ソードアート・オンライン インテグラルファクターX ーアインクラッド・メモリーズー   作:No 77777

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獣人の王

 トールバーナを出てから二時間半、攻略組は迷宮区の最上階のボス部屋へと到達した。

 誰も犠牲にならずにここまで来ることたできた。しかし、それでもリクはどうも漠然とした不安を感じてしまう。

 道中、何度かヒヤリとした事態も起きたが、ディアベルの指揮によって事なきを得た。彼の指揮能力のおかげなのに、だ。

 

「リク、なんだか緊張してきた」

 

 リクがボスのいる巨大な扉を見つめていると、ふとコハルからか細い声が漏れる。その表情からは緊張と不安が入り混じっているのが分かる。

 無理もない。ただでさえ命懸けの世界に閉じ込められてしまった上に、自分を含めた全てのプレイヤーを開放するために自らの命を懸けようとしているのだ。他の攻略組のプレイヤーも同じ心細さはあるはず。

 だからリクは、コハルの左手を空いている右手で優しく握る。

 

「大丈夫だ。コハルは、俺が守る」

 

 いざというとき、片思いの女の子のためにを命を懸ける覚悟の言葉と勇ましい笑顔に偽りはない。

 

「ありがとう。だけど……」

 

 リクの思いが伝わったのか、コハルも先ほどの表情から一転して引き締まった表情に変わる。

 

「私も、あなたを守るから」

 

 一瞬、リクは驚いた。どうやら、サービス初日で泣きじゃくっていた女の子は思っていたほど弱くない、芯の強い女性なのだと察した。

 

「……じゃあ、みんなで生き延びようぜ!」

 

「うん!」

 

 互いに笑顔で返し、リクは気持ちを切り替えた。

 この日のために作戦も立ててきたし、できる限りのことをしてきたのだ。たとえ不安要素があろうと、コハルと仲間達がいればきっと上手くいく。そう信じて。

 やがて、ディアベルが八パーティーを綺麗に並ばせ終える。青髪のナイトは長剣を掲げて頷くと、他のみんなもそれぞれの得物を掲げて頷き返す。全員、準備万端であることを確認し振り向いた。目の前には灰色の石材でできた巨大な二枚扉。その先に、倒すべき強敵がいる。

 ディアベルは意を決して、左手で大扉の中央を力強く押す。プレイヤー達の目に写ったのは、長方形の空間だった。入り口から百メートル先にいるのは、青灰色の毛皮を纏った二メートル近くもある体躯、隻眼をした獣人の王。第一層のフロアボス――《イルファング・ザ・コボルトロード》だ。

 

「――――行くぞ‼」

 

 ディアベルが一言叫ぶと、掛け声と共にキリト隊とジョーカー隊、キバオウ隊が青髪のナイトを追い越していく。

 グルルラアアアッ‼

 獣人の王は威嚇するかの如く雄叫びを上げる。それが合図と言わんばかりに、前にいた三匹の重武装のモンスターがプレイヤー達に迫ってくる。取り巻きの《ルインコボルト・センチネル》だ。

 作戦は最初に飛び出した三部隊がそれぞれ一匹ずつ相手をし、他の部隊がフロアボスと戦うというシンプルなものだ。打ち合わせ通りキリト隊は左、ジョーカー隊は右、キバオウ隊は真ん中の敵へと向かっていく。

 キリト隊に向かってきた取り巻きは長柄斧(ポールアックス)を横に構えてライトエフェクトで輝かせる。両手斧ソードスキル《スマッシュ》の構えだ。

 

「スバル、エトワール‼」

 

「ああ‼」「まかせて‼」

 

 立ち止まったキリトの合図で長身の姉弟は前方に出て盾を構える。

 ガキィィィィン‼

 重武装の獣人が放った横薙ぎはかなりの衝撃だったが、見事に防いだ。《スマッシュ》の構えを取った際は、姉弟が守るように打ち合わせている。取り巻きは今、技後硬直に晒されている最中だ。

 

「レグルス、スイッチ!」

 

「コハル、スイッチ!」

 

 姉弟の合図ですぐさま前に出たコハルとレグルスは、敵の太腿に短剣の刺突系ソードスキルを放つ。この時点で敵に30%のダメージを与えた。

 ボスの取り巻きである《ルインコボルド・センチネル》は十分な強敵。頭と胴体の大部分を金属鎧で覆っているため、ただ単にソードスキルで攻撃しただけでは有効的なダメージは与えられない。覆われていないのは二の腕と太腿、そして弱点である喉元だけだ。

