ソードアート・オンライン インテグラルファクターX ーアインクラッド・メモリーズー   作:No 77777

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たとえ離れていても

「キリト、なんであんな嘘ついたの?」

 

「うん、あれじゃキリトさんが悪者になっちゃうよ……」

 

「……悪者になることが、全体にとって最善だと思ったからだ」

 

「ああ、あいつが《汚いビーター》にならなければ、全ての元テスターが他のプレイヤーから目の敵にされかねないからな」

 

「しかも、おれをヒーローにした上で、自分のほうが誰よりも情報アドバンテージがあることを強調して、おれとアルゴたちから目を反らさせた」

 

 悪のビーターとなった隊長がいなくなってからエトワールとコハルが当然の疑問を口にすると、リクとエギル、Zは重々しい口調で答えた。

 

「つまり、キリトは元テスターに向けられる悪意を一人で背負ったということですか……」

 

「……くっ、キリトの奴!」

 

 マーベラスとスバル、他のキリト隊とエギル隊のメンバーは理解したが、やりきれない気持ちでいる。

 しかし、キリトとZがLA狙いでボスに向かったと誤解された上に、攻略本を作ったアルゴたちまで疑われた時点で、丸く収まる段階は過ぎてしまったのだ。

 

「でも、逃げ場のない命懸けの世界で他人から敵視されるのは……」

 

「ええ、自分の死に繋がる可能性もある」

 

 アスナの言葉の先は、リク達の方へ来ていたミトが代わりに言った。ジョーカー隊のメンバーと支援部隊にいたヒロも一緒だ。

 

「無事でよかった、アスナ」

 

「うん、ミトもね」

 

 互いに笑顔で言葉を交わすが、共に陰りがある。無理もない。アスナにとっては同じ隊の仲間であると同時に恩人、ミトにとってはベータテスト時代に関わった者が孤独となる事態へと陥ったのだから。

 

「まさか、こんなことになるとはな……」

 

「ああ、キリトのおかげで、俺たちも仲間も白い目で見られなくて済むけど……」

 

「あんなこと、誰でもできることじゃない……」

 

 最前線テスターだったジョーカー、クロム、ヒロもキリトの事が心配でならなかった。難しいクエストを手伝ってもらった恩もあるし、フロアボス戦ではLAを巡るライバルでもあったのだ。

 それぞれがキリトの行く末を思う中……

 

「リーダーをやめる⁉ なんでや、ディアベルはん!」

 

 キバオウの大声が部屋中に響いた。他のプレイヤー達も動揺している。

 

「……すまない、オレにはもう、君たちを率いる資格がない」

 

 それは青髪のナイトの本心だった。本当なら自身も元テスターであることも打ち明けたかったが、元テスターへの怒りがぶり返す事態になれば、キリトの決断が無駄になってしまう。それが分からないほど馬鹿ではない。

 

「隊列が崩れたのは、ディアベルのせいじゃない! ボスの武器が違っていたからだ!」

 

「リンド、攻略本にもその可能性は書かれていただろう。武器の違いも冷静に観察すれば見抜けたはずだ。慎重に戦おうとか言っておきながら、オレはLAボーナスにこだわって判断を誤ったから状況が悪化した。結果論とはいえ、あの二人がボスを引き付けていなければ確実に犠牲が出ていた」

 

 だから自分はリーダー失格。集団のトップが利己的な感情で命令するなどあってはならないとディアベルは思ったから、攻略を降りるのだ。

 

「ディアベルはんは私利私欲でボーナスを欲しがったわけやない。みんなを守るために必要や思うとったんやろ」

 

「あなたは攻略に本気だった。自分だけが強くなればいいというビーターとは違う」

 

「……理由はどうあれオレは我欲を優先し、オレを信じてくれたみんなを危険に晒した。それが事実だ」

 

 キバオウとリンドは尚もディアベルの正義を信じるが、慕っている青髪のナイトの真剣な目を見て意思の固さを悟った。

 

「それなら、この先どうすんだよ? ディアベルの旦那がいなくなったら、誰が率いてくんだよ……」

 

