ソードアート・オンライン インテグラルファクターX ーアインクラッド・メモリーズー   作:No 77777

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波乱の攻略会議

「会議は、ベータテスターのせいで荒れる。おれのカンがそう言ってる」

 

 親睦会の夜、Zは断言した。

 会場にいるプレイヤー達も、その理由を察している。だが、情報を共有するためにZはあえて説明した。

 

「まず初めに、もう既に知っている人もいると思うけど、デスゲームが始まってから一ヶ月の間に、二千人近くの死者が出た」

 

「なっ――!」

 

「そ、そんなに……」

 

 初めて知ったリクとコハルにとっては、あまりにも衝撃的だった。たった一ヶ月で、一万人の虜囚の二十パーセントが、もうこの世にいないのだ。

 他のプレイヤー達も内心では動揺している。Zも残酷な事実を告げていることは自覚しているが、会議当日のためにも、更に恐ろしい可能性を言わなければならない。

 

「それで今、ビギナーたちの間である噂が流れている。『二千人のプレイヤーが死んだのは、元ベータテスターたちのせい』だってな」

 

「そ、そんな……どうして……」

 

 コハルの口から不安の声が漏れる。

 

「SAOがデスゲーム化した初日、多くのベータテスター達は生き残るために行動を起こした。早く次の町に向かうヤツらから、《はじまりの街》の周りでmobを狩るヤツらまでな」

 

「……………………」

 

 自分を生かすために、リクとコハル、クラインを置いていったキリトは、後ろめたい気持ちになった。

 

「ベータテスターは知識面ではビギナー達よりも優位だ。それを利用して生き延びたいって気持ちは分かる。ただ、中にはタチの悪いテスターもいてな。狩場を荒らしてレベリングを妨害したり、クエストを独占したりする身勝手な連中までいる。そのせいで、他のプレイヤーたちは強くなれないんだ。最悪の場合、無理してフィールドに出た挙げ句に命を落とす。会議の当日は、誰かが元ベータテスター達にその責任を追求する可能性が高い」

 

「でも、死んだプレイヤーがみんなビギナーとは限らないだろ」

 

 現状を説明するZに対し、リクは気持ちを落ち着かせて尋ねる。

 

「ああ、その通りだ。アルゴに調べてもらったところ、元ベータテスターの死者は推計三百人前後。おれは、そいつらが死んだのはベータテストと正規版の違いが原因だと思ってる。一部のダンジョンには、ベータテスト時代には無かったトラップがあったそうだしな」

 

「マジかよ……」

 

 ポルックスは血の気が引く思いだった。過去のMMORPGでも、同じ理由で失敗したのだ。もし慎重にならなかったら、自分と双子の兄、腐れ縁の金髪紳士も二千人の犠牲者の中に入っていたかもしれない。

 

「だったら、悪く言う人たちに言い返せば。テスターも悪い人たちだけじゃないとか、死んでるのはテスターも同じだとかさ」

 

「トワっち。正論を言ったって、その場は収まらないヨ。最前線のビギナーの大半は、噂を信じてル。逆効果にしかならなイ」

 

 エトワールの単純な意見に、アルゴは困った感じで返した。

 

「だけど、もしZの言う状況になったら、元テスター達が黙ってても解決しない。なんとかしてその場を収めないと、会議は進まないと思うよ」

 

 クロウの発言は最もだ。最悪の場合、痺れを切らして犯人探しならぬテスター探しが始まり、装備がいいという理由だけで疑われ、吊るし上げられるかもしれない。

 その場にいた全員が不安になる中、キリトは真剣な表情で、実力派プレイヤーを自称する男に尋ねる。

 

「Z、お前もしかして、何か考えがあるから俺達を集めたのか?」

 

「ああ、実はと言うと、会議の混乱を治めるための作戦を考えた。それをおまえたちに伝えるために、親睦会を開いたんだ」

 

 参加者達は関心した。特に最前線にいた元ベータテスター達は、Zが頭のキレる人物だと知っているため、流石としか思えない。

 

「いいか、作戦はこうだ……」

 

 それからZは、当日どうするのかを伝えた。

 とはいえ、実際に行動を起こすのは一人のみで、他のみんなは黙っているだけなのだが。

 

 * * *

 

「ベータ上がりどもはなぁ、こんクソゲームが始まったその日に、ビギナーを見捨てて消えよった。奴らはウマい狩場やらボロいクエストを独り占めして、ジブンらだけぽんぽん強うなって、その後もずーっと知らんぷりや」

 

 この場にいる元ベータテスター達の不安などお構いなしに、キバオウは主張を続けた。

 キリトは複雑な気持ちだった。内容の一部は理解している。自分も生き残るために、リク達や他のプレイヤーを置いてきたのだから文句は言えないし、トールバーナに着くまでは他のプレイヤーのことなど考えていなかった。

 だが、さすがに狩場やクエストを独占するといったマナー違反はしていない。一部の悪しき者達のせいで、他のテスターまで悪く言われるのは見当違いだ。

 だから、本心ではエトワールが言っていたように言い返したかった。元ベータテスターにだっていいヤツはいる、と。

 Zとアルゴは、アインクラッド全体のために動いていた。リクとコハルは置いてきたにも関わらず、自分を心配してここまで来てくれた。キリトにとっては、それが何よりの証明なのだ。

 

「こん中にもおるはずやで、ベータ上がりの奴らが。そいつらに土下座さして、貯め込んだ金やアイテムを差し出してもらわな共同戦線なんて夢のまた夢や!」

 

(そこまで言うのか!)

