ソードアート・オンライン インテグラルファクターX ーアインクラッド・メモリーズー 作:No 77777
キリトとZは、何とか獣人の王が放つ技をソードスキルで受け続けていた。
二人は合流すると、すぐにZは『ブーストしたソードスキルなら、ボスの技を相殺できる』と伝えた上で、戦いながら作戦を話した。タゲを向けられた側がボスの技を迎え撃ち、もう片方が技後硬直中を狙って通常攻撃するというシンプルなものだ。
すぐに了承したキリトだが、この作戦には問題があることも理解していた。一つは通常攻撃で与えられるダメージが小さいことだ。HPを効率よく削るならソードスキルの方が良いが、技を向けられた際に冷却中だと迎え撃つことができない。連続で向かって来られたら危険だ。
実際、獣人の王は二回連続でキリトに技を仕掛けて来た時もある。Zがディアベルを助けるためにスローイングナイフを投げつけてタゲを取ったが、運が良かっただけだ。ダメージを与えたからといって、必ずしもヘイトが与えた側に向くとは限らない。
もう一つは、ボスの技を相殺するのがシビアであることだ。ブーストは少しでも動きをミスしてしまうと、逆にシステムアシストを阻害してしまうリスクがあるのだ。最悪の場合、ソードスキルが中断してしまう。
だからこの作戦は時間稼ぎに過ぎない。ディアベルがレイドを立て直し、こちらに援軍を送ってくれると信じて、二人はギリギリの綱渡りをしているのだ。
(次は……こうだ!)
獣人の王がカタナを上段に構えると、キリトは片手直剣を真上に構えて《バーチカル》で迎え撃とうとした。
……が、ボスの刃はくるりと半円を描いて動き、真下に回った。
「しまった‼」
出そうとした技が《幻月》と予想したのは良かった。だが、同じ技でも発動体勢が二種類以上あるものも存在するのだ。つまり、ボスはフェイントを仕掛けたのだ。
キリトは発動しかけた技をキャンセルするために武器を引き戻したが、タイミングが遅かったせいでガクンと不快なショックが全身を迸り、動きが止まってしまう。そして、真下から跳ね上がってきた野太刀による攻撃をまともに受けてしまった。
「ぐっ――‼」
HPが一気に三割以上も減少し、吹き飛ばされるキリト。仰向けになった自身の体を起こそうとするが、高く切り上げられたままのボスの刃が血の色のライトエフェクトを放ち始めていた。
(マズい。《緋扇》だ‼)
三連撃の刺突技であるあれを食らえば死ぬとキリトは思った。
Zもキリトの身に危険を感じて駆けつけるが、距離が空いてしまったせいで間に合うかどうかギリギリだ。しかし……
「うおぉぉぉぉぉっ‼」
裂帛した気合と共に敵の刃に立ち向かう人影がキリトの前に現れる。その人物は《ソニックリープ》を放つために跳躍しており、獣人の王が勢いよく刺突を放つのに対し、彼は敵の刃の先端に斬撃を放つ。
双方の刃は絶妙なタイミングでぶつかり合い、互いに衝撃でノックバックした。獣人の王は今まで以上に後退り、その相手も後ろへ吹き飛ばされたものの、バランスを取りつつ着地。前かがみで中腰になりつつも、倒れぬよう踏ん張った。
自身の窮地を救ってくれたその人物を、キリトは知っている。
「リク‼」
「待たせたな!」
かつて自分とコハルをベータテスト最終日に助けてくれたヒーローに対して、リクは獣人の王から視線を外さずに言った。
カッコつけたものの、リクは内心ではヒヤヒヤしていた。キリトが敵の刃を受けてピンチになった際、気づけば《疾走》スキルで加速して隊の仲間達を追い越し、技の体勢に入って敵の攻撃を迎え撃とうとしていたのだ。
リクが相殺勝負に勝てたのは、ブーストと突進系ソードスキルによる跳躍力があったからだ。SAOがデスゲーム化する前、コハルとクラインがソードスキルの練習をしている間にキリトからブーストを教わっていた甲斐があった。
「ありがとう、助かった」
「二人とも、次が来るぞ!」
キリトは礼を言うが、駆けつけたZが警告する。獣人の王はもう次のソードスキルを放とうとしており、野太刀を左腰に構え、刃を緑色に輝かせる。
ソードスキルの名は《辻風》。直線かつ射程が長く、居合切りの如く早いこの技は、発動を見てから相殺しようとしても間に合わない。だからZは二人の前に出て、ダメージ覚悟で直剣を両手で構え、防御の体勢を取った。
ガキィィィィン‼
しかしZの前に出て、攻撃を盾で受け止めた二人のプレイヤーがいた。エトワールとスバルだ。
「キリト、おまたせ!」
「お前ら、無茶するなよ……」
エトワールははつらつとした声を発し、スバルは三人の命懸けの行動に呆れつつも間に合ったことに安心した。
さらに、他のキリト隊のメンバーも合流。コハルはリクに駆け寄った。
「もう、リクったら! すごく心配したよ!」
「全くね。今の、ホントに危なっかしいわ‼」
「ああ、悪いな……」
片思いの人を不安にさせ、アスナにも咎められて申し訳ない気持ちになるリク。そんな間にも、長身の姉弟は獣人の王の技を防ぎ続けている。カタナソードスキルを知っている弟が姉に指示を出しているものの、中々の連携だ。
「キリト、今のうちにお前はポーションを飲んで回復しろ」
「だ、だけど……」
レグルスの言う通りにしたいところだが、キリトは躊躇った。盾を持つ姉弟なら攻撃を受け止められるし、ソードスキルで相殺するという危険な手を使わなくても良い。
