ソードアート・オンライン インテグラルファクターX ーアインクラッド・メモリーズー 作:No 77777
「…………はあ、簡単には見つからないか」
リクはため息をつきながら、中央広場の真ん中にあるモニュメントに立ってもたれていた。
SAOにログインした時、リクはまずベータテストの最終日に出会った少女を探してみることにした。
浮遊城に降り立った時にも既にたくさんのプレイヤーがいたが、ほぼ全員がベータテスターであるとリクは推測した。彼らはベータテスト時代のアバターをそのまま引き継ぐことができるため、キャラクター作成の時間を省略できるからだ。
もし目的の少女がサービス開始時刻と同時にログインし、ベータテスト時代と同じアバターを使用しているならば、今のタイミングが見つけやすい。リクはそう思って早速行動に出たのだが、十五分広場を歩き回ってもなかなか見つからなかった。
無理もない。サービス開始時刻にログインしたとはいえ、その時既に八百人近くのプレイヤーがいたのだ。リクもザッと周りを見渡したが、正確な数が分からなくとも、それだけの集団の中で一人を見つけるのが簡単でないことは察していた。
だが、こちらはベータテスト時代と同じアバターであるが故に、向こうがこちらを見つけてくれるかもしれないという期待もあったため、そんなに時間は掛からないだろうとも思っていたのだ。
都合よく考えれば、ベータ時とは違うアバターにしているか、外せない予定ができて遅れているか、あるいは今日はログインできない状況にあるということになる。だが、悪く考えればただの口約束だったのかもしれない。
(さてと、どうしようか……)
「あの、すみません。もしかして……」
「うん?」
リクが次の行動を考えていた時だった。声がした方向に視線を向けると、そこには少女がいた。セミロングの黒髪で、清楚さを感じさせるルックスである。
その姿は正しく、リクが探していた少女の姿そのものであった。
「やっぱりリクだった!」
「コハル!」
ベータテストで出会った二人が、一ヶ月の時を経て再開した瞬間であった。互いに喜びで溢れている表情で走り寄る。
「もうプレイヤーがわんさかいるっていうのに、よく見つけられたな」
「ベータのときとおんなじアバターなんだもん。すぐわかったよ」
「まあ、それもそうだな。見つけてもらうために、前と同じ姿にしたんだからな」
「私もリクがわかるように、ベータと一緒にしてたんだ」
「そりゃ良かった。互いに姿が変わってたら、見つけるまでに日が暮れるところだったな」
「もう、リクったら」
二人は笑い合いながら言葉のキャッチボールを交わし合う。その様子は、周りから見れば仲のいいカップル以外の何物でもない。
「それじゃ、改めてよろしくな、コハル」
「うん。よろしくね、リク。それで、えっと……さっそくなんだけど……」
コハルは歯切れが悪くなってしまう。リクは何か問題があるのだろうかと思いつつも、次の言葉を待つ。
「またバトルのやり方を教えてもらっていい? 久しぶりで自信がないの」
「なんだ、そんなことか。構わないぜ」
「ありがとう!」
リクは笑顔で承諾し、コハルは嬉しそうに感謝を述べた。ベータテストの最終日でようやくまともに戦えるようになったのだ。そんな素人が一ヶ月ものブランクがあれば、不安になるのも仕方がない。
「その前に、まず店で武具と回復アイテムを買いに行くか」
「…………あ」
「どうした?」
何かを思い出して固まったコハルに、リクは心配そうに声を掛ける。
「リク、ごめん。私、お金持ってない!」
「…………え?」
頭を下げたコハルの衝撃発言に、リクは唖然とした。
ベータテスト開始時には、所持金は千コルだったはず。仮に正式版で変動があったとしても、流石にゼロになることはないはず。ちなみにコルとは、SAOの通貨単位である。
「何に使ったんだ?」
「……これに」
コハルが申し訳なく指を指したのは、自分の服の襟に付けているブローチであった。Pの文字と鍵盤が合体したような見た目で、鮮やかな虹色をしている。
「この街のアクセサリー屋で見つけてね、一目見て気に入っちゃったんだ。これ一つにほぼ全額使ったの」
「まあ、気に入ったものがすぐ欲しいっていうのは分かるけど、ここは我慢して、お金に余裕ができてからのほうが良かったんじゃ……」
「ごめんね。でもこれ、店に一つしかなかったんだ。ベータテスト時代がそうだったから」
「そうだったのか」
つまり、コハルがそのブローチを見つけたのはベータテスト時代で、当時も購入して身につけていたということになる。一つしかないと知っていたのも、その時の情報なのだ。
