ソードアート・オンライン インテグラルファクターX ーアインクラッド・メモリーズー 作:No 77777
「うーん、終わった終わった」
「ったく、姉貴は呑気だな。明日は命がけのボス戦だってのによ」
伸びをしながら言うエトワールに、スバルは呆れながら言った。
「まあ、怖くないって言ったらウソになるけど、みんながいるから、だいじょうぶって思えるし」
「ふふっ、エトワールさんが言うと、何だか安心しますね」
「確かに、ムードメーカーって感じがするな」
コハルとリクも長身の美少女の明るい笑顔を見ていると、自然と気持ちが落ち着いてくる。
「けど、姉貴は素直なせいで無駄に人を引きつける。特に同性はな」
「ああ、過去にはエトワールを巡って、女子達の間で諍いも起きた」
「そ、そうなのか……」
エトワールの実の弟と幼馴染の発言で、キリトは困惑した。リクとコハルも「あはははは……」と苦笑いだ。
長身でモデル体型に憧れる女の子は多いが、エトワールの頭部は宝塚の男役のようなイケメンではなく、どちらかといえばカワイイ系だ。まだ分からないが、彼女の場合は中身に同性を引きつける魅力があるのかもしれない。
「キリト、みんな」
ジョーカーと同じ部隊のメンバーがキリト達の前にやってきた。
キリトとジョーカー、二人が率いる部隊に与えられた役目はルインコボルド・センチネルの排除。大半は親睦会の参加者なのだが、同じ目的を持つ部隊なので、交流のために話していても怪しまれない。
「いよいよ明日だな」
「ああ、お互い頑張ろうな。ところで、そいつは?」
キリトが気になったのは、一番後ろにいる白地のフーデッドコートを着た銀髪のプレイヤーだ。
「彼は俺達のパーティーに入れてくれって頼んできたプレイヤーだ」
「アキュラだ、よろしく」
ジョーカーが紹介するとアキュラは名乗り、キリトも「よろしくな」と返した。
(ん、待てよ。こいつ、どこかで見たような……)
キリトはどうも、アキュラの顔を初めて見た気がしなかった。少なくとも昔の友達や同級生ではなかったはず。だとしたら、テレビに出たことのある有名人だろうか?
「ところで、そこのフードを被ったプレイヤーは?」
「え……あ、ああ、コイツか」
アキュラのことを思い出そうとしていたキリトは、突然クロウに尋ねられて反応が遅れた。
「昨日、迷宮区でmobと戦ってるところを見かけてな。細剣使いで、実力は確かだ」
「確かその時は、クロムとKもキリトと同じパーティーだったな?」
ジョーカーは同じ隊のメンバーに尋ねる。
「うん。俺から見ても、あの《リニアー》の完成度は高かった」
「mobに攻撃する時も、弱点を正確に突いてた。命中精度は申し分ない」
「……………………」
高く評価されているにも関わらず、アスナはだんまりである。目深に被ったフードからは目元がよく見えず、口元は固く閉じたままだ。
「ほーら、アスナもなにか喋りなよ。褒められてるんだしさ」
(アスナ?)
朗らかなエトワールの口からでた細剣使いの名前に、ミトは反応した。
「強くなるために練習しただけよ。褒められたかったわけじゃない」
「……随分素っ気ないね」
「ま、まあな」
冷たい態度のアスナにクロウとキリトはやや困惑気味である。おかげで周りも微妙な空気だ。
「やあ、みんな」
ちょうどヒロがキリト達のところにやってきた。一人で来たことから、移動先である支援部隊は既に解散しているようだ。
「ヒロか。明日は頼りにしてるぜ」
「うん。ところで、みんなはこれからどうする? 僕は鍛冶屋に行って、盾を強化しようと思うんだけど」
リクの励ましの言葉に頷くと、ヒロは自分の予定を話した上でキリト達に訪ねた。
「そうだな……どうする?」
「狩りをするのはどうだ? 俺達の役割は取り巻きの殲滅だからな。少しでも部隊同士の連携に慣れておいたほうがいい」
キリトがジョーカーに振ると、納得のいく案を出してくれた。
確かに、今回は昨日の一パーティーと違って二レイドであるため、人数が多くなるので連携の難易度は上がる。何より、新顔のアスナとアキュラもいるのだ。二人のことをよく知るにもちょうどいい。
「じゃあ、そうするか。みんなもいいよな?」
キリトは賛同し、他のみんなにも確認したところ、全員頷いた。
「……………………」
ただ一人、ミトはアスナの方ばかり見ていたために話を聞いていなかった。
「ミトはどうだ?」
「……え、な、何?」
Kに声を掛けられ、ようやくミトは我に返る。
「明日のために、今から狩りに行って連携の訓練をしようって話だけど……」
クロムはミトが話を聞いていなかったことを察して説明した。
「そ、そういうことね。私もそれでいいと思う」
「なら、これで全会一致だな」
ジョーカーは全員の意思を確認した。
とはいえ、狩りができる時間はせいぜい二時間近くで、狩れる数はそんなに多くないだろう。
