地霊殿本編以前は前作で書いてます
本編完結からわりと早く続編を書き始められましたが、如何せん不定期更新なので次話がいつ投稿されるかはわかりません
古の本能
「自分の
「素晴らしい?
地下に閉じ込められてもう五百年にもなる少女には、突然目の前に現れた、これまた幼い背格好の少女の言っていることが理解できない。疎まれ、恐れられたからこそ閉じ込められているというのに、まるでそれを知らないかのようにその能力を褒める。
いや、きっと本当に知らないのだろう、と幽閉された少女は断定する。今まで見たことも無い相手なのだから当然と言えば当然のこと。
そんな少女に構うことなく、勝手に部屋に入った少女はさらに言葉を紡ぐ。
「なんでも壊せるってことは何処へでも行けるってことだよ。この部屋の鍵なんて機能しない。出ようと思えばいつでも出られるのに出ない理由なんて無いわ。それとも外が恐いの?」
「貴方は何も知らないからそんなことが言えるのよ。私はこの能力のせいで495年もこの部屋に閉じ込められっぱなしだった。館内を歩けるようになったのすら最近なのよ」
この部屋の主であり閉じ込められた張本人でもあるフランドール・スカーレット。
彼女の悲痛な叫びはしかし、目の前の少女に届くことは無い。それはフランドールが見てきた世界があまりにも狭いからだ。500年の生の中で495年と言うのはとても長い時間なのであろう。
しかし彼女にとっては残念なことに、千を超える目の前の少女からみた500歳というのはあまりにも幼すぎた。
「私のお姉ちゃんなんてもう千年近くも地下に閉じ込められてるよ。私は嫌だったから逃げ出したけどね。そしたらほら、こんなに世界が広がったわ。まだ五百年でしかないうちに外を経験すべきね。きっと。心配しなくても私が叶えてあげるわ」
実際には古明地こいしの姉、さとりは他者との交流がある中で地底の妖怪として封じられている。地下に閉じ込められているという事実はあれど、フランドールの境遇とは全く違うのだ。
しかしそれを言わず年月の差だけを取り出すこいしの話し方は覚として心理戦で培ったものなのか、はたまた無意識でそうなってしまっただけなのか。答えは神も知らない。
だが、フランドールの心に隙を生じさせることには成功した。心の揺らぎは自分ではなかなか抑制しにくいものだ。さとりの前であったなら間違いなくそこを突かれただろう。
しかし目の前にいるのはこいし。心が読めない彼女には純粋な心理戦が展開できない。だからこそ時にはさとりが聞けば卒倒するような持論を展開することがある。
「大丈夫。ほら、無意識の記憶は意識の記憶より忠実に残るものなんだよ。心の何処かで忘れたくないって思ってるからだろうね」
「な、何言ってるのかよくわからないんだけど。適当な事ばかり言うなら壊しちゃうよ?」
フランドールがそう言うのも当たり前だ。何せこいしはつい先ほど勝手に部屋に入って来ただけの部外者。互いに名乗り合った完全な初対面でレミリアからのお遣いという風でもない。
フランドールはこいしの能力を知らない。だがこいしは当たり前のようにフランドールの能力を知っていたのだ。不気味で今すぐにでも握りつぶしたいのに、こいしには肝心の「目」が見つからない。ならば力で捻じ伏せるか、というところまで考えが進んでいる。
「私を壊しても壊れてしまうのは貴方の心~♪
怯えで本心を隠しているような弱い子に私が負けるはずもなし。貴方の本能は無意識のうちに外に出たいと思ってるよ?」
「そんなわけっ……?! い、いったい何をしたのよ!」
「別に? ただ貴方を手伝ってあげただけ。じゃあね、フランちゃん。また外で遊ぼうね~」
散々勝手をした挙句の果てにそう言って部屋を出るこいし。部屋に入って来た時にスゥっと現れたように、今度は影も形も無くフェードアウトした。とフランドールにはそう見えた。
思わず部屋を出てこいしを追おうとするフランドール。強引に鍵を破壊し、扉を蹴破る勢いで部屋を飛び出して地上に向かっていく。訳の分からぬ部外者をとっ捕まえるため。
空になった地下室の扉は音も無く閉じた。静かな地下牢にカチャリという音さえ残さず。