リクも思い返して見ると、初めて出会った時にコハルは虹色のブローチを身につけていた。余程のお気に入りで、正式版が始まったら真っ先に買いに行こうと思ったのだろう。サービス開始時間と同時にログインしたにも関わらず、再開するまでに時間が掛かったのはそういう理由もあったのだということが分かった。
「まあ、過ぎたことは仕方がない。コルは後で稼げるからな。しばらくは俺がフォローするから」
「うん、本当にごめんね」
「いや、謝るよりも礼を言ったほうがいいって。その方がこっちとしても嬉しいから」
「そうだね。ありがとう」
これからパーティーを組むというのに、自分の都合のために足を引っ張ってしまったと思うと申し訳無さを感じてしまうコハルだが、明るい表情で許してくれて気持ちが軽くなった。
「そうだ。まずは所持品を見てみるか」
リクはメニューを開くと、アイテム欄をタッチ。コハルも同じ操作をする。
確認したところ、二人が共通して持っているのは、初めてログインしたプレイヤー全員の初期装備である片手直剣のスモールソードと三つのポーション。他にリクは防具である革製の胸当て、コハルは短剣のスマート・ダガーを所持している。
「俺の防具はいいとして、コハルの分はそうだな……よし、奢りだ。ベータテスト時代のmobを倒した祝いとして」
「いいの? ありがとう」
「それとスマート・ダガーはどうする? 売ってコルにするっていう選択もあるけど、他の武器も試してみたほうがいいんじゃないか?」
「じゃあ、せっかくだし使ってみる」
「よし。そうと決まれば買い物に行くか」
二人はまず必要なものを揃えるべく行動を開始。コハルの革の胸当てといくつかの回復アイテムを購入した後、遂にフィールドへと出たのだった。
* * *
「ぬおっ……とりゃっ……うひええっ!」
《はじまりの街》の外にある《原始の草原》で、一人の男性プレイヤーが奇妙な掛け声を出しながらmobと戦っている。
相手はSAOのキング・オブ・ザコ《フレンジー・ボア》なのだが、まだ戦闘に慣れていないせいで攻撃がまともに当たらない。
剣の振り方は無茶苦茶で、虚しく空気を切るだけ。やがて突進攻撃をまともに受け、勢いで床を転がっていく。
その様子を見ていたもう一人のプレイヤー――キリトは「ははは」と笑い声を上げるが、優しくアドバイスする。
「そうじゃないよ。重要なのは初動のモーションだよ。クライン」
「ってて…… にゃろう」
額に赤いバンダナを巻いた男――クラインは毒づきながらも立ち上がるが、チラリとキリトの方を見て、情けない声を投げ返す。
「ンなこと言ったってよぉ、キリト……アイツ動きやがるしよぉ」
「動くのは当たり前だ、訓練用のカカシじゃないんだぞ。ちょっと見てろ」
キリトはそう言うと、足元に落ちていた小石を左手で拾い上げる。そのまま肩の上でぴたりと構えると、小石は仄かな緑色に輝く。投擲スキル《シングルシュート》の体勢に入ったのだ。そうなれば、後はシステムアシストに身を任せればいい。
キリトが自動的に小石を投げると、それは緑のラインを引きながら真っ直ぐ青イノシシの額に飛んでいき、命中した。
敵はぶきーっ! と怒りの声を上げると、キリトの方に向き直って突進してきたが、《スラント》で逆転の首を切られて返り討ちにされ、ポリゴン片となって消滅した。
「さっき俺がやったように、ちゃんとモーションを起こしてソードスキルを発動させれば、あとはシステムが技を命中させてくれるよ」
「なるほどな。モーション、モーション……」
説明を聞いたクラインは呪文のように呟く。今ので本当に分かっているのかどうかは怪しい。キリトがどう説明すればいいのかと考えていると……
「きゃあああ!」
丘の向こうから悲鳴がした。二人は反応して聞こえた方角を見ると、クラインは首を固定したままキリトに確認する。
「おい、キリト。今、女の悲鳴が聞こえたよな?」
「ああ、確かに聞こえたな」
嫌な予感がしたキリトはクラインの顔を見たが、案の定、赤いバンダナを額に巻いた男の顔は下心のありそうな笑みを浮かべていた。
「よーし、女のピンチに駆けつけなきゃ、男が廃るってもんよ。待ってろ、今助けに行くからな!」
「おい、クライン! お前まだmobすら倒せてないじゃないか!」
キリトの静止を聞かずにクラインは悲鳴が聞こえた方へと走っていった。「はあ」とため息をつきながらも、仕方なくキリトは後を追いかけたのだった。
原作では《投剣》になっている武器スキルを《投擲》に変えました。理由は少しネタバレになってしまうので、今は伏せておきます。ですが、ちゃんと理由はあるため、いつの日か解説できる日を楽しみにしていただけたら幸いです。