ソードアート・オンライン インテグラルファクターX ーアインクラッド・メモリーズー 作:No 77777
四ヶ月も経ってしまいましたが、モチベーションを回復して何とか投稿できました。
これからも間が空いたりするようなことがありますが、どうかよろしくお願いします。
出発の朝
「ちょっと、お兄ちゃん!」
「……は?」
仲間達と談笑している最中、突然訝しげな顔で近づいてきたリーファにキリトは目を丸くする。
「リクさんとコハルさんから聞いたよ! 最初の攻略会議でお兄ちゃんたちを非難したの、キバオウさんなんだって⁉」
「あ、ああ……」
詰め寄られたキリトは、困惑しながらも正直に答えると、リクとコハルの方を横目で見る。二人もこちらの視線に気づいたようで、リクは目を逸らし、コハルは申し訳無さそうに笑顔を取り繕う。
「まあまあ、リーファちゃん。過去のことは水に流して」
「Zさんは黙ってて‼」
「…………はい」
Zは苦笑いしつつもキリトを擁護しようとするが、リーファの剣幕に押され引いてしまう。
「あの時は大変だったな。ボス戦が終わった後も、他のプレイヤーがキリトに無茶苦茶なこと言って怒るわで――」
「おいっ‼」
「お兄ちゃん」
何気なく話したKをキリトは止めたが、遅かった。ただでさえ起こっている妹の顔は更に険しくなる。
助けを求めるように周りを見渡すキリトだったが、みんな気難しそうに黙っている。そんな中、GVとクラインが口を開いた。
「キリト、僕は話すべきだと思う。僕は後からリクとコハルに話を聞いたけど、リーファは今まで詳しく知らなかった。他のみんなも心配していたし、同じ攻略組で、何より君の妹じゃないか。SAOをクリアしたとはいえ、知る権利はあるんじゃないかな」
「そうだぜ、キリの字。オレもそこんとこ、ちゃんとおめぇの口から聞いてねぇしな」
「…………はあ、わかったよ」
キリトにはもう、話すという選択しかなかった。
* * *
2022年 12月4日 第一層 トールバーナ
「いよいよだな」
「……うん」
フロアボス討伐決行の朝、リクとコハルは宿屋を出て噴水広場へと向かっていた。
もし自分達が失敗すれば、今生き残っているプレイヤー達は、SAOはクリア不可能と思い込み、絶望するかもしれない。責任は重大だ。そんなことを思いながら歩いている二人は、やがて目的地へとたどり着く。
「おはよう」
「みんな、おはよう」
リクとコハルが既に来ていた仲間たちに挨拶すると、キリトは「やあ」と返す。見渡す限り、別部隊のZとヒロはすでにいる。ジョーカー隊のメンバーはミトが、キリト隊はアスナがまだ来ていない。
「リク、コハル、おはよう」
「おはよう、マーベラス」
優しく声を掛けて近づいてきたマーベラスに気づき、リクは挨拶を返す。カストルとポルックス、同じ部隊のメンバーも一緒だ。
「よう、今日はよろしくな」
バリトンのある声で挨拶するのは、マーベラス達の部隊のリーダーを務めるエギルだ。
「こちらこそ宜しくおねがいします、エギルさん」
リクは明らかに自分より年上のエギルに対して敬語で挨拶した。
エギル隊はリーダーを含めた四人の両手武器使い(他の三人もエギル同様に厳つい体をしている)と盾を装備する金髪紳士と双子の兄弟で構成された壁部隊である。
ボスの攻撃を防ぐという立場からかなりの胆力が必要だが、彼らなら役目を果たせると親睦会のメンバー達は信じている。
特にエギルがリーダーなら安心感が増す。怒りのキバオウに対して、冷静に対処したのだから。
「それにしても、みんな早いな」
「うん、もうこんなに集まってるんだね」
リクとコハルは周りを見渡している。集合時間まで二十分近くあるにもかかわらず、既に四十人を超えるプレイヤーが集まっている。
「昨日はなかなか眠れなかったから、起きるのも早くてな」
「準備は昨日の内にしておいたし、朝食を食べること以外にやることがないから早く来たけどよ、他のヤツらも同じらしいな」
「ははっ、俺たちもだ」
リクは笑いながら双子の兄弟に同感した。
「みんな、早いわね」