 

 キバオウの強引な要求に、キリトは息を呑んだ。

 それ自体は親睦会でZが予測していた懸念材料であったが、分かっていても元ベータテスターやその仲間達は不安で仕方がない。

 言う通りにしたとしても、納得できないビギナー達が淘汰する動きを見せるだろう。更に、テスター達は親睦会に参加したメンバーが全員ではないのだ。彼らが反駁する姿勢を見せれば、ビギナーとテスターの溝はより大きくなってしまう。

 

(K、そろそろじゃないのか⁉)

 

 キリトは横目で、少し離れたところにいる顎髭の男を見た。

 Zがキリト達に話した作戦、一つはどれだけ悪口を言っても我慢して黙っていること、もう一つはKが元ベータテスターが悪者ばかりではないことを論理的な事実で伝えることだった。話す内容に関してはZが伝えてある。

 Kも深刻そうな表情をしており、頃合いかと言わんばかりに立ち上がろうと両手を膝につけた時だった。

 

「発言、いいか?」

 

 Kが腰を上げる前に、一人のプレイヤーが手を上げた。

 全員、視線はその人物に向く。性別は男で筋骨隆々、チョコレート色の肌にスキンヘッドといった外見は厳つくて堂々としている。

 男は立ち上がってキバオウへと近づく。周りが見比べても、身長は男の方が高い。

 

「オレの名前はエギルだ。キバオウさん、あんたの言いたいことはつまり、元ベータテスターが面倒を見なかったからビギナーがたくさん死んだ。その責任を取って謝罪と賠償をしろ、ということだな?」

 

「そ……そうや」

 

 キバオウは一瞬気圧されながらも答えた。

 するとエギルは、ポケットから一冊の手帳を取り出す。それは、参加者全員がよく知っているものだった。

 エリア別攻略本。詳細な地形、出現モンスター、ドロップアイテム、クエストに関する情報までが細かく記載された、お手製のアイテムだ。

 

「このガイドブック、あんただって貰っただろう。道具屋で無料配布してるんだからな」

 

「――――もろたで。それが何や?」

 

 キバオウは素直に答えるが、なぜそんな話をするのかが理解できていなかった。

 

「このガイドは、オレたちが新しい村や街に着くと必ず置いてあった。情報屋が早く行動するにしても、早すぎる。つまり、元ベータテスターたちが情報を提供していなければ、これほど迅速にはできないってことだ」

 

「なっ――!」

 

 エギルの主張にキバオウは目を丸くし、プレイヤー達がざわめき始める。

 攻略本は、アルゴがキリトやZ、知り合いの元ベータテスター達からの情報を元に、仲間達と共同で作ったのだ。

 ちなみに、キリトとZだけは攻略本を一冊五百コルで買っている。アルゴがそのお金を元手にしたからこそ、攻略本は最前線にいるプレイヤーはもちろん、まだ他の場所にいる人達にも行き渡ったのだ。

 

「いいか、情報は誰でも手に入れられたんだ。なのに沢山のプレイヤーが死んだ。その失敗を踏まえて、どうボスに挑むべきなのか? それがこの会議で論議されると、オレは思っているんだがな」

 

「…………」

 

 エギルの至極真っ当な発言に、キバオウは返す言葉もなかった。

 

「キバオウさん、エギルさんの言う通り、今は前を見る時だ。たとえ元テスターでも……いや、だからこそ、その戦力はボス攻略に必要なものなんだ」

 

 ディアベルはキバオウを諭すように説得すると、ぐるりと階段に座る参加者達を見渡す。

 

「みんな、それぞれに思うところはあるだろうけど、今だけは、この第一層を突破するために力を貸してほしい!」

 

「…………ええわ、ここはあんさんに従うといたる。いずれ白黒はつけさしてもらうけどな!」

 

 フン! と鼻息を鳴らすと、キバオウは元いた場所へと戻り、腰掛けた。

 

(何とか、乗り切ったな)

 

 キリトは心の中で安堵すると、再びKを横目で見た。作戦の重要人物だったはずの男は片方の眉毛をピクピクさせ、いかにも「俺の活躍の場を取られた」と言いたげに苦笑いしている。本来、エギルの発言はKが言う予定だったのだ。

 Kを気の毒に思ったキリトだったが、Zの考えた作戦は意外な形で成功……ということになった。

 

「会議を中断してすまなかったな。続けてくれ、ナイトさん」

 

 エギルは謝罪すると、自分の席へと戻った。

 キリトはそんな巨漢の男へと視線を移す。今まで、最前線にいるビギナーの多くが元テスター達への怒りを原動力として強くなったのだと思っていた。だが少なくとも、エギルというプレイヤーは噂に惑わされず、見た目より理知的な人物のようだ。

 予想どおり一悶着あったものの、最悪の自体は回避された。その後の会議は、ディアベルが明日に同じ時間帯で再び会議を行うことを伝えてお開きとなった。

 

 

 




 アイメモ、一周年を迎えました。他の二次創作に比べて読者は少ないと思いますが、これからも頑張っていきます。

 今回、ようやくZが親睦会を開いた真の目的が明らかになりました。
 騒動が収まった決め手は原作同様、エギルの発言(アイメモではKが言う予定だった)ですが、親睦会では参加者同士がフレンド登録をしたり等で、十分意味はあります。特にマーベラス達とエトワール達はD・Sを結成する要因の一つとなっています。


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