だが、それでも二人だ。せめて他にも壁役がいてくれればと思っていた時だった。
「俺達も加勢するぜ!」
野太い声が聞こえてきた。エギル隊のリーダーだ。マーベラスを始めとした他のメンバーも一緒だ。
「エギル隊、どうして……」
「青髪のナイトさんが、君たちと一緒にボスを倒してほしいって頼まれたからね」
マーベラスが爽やかな笑顔で言うと、キリトは「そ、そうか……」と困惑気味に返した。
このタイミングで壁部隊が味方になってくれるのは心強いが、キリトはなぜ二部隊のうち彼らなのかが疑問だった。同じ最前線テスターであるポルックスがいる部隊に協力を頼むのが偶然だとは思えない。
だが、今はそれを考えている時ではない。キリトは横目で今も攻撃を防ぎ続けているエトワールとスバルを見る。二人ばかりにボスの攻撃を任せるのは危険だ。
「それじゃ、頼む。HPを回復している間は、俺が指示を出す。キリト隊のみんなも、上手くスイッチして連携してくれ」
キリトが必要な事だけ言うと二部隊とZは頷き、長身の姉弟の元へと向かった。
さっそくキリトはポーションを飲んで回復を図る。SAOにおけるポーションの回復は時間経過と共に一ドットづつ増えていくため実にじれったいが、キリトは完全回復するまで指示を出し続けた。『ボスを後ろまで囲むと全方位攻撃が来る』『盾や武器でキッチリ守れば大ダメージは食わない』というアドバイスから始まり、キリトが技の軌道を言うたびに正面の壁役が受け止めた。
一方で、アタッカー達はボスが硬直する度にソードスキルを叩き込んでいた。ヘイトが溜まって危なくなった時は、エギルらアニキ四人組が《威嚇》スキルで大声を出してタゲを取ってくれる。
キリトとZだけで戦っていた時よりはマシだが、少しでも連携が崩れれば危うい。そんな戦闘が五分ぐらい続き、もうすぐボスのHPが残り三十パーセントになろうかといった時だった。
「誰か、ポーション分けてくれ! 俺の分がなくなった‼」
部屋中に大声が響いた。キリトは振り向かなかったが、かなり焦っていることは分かる。
「俺が行く。みんな、少しだけ待っててくれ!」
「分かった、クロムも気をつけろ!」
ジョーカーから許可を貰ったクロムは、助けを求めているプレイヤーの元へと向かった。
(ヤバいぞ。誰かがポーション切れになったなら、他のプレイヤーも近いうちにそうなる。レイドが崩れる前に、早くボスを倒したいところだけど……)
キリトはボスの技後硬直時に全員で総攻撃をかけるべきか迷ったが、もしHPを削り切れなければ反撃を食らってしまう。安全性を考えるなら、もう少し削ってからのほうがいいと思った時、ゾッとする出来事が起きる。精神的疲労が溜まっていたせいか、スバルがボスの技を上手く受け止めきれずに転倒してしまったのだ。
「スバル、待ってて!」
「エトワール、だめだ‼」
姉は実の弟を助けるために駆け出すが、マーベラスは大声で呼び止める。
「あっ――――」
エトワールが気づいた時には遅かった。走っていった位置は、獣人の王の真後ろだったのだ。
ボスは周囲を囲んだと認識し、垂直に飛んだ。再び《旋車》を放とうとしている獣人の王に対し、一か八かキリトはボスの技を止めるために剣を右肩に担ごうとした。
しかし、その前に獣人の王に向かってZが跳躍していた。キリトと同じ事を考えていたらしく、彼よりも早く、軌道を上にも向けられる《ソニックリープ》を発動したのだ。
ざしゅうっ‼
既に体を
獣人の王は体勢を崩し、そのまま床へと落ちていく。そんな中、キリト達はまだ空中にいるZが微笑みながら仲間達を見ている姿を捉えた。それが何を意味するのかはすぐに分かった。
Zはこのままボスが転倒状態になると予測している。仕掛けるなら、今しかない。キリトがそう思った時、ちょうどZは上手く着地し、対して獣人の王は床に叩きつけられた。
「全員、
キリトが大声で叫ぶと、仰向けになって手足をばたつかせる獣人の王に近づいたエギル隊はそれぞれ縦斬り、刺突のソードスキルを放つ。猛攻を受けても獣人の王は立ち上がろうとしたが、今度はキリト隊がスイッチの一言でエギル隊の隙間を抜け、即座に技を仕掛ける。
最後にキリトの二連撃ソードスキル《バーチカル・アーク》の二撃目がヒット。レッドゾーンに入っていたボスのHPは減っていく。
(頼む、決まってくれ‼)
キリトはそう強く祈った。赤くなったボスのゲージが減少していく様子をキリト隊、エギル隊、Zが固唾を呑んで見つめる。
残り十ドット、五、三、一。
やがて、HPバーは消える。
グルルルル……
獣人の王は苦しそうな声を上げて後ろへ倒れ、ポリゴン片となって消滅。同時に取り巻きも同じようになり、ボス部屋は少しの間だけ静寂に包まれる。そして……
【Congratulations】
プレイヤー達の前に大きく文字が表示され、勝者を称えるファンファーレが部屋中に鳴り響く。
第一層が攻略された瞬間であった。
原作と差別化するのにかなり苦労しました。
内容は原作プログレッシブをベースにしています。今更ですが、ファンから見たディアベルの印象は、アニメを先に見た人と既に原作を読んだ人とでは違うのではないかと個人的には思っています。