古明地さとりは隠居したい   作:小鈴ともえ

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人気投票の結果にショックを受けていたのは確かですがここまで遅くなった原因は私の怠惰です


アリスさんの順位が上がる未来が見えないのがちょっと悲しい


時空旅行と宇宙人

「そういえばレミリアさんもここに飛ばされる前に何か言われましたか?」

 

「えぇ。確か『拒絶されたそのさらに先の世界を見せてあげる』だったかしらね」

 

早苗さんと同じ文言ではなかったか。そう言えばレミリアさんはここに来る前にフランドールにひどい事を言われたと心の中で嘆いていたっけ。まったくフランドールもどこまでも素直じゃない子。いや、他人との付き合い方や距離感が分からないのか。そう言う意味では幽閉していたレミリアさんにも非はある。

せめて誰か傍に寄り添ってあげられるような人がいればあの子の心もあれほど不安定ではなかったろうに。

 

「私()という事は早苗も何か言われたの?」

 

「はい。私の場合は『手間のかかる大きな子供のいない世界を見せてあげる』でしたね。別に神奈子様たちの事を疎ましくなんて思ったことは無いのに」

 

三日は目覚めないであろう衝撃から無理矢理起こされた早苗さんは未だに精神が不安定なまま。昨晩の記憶は失っているようだが、それを上書きするように目覚めた時にいなかった八坂様たちへの不審感が募っている。

本当に()()は汚いやり方をする。勝負には美しさを重視させたくせに彼女自身の普段のやり口はひどくいやらしいものだ。

 

「さとりさんは? 何か知っていたようでしたがどうです?」

 

「私ですか? 私はただ『休暇をあげる』とだけ。この紙きれと共に飛ばされたんですよ」

 

そう言って彼女たちに見せたのは今回の件に関する情報の一部。書いたのは私自身。何故か。それは彼女の計画をこの二人に悟らせないためだ。

私も貴方たちと同じ被害者ですよ。私はその紙に書いてあること以外は知らないんですよ。とそう思わせる必要がある。確かに彼女は私に休暇を与えると言いはした。それは嘘ではない。だがそれは私を外に送り出すための表の理由。

 

ただ外の世界に出るだけならば彼女一人でも可能だ。現にしょっちゅう外の世界に出かけては舶来の物を土産に持ってきたりする。しかし今回ばかりは彼女が外の世界に出ることは不可能だった。正しく言えば、今私たちの飛ばされた世界に来ることは不可能だったのだ。

彼女はその理由をドッペルゲンガーのようなものだとした。同じ世界に全く同じ物が存在できないのと同様に、根が同じならば他人のように見えてもそれは成り立ちうるのだという。

 

訳が分からないと言った私に対して彼女は心底面倒くさそうな顔をしながら、しかし懇切丁寧に教えてくれた。

 

 

 

タイムマシンがあれば過去と現在、未来を往き来できると人間は夢想する。しかし本当にそうかしら? 未来には未来の、過去には過去の自分がいるはず。その自分は現在の自分とは異質な存在だけれども自分であることに変わりはないはずよ。ではその自分に会ってしまった場合、消えるのは相対的に過去の自分かしら? それとも未来の自分かしら?

えぇそう。この質問は破綻している。質問ではなくそもそもの前提が。だってそうでしょう? 過去が消えても未来が消えても、どちらにしてもその者の存在は消滅してしまう。つまりは同じ世界に同一の存在がいる場合、両方が同時に消滅してしまう事になる。

 

未来から過去へ渡っても、過去から未来へ渡っても、同じ世界の時間旅行をしようとすれば必ず消滅する。タイムマシンなんて人間の夢でしかない。

もしかしたらタイムマシンを発明した未来では増えすぎた人間を減らすために上手く使っているかもしれないわね? 何と言っても対消滅時には莫大なエネルギーが取り出せるから。タイムマシンを動かすのに必要なエネルギーはきっと人間二人分の質量から得られるエネルギーよりも少ないでしょうから都合は良いかもしれないわね。

