ソードアート・オンライン インテグラルファクターX ーアインクラッド・メモリーズー 作:No 77777
「それで、エトワールはキリトが好きっていうことがどう関係しているんだ?」
「まさか、恋を応援してあげようってことじゃないだろーな?」
カストルは疑問を口にしてポルックスは訝しむが、マーベラスは首を横に振る。
「いやいや、合理的な理由だよ。エトワールはキリトが絡んだら、冷静さを失いそうだからね。彼女自身が無茶をするかもしれないし、そこをフォローしようってことだよ」
「え、私ってそんなに危なっかしい⁉」
「まあ、最近の姉貴はな……」
「キリトとパーティーを組んだ時のお前は、どこかいいところを見せようという雰囲気が強かったからな」
「……まあ、スバルとレグルスがそう言うなら、そうなんだろうね…………」
戦闘時にも心配されていたとは。エトワールは恋にうつつを抜かす自分が情けなく思えてきた。
「マーベラス、俺はお前らと組むのに賛成だ。レグルスは?」
「俺も構わない。エトワール、どうする?」
「……じゃあ、組むことにする」
全会一致で金髪の紳士の提案に乗ることにした。三人とも今のままで攻略を続けたら、本当に命を落としかねない気がしたからだ。
エトワール達の意思を確認したマーベラスは、今度は双子の兄弟に確認する。
「三人ともOKみたいだけど、どうする?」
「……まあ、一人ぐらいならいいだろう。お前は女性を助けたがる紳士だからな……」
「ま、顔見知りになったヤツが危なっかしいって分かった以上、死んじまったら気分が悪いからな……」
諦めたように賛成した。この時双子の兄弟は、後にギルドを結成して仲間を増やすにしても、女性がたくさん増えることはないだろうと思っていた。
お互いに手を組むことになったマーベラスとエトワールは席を立ち、互いに向き合う。
「それじゃ、エトワール。これからよろしく」
「こっちこそ、よろしくね」
二人は共に右手を前に出して手と手を握り合い、握手を交わした。
これが、後にD・Sと呼ばれるギルドの初期メンバーが揃った瞬間である。
「姉貴、そろそろ飯食わないか?」
「あ……そうだね」
そもそも、エトワール達がここに来たのは昼食を取るためだ。マーベラス達と攻略の話をしていたので、すっかり忘れてしまっていた。
それから三人は店のオススメであるチーズミートバーガーを注文。とろけるチーズを載せた肉の上にミートソースがかかっており、その上に輪切りにしたトマトが乗っかり、それらをまとめてバンズで挟んである。一口食べると、それらが上手く合わさって絶妙な味わいを出していた。
エトワール達は昼食を取りながら、マーベラス達とこれからの方針、フィールドに出た時の作戦、明日の行動を話し合う。食後は道具屋でポーションや携行食類、入荷の早い攻略本(こちらはタダ)を購入し、目ぼしいクエストを受注して同じ宿に宿泊。こうして一日を終えたのだった。
* * *
2022年 12月5日
「うわー、みんな必死で狩ってる」
サバンナ地帯でプレイヤーの集団がモンスターを倒している。そんな光景を見ていたエトワールは何気なく言った。
「それほどまでに強くなりたいってことだ」
スバルの言う通り、ベテランのMMORPGプレイヤーは得られるリソースが限られていることを知っている。恐らく情報を独占する悪いテスターか、キバオウ達のような攻略を掲げるプレイヤー達だろう。
現在、マーベラス達は昨日の食後に受注した討伐系クエストのターゲットがいる場所に向かっている最中だ。目当てのモンスターは《ウインドワスプ》という全長五十センチの蜂型モンスター。出現場所はウルバスの西門から出て南西へ向かった場所で、草原を分断する広い峡谷に架かった石橋を渡り終えたその先にいる。
橋を渡って歩くこと数分、先頭にいたマーベラスが盾を装備した左手を横に出して列を止める。
前方に見えるのは、黒地に緑色の縞模様をしている人間の頭部より大きい蜂だ。羽を高速でばたつかせながら宙に浮いて動いており、所々にいる。
「ポルックス、スバル、あれかい?」
攻略本に特徴は書かれていたが、確認のため元テスターの二人に尋ねるマーベラス。それぞれ「ああ」「間違いない」と確信を持って答える。
「よし、なら作戦通りに行こう」
みんな頷くと、三組に分かれてそれぞれ得物へと向かっていく。マーベラスはエトワール、カストルはスバル、ポルックスはレグルスがパートナーだ。