 やがて取り巻きは体勢を立て直す。現在、ダメージを大きく与えたのはコハルとレグルス。敵のヘイトは二人のどちらかに向くのだが……

 

「――――っ‼」

 

 向かってきたのはコハルだった。デジタルとはいえ、あまりの気迫に一瞬たじろいでしまう。

 タゲを引き受けようとしたキリトだったが、行動に移す前に一筋の閃光が敵の首に刺さる。

 

「こっちだ!」

 

 リクが左手で投げ放った投擲用ピックがヒットしたのだ。更に腰のベルトからもう一本引き抜き、それも投げつけて二の腕に当てる。

 武器スキルは習得して熟練度を上げなければ、新たな技を覚えない。だが、基本技だけはヘルプで発動体勢を覚えれば使えるのだ。リクが《投擲》スキルを持っていないにも関わらず《シングルシュート》を放てるのはそういうことだ。

 流石に二回も生身の部分に攻撃を受けたからか、取り巻きはリクの方に首を向ける。

 ダメージは少ないものの、ヘイトはコハルからリクに移ったようだ。走りつつ縦に斧を構えて振り下ろす敵だったが、リクはサイドステップで躱す。

 

(ここだ‼)

 

 縦に斧を振る時が一番大きな隙だというのはアルゴの攻略本で既に把握している。リクはここぞというタイミングで右斜め下からの《スラント》で斧を跳ね上げた。敵の武器は回転しながら真後ろに飛んでいく。

 

「アスナ、スイッチ‼」

 

「はあぁぁぁぁぁっ‼」

 

 リクが叫ぶと、タイミング良くアスナが敵へと向かう。激しく仰け反った無防備な相手の喉元に《リニアー》を放った。

 大ダメージを受けた上に大きくノックバックした取り巻きは、後ろを向いて自身の武器を拾うべく駆け出すが、既にキリトとスバル、エトワールが先回りしていた。キリトとエトワールは二の腕に、スバルは喉元にそれぞれソードスキルを放ち、敵のHPを全損させてポリゴン片にした。

 

GJ(グッジョブ)

 

 キリトが称賛の声を掛けると、仲間達は笑顔で返した。

 隊のリーダーであるキリトだが、なるべく他のみんなに経験値とスキル熟練度が行き渡るようにするために、今回はサポートに徹すると決めていた。少しでも、初日に仲間を見捨てた償いになるなら、と。

 次の取り巻きがリポップするまでタイムラグがあるため、キリト隊は他の部隊の様子を見始める。ジョーカー隊は細剣使いのクロウ、キバオウ隊は短剣使いを要として上手く立ち回っている。

 取り巻きの弱点が喉元である以上、刺突系のソードスキルを使うプレイヤーがいれば有利だが、二部隊ともその条件を満たしているのが良かった。

 肝心のボスと戦っている他部隊は、キリトとスバルからみても戦い方は安定している。壁部隊と攻撃部隊のスイッチ、POTローテーションは余裕があるし、レイドパーティーも残りHPが八割近くからそれ以下にはなっておらず、タイミングよく交代してポーションで回復している。

 ディアベルが出発前に持ち上げた時は不安があったものの、考え過ぎだったかもしれない。キリトがそう思っていると、左側の壁の高い位置にある穴から取り巻きが現れた。

 

「みんな、二体目が来たぞ!」

 

 リーダーが敵に剣の切っ先を向けながら叫び、メンバー全員が再び武器を構える。

 一体目はノーダメージで倒せたが、戦いが長引けば精神的な披露が溜まっていき、そこから大きなミスにも繋がり兼ねない。最後まで油断は禁物だ。

 

 

 

 




  今回は原作と違ってキリトがアスナ以外のプレイヤーともパーティーを組んでいるため、隊のリーダーとしてどう考えて動いているのかを書くため、リクとコハル、オリキャラを活躍させるために書きました。

 あと、投擲(原作では投剣)スキルですが、原作でクラインに指導するために《シングルシュート》を放っている描写がありますが、それを成立させるための文章を書きました。
 とはいえ過去の設定ですので、プログレッシブでは今のキリトができないよう書かれてしまっていますが、気にしないでいただけると幸いです。

 あと、リクは剣を持ちながら逆手で放っていますが、原作でそれができるかは分かりません。なので、IFXではできるということにしておいてください。

 展開遅いな、と思ってる読者も多いと思います。ですが、どうしても書かずにはいられませんでした。それでも、これからもよろしくお願いします。


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