 

実際の対消滅とは異なり時間旅行してきた者が反物質になるわけではないから消えるのはその者だけ。なんて都合の良くてクリーンなエネルギー資源……え? この話に何の意味があるのか、ですって? あぁごめんなさい、本題を忘れていたわね。

貴方たちに行ってもらうのは外の世界。だけれども守矢がいた世界とは少し違う、そこからほんの少しだけ未来の世界。そこに答えがいるはずよ。行ったことは無いけれどいたことはあるから分かるの。ふふ、夢の中でしか時間旅行なんてできないと本気で思っていた幼い頃に、ね。

 

では行ってらっしゃい…………えぇそうよ。これはあくまでもただの実験。でも安心して頂戴。失敗などあり得るはずも無いし、一定時間たてば勝手に戻ってくるから。貴方一人ではないわ。仲間(道連れ)は多い方が心細くないでしょう? ……失礼ね。私はいつでも正直よ。ではまた会いましょう。

 

 

 

本当に勝手。だが彼女がここに来られない理由は分かった。俄かには信じがたい事であるが、彼女の次元になるともはや深く考えることすら馬鹿馬鹿しくなる。未来の世界に居る過去の彼女。

私の想像など軽く超えてくるような突拍子もない事実。これが私たちを送り出した裏の理由。レミリアさんと早苗さんはこれを知ってはならない。そう言われたわけではないが何となく私の直感がそう言っている。だからフェイクの紙きれを作ったのだ。私の筆跡を知っている者ならば容易に見破れるだろうがそうでもなければ効果はきちんと発揮されるはずだ。

 

誰かを騙すのが好きなわけではないが時にはこうして他人を騙すことも必要になってくる。そこに罪悪感なんてものは抱かない。だって早苗さんたちに紙を見せる前に私の分かる事を()()()()で良いなら話すと伝えておいたから。

だがレミリアさんも早苗さんも、ここがただの外の世界ではないことにじきに気づくだろう。二人ともごく最近まで外にいたのだから。いくらなんでも僅か数年でここまで環境が変化することはあり得ない。

 

「『普段疲れているでしょうからたまには休暇をあげましょう。場所は外の世界。帰る時間まで精々楽しんで頂戴』ですか。さとりさんって普段何をされているんですか? 宴会などでも見たことはありませんが」

 

「そりゃ普段は地底で仕事をしていますからね。地上に出てくること自体滅多にないですよ。あぁそうそう、貴方のところの神様たちは昨晩地底に泊まっていたので早苗さんが目覚めた時にいなかったのはそのせいでしょうね」

 

本当は早苗さんが起きたタイミングならば既に地上に帰っているはずなのだが。

 

「そうだったんですか……ってあれ? 私神奈子様たちの事さとりさんに言いましたっけ?」

 

「言い忘れていましたね。私は古明地さとり。ただのしがない覚妖怪です。聞いたことないですか? 心を読む邪悪な妖怪ですよ」

 

うん。間違ってはいない。覚なんて伝承でも猿みたいな姿で書かれるほどおぞましいものであるし性格は自分でも悪いと思うもの。結局可愛いのは自分の身と、それと家族。私に比べて周囲が強すぎるからこそ守りたいものが少ないのかもしれないが。

 

「へぇ。心が読めるなんて便利ですね。私も心が読めれば相手の事を理解しながら布教できたんでしょうかね」

 

『心が読めるのは便利そう』もう何度も聞いてきた台詞だ。私の能力を聞いた者の最初の発言は大体これだったと思う。そりゃこの能力は汎用性も高いし便利ではある。実際に何度も能力に命を助けられてきたのだ。

その点で感謝すべき能力ではあるのだが、私にとっては同時に憎むべき能力でもあるのだ。心を読むなんて能力が無ければこいしを失う事も無かった。しかしあぁ、世界とはどこまでも理不尽なものだ。きっとこの能力が無ければこいしと出会って共に過ごすことも無かったのだろうから。

