古明地さとりは隠居したい   作:小鈴ともえ

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会話がしばらく続く時は行を詰めてます。つまり今話は会話が多いということです
一応誰が話しているかは分かるように書いたつもりですが


この気持ちこそ

真っ先に人里へ向かった霊夢たち、フランドールとこいしを追って竹林を抜けてきた永琳たち、そして魔法の森を抜けてきたレミリアたち。この三組が里で出会うのはいわば必然であった。

 

「あら、こんな時間にも里の見回りかしら? 殊勝なことね」

 

「何言ってんのよ。里には自警団がいるんだから私が見回る必要も無いわ。あんたたちこそこんな時間に薬を売りに来たのかしら? なんとも迷惑なことね」

 

「二人ともその辺でやめておきなさい。こんなところで言い争いをしていたらそれこそ迷惑だわ。私たちにも目的があるのだから油を売っている暇も無いのよ」

 

なるほど、とレミリアは思う。険悪な強者同士の会話に割り込める強さを紫は買っているのではないかと。弱者でありながら強者の間に割って入ろうとする。

怖いもの知らずとでも言うのだろうか。これはやはり彼女が元々人間だったが故の性質だろう。生まれながらの妖怪であるレミリアにはよくわからないものだ。

 

「貴方たちの目的って?」

「そうねぇ。まずはパチュリーって魔女を探すところかしら。レミリアは何か知らないの?」

「私? 私たちは生憎パチェの場所は知らないわ。フランを探すために手分けしてるから」

「もしかして……貴方が探しているのはあの金髪の子? 背中に歪な羽をつけている」

「おそらくその子ね。という事は今永遠亭にいるのかしら?」

 

フランドールの居場所は文が伝えていたはずなのだが、貴重な妹の目撃情報が出た途端に、彼女の頭からその情報は吹き飛んでいた。

普段は不仲に見える姉妹も、実は姉の気持ちを理解できない妹と妹の気持ちが理解できない姉のすれ違いによるものだ。

どちらも互いを嫌っているわけではない。むしろ唯一の肉親としての愛すらある。それでも過去のことがあるせいで、どちらにとっても気まずい関係になってしまっている。

 

「いえ、彼女は既に何処かへ行った後よ」

「それが妖怪の山でしょう。永琳さんと鈴仙さんはフランさんの他に誰か見ていませんか? 覚妖怪的な何かですが」

「覚妖怪はよく知らないけれど、ウドンゲが何か見たらしいわよ。そうでしょう? ウドンゲ」

「はい。胸元に不気味な眼のような物ぶら下げた何ともよくわからない妖怪でした。私には見えてお師匠様には見えなかったですし……」

「ちょっとちょっと、この件にはさとりのやつも絡んでるの? そんなの初耳なんだけど」

「ちょっと黙っててくれ霊夢。これは私の予想だが、この件に関してさとり本人は関わっていないだろう。だが咲夜と文、そして鈴仙の証言から、少なくともさとりによく似た奴であることはわかる。となるとだ、考えられるのはただ一つ……」

 

レミリア以外、話を聞いている全員が唾を飲む。レミリアはそもそも初めから相手が分かっているので今更緊張することも無いのだ。しかし……

 

「そう、さとりの変装をした奴がいるってことだ。そもそも覚妖怪は心を読む妖怪だ。鈴仙にだけ見えて永琳には見えないようにするなんて不可能なはずだからな。きっとその手の能力を持っている奴が私らをかき乱して楽しんでいるだよ」

 

盛大にずっこけそうになったのを必死に耐えたレミリアは自分を褒めても良いだろう。

確かに魔理沙の話も分かる。事情を知らなければレミリアだってそれに納得したに違いない。

 

今回の異変について最もストレスを受けているのが紫であるとするならば、次点ではレミリアになるだろう。知っていても決して口に出すことができないジレンマ。加えて従者や親友たちが友に向ける憎悪も感じ続けなければならない。

全ては自分とさとりの今を守るため。バレた時点で即終了。レミリアは紫と霊夢にそれぞれ厳罰を与えられ、さとりは霊夢や乗っかったレミリアの従者たちに何をされるか分からない。そしてそれは地底及び地上の崩壊をも意味するだろう。

 

