ソードアート・オンライン インテグラルファクターX ーアインクラッド・メモリーズー 作:No 77777
2022年 12月4日
第一層攻略後、キリト、アキュラがそれぞれ抜けたキリト隊、ジョーカー隊メンバー、マーベラスと双子の兄弟は螺旋階段を登りきり、第二層へとやってきた。
出口は断崖の絶壁の中腹で、みんなはそこから少しの間だけ絶景を楽しみ、近くの階段を降りて主街区《エルバス》へと向かった。到着したあとは解散し、キリトが気になるエトワールはスバル、レグルスと共に街の観光を楽しみつつ探し始める。
「うーん、キリト見つかんないなー」
エルバスの街をある程度歩き回ったエトワール達だったが、目当ての黒髪の少年剣士は見つからない。
「多分、もうこの街にはいないかもな」
今後、ビーターの悪名を持つキリトの噂が広がっていくことを考えれば、スバルの言う通り、次の街を拠点にするのが最善だろう。周囲から冷たい目で見られるのを少しでも避けるためにはそれしかない。
エトワールもそれは分かっている。だが、アインクラッドの今後のために悪者になったキリトをどうしても一人にはできない。街についた後、リクから「みんなはどうする?」と尋ねられた際、迷わず「キリトを探してくる」と言って別れたくらいだ。
ジョーカー、クロム、ヒロもそんなエトワールの気持ちは理解している。親睦会では、三人も《メダイ》まで仲間達と一緒だったと話していた。だが再開したZに「フロアボス戦に参加してほしい」と頼まれた時、悩んだ上でみんなを街に置いて参加を決意したのだ。
だが、どうして仲間達を置いていく必要があったのか? みんなも一緒に連れて来れば良かったはず。
それに関しては、ジョーカーによるとZは、口では実力不足だと言っていたそうだ。しかし、本当は違う気がするとのこと。最初の攻略会議で起きた元テスター達への糾弾を考えれば、そこに本当の理由があるのかもしれない。
とにかく、ジョーカー達も置いてきた仲間達の事が心配なのだ。三人も昨日の夜に『はじまりの街』で待ち合わせするメッセを送っており、再開するために転移門広場へと向かったのだ。犠牲がなければ、今頃は互いの無事を確かめあって喜んでいることだろう。
「姉貴、何か食わないか? 流石に腹減ったぜ」
弟に言われて、エトワールはまだ昼食を取ってなかったことを思い出した。時刻はもう十四時になる。このまま夜まで飲まず食わずなのは流石にきつい。
「そうだね。で、何にする?」
「あそこにしようぜ」
スバルが迷わず指を差した方向は、『B・B cafe』と書かれた看板が立て掛けてある店だった。
「いいけど、どういう店なのかな?」
「ハンバーガー屋だ。ベータテスト時代に寄ったんだけどよ、美味かったぜ。肉の味はもちろん、チーズはとろけてるし、トマトの酸味も効いてる。当時のプレイヤー達の間でも人気の店だった」
(道理でタイミングがいい上に、すぐに指を差せたはずだ)
腹が減ったところで、ちょうど視界に美味い飯がある店を見つけたのだ。絶好の機会と言わんばかりにスバルが食事の話を切り出したのだとレグルスは察した。レグルス自身も空腹だったのでありがたいが。
「よし、じゃあ何か食べよ! あ、ところでお店のBってどういう意味かな?」
「ハンバーガー屋だからな。それぞれbeef、bunsの頭文字から取ってるんだと思うぜ」
店名の意味をスバルから聞いたエトワールは、聞いておきながら「へえー」と相槌を打ち、店へと入っていった。スバルとレグルスも後に続く。
中に入って「いらっしゃいませ」と声がすると、エトワール達は店内を見渡す。一般に昼食を取る時間帯を過ぎていたこともあって、所々に空席がある。第二層が有効化してからまだ間もないのもあるが好都合であった。そう思っていた三人は偶然、店の隅にあるテーブル席に見覚えのある三人組の男を見つけた。
一人は金髪の優男、残りの二人は瓜二つの顔をしており、片方は眼鏡を掛けている。見間違いようがない。
「やあ、奇遇だね」
やがて三人がこちらに気づき、優男が笑顔で声を掛ける。
「マーベラス。それにカストルとポルックスも。やっぱりここで食事?」
「食事はもう終えたから、今はコーヒーを飲みながら今後の事を話し合ってたところだよ。あ、隣のテーブルが開いてるよ」
マーベラスに勧められて、エトワールは「じゃあ、遠慮なく」と返してスバル、レグルスと共に席に着いた。
「それで、話していたのは攻略についてか?」
レグルスが訪ねると、マーベラスは「まあね」と肯定した。
「僕らが攻略に乗り出したのは、最前線にいたプレイヤー達の勢いに影響されたところもある。第一層を攻略した後に続けるかどうかは深く考えてなかった。でも、続けることにしたよ。キリトのことが気になるから……」
「キリトはアインクラッド全体のために悪役になった。間近でそれを見たら、どうしても無視することができなくて……」
「特にオレは、同じ元テスターだからな。アイツに守られたこと思うと、このまま借りを作ったままにできねえ」
金髪の紳士と双子の兄弟の表情は真剣だ。この浮遊城では自分の事で手一杯になる人が多い。だから情報を独占して生き延びようとする元テスターが現れた。それなのに、一人のために最前線で戦い続けようとする三人は本当にいい人なのだとエトワール達は思った。
「でも、キリトが攻略を続けるって限らないじゃん。周囲から疎まれるのは目に見えてるし……」
ビーターの噂はすぐに広がっていくだろう。エトワールの言う通り、これから大多数のプレイヤー達が噂を信じてキリトを敵視することは容易に想像できる。そんな茨の道を歩き続けるなんてできるだろうか?
