ソードアート・オンライン インテグラルファクターX ーアインクラッド・メモリーズー 作:No 77777
「…………はあ」
椅子の背もたれに背中を預けていたキリトはため息をついた。
攻略会議に参加するテスター達にその日に起こりうる事態を伝えるため、Zの提案した親睦会をこの部屋で開くことになった。
だが今更ながら、承諾したことを後悔しているのだ。
SAOがデスゲームと化したあの日、キリトは『はじまりの街』を一人で出ていく決断をしたのだ。
その時点で、自分が生き延びることを優先した。サービス初日に親しくなったリクとコハル、クラインを切り捨てたも同然だと思っている。
ベータテスト時代にクエストやボス戦をクリアして喜びを分かち合った仲間達に対しても、それは同じ。どんな顔をして彼らと会えばいいのか分からない。
キリト、みんな生きていくのに必死なんだ。あまり思い詰めるなよ。
二日前に再開したスバルの言葉が頭の中で再生される。
聞いた当初は少しだけ気持ちが和らいだものの、スバルは実の姉と幼馴染守っている。自分とは違う。
コン、コン。
自虐的になっていると、ドアをノックする音が聞こえた。どうやら、Zに招待されたプレイヤーがやってきたようだ。もう腹を括るしかない。
「カギは開いてる。入ってこい」
キリトが入室を促すと、ドアが開く。
「失礼します」
「別にかしこまらなくても――っ!」
「「…………あ」」
部屋に入ってきたプレイヤーを見て、キリトは固まってしまう。入ってきた男女二人も唖然としている。
なぜなら、お互いに知っている顔だったからだ。
「失礼するよ……うん?」
後からマーベラス達も入ってくるが、キリトとリク・コハルの顔を交互に見て微妙な空気を察した。三人とも呆然とした表情ではあるが、内心では戸惑っている。
「リク、コハル……」
少しの静寂の後、ようやくキリトの口から、切り捨てたはずの友達の名前が弱々しく溢れる。
いかにも困惑した表情を読み取ったリクは微笑み、元気よく一ヶ月ぶりに再開した友の名を呼ぶ。
「久しぶりだな、キリト。一番乗りはお前か」
「あ、いや――」
「お前、キリトなのか⁉」
あやふやになっていると、ポルックスが驚いた声で尋ねる。
「ああ、確かに俺はキリトだけど、お前は誰だ?」
「ポルックスだ。ベータテスト時代にクエ手伝ってくれたり、ボス戦で協力しあったりしただろ」
そう言われてキリトは少し考える仕草をする。やがて、思い出したように「ああ!」と目を見開いた。
「お前なのか! 昔は細マッチョなアバターだったのに、面影ないな」
「みんな同じだっての。今のお前だって、キリッとしたイケメンとは正反対の女顔だろ」
「でもお前のアバターは、リアルの姿と全然違うだろ」
「リアルばれ防ぐためだから、仕方ないだろ」
「それもそうだな。あ、でも髪を左横分けにしているところは唯一、面影があるな」
「こればっかりは、そうしねーと落ち着かねーんだよ」
キリトとポルックスのアバターに関する賑やかそうなやりとりに、リク達はついクスリと笑ってしまう。部屋に入った時の微妙な雰囲気が嘘みたいだ。
「あ、そうだ、紹介するぜ。こっちのオレと瓜二つで髪を右横分けにしているのは、双子の兄のカストル。んでもって、そっちの金髪の紳士は腐れ縁のマーベラスだ」
「カストルだ。ベータテストの時はポルックスが世話になった。宜しく」
「僕はマーベラス。以後、お見知りおきを」
ポルックスはそれぞれ親指で後ろにいる仲間達を指しながら紹介すると、二人も挨拶した。キリトも「ああ、よろしくな」と返す。
「それにしても、Zはイベントのためにこんな部屋まで用意するとはな」
カストルは驚き半分、呆れ半分といった感じで周りを見る。
「いや、この部屋は俺が借りてる。アイツの方から、使わせてくれって頼んできたんだ」
「なるほどな。道理で一番なわけだ」
キリトが説明すると、リクは納得した。部屋を借りてる本人も参加者なら、いるのは当たり前だ。
「うわっ、私たちより早く来てるひといるじゃん」
開けっ放しのドアの向こうから、女の子の声が聞こえてきた。その背の高いカッコカワイイ少女と後ろにいる背の高いイケメンと細マッチョなイケメンも、キリトの知っている人物だ。
「エトワール! それに、スバルとレグルスも!」
