古明地さとりは隠居したい   作:小鈴ともえ

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久々にこいしちゃんが登場します

あと今更ながら章分けしてみました


でたらめ

圧倒的な力の奔流だけで早苗を沈めた紫。彼女の目的である()()()()も当然そこにいた。

 

 

山の各地に散らばっていた者たちが次々と集合する。

 

守矢神社に初めに到着したのは魔理沙たち三人だ。それぞれが速さに自信のある者たちなのだから当然と言えば当然だろう。途中の哨戒が介入する暇も無いほどの速さで飛んで行った彼女たちに追いつける者などいまい。

そこで彼女らが目にしたものは地面に倒れ伏す風祝とそれを見下ろす賢者、そしてその後ろで瓢箪を傾けている小鬼だった。

 

事情を知っているレミリアでも混乱するほどの状況だ。この場において魔理沙や文が混乱しないわけがない。

 

「おま、さっきのあれはお前だったのか?!」

 

「さっきの? はて、何のことやら」

 

魔理沙と文は先ほどの力の発生源が紫だったことに驚いている。文はそもそも紫が山を嫌っていることを知っているので、わざわざ来た理由をも不思議がっているのだろう。

しかしレミリアが驚いているのは全く別の事だ。レミリアは紫がさとり経由で動いているであろうことまで目星を付けている。その上で何故守矢神社を襲撃する必要があったのか、だ。

 

レミリアは彼女と守矢の関係を知っている。特に早苗とはなるべく顔を合わせないようにしているらしいというのもさとりから聞いていた。しかし今は早苗の意識を刈り取って堂々と立っている。まるで私たちが来るのを待っていたかのように……。

 

「惚けるんじゃないぜ。背筋も凍るかと思ったくらいの力だ。此処からしたかと思って見に来てみれば早苗が倒れている。早苗を倒したのはお前だろ?」

「ああそのこと。ならば少しばかり邪魔だったので眠ってもらっただけですわ。私の計画に障害は要らない。それだけの事です」

「お前っ! それだけの理由で…………」

「えぇ。それだけの理由で。たかがこれしきの事で気を失ってしまうなんてあまりにも未熟だと思いません事? ああご安心なさい。この子は二日もすれば目を覚ますでしょう。ですがもうここに用はありません。では行くわよ萃香」

「はぁ~。いつまで経っても勝手だねぇ。わたしゃお前ほど難儀な奴を他に知らないよ」

 

文句を言っても協力を惜しまないのは早く帰りたいからに違いない。 

 

 

 

 

 

 ▼▼▼▼▼▼▼

 

 

 

伊吹萃香も八雲のスキマに入って何処かへ行ってしまった。魔理沙は憤慨しているし、天狗も早苗を気遣うようにチラチラ見ている。

しかし何かが引っかかる。脳を支配する大きな違和感。気づけない方がおかしいほどに大きいように思えるが、どうしてもそれが何なのかが分からない。

 

「くっそ、絶対あいつらが犯人だ。なあレミリアもそう思うだろ? あいつらがフランのやつを攫ったんだ」

 

「…………それよ。そうに違いないわ」

 

それだ。八雲が動くのは確実にフランとこいしを探すため。お供に鬼を連れていたのは人探しに便利だからだろう。そんな奴らが無駄な場所に足を運ぶなどあり得ない。

そうだ。フランとこいしは確実にここにいた。少なくとも早苗が倒される前まではいたはずだ。

 

「あいつが犯人だとすれば全て説明がつく。紫なら物の破壊なんてわけないはずだし人を攫うのだって容易にやってのける。しかも自由自在に出たり消えたりすることも可能だ。普通に考えりゃ分かるはずなのにどうして気づかなかったんだろうなぁ」

 

八雲紫はこの場から撤退した。それが示すことはただ一つ、少なくとも姿の見えるフランの方は確保したのだ。鈴仙と永琳の証言から察するに、こいしはおそらく自分自身しか姿を隠せない。

