ソードアート・オンライン インテグラルファクターX ーアインクラッド・メモリーズー 作:No 77777
「はあ……やれやれだな」
ポルックスはため息をつき、森の木に背中を預けて座り込んでいた。キリト達も似たような格好だったり、地べたに腰を下ろすなどしてくつろいでいる。
今、双子の兄弟は憂鬱な気分だった。原因は木陰で横たわっている女性プレイヤーにある。
この女性プレイヤーは先程まで迷宮区で狩りをしていて、たまたま近くにいたキリト達は多数決で見に行くということになった。
mobとの戦いを見たところ、実力はありそうだった。しかし戦闘の運び方の危うさが気になったキリトは、モンスターが倒された後にそれを注意すると「問題あるの?」と反発。しかも話をしていくうちに、彼女は三日か四日も安全地帯で野宿して狩りをしていたことが判明した。
さすがに度を越していると誰もが思った。そんな戦い方をしてたら死ぬとポルックスは警告したが、「どうせ、みんな死ぬのよ」と吐き捨てる始末だ。
そして無理が祟ったのか、遂には倒れてしまった。その場に置いていくわけにもいかず、片手武器を使うキリト、レグルス、クロムの三人でジャンケンをし、負けたキリトがおんぶして運ぶことになった。
なぜこの三人かといえば、他のメンバーは盾持ちで両手が空いておらず、更に言えば、不測の事態に備えて防御できるプレイヤーは多いに越したことはないというのが理由だ。
現在、トールバーナに帰る途中の道中の森で、キリト達は休息中である。
「……ったく、なんなんだよコイツは……」
横たわっている女性プレイヤーをポルックスは不機嫌そうに見る。
正直、ポルックスは彼女に好印象を抱いてはいない。数日にも渡って無茶なレベリングをした挙げ句、倒れて他人に迷惑を掛けるとは。あまりにも馬鹿馬鹿しい。
いくら双子の兄弟でも、リアルの女性に苦手意識を作る原因の一部となった母と姉に迷惑を掛けてしまったことはあっても、掛けようと思ったことは不思議と無かった。
とはいえ、デスゲームに閉じ込められた時点でもう心配を掛けさせてしまっているが。
「う、うーん……」
ちょうど女性プレイヤーが小さな声を上げ、上体を起こした。目が覚めたようで、他のみんなもそれに気づく。
「やあ、目が覚めたかい?」
最初に声を掛けたのは、キリト、クロムと雑談をしていたマーベラスだった。
反応して金髪の紳士の方を向いた女性プレイヤーは、ゆっくりと辺りを見渡す。
自分の状況を確認しているのだろう。迷宮区で倒れた自分が運ばれてきたことは察するはず。口は悪かったが、これくらいは感謝すると思っていたキリト達だったが……
「余計な……ことを」
低く掠れた声だが、確かにそう聞こえた。
流石にポルックスはカチンときた。
「お前――!」
「ちょっと、アンタね‼」
だが言いたいことを言う前に、立ち上がったエトワールに先を越される。
「あのまま床に倒れたままだったら、ポップしたモンスターに殺されてた。それくらい分かるでしょ⁉」
「助けてなんて頼んだ覚えはないわ」
エトワールは正論を唱えるが、女性プレイヤーは冷たく返す。だが、長身の美少女は食い下がらない。
「それでも、私たちは放っておけなかったの! 自分の命ぐらい、大切にしなさいよ‼」
「自分の命なんだから、どう使おうと勝手でしょ」
「その命は、親から与えられた命じゃない! なおさら無駄にするべきじゃない‼」
「私のことなんて何も知らないくせに、偉そうに言わないで‼」
女子二人の口論に、周りの男子達は引き気味になってしまう。それを余所に、女性プレイヤーは立ち上がって踵を返す。
「ちょっと、まだ話終わってないんだけど‼」
「私は話すことなんて何もないわ。それじゃ」
エトワールに呼び止められても、女性プレイヤーは振り返ることなく去ろうとする。
方角は、天蓋まで届く巨大な塔――迷宮区だ。
「おい、そんな状態でまた狩りに行くのか⁉」
まさかと思いながらも、カストルは慌てて尋ねる。
「私が何をしようと、あなたたちには関係ない」
女性プレイヤーは言い切った。あまりの異常さに、キリト達は固まってしまう。
これでは何のために助けたのか分からない。ここで彼女を行かせてしまえば、次は死ぬ可能性が高い。何としてでも止めなければならないと誰もが思った。
だが、力ずくで止めようとすれば女性プレイヤーは細剣で抵抗するに違いない。そう思わせるほどの雰囲気なのだ。
ならば、どうやって思い留まらせればいいか? その方法を思いついたプレイヤーが一人いた。
「待てよ、フェンサーさん。せっかくだし、今日の攻略会議に出てみたらどうだ?」
「……攻略会議?」
(よし、ナイスだキリト!)