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嫌な予感がする。目の前に座っている紫さんも。その手に持っている紙も。あれはただの書類ではない。妖怪同士の契約にも用いられる特別な紙だ。
此度の異変に関する罰則でも持って来たか。そう勘繰ってしまうのも無理はない。仕方のなかったこととは言え地上への侵攻とみられてもおかしくはない異変だったのだ。
私の知らない場所で地上に甚大な被害が出てしまったとすれば、いくら事情を知っている紫さんでも私を許さないかもしれない。紫さんの最優先は幻想郷の維持だから。
戒を育てることも考えれば、今の私がボロ雑巾のようになるのはできるだけ避けたいことだ。せめてあと二年は欲しい。二年も経てば怒りも風化する? それを狙っているのだからそれならそれでいいではないか。
「本日はどのような御用で? そんな契約書まで持ってきて」
「提案よ。提案。……別に身構えなくても良いわ。呑んでくれると地上側としてはとてもありがたいわね」
私に危害が及ぶような物ではない、と言いたいのだろうか。
それにしても紫さんがこのような言い方をする時は大抵吞まざるを得ない条件の時なのだ。呑まなければ地底がどうなるかは保障しない、そう暗に言われている気がしてならない。
「先の異変で地底の存在は人間の知るところとなってしまったわ。主に天狗の新聞のせいだけれど。今まではごく一部の例外を除き地上と地底を互いに不可侵としてきたわね。しかしこうなってしまった以上それにも限界がある、というのはさとりも分かっているでしょう?」
つまり地上の二柱が地底に干渉し、さらに地底の資源であるお空の核エネルギーを利用しようとしているとなればもはや不可侵にしておくにも限界があると、そういうことだろう。
確かにそうだ。これ以上不可侵と言い続けても必ず破る者が出てくる。お空の力を求めて、今度は地上から地底へ侵攻してくる恐れも十分にある。だがそれを踏まえても確かにそうだ、と納得できるかと問われればそうでもない。
「そうは言ってもですね、地底には私含め疎まれた妖怪がごまんと存在しますし、地上の妖怪に悪影響を及ぼす怨霊もまた数えきれないほど存在します。地上の解放は確かに益も多いでしょう。しかしそのような存在の管理という損もまた多くなるのではないですか?」
「勿論益だけとは言わないわ。でも少しくらいの損はむしろ楽しむべきではないかしら。少しの自由がある方がむしろ怨霊も大人しくなるかもしれないわよ」
これだ。私には理解しがたい感覚。利だけでなく害もまた楽しみであると捉える強者の感覚。お燐もたまにこんな考え方をする。怨霊の管理がたまに杜撰になっているのもそのせいだ。怨霊を適切に管理することが地底を維持する最善策なのに。
「そう上手くいくでしょうか? つい最近も自由を手にした怨霊が被害を出しましたが」
「あれは、そうね。本当に悪かったと思っているわ。私がもう少し早く気づいていればあんなことにはなっていなかったでしょうに……」
おや、紫さんは先の異変の後始末にそれほどの責任を感じていたのか。紫さんの事だからもっと軽く流す程度のものかと思っていたが。
紫さんの価値観がやはりよくわからない。こちらとしては地上から怨霊を連れ戻してくれたことに感謝しているのだが。
「いえいえ、私は感謝していますよ。
それよりも本題に戻して不可侵条項完全撤廃の件でしたっけ」
確かに損も大きい。怨霊を迂闊に地上に行かせるわけにもいかない上に、地上から地底への流入もまた増えてしまう。そうなればあの人間たちが地底の妖怪に私の事を話さないとも限らなくなる。
対して益の方だが、これは明らかに資源の入手がし易くなる、と言うのが一点。さらに重要な事として、お空に勝手に力を与えた神々が攻めてくる心配も無くなるといったところか。
神とは本当に身勝手なものだ。あちらの方から掟を侵してお空に力を与えたくせに、その力が使えないかもしれないとなれば問答無用でこちらのせいにしてくる。お空は私の家族であり、奴らの道具などではない。
