古明地さとりは隠居したい   作:小鈴ともえ

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ニコ童祭参加はしてないけどただ見てるだけでも結構楽しいっすよ


はれない疑惑はない

「あやややや……困ったことになったわねぇ」

 

そう言って頭を悩ませているのは鴉天狗の射命丸文。最近は目ぼしいイベントも無く、実際に直近の新聞の発行は間欠泉の異変解決となっている。

しかし彼女はもう一月以上も自分の新聞が発行されていない事実に頭を悩ませているわけではない。様々なイベントが今日という一日集中しすぎて、何を取材すればいいのか、誰に取材すればいいのかを決めかねている間に夕方になってしまった事実に頭を抱えているのだ。

 

普段なら自慢の足の速さでどこへでもすぐに駆け付ける文だが今日ばかりは足が遅かった。いつもなら風の噂として運ばれてくる情報を整理して取材対象をピックアップするのだが、今日は関係の無さそうな事柄がほぼ同時に起こったせいで風の噂から得られる情報がかなり混同していたのだ。

 

巫女が地底へ向かったことと紅魔館が四散したことのどこに共通点があるというのだろうか。

フランドール・スカーレットが消えたという噂の出どころも彼女にはさっぱり分からなかった。数年前彼女に直接取材を敢行した文だ。彼女が地下に引きこもりがちだというのは当然ながら知っていた。

 

だからこそ彼女が行方不明だというのは信じがたかった。しかしもしこれが本当なのだとすれば、文が見つけ出せば紅魔館に貸しを作ることもできるかもしれない。

文も数いる天狗らしく損得勘定で動くことが多い。ネタの宝庫としての霊夢とは違い、紅魔館は大きなイベントを起こすこと場所と捉えている彼女にとって、最速でそのネタを独占できるのは魅力的なのだろう。

 

「困るのは良いけどさ~、それってわざわざ人の家に来てまですることなの?」

 

「引きこもり記者は黙ってなさいよ。そもそも大した取材もしないのに新聞を書くなんて記者として恥ずかしくないのかしら?」

 

「まあ私らは所詮情報部隊でしかないし? 新聞記者ってのもその延長だからね。っていうかあんだけ山を出て外部の情報を嗅ぎまわっている文の方がおかしいと思うんだけど」

 

妖怪の山に棲む妖怪はなるべく外部との接触を避けるべきだという封建的な考えを示すのは彼女の新聞『花果子念報(かかしねんぽう)』を発行する姫海棠はたて。

幻想郷の各地を飛び回って記事を作る文とは正反対に、はたては自身の能力である念写をフル活用して家からほとんど出ることなく新聞を書いている。

 

文が指摘しているのはまさにその部分だ。対象の話を聞かずしてどんな情報が得られるのか、というところである。

それに対するはたての答えは山の組織の中では新聞など大した価値をもたないというものである。確かに新聞大会なるものは開催されているが、それさえも情報屋として嗅ぎまわっていることの延長に過ぎないという主張らしい。

 

「そんなことを言っているからいつまで立っても貴方の新聞は妄想新聞なのよ。あの巫女が山に攻めて来た時だって、私が呼ばれたのは大天狗様からの信頼が貴方より重かったから。どういう事か分かるかしら? もう今は山の外にも積極的に関わるべき時代なのよ」

 

記者としての矜持を持っている文からすれば、はたての主張は許しがたいものだったのだろう。なんとも醜い煽りを交えつつはたてに口撃する。

しかしこれに納得してしまったはたては何も反論できない。彼女に何かしらの役が与えられることはほとんど無いからである。

 

言葉に詰まった彼女を横目に、文は更なる追い打ちをかける。

 

「そもそも今日ここに来たのだって大天狗様からの言いつけがあってのもの。貴方があまりにも家から出てこないせいで死んでいるかもしれないと心配されていたわよ?」

 

「え…………あの鞍馬様が?」

 

鞍馬と言えば新聞大会で優勝するような新聞を書いていることもあり、毎度ランキング外であるはたてや、特に文にとっては憧れにも近い念を抱いている大天狗である。

 

「いえ、飯綱丸様の方ですが。とにかく大天狗様に気を遣わせるなど言語道断。貴方は少々生活を改めるべきよ。私の新聞を抜かせたら小言を言うのはやめてあげますが」

 

「言ったわね? 私の念写に撮れないものなんて無いんだから。あんたに吠え面かかせて私はのんびり生きてやるわ!」

 

「まったく貴方という人は……ああそうそう。はたての念写、ちょっと借りてもいいかしら。何、これも山のためになる事ですよ。迷惑をかけた分取り戻さなければならないでしょう?」

 

「ぐっ……まあ良いわ。それで? 何を撮ってほしいのよ。あのスキマの家とか巫女の風呂とかならお断りだけど。殺されそうだし」

 

そもそも紫の家は次元の違う場所に存在しているため、はたての念写で撮れる限界を超えている。霊夢は別にエスパーなどではないので入浴は流出しない限りは大丈夫だろう。流出したらルール無用で間違いなく殺されるだろうが。