迷宮区に向かおうと歩み始めていた女性プレイヤーの足を、キリトの言葉が止めた。そんな彼をクロムは心の中で褒めた。
「噂によると、もうすぐ攻略の最前線にいるプレイヤーが、迷宮区の最上階まで到達するらしい。つまり、近いうちにフロアボスの攻略が始まるってことだ。状況を確認するために出てみても損はないと思う。時間は十五時から、場所は噴水広場だ」
彼女がみんな死ぬと思っているのは、攻略に希望が見いだせないからだとキリトは思っている。
ならば攻略が進んでいることを証明すれば、考えが変わるかもしれない。
「……………………」
女性プレイヤーは黙っている。その間、キリト達も何とか引き返してくれと祈った。
「……よっぽど私を行かせたくないようね」
数秒間の静寂の後、諦めにも似た声が女性プレイヤーの口から出た。踵を返すと、キリト達には目もくれずにすたすたと歩いて行く。トールバーナのある方角へと。
「ちょっと待って!」
「……何?」
急にエトワールに呼び止められ、女性プレイヤーは不機嫌そうに返す。
「名前、何て言うの?」
「…………アスナよ」
僅かな間を置き、女性プレイヤーは名乗った。
アスナはもう話すことはないと言わんばかりに再び歩き出す。
やがてその姿が小さくなると、キリト達は緊張が解けて「ふう」と大きく息を吐いた。
「何とか思い留まったようだな」
「うん、行ったらどうしようかと思った」
レグルスが言うと、クロムは疲れた感じで返す。
「攻略会議が今日で良かったな。明日以降なら、止められなかった」
Kの言う通り、現在の時刻は十三時。会議まで残り二時間近くであることを考えれば、また迷宮区に戻れば時間までに間に合わない。
人騒がせな女性プレイヤーだったが、少なくとも会議には参加するはずだ。
「けどよ、会議だって順調にはいかないぜ。Zの言ってた問題が起きるだろうしな」
「それに、フロアボス戦に参加するなら、他のプレイヤーと上手くやっていけるのかどうかも分からない」
ポルックスとカストルの言いたいことは他のみんなも理解している。
アスナが会議で起こりうる事態をどう思うのかも分からないし、ボス戦ではパーティーの連携を乱すかもしれないのだ。
「……それでも、会議を引き合いに出すしか方法はなかった。不安なのは分かるけど、少なくともあいつには希望が必要だ」
「そうだね。それに本当に諦めてるなら、最前線でレベリングなんてしないと思うよ」
キリトの言葉にマーベラスも賛同した。
誰もが希望を求めて戦っている。最前線にいるプレイヤーはもちろん、浮遊城で必死に生きている者たちも同じだ。
きっと、先程の女性プレイヤー――アスナも。
その後、キリト達は数分後にトールバーナへと戻り、パーティーは解散となった。
果たして、どれくらいのプレイヤーが集まるのか?
原作ではキリトとアスナだけでしたが、アイメモでは他のキャラクターもいるため、それぞれにどういうセリフをどのタイミングで言わせるのか、悩みました。