ソードアート・オンライン インテグラルファクターX ーアインクラッド・メモリーズー 作:No 77777
獣人の王と取り巻きが打ち倒され、ボス部屋はその場にいたプレイヤー達の歓声に包まれた。
今、彼らの視界には獲得した経験値や分配されたコル、取得アイテムが表示されている。キリトが手にしたアイテムは《コート・オブ・ミッドナイト》。第一層のフロアボスをLAした証だ。
ふう、と安堵の息を吐くキリトだが、不意に背中をポンと叩かれる。
「やったな、キリト!」
振り向くと、そこには笑顔のリクがいた。
「お疲れ様、キリト君」
「やりましたね」
アスナ、コハルもそれぞれ労いの言葉を掛ける。共にボスと戦ってくれたマーベラス達も笑顔で答え、キリトも精一杯の笑みを返した。
とうとう終わったのだ。キリトが周りを見渡すと、肩を組み合っている者から拳を軽くぶつけ合っている者まで、それぞれ喜びを表現している。少し離れたところでは、ジョーカー隊のメンバーが手を振っている。アキュラだけは剣を鞘に収めながら無表情だったが。
「コングラチュレーション、この勝利はあんたのものだ」
「エギルさん、俺も忘れないでくださいよ」
エギルがキリトを称賛すると、最初に命がけでタゲを引き受けたZが苦笑いで言うので「おっと、おまえもな」と付け加えた。
そんな中、安堵したかのような表情をした青髪のナイトの姿をキリトは見つけた。 ディアベルについては色々と気になることがある。なぜ最前線テスターであるZがディアベル隊に入ったのか? なぜポルックスのいるエギル隊を応援に向かわせてくれたのか?
(ディアベル、もしかしてあんたは……)
キリトが一つの可能性に至ったその時――
「なんでや! なんでディアベルはんを、ワシらを騙したんや!」
キバオウの怒声が歓喜なムードを打ち破った。キリトもZも、その場にいる他のプレイヤー達も意味が分からず困惑する。
「い、いったい何を言って……」
「そこのジブンら二人、ボスの使う技を知っとったやろ‼ 最初から情報を伝えとったら、ディアベルはんやワイらが危険な目に遭うこともなかった‼」
ディアベルが宥めようとしていることなどお構いなしに、キリトとZを交互に指さしながらキバオウは不満を言い放つ。
キリトとZはそこまで言われて気づいた。カタナソードスキルは、ビギナー達にとっては初見殺し。知っていなければ対応などできない。つまり、キバオウは二人を元ベータテスターだと疑っているのだ。
「まさかアイツら、ボスが武器を持ち替えた時の攻撃パターン熟知してたってことか?」
「知ってなきゃソードスキルの相殺なんてできねーよな……」
「でも攻略本の情報とは違うぞ」
その場にいるプレイヤーの半分近くはざわつき出し、二人に疑惑の目を向けている。キリト隊、エギル隊、ジョーカー隊、Z、そしてレイドのリーダーであるディアベルはマズイ状況になっていることを嫌でも察した。
不穏な空気が立ち込める中、突然キバオウ隊の短剣使いが叫んだ。
「オレ知ってる‼ その二人、元ベータテスターだ‼ ボスの攻撃パターンも全部知ってて隠してたんだ‼ LA取るために伝えなかったんだ‼」
「じゃあディアベルさんやオレ達は、囮にされたってことか⁉」
「おい、マジかよ!」
「なんて奴らだ!」
とうとう、キリトとZは元ベータテスターである事を暴露されてしまった。しかも誤解を招く発言で、リンドを始めとするプレイヤー達に罵詈雑言を浴びせられてしまう。
「ちょっと、なに二人を悪者扱いしてるわけ⁉」
「キリトさんとZさんは、ボスを引き付けるために戦ったんですよ‼ 私たちが来るまで時間稼ぎしたから、誰も死ななかったんじゃないですか‼」
「そんなの結果だけの話だろ‼」
「ディアベル隊はボスの範囲技に巻き込まれたけどよ、Zってやつだけ後ろに飛んで避けてたじゃねーか‼」
「あのキリトってやつも、ディアベルさんの命令が出る前に勝手にボスのところに行きやがったしな‼」
キリトとZを罵り始めるプレイヤー達に対してエトワールとコハルは反駁するが、非難は止まらない。
犠牲を出さないために必死になっていたキリトとZの印象は、勇敢なヒーローからプレイヤー達を出し抜いた悪人へと変わりつつある。プレイヤー達の間で悪い憶測が飛び交う中、エギルが声を上げた。
