ソードアート・オンライン インテグラルファクターX ーアインクラッド・メモリーズー 作:No 77777
攻略組五十五名と獣人の王の戦いは、終幕へと近づきつつあった。
四本あったボスのHPゲージは二本削りきり、三本目も無くなる寸前だ。計十二隊の取り巻きを任せていた三部隊はそれぞれ四体ずつ敵を片付け、今ポーションを飲んで回復中である。
しかし彼らが最前線に加わることはない。ベータテストからの変更で取り巻きがそれを超えて出てくる可能性が無いとはいいきれないと事前に知らせておいたため、いざというときのために様子見で待機し、出てきた際に対処してほしいとディアベルは頼んでいたのだ。
だが、理由はもう一つある。LAによって手に入るアイテムを手に入れ、これからも攻略組を率いていくためにディアベル自身を強化すること。ベータテスト時代に活躍していたプレイヤーに取り巻きの対処を任せているのも、その可能性を上げるためだ。
その事実を唯一知っているのは同じパーティーに加わっているZだけだが、彼は狙うどころか協力的だ。何か裏があるのではないかと疑ってしまったディアベルだったが、ベータテスターに反感を持っていたキバオウを鎮めるために手を回していたのだ。だから今は信じることにした。
後はLAの取り方についてだが、武器を変えたボスは曲刀カテゴリの縦斬り系のソードスキルしか使わないため、見慣れてしまえば回避は簡単である。HPバーをギリギリまで削ったら、隙をついて止めを刺せばいい。
もっとも、ベータテスト時代と何も変わっていなければ、だが。
「ふっ――――!」
髪を中分けしたディアベルの仲間――リンドが放った曲刀ソードスキル《リーバー》がボスの足にヒット。この一撃により、とうとうHPバーの三本目を削りきった。
「ディアベルさん、慎重にな」
「うん、分かってる」
Zが警告すると、青髪のナイトははつらつと答える。
グルルラアアアッ‼
ボスは怒りの雄叫びを上げた。問題はここからだ。
ディアベルが指示を出し、隊の七人はボスの周囲をぐるりと取り巻く。一方で獣人の王は手斧とバックラーを真横に投げ捨てた。
ここは情報通りだ。もう一度吠えると、腰の後ろにある
(あの剣、刃がベータテストの時より細いな……)
(俺の記憶にあるヤツより、輝いてないか?)
Zとキリトはボスの武器を見て違和感を感じた。刀身が緩く沿っているのは同じだが、違う武器のように見えてしまう。
あれはまるで、かつて最前線にいたプレイヤー達を苦しめたモンスター達が使っていたものと同じような……
(――――っ‼)
(まずい‼)
「みんな、射程の長い縦斬りのソードスキルに気をつけるんだ!」
二人はボスの武器が変更されていることを見抜いたが、ディアベルは気づいてなかった。
「違う、ディアベルさん、あれは――」
「下がれ‼ 全力で後ろに飛べ――――っ‼」
Zは警告しようとし、キリトも大声で叫ぶ。
しかし、残念なことに二人の声はボスのソードスキルのサウンドエフェクトにかき消されてしまう。獣人の王は垂直に飛び、武器を両手に持って水平に構え、体を
ディアベルを含めて、その体勢を見た他の元最前線テスター達は唖然とした。まさかと思いつつも、彼らの脳裏には恐ろしい技が思い起こされたのだ。
やがてそれは、ボスの着地と同時に現実のものとなる。獣人の王が竜巻の如く回転し、近くにいたディアベル隊に襲いかかった。
「「「「「「うわあぁぁぁぁぁっ‼」」」」」」
危険をいち早く察したZは後方に大きく飛んだことで回避できたが、他のメンバーは大ダメージを受けて吹き飛ばされた。彼らのHPは一気に五割を下回り、イエローゾーンへと突入してしまう。
カタナソードスキル《旋車》。第十層のmobが使っていたこの技は、範囲攻撃でありながら威力は凄まじく、盾持ちでも重装備のタンクでなければ防ぎきれない。
更に厄介なのは、敵を一時的な行動不能状態――スタンにさせる効果まであることだ。そうなってしまえば、十秒ぐらいは動けなくなってしまう。さらに発動が即時的で回復手段が存在しない。
だからZは素早く周りを見渡した。最善なのは、回復するまで他のプレイヤーがタゲを引き受けることだが、突然の事態にみんな固まってしまっている。
綿密な作戦を立てたことと出発前に持ち上げすぎたことが裏目に出てしまった。ディアベルが倒れたことで、プレイヤー達は眼の前で起きた事態を理解しきれないでいる。
ならば自分が行動するしかない。Zは自身の片手直剣を右手から左手に素早く持ち替えると、技後硬直が解ける寸前のボスへ向かって走り、右腰からスローイングナイフを抜いた。射程内に入ったことを確認すると、ちょうど硬直が解けた敵に向かって《シングル・シュート》を放つ。
ナイフは腕に命中。獣人の王は目線をZに移すと、野太刀の先端を後ろに向けて構えながら向かってきた。構えからして放つソードスキルは《浮舟》、スキルコンボの開始技だ。故に技後硬直はかなり短く、まともに受けたら浮かされた後に他のソードスキルが襲いかかる。
既に武器を右手に持ち直したZは《スラント》の構えを取った。敵の技を迎え撃つ気でいるが、ステータスは獣人の王が圧倒的に高いため、単にシステムアシストに任せてこちらの技をぶつけただけでは打ち負けてしまう。
だがZには、ソードスキルの発動時に体を意図的に動かして技の速度と威力を上げるテクニック――ブーストがある。これなら何とか敵の技を相殺できる。彼のカンがそう言ってた。
獣人の王は吠えると野太刀で高く切り上げ、Zは右斜め上から左斜め下へと切り下ろす。
ガキィィィィン‼
野太刀と片手直剣のぶつかり合う金属音がフロア全体に響き渡る。
両者、共に衝撃でノックバックし、両足で踏ん張った。勝負は互角。ブーストがなければ、Zは
「ディアベル、大丈夫か⁉」
「ああ、済まない」
その間にキリトは隊のメンバーと共にディアベルの元へとたどり着く。ジョーカー隊とキバオウ隊も一緒だ。
ディアベルはスタンから開放され、立ち上がるところだった。他のディアベル隊のプレイヤーには、近くにいた隊が駆けつけた。
(くっ……まさか、武器がカタナに変わってたなんて!)