「それでも、彼は攻略を続けると思う。僕はそんな気がする……」
マーベラスの可能性にはなんの根拠もない。だが他の五人もそんな予感がしていた。
かつてエトワール達は、店のオンリーワン商品である指輪を巡ってジェネラル達と諍いになり、こっちが先に購入したにも関わらず、向こうは俺達に売れと迫ってきた。周りにいたプレイヤーはきっと面倒事に関わりたくなかったはず。
なのにキリトは介入してきた。ベータテスト時代にスバルと知り合いだったというのも理由だろうが、それだけで人助けなどしない。フロアボス戦の時も、一人で獣人の王を引き付けていたZに加勢しにいったのだ。
だから、キリトはどんなに苦しくても攻略を続ける。
「それで、君たちはどうするんだい?」
「私は…………」
マーベラスに尋ねられ、エトワールはスバルとレグルスに視線を向ける。彼女の気持ちを察してか、実の弟と幼馴染は微笑んで頷いた。俺達も気持ちは同じ。言葉に出さずともそう言ってるのが分かる。だから再びマーベラス達の方を向き、エトワールは自分の決意を告げた。
「攻略を続けたい。私は、キリトを助けたい」
「姉貴ならそう言うと思ったよ。俺も同じ気持ちだ」
「デュエルをしてほしいという俺の我儘を聞いてくれたキリトは、俺にとって友だ。見捨てることはできんな」
エトワール達も覚悟は決まっている。一人過酷な道を進もうとしている少年剣士の味方であるために戦う。それが六人全員の意思であった。それを感じたのか、マーベラスは微笑んだ。
「カストル、ポルックス、さっそく僕らの戦力が増えそうだよ」
「「…………へ?」」
「え、なに……?」
双子の兄弟は間抜けな声を出して固まってしまい、エトワールも状況が飲み込めていない。だが、そんなことなどお構いなしにマーベラスは話し続ける。
「実はね、攻略をする際に戦力を上げようかっていう話になってたんだ。そのためにギルドを作って、攻略を志すプレイヤーを集めようっていう案が出た。エトワール、スバル、レグルス、僕たちと組まないかい?」
「あ、そういうこと」
エトワール達にとっては悪くない話だ。フィールドに出るにしても戦力は多いほうがいいし、同じ思いで攻略する気の合う仲間ならなお心強い。しかし……
「マーベラス、勝手に話を進めないでくれ!」
「お前、オレたちがリアル女子苦手なの分かってるだろ!」
双子の兄弟が待ったをかける。今までそんな弱点があるとは知らなかったエトワール達は目を丸くする。
「え……そう、だったの?」
「親睦会の時は黙ってたけど、二人は母と姉の影響で女性に苦手意識があるんだ」
「でも、攻略のときはそんな様子なかったじゃん」
「エトワールがそう思うのは、それを感じさせないほど二人が成長したってことだよ。昔は女子に対してまともに話せなかったり、最悪の場合には口ゲンカにもなったりしたからね。そこのところは分かってあげてほしい」
「親睦会で他のプレイヤーとパーティーを組もうという話になった際は、そのことを打ち明けようとも思った。けど女の子を差別しているように思われるのも嫌だし、あの時はミトとコハルもいたからな。三人まとまるよりはいいかと思ってたんだ」
「まあ、アイツらがいいヤツだっていうのは分かってるけどよ、おふくろと姉の植え付けたトラウマのせいで、どうしてもな……」
げんなりと話す双子の兄弟を見てると、エトワール達はどうしても憐れみを感じてしまう。
「けどポルックス、そんなの初耳だぞ。それでよく《クロス・ロード》でシエル、ジュンとうまくやっていけたな」
スバルの言う《クロス・ロード》とは、かつてベータテスト時代にポルックス、スバルが所属していたギルドである。メンバーは先の二人に加えてリーダーのジョーカー、サブリーダーのクロム、他のメンバーはスバルの口から出たシエルとジュン、そしてヒロの七人だ。
命名したのはヒロで、元々は違う道を歩んでいたプレイヤー達が仮想世界を通じて出会ったことを『道が交差した』と例える感じで名付けたのだ。
「まあ、あの時は性別を偽ることもできたからな。ネカマプレイをしているって勝手に思うことにしたから、大丈夫だった」
「いや、さすがに中身が男だってこと前提にするなんて酷くない⁉」