死んだことになっている古明地さとりという妖怪は、彼女を知っている強者たちからすればそれほどの重要妖怪なのだ。統治体制の崩壊と報復。

最悪の運命を握っているのはレミリアだ。彼女がそれを手放した時、幻想郷は音を立てて崩れ始めるだろう。如何にインチキな妖怪がいても、如何に強い人間がいても、それは止まらないだろう。

 

今のレミリアにかかっているプレッシャーと言うのはそれほどまでに重い。

 

「何にせよそいつらは今山にいるんでしょう? そこの天狗が言う事が正しいなら、だけど」

「まさか疑っているんですか? この場面で嘘なんて吐くわけないじゃないですか」

「妖怪なんて信用できないもの。ま、何でもいいわ。さっさととっ捕まえて化けの皮を剥いでやればそれで終わりよ。ったく、さとり(あんなやつ)の真似なんかして楽しい事なんてないでしょうに」

「違いない。そうと決まればブンヤ、早く案内してちょうだい。取材が遅れるわよ?」

 

霊夢とアリスは初めの目的だった人里の安全を確認し、文を除くその他の四人も目的は一致することが分かった。結局はアリスの言った通り、喧嘩するよりは同じ目的に向かって共に行動することになった。

ただしそれはあくまでも妖怪の山へ入るまでの話であり、そこから先はまたバラバラに捜索競争を始めるようだ。

 

永遠亭組が勝った場合には普段のお仕置きも兼ねて、咲夜を被験者とする。

霊夢とアリスが勝った場合には紅魔館へ一食招待。

レミリアと魔理沙と文が勝った場合には魔理沙にだけ紅魔館へ三食招待。文は取材があるので特別な報酬は無しだ。

 

レミリアにとって、フランドールとこいしが早く見つかるならば誰が勝っても美味しい展開だ。僅かな食費など、妹の無事に比べれば些細なものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

所変わって風穴付近。そこにはおなじみの三人の姿があった。

 

「ここで確かに合っているんでしょうね、咲夜」

「……ええ。間違いないはずです。今日の昼も訪れてそこの木に印も付けましたから」

「ならば問いましょう。ここが正しいとするならばどうして穴が無いのかしら? 地底まで続く大穴ならば、近くに来たらすぐ分かるはずなのだけれど」

「それは…………私にも分かりません」

「考えられる可能性は多くないわ。その中で最も有力なのは、貴方が私たちを違う場所に連れてきたというもの。木に目印を付けるのなんて貴方なら一瞬でできる。違って?」

 

レミリアはいない、紫もいないという状況で、彼女たちは結局一番怪しいと思った妖怪に話をつけに行くことにしたようだ。しかし肝心の風穴が存在しない。

当然咲夜が別の場所に二人を連れて行ったわけではない。そんなことをするメリットは彼女には無いからだ。現在の風穴は紫によって隠されている。

 

地底は今一時的な封印状態なのだ。つまり、さとりは失念していたがぬえもまだ地上に出られていない。

 

「そんな、言いがかりですよ! 美鈴もそう思うわよね?」

 

「えぇ……確かにパチュリー様の言い分はどうかと思いますが、それでもここに穴がない事は確かなんです。私はどちらかと言えばパチュリー様寄りですよ、咲夜さん」

 

本当の穴の位置を知らない二人にとって、今見えている現実を信じるのが当たり前だろう。

それにいくらさとりを嫌っていたとしても咲夜はレミリアの従者。主人の友人を無駄に傷つけたくないのかもしれない、と疑われても反論できるだけの材料が咲夜にはない。

 

「ねぇ咲夜、私たちも古明地さとりを殺そうという気はないのよ。せいぜい動けなくなる程度に痛めつけるくらい。親友を誑かした事を後悔させる程度に抑えるつもりよ?」

 

「………………」

 

咲夜は何も言えない。今の咲夜はさとりと同じだった。

真実を語ってもそれは他人にとっての騙りとなり、自らの言葉はどれも信じられることが無い。なんとも不条理。どこまでも理不尽。

 

 

「…………古明地さとりに傷をつけさせるわけにはいきません。お嬢様が彼女の友人であると断言するのならば……私はお嬢様を信じます」

「ようやく本性を見せたわね。打ち倒してさっさと案内してもらうわよ」

「本性、ですか……。ふふ、違いますね。私は自分の愚かさを知ってしまっただけですよ。さあ踊りましょうパチュリー様。久々の手合わせよろしくお願いします」 

 

 

 