 

とはいえ文もそこまで非常識なわけではない。少なくとも今の今まで千年以上生きてこられているくらいには常識的である。世渡り上手な文に限って自らを滅ぼす可能性のあることをすることは今後も無いだろう。

 

「……そうね、まずレミリア・スカーレットからお願いできる?」

 

「ふふん。そんなのでいいなら朝飯前よ…………と。ほら」

 

そういってはたてのカメラが映し出した映像を見た文は思わず言葉を失ってしまう。

得意そうにしているはたてを尻目にしばしの衝撃から立ち直った文が放った一言は、常人には当たり前のように感じてもはたてには理不尽に感じるであろう言葉だった。

 

すなわち数年前の写真を今出されても意味なぞ無いというものだ。

 

今はたてが念写によって呼び出したのは過去に文々。新聞に掲載されたレミリアの写真だった。

過去の写真を自らのカメラに呼び出す。はたてにとっては相手の人相を知りたい時などに使う、最も手軽な能力である。

 

しかし今回の文の意図はそれではない。あくまでも今を写してもらわなければならないのだ。

 

「はぁ? そういう事なら先に言いなさいよ。このバカ鴉」

 

「貴方が勝手に先走っただけでしょうが。このスカポンタン。良いから今の写真を撮りなさいよ」

 

「そっちは疲れるのよね~。酒一斗で手を打つわ。ちなみにもう一人増やすごとに三升ずつ追加ね」

 

当然現在の写真を撮るとなれば先ほどのように楽なわけではない。できないわけではないが使う力が桁違いなのだ。

遠く離れた特定の何かを狙うという事の労力を考えれば、その見返りも決して法外とは言えないだろう。文が『まず』と言ったことから、要望が二人以上であると素早く見抜いていたことによる追加条件の提示。

 

文にも断る権利と言うのはもちろんあるわけだが、今は一刻も早く事件の真相に迫りたいというのが彼女の思うところだ。そのためならば酒の一斗三升くらいくれてやるという気分である。

彼女にとっても楽しみに置いていた酒が消えるのはなかなかつらいものがあるが、それ以上に今の彼女は好奇心に駆られていた。

 

頷いた文を見たはたてがニヤリと笑ってしばし瞑目すると、その手のカメラの画面にある一枚の写真が映し出された。

 

「次はフランドール・スカーレット。これで最後ですけど」

 

「もしかして文はあのお子様姉妹にご執心なの? ……って冗談だってば。…………はいこれね」

 

「…………助かったわ。では酒はまた届けておきましょう。今日はこれにて!」

 

「あちょっ…………はあ。あいつも一緒に酒呑んでけば良かったのに。忙しい奴ねぇ。でも山の外、か。確かにちょっと面白そうかもしれないわ」 

 

 

 

 

 ▼▼▼▼▼▼▼

 

 

(ひどいお仕置きの末に)ようやく永琳からの誤解が解けた鈴仙は、既にあの二人がいなくなっていることに気づいた。

永琳の方も当然フランドールがいなくなっていることには気づく。

 

「で、例の子もいなくなっているのかしら? ウドンゲ」

 

「はい。恐らくもう永遠亭の敷地内にもいないかと」

 

波の反射などを利用すれば周辺の物の探索などはその場で行えるが、如何せん永遠亭は構造が複雑で広い。玉兎の中でもかなり優秀な部類に入る鈴仙であってもその全てを探知するのは不可能。

故に曖昧な答えとなってしまったが、何故か永琳は鈴仙のこういうところを咎めるような事はしない。永琳のスイッチが何処で入るかは数十年共に生きているだけの鈴仙にはまだ分からない。

 

「それにしてもこの竹林を抜けられるとは……いえ、ここにたどり着いたのは確かだから……ウドンゲ、竹林内で彼女らの反応を捉えることはできる?」

 

「いえ。障害があまりにも多すぎて。彼女たちの反応を捉えるには一晩では済まないと思います。月の技術を使った何かしらの道具があるのでは?」

 

「あるにはあるわ。でもあれはまだ改良段階。使い物にはならないわね」

 

成長があまりにも早い竹は波をあらゆる方向へ反射してしまう。しかも無作為に。玉兎の能力はあくまでも成長を拒む月での使用が想定されたものなのだろう。地上での索敵にはあまり向かないようだ。

 

ただし永琳もこれができると思って聞いたわけではない。元々できないであろうことは分かった上で聞いたのだから質が悪い。

鈴仙は、できないと答えるだけでも胃が痛むような思いをしているというのに、師匠であり薬師であり医師でもある永琳は弟子の体調を気にかけるつもりがないらしい。

 

「こうなったら姫に頼みましょうか」

 

輝夜の部屋に向かって歩き出す永琳。話の飛躍に追いつけない鈴仙は思わずポカンとしてしまう。永遠亭の中で、輝夜の能力は永琳の能力の次くらいには索敵に役立たない。

てゐの幸運を頼った方がよほど楽なのではないかと思う鈴仙であったが、師匠が何も考えずに動くはずはないのだと自分に言い聞かせて彼女の後を追う。

 