となるとフランは常に見える状態だったはずで、あの八雲がそれを見逃すとは思えない。あいつの事だから私たちが動いていることも当然承知の上だっただろう。だからこそ余計に分からない。私たちもじきに見つけることになったであろうフランをわざわざ連れ去った理由はなんだ。

 

先ほどの魔力の一時的な解放も本当に早苗を眠らせるためだったのか? むしろフランたちの魔力の残滓を打ち消すためと言われた方が納得できる。

ともすれば早苗の近くにいたフランたちをも一網打尽にするつもりで放ったものだったかもしれない。あいつの心なんてさとりでも理解できないんだから私が理解できるはずもなしか。

 

「ちょっと待って魔理沙、それ本当なの?」

「ん? おおアリスたちか。本当も何もあいつが自分の口からそう言ったようなものだぜ。ほらそこに早苗が倒れているだろ? それもあいつが邪魔だったから気絶させただけなんだとよ。私たちが来た途端に逃げてったよ。萃香と一緒に」

「なんだって? 萃香がどうして地上にいるのよ。あいつ、地底から滅多に出てこないわよ?」

「そんなこと私に聞かれても知らん。大方戦闘要員か何かだろ。妖怪の山はあいつ一人で潰れるって聞いた事あるし」

 

伊吹萃香の本気は見たことが無いが、普段飄々としている天狗が目に見えて青くなっているところを見ても嘘ではないのだろう。あの時の一本角の鬼も顔色一つ変えずに目にも止まらぬ速さでフランの右腕を折ったらしいし。

どちらの方が強いのだろうか。今度さとりに会った時にでも聞いてみるか。

 

 

アリスは紫がそんなことをするとは思えないと主張しているし、魔理沙は聞いてもいないくせに決めつけるなと反論しているしであの二魔女は大層熱くなっている。

霊夢はと言うとそんな二人と関わるのが面倒になったのだろう。こちらは天狗と話をしている。内容はあちらとほとんど変わらないがこちらはどちらも冷静である。

 

「で? あんたはどう思うのよ。真実を見抜く目から見て紫の言動は怪しかったの?」

「実際にどうかと言われると確かに怪しくはありました。しかし彼女が犯人である可能性は限りなく低いと見て良いと思いますよ」

「それまたどうしてなのよ。怪しいんなら犯人なんじゃないの?」

「ぶっちゃけ彼女が犯人ならば私たちの前に姿を見せる事はしても伊吹様と動いていることを表には出さない筈です。力の放出から私たちが到着するまでには十秒程度のタイムラグがありました。それまでずっと早苗さんを見下ろしていたと考えるのは些か不自然です。遅かれ早かれ山の天狗たちがやってくるのは目に見えていますから」

 

流石は第三者の目線で記事を書かなければならない天狗だ。それとも長く生きてきた中で身に付けたものだろうか。魔理沙よりも格段に広い視野で物事を捉えている。

主観まみれだと聞いていたこいつの新聞も読んでみれば案外面白いかもしれない。次に出る新聞は読んでみても良いな。

 

まあ実際に天狗の言う通り、この場であいつが姿を見せる必要性は感じない。全員が一堂に会している場ならまだしもいたのは私たち三人だけ。しかも惚け方も露骨すぎる。

普通ならば自分が犯人だと言っているようなものだと思われる台詞でも、あいつが言うと逆に犯人だとは思えなくなる。どうしてあそこまで胡散臭くなれるのだろうか。

 

「あらあらあら、貴方たちはあの時から何も変わっていないわねぇ」

 

ようやく最後の一組が到着だ。

 

そういえばパチェたちは何をしているのだろうか。地底に押しかけようとしているなんてことはまさか無いでしょうがあの子たちの事だからどこで油を売っているか分かったものではない。

空間掌握に魔法に気なんていう探索にはぴったりの能力者たちのはずなのに目的を忘れて遊んでいるなんてことは……無いと信じたい。

 