トールバーナの周辺は、夜になると強力なモンスターがポップする。安全のためにも、日没までには街に戻らなければならない。狩場を探すにしても近くに限定されるし、他のプレイヤー達と取り合いになれば、明日の戦闘での連携にも支障が出る。早いもの勝ちと考えた方がいい。
現に、解散した後は他の攻撃部隊と壁部隊は既に広場を去っており、エギルと組んだマーベラス達ですらもういないのだ。
「よし、じゃあ――」
「待って」
キリトが声を上げようとすると、ミトは途中で遮った。彼女はすぐに細剣使いの女性プレイヤーの元へと近づき、目の前に立つ。
「ねえ、そのフードを取ってくれる?」
「…………え?」
突然ミトからそんなことを言われ、女フェンサーは動揺する。周りにいる仲間達も黙ったままだ。
「……………………」
僅かな沈黙の後、アスナはフードを取った。
そこには美しい顔とハーフアップにした綺麗な栗色のロングヘアがあった。その美貌は仲間達も目を見開くほどだ。
「やっぱり、アスナだったのね!」
ミトは笑みを浮かべるが、当のアスナはキョトンとしてしまう。
「ほら、私の顔を見て。わかるでしょ?」
「…………あ、もしかして……
ハッとして思い出すアスナだが、リアルと思わしき名前を言われたミトは慌てて右手でアスナの口を塞ぐ。
「アスナ、MMORPGでリアルの名前を言っちゃだめだから!」
驚いていたとはいえ、さすがに失言だったと悟ったアスナはうんうんと必死で頷き、ミトは手を離した。
「あの、ふたりは知り合いなんですか?」
コハルが疑問に思っていたことを訪ねた。周りのみんなも、ミトとアスナがリアルでも関わりがあったことは先ほどのやり取りで察している。
「ええ、私たち友達なの。今日までSAOにいるなんて知らなかったけど」
「わ、私も……あなたがここにいるなんて、ビックリしたわよ」
ミトは何気なく答えたが、アスナは思いがけない再開にまだ少し狼狽えている。
「そ、そうなのか……」
キリトだけではなく、一昨日から今日までミトとアスナに知り合った親睦会のメンバー達も、二人が友達だったとは驚きである。
「ねえ、悪いんだけど、私とアスナはパーティーを抜けていいかしら? 色々と話したいことがあるから」
「わ、私からも、おねがい……」
ミトはアスナと二人きりの時間がほしいと仲間達にお願いし、更には先ほどまでの人を寄せ付けない雰囲気だった女フェンサーの方からも頼まれてきた。
「いいんじゃないか? せっかくの再開だし」
「俺も構わない」
「俺もいいぜ。みんなは?」
キリトとジョーカー、双方の部隊長は許可した。リクも賛成し、みんなの意見を聞く。
「私もいいよ。友達との時間も大切だし」
「私もオッケーだよ」
「俺もいいぜ。無理強いも良くないしな」
「ああ、攻略も大事だが、長らく離れていた友との語らいも大切だ」
コハル、エトワール、スバル、レグルスの四人も賛同した。
「俺も、二人がそうしたいなら」
「右に同じだ。クロウとアキュラはどうだ?」
クロムとKも答えはイエス。後は残る二人だ。
「……はあ、ダメだって言える空気じゃないね」
「俺はどちらでもいい」
本心ではノーだったクロウは観念し、アキュラはどっちつかずの答えだが、ミトとアスナはほぼ全員から許可をもらうことができた。
「なら、決まりだな。せっかく再開できたんだ。一緒にいる時間を大切にしろよ」
「ありがとう」
リクの温かい言葉にミトはお礼を言い、アスナと共にパーティーを離脱してその場を去った。キリト達はそんな二人の背中を見つめる中、クロウは言った。
「君たちは、本当にこれでよかったって思うのかい?」
どうやら、まだ納得しきれていないようだ。
メンバー達も分かっている。これから行う狩りは連携の訓練も兼ねており、明日ボス戦に参加するプレイヤー二人が抜けると、戦いに響いてくる影響は小さくない。
「俺はこれでよかったって思うけどな」
だが、それでもキリトは後悔はしてなかった。
「アスナってさ……なんか必死になって周りが見えてない気がするんだよな。そんな時に、自分のことを知ってる友達がいれば、精神的に余裕もできるんじゃないか?」
「なるほどね。つまり頑ななアスナも、友達のミトのおかげで明日は上手く連携してくれると」
合理的に解釈するクロウにキリトは「ま、まあな」と返した。
「アスナのことはミトに任せればいいだろ。それより、早く狩場に行こうぜ」
Kに促され、キリト隊とジョーカー隊のメンバーはフィールドへと向かい、ヒロも盾を強化すべく鍛冶屋へと向かった。
ミトがアスナの心を開いてくれると信じて。
アスナとミトはようやくお互いがSAOにいることを認識しました。
次回は二人のやり取りに関する話ですが、ほぼ本作オリジナルです。お楽しみに。
お詫び
すみません。この日が投稿する第三日曜日だということを忘れてました!
なので投稿する時間帯が大幅に遅れました。申し訳ございません‼