古明地さとりは隠居したい   作:小鈴ともえ

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廃獄ララバイをはじめとして好きな道中曲が一番多いのは地霊殿ですが一番好きな道中曲はやっぱりヴォヤージュ1969ですね。最高です
好きなキャラはアリスさん一択です。TOP10に返り咲いてほしい


さとりと休暇
復興と拒絶


大騒ぎだった昨晩とは打って変わって静かで優雅な朝。すっかり夜行性から昼行性へと変化してしまった私の身体だが、まだ薄暗いこの時間は一日で一番好きな時間帯だ。休む夜でもなく、日光の照る昼でもない。夏ならばこの国の暑さを忘れられるほど涼しい。今の時期は寒すぎて部屋の小窓から外を覗くほかないし、そもそも今は自分の部屋すら無いけれど。

 

まだ日も出ていないしすることも無いから地上に出てみるといつも通りおかしな動きをしている美鈴が視界に入った。

 

静か、本当に静かだ。それも当然のことで、紅魔館近辺で騒ごうとする愚かな妖怪などいないし、この時間はまだ妖精メイドたちも咲夜も眠っている。今日はパチェも眠っているはずだから今起きているのは美鈴だけか。昼間寝る分を夜に回せば良いものを。

しかし彼女もこの時間は好きらしい。多少寒い方が身体を動かすには都合が良いとか何とか。私の部屋の窓からは丁度門の前辺りにいる美鈴が見えている。今は動き回っているから何ともないのだろうが、普段はよくもまああんな寒そうな恰好で外に突っ立っていられるものだ。私だったら凍えて死にそうね。……その前に焼け死ぬか。

 

「おやお嬢様、おはようございます。この時間に起きているなんて珍しいですね」

 

あぁそうか。この時間はいつも咲夜が来るまで部屋でぼんやり考え事をしているから、美鈴は私が普段から早起きなのを知らないのか。

 

「おはよう美鈴。私はいつでも早起きよ。それにしても日本の冬の朝方は思いのほか寒いわね。雪遊びなんて私にはできそうもないわ」

 

「雪遊びもなかなか楽しいですし元気いっぱいの妖精たちと遊べば身体も温まって丁度良いですよ? …………あ」

 

「はぁ。しっかり門を守ってくれるのなら私からは何も言わないことにするわ。ただし咲夜から何を言われても私は一切の責任を負わないわよ」

 

まったく。昨日は昼寝、普段は雪遊びか。美鈴の実力を知っているからこそ余計に残念な事だと思ってしまう。だが本来自由気ままに生きるはずの妖怪を契約で縛っているのはこちら側。少しくらいは美鈴にも楽しみがあって良いだろうというのが私の意見。

対して美鈴の実力を知っている咲夜からは普段からそれを発揮しないで咲夜の仕事を増やしているようにしか見えないのだろう。咲夜も毎日忙しいのだろうから美鈴を叱りたくなる気持ちはよく理解できる。

 

「う……本当にすみません」

 

「別に謝ることも無いわ。謝るならいつも迷惑をかけている咲夜にね? それより今日は門番の仕事もしなくて良いわ。どうせ鬼たちが何人か来るでしょうから」

 

「紅魔館の修復ですか。私たちも何かお手伝いした方が良いんですかねぇ」

 

建築のいろはも知らない私たちではただ足手まといになるだけだろう。精々労ってやるとかその程度の事しかできない。

 

『いらないいらない。手伝いなんて無くたって今日中には終わらせてやるさ』

 

しかし私がそういうよりも先に見えない者の声が代弁してくれた。目には見えないが確かに感じる力。聞き覚えのある声。

 

「お前は……萃香か」

 

「いかにも。こうして話すのは久しぶりかねえ、吸血鬼の嬢ちゃん……レミリアと言ったかな?」

 

霧が萃まった先に現れたのは私と変わらないくらいの小鬼。おそらく直接話すのは何度も続いた宴会の異変以来か? 姿だけは昨晩も八雲紫と一緒にいるところを見たが。

それにしてもどうやら私の名前は覚えているが、美鈴の名前は思い出せない様子だ。さとりとの関りも少ないからだろう。

 

