックスはベータテスターで、マーベラスとカストルは既に戦っているため対応できるが、コハルにとっては初めて戦う敵なので、そこがリクにとっての不安要素であった。
だが事前のアドバイスとマーベラス達の防御による連携が良かったことを除いても、コハルは上手く敵の攻撃に対応し、倒してみせたのだ。
かつてソードスキルを空振りし、尻もちをつくほどのド素人っぷりが嘘みたいに。
「それにしても、これほどの味を再現するなんて、本当にすごいよ。もしかしたら僕達は、未知なる体験しているのかもしれない」
「いや、マーベラス。ナーヴギアを被って仮想世界に来た時点で、既に体験している」
「あ、ああ……そうだったね。ははは……」
最先端のテクノロジーに感動しているマーベラスだったが、カストルにやんわりとツッコまれて苦笑いしてしまい、他の三人もつい笑ってしまう。
そんな中、ふとリクはコハルを横目で見る。微笑んでいるその横顔は可愛くて、愛おしくなってしまう。
昨日の夜、アルゴの一言を聞いてからリクはコハルを異性として意識し始めた。ただ、コハルの方はどう思っているのだろうか? 少なくとも、嫌われてはいないはず。
コハルとの関係が今後どうなっていくのかは分からないが、今のリクには一つだけ確かな思いがある。
命を懸けて、コハルを守る。シンプルだが、そんな強い意思だ。
「おっと、メッセが来たな」
受信の知らせに、ポルックスが反応した。メニュー・ウインドウを出すと、慣れた手付きでメッセージ・ウインドウに切り替え、送り主を確認する。
「相手は……Zか」
知っている名前にリクとコハルは反応した。
「えっ、ポルックスさん、Zさんと知り合いなんですか?」
訪ねたのはコハルだ。
「ああ、前からの知り合いだ」
ポルックスの言う前とは、ベータテスト時代のことだとリクとコハルはすぐに察した。
昨日の狩りの休憩中、ポルックスはリクに訪ねたのだ。お前はもしかして、ベータテスターだったのか、と。
恐らく、mobに上手く対応しているところを見て気づいたのだろう。誤魔化しても無駄だと悟ったリクが正直に打ち明けると、向こうも「俺も同じだ」と正直に話してくれた。その時にコハルもそうだと伝えた。ド素人だったことも含めて。
現状では、元ベータテスターであることを軽々しく話せない。きっとポルックスは、その事実を黙っていなければならない苦しみを、他のテスターと分かち合いたかったのだろうと、リクは思っている。
メッセを読み始めたポルックスは最初こそ困惑した反応を見せたものの、段々と真剣な表情になり、やがてウインドウを閉じた。
「ポルックス、メッセには何て?」
カストルが尋ねると、陽気なポルックスにしては珍しく冷静に答える。
「悪い、ここじゃ話せない内容だからな。メシ食ったら、オレたちの泊まっている部屋で話す」
昼食後、リク達はマーベラス達の泊まっている部屋へと移動した。
場所は雑貨屋の二階で、移動には五分も掛からなかった。中は三人分のベットがあってバスルーム付き。特別広くはないものの、今リクとコハルが泊まっているボロい宿屋より狭くはない。
「それでポルックス、メッセの内容は何だったんだ?」
カストルは改めて尋ねる。
わざわざ場所を自分達の部屋に変えたということは、他のプレイヤーに聞かれたらマズいというのは誰もが察していた。
故に緊張していたのだが、最初にポルックスから出た一言は以外なものであった。
「親睦会やろう、ってさ」
「「「「…………は?」」」」
四人は拍子抜けしてしまう。
「ま、そうなるよな。とりあえず、メッセを見てくれ」
反応を予想していたかの口ぶりで、ポルックスは再びウインドウを出現させてメッセージ・ウインドウにすると、右端のボタンで可視化。窓の上下を両手の人差し指でタッチし、くるりとひっくり返して画面が四人に見えるようにする。
このメッセは一部の元ベータテスターに送っている。できれば、信頼のおける人物以外には他言無用で頼む。