 ジェネラルの不安は最もである。今ここにいるプレイヤー達がフロアボス討伐に乗り出したのは、ディアベルの影響が大きい。パーティーの仲間達と共に迷宮区を踏破し、トールバーナにいた者に声を掛けたから、やっと実現できたのだ。

 

「攻略組のまとめ役は、キバオウさんとリンドに頼みたい」

 

 自分を慕っているし、まだ信じてくれている。だからこそ意思を引き継いでくれると思うが故の判断だった。二人は迷いながらも「分かった」と答える。

 

「それとキリトのことだけど……君たちの気持ちはどうあれ、貴重な戦力だ。彼が望むなら、攻略に加えてやってくれ」

 

「ちょっ、いくらなんでもそりゃ――!」

 

「ジェネラル、黙っとけや!」

 

 キバオウは同じパーティーの仲間を一喝した。

 ジェネラルが納得できない気持ちは分かっている。だが実力が確かなのは事実なのでディアベルの頼みを断る理由はない。

 

「分かったわ。ただ、あの黒ビーターを嫌う奴もおる。利用するって形でええな?」

 

「ああ、構わない。それじゃ、後は頼んだよ」

 

 信頼する仲間達に後を託し、ディアベルは身を翻して第二層へと続く扉へと向かって歩いてゆく。

 

「ディアベル‼」

 

 だがリンドに呼び止められて一旦は立ち止まった。

 

「いつか……いつかまた、戻って来るよな⁉」

 

「…………ああ、いつかきっとな」

 

 そう返すと、再び歩を進める。Z、キリト隊、エギル隊、ジョーカー隊のメンバーとすれ違う際に彼らの困惑した表情を見たが、ディアベルは心苦しそうに横切り、扉の向こうへと消えた。

 その後、残されたプレイヤー達は今後の攻略の方針について話し合った。時折キリトを侮辱する発言もあったため、キリト隊、アキュラを除くジョーカー隊、エギル隊のマーベラスと双子の兄弟はうんざりして先に第二層へと向かうことに。

 こうして最初のフロアボス戦は終わった。戦死者は出なかったものの、後味の悪い結末であった。

 

 

 * * *

 

 

 第二層の入り口の扉を開けたキリトは、端から端まで連なっているテーブル状の岩山が見える絶景を少しの間だけ堪能した後、階段を下って主街区へと向かっていた。

 周りは乾いた荒れ地。所々に生えている柔らかい緑の草。そんなサバンナ地帯をキリトは歩いている。

 その時もキリトは考えていた。これから自分が浮遊城で孤立することは容易に想像できる。どこも自分を受け入れはしない。

 だがベータテスト時代も、サービス初日ではじまりの街を出てからトールバーナに来るまでも一人(ソロ)だった。その時に戻るだけだと言い聞かせた。

 やがて、第二層の主街区《ウルバス》へと辿り着く。南のゲートから入ると、【INNER AREA】の表示が浮かんでBGMも変わるが、ほぼ同時にメッセージが届く音声が耳に響く。

 ウインドウを開いて確認すると、リクからだった。すぐに内容を確認する。

 

 

 

 お前が嘘をついた理由、俺達は分かってる。正直、これからお前とどう接していけばいいのか、まだ分からない。けど、これだけは伝えておく。

 俺達は、キリトの味方だ。

 

 

 

 メッセを読み終えたキリトは口を僅かに綻ばせた。ウインドウを閉じると、有効化(アクティベート)するべく街の転移門のある場所へと歩き始める。

 

 

 * * *

 

 

「…………まあ、こんなところだ」

 

「おいおい、マジかよぉ……」

 

 キリトが話し終えると、クラインは困惑気味になってしまう。

 SAOで初めてできた親友はかなり危なっかしいことをしてきたのは知ってるが、敵意をあえて自分に向けさせるなどできるものではない。

 

「……なんで黙ってたの?」

 

 リーファは聞かずにはいれられなかった。元テスター達がリソースを独占していたという噂、大事な兄がビーターとして新規プレイヤー達に敵意を向けられていたことは聞いていたが、そこにキバオウが関わっていたことを今日まで知らずにいたのだ。