「こんなに早く来てももてなせないよ」

 

「その辺りは問題ないさ。ちょいと館の具合を見に来ただけだから。この程度なら今日一日あれば終わるだろうからそうだね、あんたらは神社で宴会の準備でもしておいてくれよ。鬼も土蜘蛛も酒は大好きだから多めにね?」

 

鬼以外にも地底から来るのがいるのか。往き来が自由になったからこそ幻想郷にも新しい風が吹くのかもしれないが、それと同時に厄介ごとも多くなりそうだ。

 

「じゃ、私は一刻ほど後にまた来るよ。それまでに持ち出さにゃならないものは持ちだしておいてくれ」

 

「分かったわ。荷物を持ち出して宴会準備、と。でも現場監督は必要でしょう? 私と咲夜は残ることにするわ」

 

天狗の取材も受けないといけないしね。別に神社に行ってからでも構わないのだが、敢えて鬼のいる現場で行うのだ。その方がきっと愉快だから。そう、ただそれだけの理由。私はこう見えて存外悪趣味なのだ。 

 

 

 

 

 ▼▼▼▼▼▼▼

 

 

結局紫さんが帰った後は一睡もせぬまま仕事をこなすことになった。別にこの程度は慣れているから大した問題も無い。何日もぶっ続けでしようとは思わないが。

普段一日かけてゆるゆるとやっている書類整理も、皆が寝静まった静かな一室で黙々とこなせば二、三刻で終わらせられる。普段からこれができればもっと趣味に使う時間も増やせるはずなのだけれど。

 

睡眠時間を削って書き上げた書類のチェックは普段よりも厳重に行わねばならない。怨霊の数の変化量はきちんと告げられただけの量なのか、熱源の温度は適切に管理できているか、税収に狂いは無いか。

特に是非曲直庁へ送らなければならない分は相手も厳格だから注意せねばならない。紫さんに送る分は多少緩くても許されるが。

 

「おーい古明地、入るよ」

 

「ちょ、ま……はぁ」

 

こちらの手元にはあまり一般住民に見られるのは好ましくないような書類が山積みにされているというのに。断ってから扉を開けて入ってくるまでの間が無さ過ぎる。声をかけてくるようになっただけマシだと思うことにするか。

 

「どうでした? 地上は」

 

「うーん、まあ変わらずかねぇ。好きに出られるようになったのは嬉しいが棲む場所は地底で良いな」

 

「頼んでいたことはきちんとしてくれたんでしょうね?」

 

萃香には早朝からお遣いを頼んでいた。萃香の能力を使えば容易い地上の偵察だ。

 

「当然。鬼は約束を破らんよ。先ず妖怪の山だが…………」

 

 

 

ふむ。山は昨晩変に紫さんが全体を震撼させたことと地底が解放されたことにより警戒態勢が強まったか。天狗の習性を考えればそうなることも想像に難くない。既に鬼の一匹が山に棲みついているとも知らずに鬼に怯える様は滑稽だけれど。

里はまだ変わりなし。まだ稗田に話も行っていないのだろう。

 

結局この条項撤廃に過剰に反応しているのは現状山だけだと見ることができる。それはそうか。紫さんの話と萃香の話によれば鬼など忘れられて久しいようだし。萃香や勇儀と関わったごく一部の者たちだけが鬼の恐ろしさを知っている程度か。

となると土蜘蛛や釣瓶落としなんかも忘れられているのかも。変に関わってきてほしくないし覚は忘れられていても良いけれど。

 

それにしても私が地上にいた頃はどこに行っても人々を怯えさせていた妖怪たちが忘れられているなんてねぇ。少し面白いかも。稗田の完全記憶の話も交えて一冊書いてみてもいいかもしれない。

 

「助かりましたよ萃香。そうだ、そろそろ朝食ですが一緒に食べていきますか? …………えぇお燐の料理は美味しいですよ。分かりました。そう伝えておきましょう……え? 勇儀たちも? まあ良いでしょう。今日協力してくれる礼として。私もお燐を手伝いに行きますので、萃香は勇儀たちを呼んできてください」

 