「そりゃ頭脳派とパワー派だったら相性は良くないでしょうね」

「そもそもこいつは手癖が悪いのよ。すぐに他人の物を盗もうとするんだから」

「いつも言ってるだろう? 死ぬまで借りてるだけだ。永劫を生きるお前たちにとっては一秒も数十年も等しくゼロだ。わかったか? つまり一瞬たりとも借りていないことと等しいんだよ」

「毎度毎度屁理屈ばかり。借りているのかいないのかすら分からなくなっているじゃないの」

「…………本当に仲が悪いのね」

 

これも一種の風物詩よね。普段はパチェと魔理沙が口喧嘩しているのもよく見るし。魔理沙ももう少し態度を改めたら魔法談義も捗って上達も早まると思うのだが。

強者に対しても強気で行く姿勢は見習うべきところもあるかもしれないが、魔理沙の場合はそれが行き過ぎているように思う。恐れない心が窃盗を良しとしているのならばそれは残念でならない。蒐集癖が悪い方向へ向いてしまったか。

 

パチェもアリスもきちんと断りを入れればもう少し快く貸してくれると思うのだけれど、騒がしい方が飽きがこなくていいから私は今のままでも一向に構わないとは思う。それになんだかんだ言ってもそうなった時に悲しむのはその二人のような気がするし。

 

 

「お、お師匠様…………あそこに、あそこにいるのは……」

 

「ウドンゲ、貴方だけではなく私たちにも見えるようにしなさい」

 

明確な命令。できるかできないかではなくさせる。月の頭脳と呼ばれながらも弟子にだけ見えて師匠には見えないというのが思いのほか悔しかったのだろう。それこそ一度逃がしてしまうほどに。

 

鈴仙が早苗の方へ歩いて行ったかと思えばその手前で急に屈んだ。やがて手を伸ばした先、彼女の指先が触れているところから次々と輪郭が現れてくる。

数秒の後、私たちの目の前に現れたのは早苗とほとんど同じ姿勢で気を失っている少女。

 

思いのほかさとりと瓜二つな少女、古明地こいしがそこにいた。

 

 

特徴的ながらも固く閉ざされたサードアイ。それを見てようやく、心を読めない覚妖怪というものを理解した。

しかしさとりに言わせればこいしはもはや覚妖怪ではないナニカ。妖怪が自らのアイデンティティを捨て去って新たな能力を得た稀有な例の体現者。自らの妹でありながらその心が他の誰の心よりも理解できない無力感を覚えさせてくれる妖怪。

 

昔さとりからそんなことを聞いていた。姉として誰よりもこいしを愛しているはずなのに、彼女と過ごす時間は誰よりも少ないと嘆いていた。明確な血のつながりなど無い自分がこいしの姉であっていいのかと不安がってもいた。

その時は何故さとりがそのような話題を振って来たのかを私は理解できていなかった。しかし今、古明地こいしという妖怪を、彼女の現れ方を目の当たりにしたことで今更理解できた。

 

普段から常に目視できる状態でどこへフラフラ出て行くわけでもなく、そして何よりも明確なスカーレットの血族であることが約束された姉妹である私たち。

どうして報われない姉妹がいる隣でくだらない喧嘩などできるのだろうか。どうしてあの子に不満を抱いていられようか。私たち姉妹はこんなにも恵まれていたのにどうして……どうして妹思いのさとりが報われないのだろうか。

 

きっとこいしだってさとりの事が好きでたまらないだろうに。

運命とは本当に残酷な物。そう思わずにはいられない。

 

 

 

 

 ▼▼▼▼▼▼▼

 

 

場が騒然とした。鈴仙の能力によって完全に波長をずらされた少女の姿は魔理沙の自論が完全に破綻したことを物語っている。と同時に咲夜から聞かされたフランドールの話が真実でなかったことも。

目の前の少女は確かに覚妖怪であったがさとりではなかった。意識と無意識。ピンクと緑。正しく対極に存在する哀しき姉妹。

 

 

やがて目を覚ました妖怪少女。ほとんど人間である早苗とは違い妖怪であるこいしは妖力に中てられた後でも比較的回復が早い。

しかし早苗と同じ基準で考えていた者たち以外もその早さには驚きを隠せない。人間として強い力を持っていて神の血も引いている早苗でさえ二日かかると言われていたのだ。いくら妖怪と言えども僅か数十分で目を覚ますまでに至るというのは驚異的である。