「もし言ってたら、キバオウに食って掛かってただろ。そうなったら、また色々と面倒だったから。もうクリアしたとはいえ、黙ってたのは悪かったって思ってる。でもスグだって、俺を追いかけるためにSAOにログインして、母さんと父さんに心配かけさせたじゃないか」

 

「うっ……」

 

 そこまで言われたリーファは言い返す言葉がなかった。さらにマーベラスとエトワール、スバルは畳み掛けるように諭す。

 

「最悪の事態を回避するために、キリトはビーターという汚名をあえて被った。そのせいで苦しい思いをしてきたけど、たとえ離れていても一人じゃなかった。戦い続けてこられたのも、君やみんながいたからじゃないか」

 

「私だってキリトのことは心配だったし、キバオウやジェネラルのこと許したわけじゃないよ。でも最後はみんなで百層クリアしたじゃん」

 

「ああ、最後は黒の剣士っていうヒーローとして認められただろ」

 

 そこまで言われ、リーファは「はぁ」とため息をついて観念した。

 

「だったら、これからは無茶しないでよ」

 

「……ああ、分かってる」

 

 キリトはふてくされる妹に笑顔で返したが、内心では我ながらズルく言い返したと反省する。

 

「みんなー、新しいお肉が焼けたよー」

 

 話の途中でエギルに呼ばれたアスナが、ちょうどスペアリブの乗った皿を持ってきてテーブルの上に置いた。焼きたてだけあって、肉からは香ばしい香りが漂っている。

 

「おっ、うまそうだな! 焼色も良さそうだし……」

 

「お兄ちゃん、話を逸らそうとしてない?」

 

 半眼になるリーファに周りのみんなは苦笑いだ。そもそも同じ肉をさっき食べたばかりである。

 

「よし、肉は熱いうちに食べないとな!」

 

「そうだな。じゃあ、俺はこれで」

 

「オレはこれだな」

 

「あ、カストルさんにポルックスさんずるい! それ大きい肉じゃないですか!」

 

 それでも強引に食べ物の事に持っていこうとするキリトに便乗する形で双子の兄弟は肉を先に選び、リーファは抗議する。しかし周りのみんなも続くように「オレっちはこれデ」「俺ぁ、これだな」と続いて選び始める。

 

「ちょ、ちょっと待ってよ――――‼」

 

 それからリーファは肉選びに気を取られ、先程の話をそっちのけにしてしまったのだった。

 

 

 




 第一層編、これにて完結! 何とかアイメモ二周年に投稿できました。

 色々と書きたい事はありますが、まず本編の内容を補足します。

 ・『キリトの旅立ち』で「ウソダドンドコドーン‼」、「おのれ、茅場――――‼」と叫んだのはパロキャラではなく、原作のシリーズの熱烈なファン二人組です。もうお分かりの読者もいると思いますが、アイメモは時折シリアスをぶち壊すセリフもありますので、それも含めて楽しんでいただけたら幸いです。

 ・原作でディアベルがキリトのアニールブレードを、キバオウを仲買人として39800コルで買い取ろうとする場面がありますが、アイメモではその代金の一部はポーション代に使われています。少しネタバレになりますが、残りの代金も青髪のナイトさんは陰ながら支援するために使います。

 ここからは修正箇所です。

 ・『獣人の王』でコハルとレグルスが取り巻きに放った短剣の刺突系ソードスキルの名前は《スティング》になりました。

 ・『ディアベルの決断』で、Zがディアベルを助けるべくタゲを取ろうとスローイングナイフをボスに向かって投げつけますが、その前の動作を《片手直剣を鞘に収める》から《右手から左手に持ち替える》に変えました。後に気づいたのですが、利き手で投擲スキルを放つためとはいえ、いちいち武器を背中の鞘に収めるのは効率が悪い気がしたのです。

 至らないところもありましたが、アイメモは何とか続けられています。
 それと、かなり遅れましたがIFは(まだキリトと主人公の戦いは続いていますが)百層クリアされました。アイメモでは違うラストを考えています。
 次回は久しぶりのアイラジです。リズとシリカのやり取りを久しぶりに楽しんでください。


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