 

「さぁどうでしょうね。心を読む者は概ね嫌われる傾向にありますから、信仰集めは余計に苦労したのではないでしょうか」

 

どんな能力でも当たり前の事だが、心を読む能力も例外なく使い方次第でメリットにもデメリットにもなる。まだ二十年弱しか生きていない人間が他人の悪意を直に感じながら信仰を集めるというのはおよそ不可能だと私は思う。

 

特に外は幻想がかなり薄まってしまっていた世界。宗教というのはただ胡散臭いものだと一蹴されるようになってしまった世界で布教しようにも、それこそ鬱陶しいと思われて終いだ。その感情を複数人から直接読み取って、それでも尚活動しようと思えるほど強心臓な人間は恐らくいない。

人の、妖怪の悪意を千年以上読み続けてきた私でも継続はできないだろう。心が折れるのが先か世界を諦めるのが先か。こんな能力は人間が持つべきものではない。

 

「ところで早苗さんはここが何処か分かりますか? 如何せん私の土地感は平安で止まっていますので」

 

「それは流石にあてになりませんねぇ。でも私もほとんど長野県から出たことないですから変わらないですよ?」

 

そう言いながらも周囲をきょろきょろと見渡して特徴的な建造物を探しているようだ。だが残念な事にこの辺りには何もない。木も草もほとんど生えていない荒涼とした風景が広がっているばかり。

 

「流石にここまで何もないというのは不思議ですねぇ。山奥というわけでもないですし……放棄でもされたんでしょうか」

「どうなんでしょうか。ですが人がいる気配は何処にもなさそうですね。目立った建物も無いようですし、少し移動するべきですかね」

「でも大丈夫かしら? 私たちが出たら人間は阿鼻叫喚になるんじゃ?」

「そのあたりは問題ないでしょう。何せ私たちは幻想の存在。私たちを視認できる者がいたとしても既に神隠しにあっていると思いますよ」

 

時代も時代だし私たちを視認できる者は外にはもうほとんど残っていないに違いない。唯一の例外は過去の紫さんくらいか。早苗さんたちがいた時代でさえ力ある神の存在を否定されていたくらいなのだから今はもっとひどいだろう。

 

「確かに。じゃあ面倒ですし飛んでいきましょうか。低空なら飛行機も飛んでいないでしょうし」

 

確か飛行機の飛行高度はだいたい10km程度のはず。空港がすぐ近くにある気配もないから相当な異変がなければ飛行機とはかち合わないはずだ。

それにしてもあんな鉄の塊が空を飛ぶなんて思いもしなかった。昔から空を飛べる人間は少数ながら居たし、きっと数百年間の人間の憧れがようやく実を結んだのがあれなのだろう。本によれば最高速度は音速とほぼ同じ。なんと鴉天狗とほとんど同じ速さで人間が空を移動する時代なわけだ。この時代ではどんな風になっているのか。

 

 

五百メートルほど上昇すれば周囲もかなり見渡しやすくなる。元々周りに建物が無かったこともあり、人間が多く住んでいるであろう明るい場所を探すのに苦労はしなかった。

 

「ここから西ね。かなり距離はありそうだけれど早苗の体力はもちそう?」

 

「任せてください! 運動全般はいつもクラスで一番でしたからね!」

 

随分と誇らしげに話しているが、残念ながら私たちはどちらも学校のクラスという単位における人間の身体能力など知りはしない。ただ彼女の現人神という実態から察するに、幻想の薄れた人間の中ではずば抜けていたことだろう。丁度幻想郷の人間の中での霊夢さんのように。

早苗さんのよくわからない規準にレミリアさんも困惑していたようだが、一先ずここは無視することにしたらしい。そんなわけで少々長い(といっても二時間程度の)空の旅が始まった。

 