 

上半身だけを起き上がらせてふと周囲を見渡したこいしはいつも通り、感情の読めないニヒル(虚無)の笑みを浮かべる。

誰からも注目されない彼女を誰もが注視している。かつてこいしがこれ程までに注目されたことはあったのだろうか? もしかしたらまだ心が読めた時にはあったのかもしれない。その時はきっと憎き覚妖怪として。

 

「あ、さっきのうさ耳のお姉さん? やっぱりはったりじゃなかったのね」

 

一番に目に入ったのがよく目立つ耳をしている鈴仙だったのだろう。しかも唯一彼女の能力を破った者。覚えていないはずが無かった。

鈴仙からしてみれば彼女の存在がはっきりしたことで師匠からのお咎めも無くなったので感謝さえしているだろう。

 

「……あ、貴方たちはこの前お姉ちゃんと遊んでいた二人ね。地底にいたよね」

「あー? 私はあんたなんて見てないけど。萃香みたいにコソコソ覗いてたってわけ?」

「萃香? うー、ダメダメあの鬼は。いっつもお姉ちゃんに迷惑かけてるから。勇儀の方がまだマシだよね。そんなこと言ったらパルスィの方が良いけど。あ、でもやっぱり一番はお燐ね」

「…………お姉ちゃんと言うのはさとりのことでいいのかしら?」

 

いい加減話がつながらないと悟ったのかアリスが別の話題へと切り替える。

 

「そうそう。私は古明地こいし。お姉ちゃんのペットが強くなってたから私のペットも強くしてもらえるようにここに頼みに来たの」

 

「で、紫にやられたってわけね。それでこいしちゃん? 私たちフランドールって子を探しているんだけど何処にいるか知らないかしら?」

 

「うーん、フランちゃんならさっきまで一緒に…………あぁ! いないわ。折角良い遊び相手が見つかったと思ったのに」

 

こいしがフランドールを唆して無理矢理にでも外に出した理由。それはあまりにも単純で幼く、しかし普段から誰にも認知されないせいで遊ぶ相手も里の子供たちくらいであるこいしにとってはとても重要な事だった。

 

こいしだけがいてフランドールはいない。この状況を怪しんでいるのはレミリアだけだ。こいしが倒れていたという前提があるのなら、紫がこいしも同時に連れ去らなかった理由が分からないのだ。レミリアの中で、紫の得体の知れなさがまた一段階上昇した。

 

実際に紫は境界を弄ればこいしを視認する事も可能だ。だが彼女はあえてフランドールのみを連れてこの場を去った。こいしをこの場に残した理由を知る者は彼女しかいない。

 

「何でも良いけれど他人の家を破壊するのはやめてもらいたいものね。フランが消えたのも貴方のせいなのだから修繕費は地霊殿に請求しておくわ」

 

「えぇー? またお姉ちゃんに迷惑をかけちゃうの? 遊びたかっただけなのに」

 

今更目的がころころ変わっている事にツッコむ者はいない。幻想郷で生きていくにはこのくらいの適応力が無ければならないのだ。

遊んでほしいのならばと魔理沙が口を開く。

 

「遊び相手なら私がなってやるよ。流石にさとりより強いってこたぁ無いだろうからな」

「教えてあげる。お姉ちゃんは確かに強いけど絶対に私には勝てない。絶対にね」

 

そう言って飛び上がったこいしとそれを追いかける魔理沙。

雲間からようやく覗いた月を背に光の花が咲く。花火のように美しく儚く、そして残酷に。




こいしちゃんは良い子なんですよ。ただ滅多に地霊殿に帰らないというだけで

ちなみにこいしちゃんが地霊殿本編中にいた、と言うのは前作最終話の紫様視点のわりと上の方を読めば分かるかもしれません。わざわざその部分だけ強調してありますし


……そろそろようやく一日目が終わりそうです
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