「MMORPGの人口は男が圧倒的に多いんだよ。実際、かわいい女の子が実は冴えない男だったっていうのは、初日で分かっただろ」
「ま、まあ……確かに」
ポルックスの歯に衣着せぬ言葉にエトワールは抗議するが、事実を言われて言い返せなかった。あの日、エトワールも《はじまりの街》の中央広場へ強制テレポートされた時にスバルとレグルスが近くにいるか確かめるために周囲を眺めたが、近くにルックスのいい女性が何十人かいた。しかしリアルの姿と同じにされた際、代わりにそこにいたのは野郎共だったという衝撃は今も頭から離れない。
「……それで、マーベラスは何でエトワール達を誘うんだ? ただ単にレディだからっていう理由なら怒るぞ」
カストルに尋ねられた金髪の紳士は「そうだね……」と言いながら、冷静に説明する。
「理由は三つある。一つ目は、パーティーを組んだことのある君たちなら上手く連携できると思ったから。二つめは、単純に三人とも強いから。キバオウさんのように攻略を掲げるプレイヤーが、志を同じくする人々を集めることを考えれば、優秀な戦力は早く確保しておきたいんだ」
「まあ、キバオウとは絶対に組まないけどね」
辛辣な物言いのエトワールにスバルとレグルスも頷く。元テスターである身内と仲間を避難した人と組めるはずがない。
「それで、三つ目なんだけど……その前にエトワール……」
「な、なに…………?」
マーベラスの優しそうで真っ直ぐな瞳に見つめられたエトワールは、緊張しながら次の言葉を待っている。
やがて出てきたのは、意表を突くものであった。
「君は、キリトのことが好きなんだよね?」
「……………………」
突然の一言に、しばらく固まってしまう。やがて段々と顔は赤くなっていき、エトワールの思考回路は暴走を始める。
「ななな、なに言ってるの⁉ わわわ私はキリトに助けられてから気になったし、ししし親睦会にいたときは再開できて嬉しかったし、かかか彼とパーティー組みたかったし、いいい一緒に攻略したいって思ったし、だだだだからキリトが責められるの許せなかったし、ななな何もできなかった自分が情けないし、だだだだから街を探してたし――」
「姉貴、落ち着け!」
「思っていたことが口から漏れてるぞ!」
「――――はっ!」
弟と幼馴染に肩を揺らされ、エトワールはようやく我に返った。
「い、いや、違うのみんな! 私は――」
「気づいてた。何年、姉貴の弟やってると思ってんだ」
「一人の男に積極的になるなど、少し前までなかったからな」
「うぅっ……」
男女問わずモテる長身の美少女は、恥ずかしくなってしまう。まさか弟と幼馴染にもバレてたとは。
エトワール自身も感じていたことだ。どんなに男が寄ってきても、誰か一人が気になるということはなかった。キリトに助けられたあの日までは。
今日、エトワールは初めて分かった。自分はキリトが好きという気持ちが意外と周囲に分かりやすいものだと言うことを。
1話で完結させるはずが、前後編になってしまいました。理由は、思ったより長くなってしまったこと、さらに前から考えていたエピソードをこのタイミングで書こうと思ったからです。
あと活動報告でも書きましたが、『新たな来客』においてスバルの説明を以下のように書き換えました。
弟の方も背が高くてかっこいいルックスをしているが、女性には口べたで、SAOの囚われる前は姉としかまともに話せなかった。しかしサチとの出会いをきっかけに変わり始め、やがて両思いとなったのだ。
↓
弟の方も背が高くてかっこいいルックスをしているが、姉とは違って普通の性格である。異性にはモテているものの、恋人にしたいと思えるような女の子を見つけられずにいたが、SAOでサチと出会って両思いとなった。
理由
・今までの話でスバルが女性には口べたという表現がされていなかったから
・書いた当初は色々と話を考えていたが、月日が立つにつれて忘れてしまった。
・これから先書いていく話は、最初に考えていたころのものとは違うものになっているから。
以上のことから、修正へと踏み切りました。
さて、次の話を少しだけネタバレさせてもらいますと、後のD・Sとなる6人に新たな出会いが訪れます。お楽しみに。