外に出て多少力は弱まっているが空を飛ぶ程度の力の余裕はある。というよりも能力が弱まっていると言った方が良いか。不用意に心を読まなくて良い分気は楽だが、普段に慣れているせいで少し不安も感じてしまう。

やはり幻想の終焉が近い場所。私たちにとっては地獄よりもよほど地獄に近いだろう。

 

 

 

 

 ▼▼▼▼▼▼▼

 

 

「ねえ知ってる? メリー」

 

今日は5分7秒遅れて到着した宇佐見蓮子に呼ばれた少女メリー――マエリベリー・ハーンが遅刻の忠告をするまでもなく、蓮子は興奮した面持ちで話し始めた。

メリーの方も友人の性格をよくわかっているらしく、今自分から何か言っても聞いては貰えないだろうとあきらめた様子で話を聞くことにしたようだ。

 

「何のこと……あぁもしかしてあれ? 最近目撃されたとかいうUFOのことでしょ」

「そうそう! さっすがメリー、話が早くて助かるわ」

「でもどうせ見間違いか何かよ。航空自衛隊基地の跡地でってのも胡散臭い原因なんだけど」

 

近頃航空自衛隊の基地があった場所付近にて監視用ドローンが捉えた映像。それが現在の世間を賑わしていた。これに関しては大きく三つに意見が分かれており、

一つ目は本当に得体の知れない飛行物体であるという意見。

二つ目は跡地であることを利用した何者かによる、監視用のドローンを使った悪質なトリック撮影であるという意見。

三つ目は―――これが一番有力だとされているが、そもそも監視用ドローンというのが前時代の遺物のようなものなのだから何かしらの不具合だったのだろうとする意見だ。

 

世間はこれで片づけようとする。自ら厄介ごとに巻き込まれる事態を避けたいがために大衆の意思に沿おうとするのだ。しかしここにいるオカルトサークルの二人組にそんな意思は無かった。

メリーも口ではこう言っているが、実際にはかなり興味を持っている。だからこそ蓮子に聞かれた時にもすぐ思い至れたのだと言える。

 

「ふっふーん。メリーがそう言うと思って資料は集めてきたわよ。ほら」

「これは…………」

 

蓮子のタブレットに映し出されたのは出回っていた映像よりも画質が数段上の画像や短い動画。

 

「こんなものどこで?」

「秘封俱楽部なんだから情報の表ばかり見ているようじゃ駄目よ? この手のちょっとばかり怪しいサイトに潜ればいくらでも……は言い過ぎだけれど報道されているものよりは上質な情報が手に入るのよ」

 

つまるところ違法にも近い方法で情報を集めているのである。そもそも結界を暴こうとしたり、オカルトに傾倒しすぎることは法によって禁止されているのがこの時代。メリーも蓮子に注意できないほど十二分に法を破っているのである。

 

「とまあざっとこんなものね。これらを照らし合わせれば、この未確認飛行物体は空自の基地跡から飛び立ち、かなり低い高度を高速で進んだことになるわ。そしてこの映像のココ、よく見て」

「生身の……人間?」

「そう。でも生身の人間がこの速度によるGに耐えられるはずが無い。だから宇宙人じゃないかと私は思うのよ」

「つまりUFOではなくUMAってこと? でも飛んでるからUFOなのかしら」

「そんなことはどうでもいいのよ。メリー、土日空いてるわよね? ならよし。これが降り立ったのはかなり近いはず。多分大阪辺りじゃないかしら。久しぶりのサークル活動ね」

 

蓮子は未知との遭遇を想ってワクワクしているようだが、逆にメリーは一抹の不安を抱えていた。蓮子が言った『人間が耐えられないほどの強力なG』を耐えられるような身体を持つ生物ということになれば、それはかつて夢の中で見た兎のような化け物や炎を噴出した女性よりも恐ろしい何かなのかもしれない。




早苗さんは現代にいれば絶対に良妻枠

というわけで秘封の二人です。秘封は難しいですが大好きなんですよね
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