神未満の存在、つまり神以外を同等と認めない高慢さ。人も妖怪も自分たちの道具としか見ないその無情さ。鼻についても私程度ではどうしようもないのだ。
勝てないと思うならば戦うな。と言われているようなものだ。反抗すれば叩き潰される。反抗しなければ軍門に下ったと勝手に思われる。強者はそれが許されてしまうのだ。
万に一つも私に勝ち目はない。大人しく紫さんの提案を受諾するほかないのだ。悲しき弱小妖怪の性である。
「呑みましょう」
面倒ごとに発展する前に芽は潰す。摘むのではない。叩き折る勢いで潰す。
相手が強ければ平身低頭。まるで昔見た天狗のようだ。確か射命丸さんだったか。
「ならばこの書類にサインを。…………ありがとう。これで地上の方の懸念も少なくなったわ。一応言っておくけれど、霊夢をはじめとした人間は滅多に地底に来ないと思うわよ。あの日の貴方は彼女らに随分と深いトラウマを植え付けたようだから」
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慌てて地上に出たフランドール。真っ先に気づいたのは当然館の仕事に従事しているメイド妖精たちだ。彼女が地下から出てくることは滅多にないので当然これは非常事態だ、として彼女らの上司である十六夜咲夜に報告に向かう。
暫くして現れた咲夜が見た
これには当然咲夜も驚きの表情を隠せない。地下から出てくる事自体は稀にあってもこうして走り回っている彼女を見るのは初めてだったからだ。まるで何かに取り憑かれたように急いている様子は、普段地下で籠っている時とは比べ物にならないほどの恐怖を感じさせる。
しかし咲夜も熟練のメイド。動じてもそれを表に出さない程度には精神の統一が上手かった。時間を止めて呼吸を落ち着かせているだけなのかもしれないが、それでも時間をかけずに冷静に戻れるというのは如何なる時でも有利にはたらく。
走り回るフランドールをまずは止めようと咲夜は彼女の前に立ちふさがる。下手を打てば吸血鬼娘の勢いで
しかし彼女は完全なメイド。距離、速度、フランドールの判断まで全て考慮し、完璧な計算に裏打ちされた行動だ。故にフランドールが咲夜と衝突することは無い。
「どうしたのです? 妹様。何か必死に走っておられますが」
「ちょっと邪魔しないでよ咲夜。人探しをしてるんだから…………人探し? あれ? 誰だっけ。さっきまでは覚えてたのに。咲夜に話しかけられたから忘れちゃったじゃない」
無意識に支配された行動は意識の介入によって阻害される。逆もまた然り。無意識にこいしを追っていたはずのフランドールは咲夜を意識してしまったが故にそのことを忘れてしまったのだ。
と言っても完全に忘れ去ったわけではない。会えばまた思い出すだろうし、無意識の層に記憶が残っているうちは引き出すことも不可能ではない。
「? おっしゃる意味がよくわかりませんが…………そもそもそのような事で忘れるような方でしたら無理に探さなくても良いのでは? お名前を憶えておいででしたら私十六夜咲夜が命に代えてもお探しいたしますが」
「誰だっけ…………うーん、こめ……こめい……あー記憶に靄がかかって思い出せない」
これだけ思い出せるだけでも大したものだ。常人ならば一文字すら思い出せないであろう。出会いの少ないフランドールだからこそ、貴重な出会いを何よりも深く心に刻み込むことができたのだろうか。
「……もしや古明地さとりでは? 奴ならば他人の記憶を消すことも容易いはずです」
「あー、確かそんな感じだったかな。うんうん、聞けば聞くほどそんなような気がしてきた。なんで探していたかは覚えてないけど。まあ何でもいいから捕まえてきてね」
そう言ってスッキリしたように地下に戻るフランドール。
何故さとりがフランドールの部屋にいたのかすらわからない上に、地底に籠っている妖怪を連れてこいと言われて困る咲夜。
そして妹の不始末を押し付けられたさとりに安寧は訪れない。
名前だけ出てきた「戒」と言うのが唯一のオリキャラです。初登場は前作の11話かと
詳細はまた出てきた時にでも
さとり様と紫様の会話に違和感を覚えた方は前作も読んでいるとみた
今度こそこいしちゃんをたくさん書いてあげたいという願望だけはあります