ソードアート・オンライン インテグラルファクターX ーアインクラッド・メモリーズー 作:No 77777
今更50話以上も読めないという新規の読者向けに書いていますが、既存の読者も読んでいただけたら幸いです。
なお、今回は久しぶりの2話まとめての投稿で、この話は総集編の前半です。
コハル、入浴中に回想する
2022年 12月3日 第一層 トールバーナ
「うーん、気持ちいい!」
バスルームの湯船に浸かるコハルは伸びをしながら声を上げる。
現在、コハルはキリトが借りている部屋にあるバスルームで入浴中。風呂に入るのは一ヶ月ぶりだが、本当なら体が酷く臭うし、女の子であるコハルだってそんなのは嫌に決まってる。だが今いる世界で悪臭の心配は無用だ。
今コハルがいるのは現実ではなく、仮想世界なのだ。故に匂いも酷くなることはない。とはいえ、リアルで毎日お風呂に入る習慣がついている日本人にとっては理屈ではない。特に女性にとっては。
「まさか、仮想世界にもお風呂があるなんてね」
コハルが初めて仮想世界に入ったのは今年の八月――四ヶ月前だ。
ソードアート・オンライン。フルダイブマシン初のVRMMORPGのベータテストをプレイする権利を得てダイブしたのが最初だった。
予めMMORPGについて予習はしていたが、全くと言っていいほど実力はつかず、あっという間に二ヶ月が経過して最終日となった。途方に暮れていたコハルは意を決して、たまたま近くにいた一人のプレイヤーに頼んで教えを請うことにしたのだ。
その人物こそ、現在のパートナー――リクである。
リクの指導もあって、ようやくコハルはまともな戦い方をマスターしたのだが、強ザコがポップしたことで共にピンチに陥ってしまう。
偶然にも通りかかったプレイヤーに助けられて事なきを得るが、コハルは去ろうとするヒーローに名前を訪ね、彼は名乗った。
『俺はキリト、よろしく』
その後、サービス終了の時刻となり、コハルとリクは再開を約束してリアルへと戻っていったのだ。
「帰れなくなってから、もう一ヶ月経つんだね……」
コハルの口からか細い声が漏れる。
今年の十一月六日。ついにソードアート・オンラインは正式サービスを開始した。
コハルはその日に仮想世界へダイブし、リクと再開。ブランクによる不安から再び指導を受けるが、武器をベータテスト時代の片手直剣から短剣へと変えたため、うまく戦えなくなっていた。リクが悩んでいると、後に友達となるクラインが現れ、彼を追いかける形で現れたキリトと再開したのだ。
そのままクラインの提案でバトル講習会を開くこととなり、キリトの的を得たアドバイスでコハルは上達していった。全員がmobを倒せるようになった頃、クラインが夕食を取るためにログアウトしようとした時、初めて異変に気づく。ログアウトボタンが消えていたのだ。
四人が得体のしれない不安を抱える中、鐘の音と共に強制テレポートが発動。プレイヤー全員が《はじまりの街》の中央広場へと集められた。そして、上空に現れたのだ。SAO開発ディレクター――茅場晶彦が。
真紅のフード付きローブを着たGMのアバターの姿をした茅場は、ログアウトボタンの消失がSAO本来の仕様であると告げた上で言い始めた。
『諸君は今後、この城の頂を極めるまでゲームから自発的にログアウトすることはできない。外部の人間によるナーヴギアの停止、あるいは解除もありえない。それが試みられた場合……ナーヴギアの信号素子が発する高出力マイクロウェーブが諸君の脳を破壊し、生命活動を停止させる』
『諸君にとって《ソードアート・オンライン》はもう一つの現実と言うべき存在だ。ヒットポイントがゼロになった瞬間、諸君のアバターは永久に消滅し、同時に諸君らの脳はナーヴギアによって破壊される』
『このゲームから解放される条件は、たった一つ。アインクラッド最上部――第百層まで辿り着き、最終ボスを倒してゲームクリアすれば良い』
残酷な事実を突きつけられたプレイヤー達はアバターをリアルと同じ姿にされ、絶望へと叩き落される中、キリトはリクとコハル、クラインを連れて移動し、提案した。お前たちも一緒に来い、と。
既に事実を受け入れていたキリトは、生き延びるには自己を強化すること、『はじまりの街』の周りのリソースがすぐに枯渇するから次の村を拠点にしたほうがいいことを説明した。しかし、コハルは状況を受け入れられないせいで覚悟ができず、リクはそんなコハルを、クラインは共にゲームを買った友達を見捨てられないという理由で街に残ることにした。
キリトはその意思を尊重して三人の前から去り、『はじまりの街』を発った。クラインも友達を探しに広場へと戻り、その場にはリクとコハルだけが残された。その時、リクの胸の中で泣きじゃくったことをコハルは今も覚えている。
落ち着いて日が沈んだ後、そこにアルゴというプレイヤーが現れた。これからどうしたらいいのか分からない中、どうするのか、どうしたいのかを聞いてきたアルゴにリクはこう答えた。