この
さっそくマーベラスとエトワールは蜂の
攻略本と元テスターの仲間二人の情報では、その後に振動音を響かせてから急降下するのだが、ここから攻撃パターンは二種類に分けられる。蜂の体がまっすぐなら大顎による噛みつき攻撃、くの字に曲がっていれば毒針による刺突攻撃、それを見極める必要がある。
蜂はマーベラスの方に顔を向ける。体は……くの字型だ。
(……来た‼)
蜂はおしりの針を突き出して突進してくるが、金髪の紳士は多少の恐怖に抗いながら勇敢に盾で受け止める。蜂は一.五秒の
正確さを鍛えた武器で弱点を狙う際、ソードスキルなら弱点に当たるようシステムが起動修正してくれる。だがマーベラスは、かつてフェンシングの将来を有望視されていただけあってプレイヤー個人の動体視力が高い。敵に隙さえあれば、ほぼ確実に刺突を相手の急所に当てられる。
ノックバックで後ろに飛ばされたウインドワスプは再びホバリング。今度は体をまっすぐにしているため、噛みつき攻撃だ。これもマーベラスは盾を使って防ぐ。
「エトワール!」
「オッケー!」
マーベラスは合図とともに大きくバックステップし、高身長の美少女が前へ出ながらサーベルを右斜上へ構える。武器がライトエフェクトを放つと、蜂に向かって左斜め下へと切り下ろし、そのまま流れるように右斜め下へと斬撃を放つ。二撃目は弱点に当たった。
曲刀二連撃ソードスキル《アルファ・ドロー》。名前の通りαの文字を描くかのような技は華麗に決まり、ウインドワスプのHPは0になって飛散した。
「見事だね」
「うん、この調子で倒していこ!」
それからマーベラス達は勢いよくワスプを狩っていった。三組とも同じくらいのペースで進んでいき、それぞれ七匹倒した時点でストップ。ノルマの二十匹をあっという間に超えた。誰かがピンチになった時はすぐ駆けつけるよう事前に話していたが、今回は大丈夫であった。
「とりあえず目標は達成できたね。一旦、引き上げよう」
「そうだな。情報のおかげで問題が起きなかったとはいえ、慣れてない敵との戦いは精神的な疲労が溜まる。欲張るのは危険だ」
「だね。針攻撃を防いだり、弱点にソードスキル当てるのって神経使うし」
「ああ、レベルも上がったしな。これで十分だろ」
マーベラスの判断にレグルスとエトワール、スバルも同意し、双子の兄弟も頷く。ウルバスへ戻ってノルマ達成の報告もしなければならないし、ここに留まり続ければ、たちの悪い元テスターが現れて狩り場を独占している、などといちゃもんをつけられてしまう可能性もなくはない。
蜂がリポップする前にこの場を離れよう。皆がそう思った時だった。
「みんな、逃げろ――――っ‼」
少年と思わしき叫び声が南側から聞こえた。振り向いたマーベラス達の視界に入ったのは、全力で走っている少年四人と少女一人、地面を潜ったり出たりを繰り返しながら彼らを追いかける巨大ミミズだ。ミミズは薄い茶色の体色をしており、大きな口の周りには三本の触手が均等に生えている。
巨大ミミズの正体は《ジャグド・ワーム》。口から出す酸性の体液攻撃は盾と金属防具の耐久値をかなり減らすため、第二層のmobの中では強敵だ。
「みんな、助けよう! スバル、ポルックス、どちらか指示を出してくれないかな?」
「俺がやる。ポルックス、いいよな?」
「ああ、任せた」
「よし、行こう!」
マーベラスの指示で、全員が襲われているパーティーに助太刀すべく巨大ミミズに向かっていった。
* * *
「助かったよ、本当にありがとう!」
「どういたしまして」
パーティーのリーダーと思わしき少年にお礼を言われ、マーベラスは爽やかな笑顔を返した。
とはいえ、《ジャグド・ワーム》との戦闘は大変だった。弱点は口元なのだが、高さと敵の移動手段のせいで攻撃を当てるチャンスが限られており、そこに当てるのにかなりの神経を使った。スバルの指示で、斜め上へ突く細剣ソードスキル《ストリーク》を使えるマーベラスと下段から突き上げを放つ短剣ソードスキル《ケイナイン》を習得しているレグルスを主軸に戦ったため長期戦にはならず、体液攻撃を受けても盾と防具を消失せずに済んだ。
「とりあえず、まず主街区まで戻ろっか。せっかくだし、送ってあげる」
エトワールの一言で、みんな来た道を引き返す。石橋を渡り、しばらく歩いてウルバスへと帰還した。助けたパーティーから再び「ありがとう」とお礼を言われたが、スバルは思っていた疑問を口にする。