近いうちに第一層のフロアボス戦の攻略会議が開かれる。おれのカンがそう言ってる。
なので、せっかくだから今日、元ベータテスター達を集めて親睦会を開くことにした。大事な話もあるから、信頼する仲間と共にぜひとも来てほしい。
場所はトールバーナの東にあるK・O農家の二階。時間は午後十時。
牛乳は飲み放題。あげせんもたくさん用意しておく。それ以外にも食べたいもの・飲みたいものがあるなら各自持参してくれ。
「簡単に言えば、元ベータテスターとその仲間達だけで親睦会をやるってことですよね?」
「それにしても、ずいぶん限定的だな」
先ほどまでの反応とは打って変わって、コハルとリクは真剣な面持ちになる。
「ま、メッセには『このメッセは一部の元ベータテスターに送っている』って書いてあったからな。それに、心あたりがないわけじゃない。三日前に偶然、Zに会って聞かれたんだよ。『お前達は、フロアボス戦に参加するのか?』ってな。オレ達はイエスって答えた」
ポルックスがそこまで説明すると、マーベラスはある推測に行き着いた。
「それじゃあZは、元ベータテスター達にフロアボス戦に参加するかどうかの意思を訪ねて、希望したプレイヤーにのみメッセを送ってきたってことかな?」
「多分な。ただ、憶測でさらに条件を加えると、ベータテスト時代に攻略の最前線に立っていたヤツらだな」
「どうしてそう思うんだ?」
「簡単な話、リクとコハルには、Zからオレと同じメッセは送られて来なかっただろ」
「ああ、そうか」
ポルックスの受け取ったメッセが対象となった元ベータテスターに送られたのなら、過去に最前線にいなかったリクとコハルに送られなかったのも頷ける。リクの疑問は解消された。
「……で、カストル、マーベラス、どうする?」
「大事な話があるなら、参加するべきだと思う」
「そうだね。他のベータテスターにも興味があるし」
ポルックスは双子の兄と腐れ縁の金髪紳士に問うが、二人が参加の意思を表明したので「じゃ、決まりだな」と返した。
「えっと……」
「私たちは……」
「せっかくだから二人も来ればいいんじゃないかな? リクもコハルも、僕にとっては信頼できる仲間だし」
メッセが来なかったこともあって、リクとコハルは遠慮しがちになっているが、マーベラスは参加を勧める。
「それに、最前線にいる元ベータテスターが来るなら、キリトに会えるかもしれないよ」
「「――――‼」」
探している友達の名前が出てきたことで、リクとコハルは反応する。
二人が参加しない理由はなくなった。
夜、リク達は親睦会が開かれるK・O農家へと向かう。
トールバーナの東は牧草地であり、道行く先で何度もNPCの農民や牛を見かけた。
だが、今のところはプレイヤーを見かけない。そのことについてコハルがポルックスに尋ねると、「この辺りはいいアイテムがもらえるクエが少ないからな」と答えた。
もしかするとZの大事な話というのは、『信頼のおける人物以外には他言無用で頼む』とメッセに書かれていたことからして、他のプレイヤーに聞かれてはいけない内容なのかもしれない。それなら、人通りの少ない場所を指定するのも頷ける。
リクがそんな推測をしているうちに、一同は目的地へと到着した。
現在の時刻は九時五十分。集合時間より十分早い。
目の前の建物の二階に、初日に別れた友達がいるかもしれない。リクとコハルはそう思うと、居ても立っても居られない気分なのだ。
「それじゃ、入るか」
リクが先頭に立ち、一同は農家の母屋へと入っていった。
トールバーナは多分、オランダがモデルになっているのではないかと僕は思います。
なので、ちょっとググって見て、料理を軽く調べてみました。
あと、Zこと迅悠一の一人称ですが、俺ではなくて『おれ』だったというミスをしてしまったので、この話から修正します。あと、勘も『カン』にします。
ワートリファンの皆さん、申し訳ございませんでした。