 

 ▼▼▼▼▼▼▼

 

 

結局今日はほとんど仕事ができなかったが、今からしようにもこいしの事が気になって手につかないだろう。こういう時には紅茶を淹れて読書するに限る。今は筆を進める気にもならないし。

 

読書を始めてから三十分程度経っただろうか。不意に扉を叩く音がした。この礼儀正しいノックはお燐かパルスィのどちらかだろう。時間的にはお燐の可能性が高いか。

 

「どうぞ」

 

「失礼します。実は報告がありまして……はい、何故か人面の虎が脱走していたので捕まえたのですが、抵抗するので檻にぶち込んでおきました。あんな珍しい動物いつから飼っていたんです?」

 

は? 人面虎? 人面犬とかでなく?

私だってそんなおぞましい動物を飼った記憶はない。そもそも地霊殿の動物は何処からか勝手に増えているのだが。それでもそんなにインパクトのある動物ならば忘れないだろうに。

 

「記憶にないし見に行ってみましょうか。お燐もついてきなさい」

 

お燐の心を読む限りでは本当に人面虎の姿を思い出しているようだ。でも間違いなく美味しそうではないと思う。人間要素は顔だけだからね。こういう時のお燐はよくわからない。

美味しそうだという事から連想して今度は夕飯の事を考えているし。なるほど今日は野菜炒めか。鳥のお空よりも猫のお燐の方が野菜が好きなのはどういう事だろうか。

 

 

 

 

「着きましたよ。この檻です」

 

「どれどれ……ってまたあなたですか。どうして甘んじて檻に入れられているのです?」

 

そこには三十分ぶりに見る顔があった。

 

「甘んじてなんかいないわよ。そこの猫の力が思いのほか強かっただけ。と言うか貴方私を騙したわね」

 

はて、騙した覚えはないのだが……あ。紫さんが結界を張っていたことをすっかり忘れていた。忙しかったし仕方ないか。紫さんほどではないが今日の私はなかなかに疲れていたし。

 

「ん? もしかしてさとり様の知り合いの方でしたか。これはこれはすみませんでしたねぇ」

「いやいやお燐が謝る必要はないわ。悪いのは此処に侵入したこいつだもの。で、封獣ぬえ、私はうっかり忘れていたようですが現在の地底は地上と切り離されています。こちら側の都合が済めばまた繋がりますから、それまではこの檻にいてください。何、すぐに済みますし餌もきちんと出しますよ」

「餌って言うなよ……で、ここにずっといなければならないわけ? 正直普通に旧都にいる方が良いんだけど」

「それは流石に認識が甘い事で。一日二度も地霊殿に忍び込む不届き者に選択権など無いのです。安心しなさい。早ければ明日の朝にでも解放できるでしょう」

 

少なくとも紅魔館の方々と魔理沙さん、紫さんと萃香が動いている事は分かっている。紫さんと萃香だけでもオーバーキルの予感がするのに、それに加えてこれだけの人数がいるのならば少なくともフランドールさんの発見はすぐだろう。

後は何とか鈴仙さんに協力を仰げれば、彼女はあるいは紫さんや萃香をも超える最も強力な支援者になってくれるだろう。あそこの薬師を崩すのは骨が折れそうだが。

 

「ちぇ、折角の地上生活もまだお預けか。まったく嫌な奴だよ貴方は」

 

「誉め言葉です。覚妖怪なんて嫌われてなんぼの種族ですから。そういう点では鵺も鬼も変わりませんけれどね。では後で夕食を持って来ますよ。行きましょう、お燐」

 

お燐が作らないと夕食もできない。お空も戒もそろそろお腹を空かせている頃だろう。

私が作ってもいまいちだがお燐の作ると美味しいごはん。

 

 

次に食卓にこいしが並ぶのは何時になるのだろうか。そんなことを夢想しながらテーブルにつく。

一人分空いた椅子。何故か無性に寂しくなる事が分かっていたならば勇儀を残していても良かったかもしれない。

 

「今日は助かったわ、戒」

 

「いえいえ。さとり様が忙しい時に代わりに仕事ができない式神なんて不要ですから。それに私は一応地霊殿の主らしいですし」

 

私は戒が真の意味でそうなってくれることを祈っているのだけれど。




最近言葉が出てこない。早すぎる老化が始まったのかもしれない

ぬえちゃん可哀想
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