『少なくとも、俺はいつまでも閉じこもるつもりはない』
リクの覚悟を理解したアルゴは、生き残るためには金を稼いで装備を強化することだとアドバイスし、クエストの情報と安い宿屋が書かれたメモを渡した。コハルも今できることをやってみたいから覚悟を決めた。
こうして、リクとコハルのサバイバルは始まったのだ。
「そうだ。『はじまりの街』で出会ったみんなは元気にしてるかな? GVとシアンはがんばってるかな?」
コハルは初日の出来事を振り返ると、ふと出会った友達のことが気になった。
SAOがデスゲーム化した次の日、動き出したリクとコハルはガンヴォルトことGVと出会い、初日に彼に保護された少女――シアンとも友達となった。
二人はGVと協力してクエストをクリアするが、突然シアンは戦い方を教えてほしいと頼んできたのだ。シアンが自分だけ何もできないことに無力さを感じていたことを察していたGVはそれを承諾。しかし全体的に動きがぎこちなくて訓練は捗らず、実戦でも攻撃が上手く当たらない、ソードスキルが発動しないでピンチになっては助けるの繰り返しだった。
落ち込むシアンをGVに任せて今後の方針を考えるリクとコハルだが、そんな時に横からあげせんを差し出すプレイヤーが現れた。
その人物の名はZ。リクがベータテスト時代に知り合ったプレイヤーで、当時の最前線プレイヤーの中でトップクラスの実力者である。
そんなZと再開したリクは早速シアンの抱えた問題について相談すると、Zは二つの提案を出した。一つは圏内で完結するクエストをクリアすること、もう一つは生産職になることだった。そうすれば生活に必要なコルは稼げ、生産スキルを上げれば経験値も得られるので、いずれ街周辺のmobは圧倒的ステータスで倒せるとのことだが、問題はあった。
前者は一度クリアすれば二度とできないクエも存在し、デイリークエストもいずれは他のプレイヤーが手を出して時間待ちになり、いずれ圏内クエは枯渇するとのこと。後者は生産スキルを上げるにはお金が掛かり、結局は戦闘が必要になってしまうため、道具や素材を支援してくれるプレイヤーが必要になるそうだ。
話を聞いたリクとコハルはZと別れ、シアンを支援しようという結論を一度は出した。宿に帰って二人にZの提案を話すと、驚くことにGVは一人でシアンを支援すると言った。既にシアンを支えると決めていたGVにとって、これから先どうするのかをまだ決めていないリクとコハルのことを思っての決断だった。
本当にそれでいいのか? と問うリクに対し、GVは真っ直ぐな瞳でこう答えた。
『攻略も大事だけど、SAOがデスゲームになって、絶望して泣いていた一人の女の子を笑顔にすること、希望を与えることが、僕が今したいことなんだ』
その言葉を聞いたリクとコハルはGVの強い意思を受け入れ、シアンは数ある生産スキルの中から《細工》スキルを選び、細工師としての一歩の踏み出したのだった。
「サチと出会えたから気づけたんだ。私も他の人たちに勇気や希望を与えられるって」
その後もリクとコハルは狩りとクエの攻略に勤しんだ。そんな中、サチという少女に出会ったのはデスゲームが開始してから六日目だった。
リクとコハルは休憩でベンチに座って《黒パン》を食べようとしたが、《乾ききったパン》になって食べられなくなってしまったことに文句を言っているところを、隣に座っていた少女が微笑ましい顔で見ていた。それがサチである。
少しだけお話してもいいかな? と尋ねられたコハルの答えはイエス。サチの話によると、仲間達の間でコハルのことが噂になっており、自身も照れていた。更に話を聞くと、仲間達は怖がりなサチのために敵と距離を取れる長槍を買うべく稼ぎに行ってくれているみたいだが、けっこう苦戦しているらしい。
そこでコハルは自分達が戦ってきたモンスターの情報をリクと共に話し合いながら手帳に書き込んでサチに渡し、仲間達にも戦い方を教えた。
その夜、キリトのことが気がかりだったリクにコハルは言った。
『ねえ、キリトさんを追いかけない?』
コハルの真剣な目を見たリクは一週間の行動と触れ合いによる彼女の成長を感じ取り、共に旅立つことを決心。クラインを始めとするフレンド登録したプレイヤーに『はじまりの街』を出ていくというメッセを送る。
次の日の朝には待ち合わせ場所である《転移門広場》で初対面同士で自己紹介をし、シアンがたくさん作った《メタルリング》をおすそ分けした。そして仲間達に見送られ、リクとコハルはキリトを追いかけていったのだ。
デスゲームが始まってから明日でちょうど一ヶ月になる。成り行きでフロアボス戦に参加することになったが、コハルはきっと大丈夫だと思えた。不安はあるが、このトールバーナで出会った仲間達がいるし、何より信頼できるパートナーがいる。
「今日一日ぐらいは、この気持ちよさに浸ってもいいよね……」
それからしばらくコハルは温かい湯に身を委ね、安らぐのであった。
次の話に続きます。