ただでさえ今朝は守矢の二柱とフランドールもいるというのにここからさらに増えるとなると流石にお燐一人では可哀想だ。料理はそれほど得意ではないがこうなってしまっては致し方なし。ちょっとくらい味付けが微妙な物が混ざっていても誰も気づきやしないだろう。

 

 

 

 

 

「八坂様、洩矢様、起きてください。もう卯の刻ですよ」

 

朝食の用意も概ね終わったので二柱を起こす。戒は勝手に起きてくるしお空は既に起こしている。流石に客人よりも後に身内を起こすような事はしない。

 

「ううん? ふわぁ……こんな時間に起こされるのは外にいた時以来ね。もう早苗の通学も無くなったし、最近は八時起床だったからまだ眠いわ」

 

この神様たちの風祝も外では大学とかいう学び舎に通っていたらしい。寺子屋をもっと大規模にして高レベルにした物らしいというのは本で読んで知っているが実物を見たことは無い。

大多数の人間が教育を受ける機会を得た時代に喜ぶべきか嘆くべきか。嫌と言うほど教え込まれる現実と科学の妄信によって子供たちは純粋さを忘れ、私たちのような存在を自分の中から消してゆく。全てが人間にとって都合の良いように作り変えられた世界だ。

 

「おはようございます。食堂までの案内はそこの山犬に頼んでいるのでついて行ってくださいね。私はまだ起こしに行かねばならない子がいるので」

 

「分かったよ。親切にどうも。……ほら、諏訪子もさっさと起きな」

 

 

 

 

 ▼▼▼▼▼▼▼

 

 

「凄い手際の良さ。見る間に館が修復されていくわね」

 

「そうですね。正直鬼と土蜘蛛の建築技術というものをナメていました」

 

流石に壺や絵画といった物は再現できないが、外観だけならばまだ昼すぎだというのに既に元通りに近い。後は部屋を区切って私たちの方で調達してきた備品で内装を整えればほとんど問題なく暮らせるようになるだろう。

報酬としての酒と宴会が絡んでいるとはいえ本当に恐ろしい速さで館が建てられる。

 

「そういえば射命丸はまだ来ないの?」

 

「それがですね……どうやら今日は腹痛が酷いようでして『またの機会に』とのことです」

 

「約束を破っておいて次なんてあるはずないじゃないの」

 

あの天狗なら鬼にビビり散らしてでも取材を強行するかと思っていたがそうでもなかったらしい。千年も昔の種族の差というモノに縛られている奴らは大変だ。

 

「まあまあそう言ってあげないで頂戴。天狗も天狗なりに胃を痛めているんでしょうから」

 

「…………どこから湧いて出てきたんだ、八雲紫」

 

「私は何処からでも湧いて出られますわ」

 

扇子で隠している口元はきっと嗤っているのだろうと容易に想像できる。目が笑っていなくても口元は常に笑っているように見せるその不気味さも嫌われる理由の一つなのだろう。実際に私も常に余裕ぶっている表情をされるのが嫌いだからこの妖怪が嫌いなのだ。

 

「で、何をしに来たのよ。まさか冷やかしに来たわけでもないでしょう?」

 

「半分正解。冷やかしに来たのよ。といっても本題はまた別にあるのだけれど」

 

こいつと話すと毎度頭が痛くなる。絶対にこちらにペースを握らせないような、本題を後出しする話し方をするせいだ。それに今回のように存外子供のような理由で悪戯めいた事をする時があるのも頭痛の原因になる。

 

「フランドールを地霊殿から連れて帰ってきましたわ。といっても眠っていますが。この子の管理はきちんとする方が良さそうね。では私は急いでいるので」

 

そう言ってきた時と同じ唐突さで消えてしまった。肝心のフランは今目に入る場所にはいない。という事は地下室のフランの部屋まで送り届けたという事か? 確かに日光が危険だとはいえあの八雲紫がそこまで気を利かせるか? 少し気にかかるな。

 

「咲夜、地下室にフランがいるかどうかだけ確かめに行ってくれない?」

 

「はい…………確かに妹様はいらっしゃいました。彼女の言った通り寝ておられましたが」

 