「それで、どうしてあそこで狩りをしていたんだ? 《ジャグド・ワーム》が出てくることは、攻略本に書かれていただろ」
「いや、最初は主街区の周りでレベル上げをしようって話だったんだ。でも既に他のプレイヤーが陣取っていて、俺達が狩ってるから他所にいけ! って言われてしまって……それで、あそこまで来たんだけど……そこも君たちがいたから場所を移動して……」
「いつの間にか、あの場所まで来てしまったということだね……」
マーベラスは頭を抱えた。帰る途中もまだ同じ連中が居座っていたことを考えると、狩り場を独占しているとしか思えない。盾と防具の耐久値が減少していたので戦闘は避けたいと思ってたが、そのおかげで敵と戦わずに帰ることができたのは皮肉なものだ。
「ところで、皆さん強かったですね。もしかして、攻略組ですか?」
「え……まあ、僕たちはフロアボス戦に参加してるし、これから攻略を目指すから、そうなるかな」
突然聞かれて少し戸惑ったマーベラスだったが、落ち着いて答えると少年達はパッと明るくなる。
「そうだったんですか! 実は俺たちも攻略を目指してるんです!」
「そ、そうなんだ……」
マーベラスと仲間達は複雑な気持ちだった。攻略のために戦力が増えるのはいいが、プレイヤーが命を危険に晒すリスクも大きくなるからだ。
「今はまだ未熟ですけど、いつかは最前線で戦いたいって思ってるんです! SAOに閉じ込められたみんなのために戦っている最前線プレイヤーの皆さんの力になりたいんです!」
「なるほど……それなら君、僕とフレンド登録をしないかい?」
「えっ?」
マーベラスの突然の申し出に、少年はもちろん周囲も目を丸くする。
「こうして会えたのも何かの縁だし、僕たちから最前線の情報も聞ける。悪くないと思うけど?」
「そ、それならお願いします! 今はまだお金が無くて大したお礼ができませんけど、いつかは返したいと思ってますので、ぜひ!」
こうしてマーベラスは、自己紹介でケイタと名乗ったプレイヤーとフレンド登録をしたのだった。
* * *
ケイタ達を別れた後、マーベラス達は近くのカフェでコーヒーを飲んでいたが、突然カストルが尋ねる。
「マーベラス、何でフレンド登録をしようって言ったんだ?」
「……単純に、彼らが心配だったからだよ」
口につけていたコーヒーカップを静かに置いたマーベラスは、至って真剣な表情で答えた。
「ケイタ達は、フロアボス戦に参加した僕たちをヒーローのように見ている。そこがどこか危なっかしい気がするんだ」
攻略の際、目標を同じくする仲間達と団結しようという理想ばかりではないことをマーベラス達は分かっている。最初の攻略会議で起きた元テスター達への糾弾、攻略後のキリトとZへの非難、ああいった諍いはこれからも起きていくような気がした。
「交流を持つことで相談にも乗れるし、最前線の現状を教えることもできる。その上で自分たちが本当に攻略を目指すべきかどうかを考えてほしいんだ」
「そうは言うけどよ、マーベラス。あのサチって女の子は他の奴らと違って、攻略に乗り気って感じじゃなかった」
「うん。見た感じ、進んで戦うタイプじゃなかったね」
「ああ、僕もそんな気はしてたよ」
スバルとエトワールがサチに抱いていた不安そうな印象は、マーベラスも同じだ。みんなが攻略する気でいるから、本当はしたくないと言い出せないのかもしれない。
「でも、僕たちの思い違いっていう可能性もある。そこのところも踏まえてコミュニケーションを取っていこうと思う。もし思った通りで、ケイタ達がサチの意思を無視するなら、その時は引き離すことも考えよう」
「さすが、どの女性も平等に愛する紳士は大胆な事を言うなあ」
ポルックスの皮肉な言葉に、マーベラスは「まあね」と嫌味なく返した。
「とはいえ、あまりホイホイとフレンド登録を持ちかけないほうがいい。世の中には、有名人と知り合いになった事をひけらかす輩もいるからな」
「うん、忠告ありがとう、レグルス」
こうしてマーベラス達は、後にギルド《月夜の黒猫団》を結成するメンバーと交流を持つようになったのだった。
思ったより長くなってしまいました。前回は中途半端に区切った気がしましたが、400字原稿用紙18枚分になったことで、より一層強くなった感じです。
なお、曲刀二連撃ソードスキル《アルファ・ドロー》は本作オリジナルのソードスキルです。