「輝夜、少し良いかしら?」

 

「ええ。どうしたの? 永琳」

 

「夜を止めてほしいのよ。あの夜のような半端な永遠ではなく完全なる永遠で」

 

この言葉に鈴仙はギョッとした。一晩では済まない捜索ならば永遠の一晩で済ませば良いという新手の拷問をさせられると思ったからだ。

確かに永遠の時を使えば彼女らを探し当てることはできるだろう。それはもう竹林の外であっても。

 

逃げ出したくても逃げ出せない。逃げ出せば破門。二度と取り合ってはもらえないだろう。進むも地獄退くも地獄。弟子とはそういう板挟みに耐え続けるものだ。

 

しかし鈴仙の想像とは裏腹に、永琳の思惑は全く別のところにあった。

 

「実験台にしたい子がいてね。逃げ出してしまったのだけれど、その子は日の光に当たると消滅してしまうらしいのよ。だから見つけるまでは夜で止めておいてくれないかしら?」

 

「あらあら可哀そうに。永琳に目を付けられるなんて同情を禁じ得ないわね。でもそんなことをすればまたあの異変の時みたいにならないかしら」

 

特別高貴な月の姫も、穢れに満ちた卑しい妖怪に同情できるほどには地上に染まってしまったらしい。喜ぶべきか嘆くべきか。少なくともお姫様とその付き人に嘆いている様子はない。

 

鈴仙の顔が別の意味で蒼白になりつつあることに気づいた者はいない。鈴仙もまた、たかが数十年ですっかり穢れに呑まれてしまったようだ。

 

「今夜は別に月を奪うわけじゃないから、あの夜に来た者たちはむしろ来ないでしょう。あの時はあちら側で夜を止めていたし」

 

「確かにそうね。じゃあその子が見つかったら教えてちょうだい。朝に進めるから」

 

「ええありがとう。では行くわよ、ウドンゲ。早く行かないと竹林を出られるかもしれない」

 

できるだけそうなる前に見つけたいところではあるのだが、残念な事に、もう既に二人は竹林を抜けてしまっている。

暗闇が地上を支配する前に彼女らを見つけ出すことは不可能だろう。

 

 

 

 

 ▼▼▼▼▼▼▼

 

 

「おーいさとり! 萃香のやつは来てるか?」

 

ああ……やって来てしまった。私の命を吹き飛ばすかもしれない災厄が。できることなら居留守を使いたいところだが、私がここを留守にすることなんて無いに等しい。

 

「まだ来てませんよ。と言うか……彼女なら今日は来ませんよ」

 

「ああ? それ、どういう事だい? 詳しく説明してくれよ」

 

場合によっちゃあいつをぶん殴ってやる。

 

心の声としてそこまで聞こえている。やはり鬼という生き物はおっかない。約束一つ破れば、その結果は私なら死を意味するのだ。

とりあえず誤魔化そうとして嘘を吐くのも無し。これは鬼の前では一番してはならない。相手にも都合が悪い場合はなおさらだ。多分消し飛ばされる。

 

「つい先ほどまでここにいたんですがね。盗み聞きが紫さんにバレて地上に連れて行かれました」

 

「ほう、あの賢者殿にねぇ。じゃあ仕方ないか」

 

「え?」

 

予想だにしていなかった返答に間抜けな声が出てしまう。勇儀の性格を考えれば、約束を破った相手には何が何でも制裁を食らわせるものだと思っていた。

そんな私を勇儀は不思議そうな顔で見てくる。心が読めるからと言って他人の言うことまで完全に予測できているわけではない。特に今回は思い込みもあった分、不意打ち感が否めない。

 

「そりゃ私だってあいつと酒を呑むつもりだったけどね、結局は盗み聞きをしたあいつが全部悪いさ。私ら鬼が盗んでいいのは酒と食い物と人だけだ。金品は盗らないしそれ以外の物も同じだ。萃香は懲りない奴だから許してやってくれ。あとできついのを一発ぶち込んでおくからよ」

 

これが鬼の仲間意識というやつか。私は勇儀を侮っていた。もう千年の付き合いになるのに何も分かっていなかった。

鬼と言うのはただ約束に忠実でなければならないものではない。とそういうことか。

 

「甘いのね、勇儀は」

 

「ん? 五発くらい殴っておいた方が良いか?」

 

「ふふ……そういう事ではありませんよ」

 

私にも素晴らしい仲間がいる。そう思うとこれからの懸念が少しだけ薄れるように思える。




申し訳程度の主人公要素



様々な視点から同時間帯を書いているので頭がこんがらがっている方もいるかもしれません

少し整理しておくと、今は
レミリア(フラン&こいし)・魔理沙(フラン)ペア
咲夜・パチュリー・美鈴トリオ(フラン)
紫・萃香ペア(こいし)
アリス・霊夢ペア(何者か)
永琳・鈴仙ペア(主にフラン)
の五組でフラン・こいしペアを追っているという状況です。もっと細かく言うと括弧内を追っています
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