「そう」

 

考えすぎか。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

夜も更け、少なくとも見た目は完璧に戻った紅魔館の完成祝いと異変の解決祝いということで神社で開かれた宴会も既に盛り上がりを見せている。

幾度となく行われてきたこの宴会でも新顔というものは毎度ならずともおり、今宵のそれには地底の妖怪達と我が妹フランがあたる。

 

地底の妖怪達は酒を浴びるように呑んで笑い合っているが、フランは誰に挨拶に行くわけでもなく只管咲夜の持ってくる料理を食べて、時々血を飲んでいるだけである。

 

「フランは誰かと話さなくても良いの? ほら、魔理沙もあそこにいるわよ? 気の合いそうな妖精たちだってあっちで騒いでいるし……」

「もう、うるさいな。この宴会だってお姉様が勝手に連れてきただけでしょう? 私が何処で何をしても勝手じゃない。それに妖精ごときと話が合うですって? 馬鹿にしてるの? そもそも私はこんな騒がしい所に来るくらいなら部屋で本でも読んでいた方がマシだったわ」

「そんな……私はただフランにも友達ができたらと思って…………」

「だからそれが迷惑だって言ってるの。お節介って知ってる? 私はお姉様に何も頼んでいないし頼もうとも思ってない。お姉様が勝手に私を連れて来て勝手に輪に入れと言っているだけ。本当に自分勝手だよ。友達なんて私には必要ないわ」

 

妹のためと思ってやってきた事は全てお節介だったのか……? フランに自由の翼を与えるために私は知らずフランを縛り付けていた?

 

駄目だ。どうにも頭がフワフワして考えがまとまらない。咲夜の制止の声も振り切って神社の裏手に回る。あそこよりは静かなここならば酔いも収まってくれるだろう。

夢だと思おうにもフランのはっきりした声が脳内で再生される。お節介だと、自分勝手だと私を責める声が。

 

『お姉様って本当に自分勝手よね。もっと他人の事も考えてほしいものだわ』

 

手ごろな石に座って頭を抱える。聞こえてくるこの声は実際に言われているものなのか? 幻聴か? それとも私の耳が良すぎるのか?

分からない、何一つ。私がここにいるべきなのかどうかももはや分からない。もしかして私がいない方が紅魔館もスムーズに回るのではないかとさえ考えてしまう。まるで自分のものとは思えない思考のズレ。少しの違和感。それに気づいたとき、フランの声とは別の声が私を呼んだ。

 

『拒絶された者たちの楽園においてなお拒絶された吸血鬼。拒絶されたそのさらに先の世界を見せてあげるわ』

 

声と同時に訪れた抗いようのない浮遊感。いくら羽ばたいても飛べない空間を落ちて、落ちた先にいたのは……

 

「さとり……と早苗、だっけ?」

「やはり最後は貴方でしたか。嫌な予感はしていましたが的中するとは」

「どういう事? それにここは何処なの?」

 

ここは嫌な息苦しさを感じる。まるでヨーロッパにいた時のような。

 

「ご明察。ここは外の世界です。ヨーロッパではなく日本の、ですがね…………何故、ですか? 彼女が言うには休暇の一環らしいですよ。日ごろから疲れているでしょうから、なんて言って」

 

理解しようにも考えが追い付かない。つい先ほどまでは確かに神社で宴会をしていたはず。だが何故か今は外の世界に連れ出され、しかもそこにはさも当然のような顔をしているさとりと少々困惑気味の早苗がいる。夢、にしてはあまりにもリアルだ。

 

「残念ながら夢ではありません。貴方は間違いなくレミリア・スカーレットであり、ここに存在しているのです。私の分かることをある程度で良いならお話しましょう。そこから先の行動はまた考えれば良いでしょう。幸い外に詳しい早苗さんもいますからね」




この小説には「さとり様は料理は苦手だけどお菓子作りは得意」「早苗さんは高校生ではなく大学生」などと言った一般に親しまれている二次創作に反する要素がちょこちょこあります

次回は繋ぎのメインでもある外の世界でちょいと休暇になります。妖怪が外の世界に出る事については次回書くつもりです
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