キリトが驚くように声を上げるとエトワールは笑顔で手を振り、スバルは「よう」と挨拶。レグルスも笑みを浮かべる。
この時、キリトは悟った。この三人がここに来たということは、フロアボスの攻略に参加するつもりなのだと。
「……で、どっちがスバルだ?」
「俺だ。それで、お前は?」
ポルックスが尋ねると、背の高いイケメンは右手を上げて尋ね返す。
「ポルックスだ」
「はあ⁉ アバターの姿と全然違うじゃねーか!」
「いや、お前だって同じだろ!」
「そうだけどよ、あまりにギャップが大きいっていうかよ」
「リアルと外見が同じだったら、いろいろとマズイだろ」
「確かにな。唯一同じなのは、髪を左横分けにしているくらいか」
「そうしねーと、どうも落ち着かねーっていうか……」
「……ねえ、さっきの状況と似てない?」
「似てるというより、ほとんど同じだろ」
デジャヴを感じたコハルはリクの耳元で囁くが、やはり気のせいではない。キリト、カストル、マーベラスも同じ気持ちだろう。
「すまない。ちょっといいか?」
そんな中、空いたままのドアの向こうから新たな来客が顔を出す。今度は四人組の男性プレイヤーだ。
見た目からして全員、十代の若者に見える。年は今ここにいるプレイヤー達と大して変わらない感じだ。
「Zの言っていた親睦会の会場は、ここで合ってるか?」
四人組の一人――黒髪のパーマをした少年が尋ねる。
「うん。ここで間違いないよ」
マーベラスが答えると、四人組は遠慮せずに中へと入ってくる。
「へえ、思ったより広い部屋だね。親睦会にはうってつけだ」
いかにも穏やかで物腰の柔らかそうな少年が周りを見渡しながら言った。髪は薄い茶色で耳が隠れており、首下まである毛先が少しくせ毛だ。
「みんな、久しぶり。ベータテスト時代にいなかった人たちは、初めましてだね」
青みがかった黒髪の少年が挨拶する。一見すると平凡な感じだが、リクとマーベラスは彼に不思議な魅力を感じた。
「ところで、Zの姿が見えないけど」
その疑問を口にしたのは、四人組の最後の一人――黒髪の少年だ。キリトと同様に黒髪で中性的な容姿だが、彼よりも背が高い。
「アイツは友達を迎えにいってる。遅れるってメッセも来ないから、もうすぐ来ると思うぜ」
「発案者が遅刻したら、シャレにならないけどな」
キリトが答えると、ポルックスは苦笑いしながら言った。
「もう十人以上は集まったね。思ったより多いじゃん」
「それほど、ベータテスター達は攻略会議やフロアボス戦を重要視しているということだろう」
「だね。早く始まらないかなー」
「……言っておくが、俺達の目的はZのメッセに書いてあった大事な話を聞くことだからな」
「分かってるって。でもせっかくの親睦会だし、楽しまなきゃ」
「…………」
緊張感のないエトワールに困り気味のレグルスだが、彼女のマイペースっぷりは今に始まったことではないことを幼馴染は良く知っている。
「私もそう思います。Zさんの話も重要ですけど、こうして会えたのも何かの縁ですし、みんなでおしゃべりしたりして交流するのも同じくらい大切じゃないでしょうか?」
「俺もコハルの言う通りだと思う。今夜は何でもいいから語って、楽しい時間を過ごそうぜ」
片思いの女の子の意見にリクは賛同した。
思えばリクも、ベータテスト時代は仮想空間での戦闘やMMORPGの環境に慣れることを優先したために、他のプレイヤーと深く交流できてなかった気がした。
SAOはデスゲームとなってしまったが、今ここにいるプレイヤー達を知りたいという気持ちがリクにはある。
ベータテストの最終日に出会ったコハルとキリト、SAOに入ってから交流した仲間達と出会ったから、そう思うのだ。
リクの意見に全員が頷いたその時、
「おっ、みんな集まってるな」
突然、声が聞こえてきた。
全員、出入り口に視線を向ける。そこには、今回の親睦会を計画した張本人がいた。
他にも情報屋のアルゴに顎髭を生やした男性、鎌を背負った少女が後ろに立っている。
「実力派プレイヤーZ、ただいま到着」
ベータテスターの誰もが認めるトッププレイヤーは、飄々とした感じで言った。
後のデスティニー・スターズ初期メンバー(オリキャラ)、パロキャラと続々集まってきました。
あと、Zと共に現れた少女……彼女も登場します。
劇場版プログレッシブを見た人なら、分かるはず。