ちょうどその時、女性の声がした。ミトがアスナと共にやって来たのだ。
「まだ二十分前なのに、もうこんなに……」
優等生であるアスナは遅刻をする性分ではないが、自分達より早く来ている人がこんなに多いとは想定外だった。ここに来た人達はそれだけ真剣に攻略を考えているのだと思うと、少し安心した。
「うーん」
いつの間にかアスナの近くにいたエトワールが、アスナの顔を覗き込む。
「な、なによ……」
「いや、アスナってなんか、昨日より雰囲気よくなったかなって」
「ああ……確かにそんな気がするな」
「そ、そうかしら?」
エトワールとスバルの兄弟に言われてアスナはやや困惑気味になってしまう。ミトが「ふふっ」と微笑むと、リク達は穏やかな気分になる。
今日のアスナには頑なさが感じられない。様子を見る限り大丈夫そうだ。ミトに任せたのは正解だった。
「ハッ、逃げずによく来たな」
そんな雰囲気の良い中、逆毛の金髪をしたチンピラ風の男――ジェネラルがキリトに近づいてくる。
五人組パーティーのリーダーであるジェネラルだが、やってきたのは彼一人だけ。同じ部隊の二人、支援部隊の片方にいるもう二人は遠くからキリトを険しい目で見ている。
「まあな」
キリトは臆さず返すが、エトワールとアスナは無表情ではあるものの内申では不機嫌だった。リク達も親睦会で聞いた諍いや、会議初日でのキリトに対する態度からあまりいい印象を抱いてはいない。エギルら四人のアニキ達も同じ気持ちだ。
「いいか、お前らの役目は取り巻きをぶっ倒すことだからな。俺たちとキバオウの旦那の邪魔すんじゃねえぞ」
「旦那?」
キバオウを旦那と呼んだ事に反応したキリトだったが、ジェネラルは言いたいことだけ言うと元いた場所へと戻って腰かけた。
「なあ、キリト。ジェネラルがお前に釘を刺しに来たってことは……」
「ああ、きっとそうだろうな……」
近くにいたスバルは難しい顔をしてキリトに耳打ちした。
恐らく、ジェネラルはキリトを元テスターと察しているかもしれない。
だがジェネラル自身は単純そうだ。恐らくデュエルの後に感づいた仲間が吹き込んだのかもしれない。こいつ、元テスターかもしれねえ! と言って事を荒立てないのは、ディアベルの意を汲んでいるからだろう。
(でもジェネラルのヤツ、キバオウのことを旦那呼びとはな……)
それは、単にキバオウ率いる部隊にいるというだけではないだろう。もしかすると、元テスター達を強く非難した彼に尊敬の念を抱いているのかもしれない。
それから二十分の間に他の参加者も集まり、全員が揃ったことを確認したディアベルは前に出る。
「みんな、今日はありがとう。全パーティー五十五人が一人も欠けずに集まった。オレ、すげー嬉しいよ!」
(ディアベルさん、少し持ち上げすぎなんじゃ……)
ディアベルの感嘆に大勢のプレイヤー達が拍手する中、Zは内心やや不安を感じていた。
キリトを初めとする元ベータテスター達やエギル隊のメンバーも、引き締めていくぐらいが丁度いいのではないかと思ってしまう。
そんな前置きの後、ディアベルは自らが自腹を切って用意した二十二本にZから受け取った十本――計三十二本のポーションをオブジェクト化し、四本ずつ各部隊に分け与える。その後はボスの情報と作戦、各部隊の役割を再確認した。最後は、ディアベルの一言。
「みんな……もう、オレから言うことはたった一つだ! ……勝とうぜ‼」
鬨の声が上がると、ついに攻略組はフロアボスの待つ迷宮区を目指して出発するのであった。
ついに最初のフロアボス戦が始まりました。少しでも原作と差別化できるよう頑張ります。
あと、過去の設定の変更、文章を修正した際は、既読の読者のために後書きで報告するようにします。
設定の変更
レグルスの通り名は鉄拳から拳聖。
スバルの通り名は槍士から
修正した文章
《ルインコボルド・センチネル》の武器を
アニメを見た際、見た目で棍棒だと思いこんでたのですが、原作プログレッシブ1巻に書かれていたのを最近になって気づきました。原作ファンの皆さん、混乱させてすみません。