「落ち着け、お前ら! 攻略本には『情報はベータテスト時のもので、変更されている可能性がある』って描いてあっただろ。こいつらが本当に元テスターなら、むしろ知識はあの攻略本と同じじゃねえのか?」
「そ、それは……」
バリトンのある冷静な声で説得されたキバオウ達は反論できず沈黙。ディアベルとキリト達は、たとえ不和が解消されなくとも今はこれで納得してほしいと願ったが……
「攻略本の情報に嘘が混ざってたんじゃねえのか! そいつらにLA取らせるために、作った奴らがでたらめ書いたんだろ‼」
「つまり、情報屋もグルだったってことか!」
「やっぱ元テスターはろくでもないってー!」
アルゴや攻略本の制作に関わった元テスター達まで共犯者扱いするジェネラルの思い込みとも言える反論に、同じキバオウ隊の仲間二人も同調した。
「このエセヒーローが‼」
「自分達さえ良ければいいのかよ‼」
「ろくでなしテスター共め‼」
プレイヤー達の怒りは最高潮に達している。せっかくフロアボスを倒したというのに、状況は最悪だ。
このままでは元テスターとビギナー達の溝は決定的となってしまう。キリトとZ、その仲間達とディアベルは何とかしなければと思うが、穏便に済ませる方法が思いつかない。
プレイヤー達の被害妄想とも言える暴言にリクとアスナの我慢は限界に達し、顔を険しくして同時に声を上げる。
「お前ら……」「あなたたちね……」
「元ベータテスター、だって? 俺をあんな素人連中と一緒にしないでもらいたいな」
しかし突然、キリトは元テスター達を軽蔑するかの発言をした。ボス部屋にいるプレイヤー達は目を丸くするなり、表情を引き締めるなりして黙り込む。
キリトは、今この場で取れる最善手を見つけたのだ。それが、自分を追い詰めると分かっていながら。
「SAOのベータテストの抽選は、とんでもない倍率だったんだぜ。当選した千人のうち、本物のMMOゲーマーが何人いたと思う? ほとんどはレベリングのやり方もしらない初心者だったよ。今のあんたらのほうがまだマシさ。でも、俺はあんな奴らとは違う。俺はベータテスト中に他の誰も到達できなかった層まで登った。ボスのカタナスキルを知ってたのは、ずっと上の層でカタナを使う雑魚と散々戦ったからだ」
最もらしいことをふてぶてしく笑いながら話すキリトは、左親指でZを指した。
「それについてはこいつも同じだけど、自分を有利にするための情報を、他の奴らを活かすために情報屋に教えるほどのお人好しだからな。でも俺は、そこのナイトさんを助けようとしたヒーローや情報屋が知らないことも色々と知ってるぜ。効率のいい狩り場とか、うまい報酬が貰えるクエとかな」
「なんや、それ……そんなん、ベータテスターどころやないやんか! もうチートや、チーターやろ、そんなん!」
「調子に乗りやがって、チート野郎!」
「ベータのチーターだから、ビーターだ!」
キバオウ達はキリトの言葉を真に受けた。これで最悪の事態は避けられ、Zに怒りの矛先が向くことは最小限に抑えられるはず。
「ビーター……いい呼び方だな、それ」
キリトがウインドウを出現させて一連の操作をすると、小さな光が体を包み込み、光はすぐに漆黒のロングコートへと変わった。LAで手に入れたアイテム――《コート・オブ・ミッドナイト》を装備したのだ。
「そうだ、俺はビーターだ。これからは元テスターごときと一緒にしないでくれ」
漆黒のコートをなびかせながら振り返ったキリトは、そのまま部屋の奥にある小さな扉へと向かって歩いて行く。
「二層の転移門は俺が有効化しといてやる。ついてくるなら、初見の敵に殺される覚悟しとけよ」
扉の前にたどり着いたキリトはそれを両手で押し開け、奥にある螺旋階段を上って行く。その寂しそうな背中を見ていた仲間達は、ただ見ていることしかできない。特にリクは、デスゲームが開始した時の別れを思い出さずにはいられなかった。
今回の話も差別化に苦労しましたが、何とか書けました。
。IFの通り主人公がディアベルを助ける展開にすれば楽だったのではないかと何度も思いました。でも、誰一人として動けなかった中でZ(迅悠一)がいち早く動かなければ彼らしくない気がしましたし、僕自身はこれで良かったのかもしれないと、書き終わった今なら自然と思えてきます。
第一層の話も次回でラストです。お楽しみに。