ディアベルは自身が節穴だったことを悟った。
カタナスキルがどれほど恐ろしいかは最前線のテスターだった彼も分かっている。攻略組を率いて百層をクリアするという使命感と責任、今までが順調だったが故の油断、LAを取りたいという欲望、様々な要因が重なったことで目を曇らせてしまったのだ。
「ディアベル!」
ちょうど、近くにいたリンドも合流した。彼の表情には不安が滲み出ている。
「あんなソードスキル、攻略本には書かれてなかった。戦うにしても、どう対処すればいいんだ?」
リンドの言う通り、情報と違っていたことに未だ動揺しているプレイヤーは少なくない。そんな中、さらなる追い打ちが掛かる。
「おいっ、取り巻きが出てきたぞ!」
「しかも今度は四体じゃねーか‼」
「「なっ――――‼」」
キリトとディアベルだけでなく、全てのプレイヤーが驚きを隠せなかった。
取り巻きを任せられた三部隊が四体ずつ倒したことは間違いない。しかし壁の穴から出てきたmobが地面に着地し、近くのプレイヤーに襲いかかっている光景が、確かに目の前に広がっている。ここもベータテストの時と違う変更点だ。
現在、状況は最悪だ。ボスはZが何とか凌いでいるものの、いつまでも持たないだろう。他の部隊が相手をしている取り巻き達も、あとどれくらい出てくるのか分からない。最悪の場合、ボスを倒すまでということもあり得る。
「ディアベル、俺もZに加勢して時間を稼ぐから、その間にレイドを立て直してくれ! スバル、隊の指揮を代わりに頼む!」
「お、おいっ‼」
キリトはすぐにZの元へと向かっていった。今この場でカタナスキルに対応できるプレイヤーは限られている。だからキリトはディアベルの指示を待たずに行動を起こしたのだ。
ならば、ディアベルもレイドを指揮するものとして決断しなければならない。青髪のナイトは表情を引き締める。
「みんな、聞いてくれ! キバオウ隊、ジョーカー隊は引き続き取り巻きの相手を頼む。残りの二体はディアベル隊、ハフナー隊が引き受ける。支援部隊の二組は、そのサポートに回ってもらう。ボスの方はキリト隊とエギル隊、Zに任せる!」
「ちょっ、待てやディアベルはん。取り巻きはともかく、何でボスはそやつらに任せるねん⁉」
「たった十五人で、ボスを倒せるわけないだろう!」
レイドリーダーの判断に、キバオウとリンドは疑問を感じずにはいられなかった。
その理由については、キリト隊、エギル隊にはそれぞれスバル、ポルックスといった最前線テスターがいるからだ。彼らはビギナーとは違い、カタナスキルに対抗できる存在だが、それを話せばディアベル自身もベータテスターであることを証明してしまうようなものだ。
この状況で信頼を失えばレイドの士気は更に下がってしまうが、責められるとしても今ではない。
「キバオウさん、リンド、オレの判断に疑問を持つのは分かる。詳しい理由は後で話す。だから、今はオレを信じてくれ!」
「「…………」」
必死で強く言われれば、二人とも言い返せなかった。結局のところ、ディアベルを慕っているのだ。
「キリト隊のみんな、いいかな?」
「私はいいよ!」
「俺もだ。レグルスは?」
「勿論だ」
エトワールとスバル、レグルスは了承した。
「俺も行く。コハルとアスナはどうする?」
「リクが行くなら、私も行く。だって私は、あなたのパートナーだから!」
「私は、死ぬわけにはいかない。だけど、キリト君だって死なせない!」
アスナはそう言うと、ミトの方を見た。案の定、不安そうな目をしている。そんな友達を少しでも安心させるために、強くて優しい笑みを返す。
「みんな、行くぞ‼」
リクは一声叫び、キリトとZの元へと向かう。他のメンバーもそれに続いた。
(みんな、頼んだぞ!)
「…………フン!」
ディアベルがキリト隊の背中を見つめる一方、キバオウは勇敢に獣人の王と戦い続ける二人の男を忌々しく見つめていた。
遅くなりましたが、明けましておめでとうございます。
前回の話ですが、コハルとレグルスが取り巻き相手に使ったソードスキルを《ケイナイン》と書きましたが、原作を読み返した際に下段からの突き上げ技という風に書かれていたため、別の技(名前は未定)を使ったことにしました。基本技です。