古明地さとりは隠居したい   作:小鈴ともえ

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こんなに期間を空けたのに今回は少し短めです
秘封メインで書ける人凄いですね。私には想像が追いつきません


人間と妖と神及びそれらの中間の子

「1時56分4秒――――メリー、何か手掛かりは見つかった?」

 

「いえ特に。結界の歪みも感じられないし境界も見えないわ。蓮子こそその情報は確かに間違っていないのよね?」

 

例の未確認生命体を調査するために早速大阪へと出張って来た二人だが、丑三つ時近くになっても何の成果も得られていないのが現状である。それもそのはずで、ここでの目撃情報があったのは既に三日前。既に対象が移動しているという可能性はかなり高いのだ。

二人もそのあたりの事はよくわかってる。それでもここにやって来たのはメリーの能力を応用して追跡できないかを試すためである。人為的な結界の歪みが発見できればそれを辿れるのでないか、という仮説だ。結果は失敗。そもそも結界の歪みを見つけることすらできなかった。

 

「私の情報を疑うという事は国家を疑っているのと同じよ? まあ国が信用できないのは否定しないけどね」

 

「別に……そういう訳じゃないわ。でもこの生命体Xに関して何かしらの大きな力が働いたのは確かでしょうね。あまりにも異常すぎる」

 

既に高速地下鉄道が実現しているこの時代、旧型の旅客機は運航を停止している。京都ー東京間以外の移動についても地上で各都市を繋ぐリニア新幹線が発展している時代に飛行機を利用するのは国家間や離島からの移動か、それか相当遠くに移動する時くらいである。

しかし空は相も変わらず領空問題で荒れている。領空監視用にいくつものポイントが設けられ、空の監視体制はかつて数多くの飛行機が飛んでいた頃よりもはるかに厳しいものになっている。

 

だからこそ低空を飛行していた謎の生命体は様々なカメラに捕捉され、四日前に突如報道されたUFOを皮切りにして複数の箇所から次々と同じような報告が上がった。目撃情報が出たポイントを追うことで、徐々に首都に近づいていたことも分かっている。しかしその後三日前に大阪付近で目撃されてからは全くもって情報が表に出なくなってしまった。

今やそれを気にかけているのはメリーと蓮子だけという状況。十数年経っているならまだしもまだ精々三日。七十五日どころではない速さで噂は消滅した。これを聞けば『異常すぎる』というメリーの表現にも納得がいくだろう。

 

「でも、だからこそ気になるわよね。国が存在を忘れさせるほど危険な物だった可能性。あるいは()()()人間の記憶には残らないようにする技術を持っている可能性。メリーの目に映らないのも不思議なのよねぇ」

 

「まあね。あとは全て私の見た夢だったという可能性もあるにはあるんだけど」

 

メリーの夢はもはや現実との区別がほとんどつかない次元にまで到達してしまっている。しかしこれに危機感を覚えているのはメリーではなく蓮子の方であり、メリーはただ便利なツールだという認識しかない。

夢の中でなら何にでもなれ、さらに夢の中の物を現実に持ち込むことすらできる。それはいわば神の所業。人間にできることの範疇をはるかに上回っている。

 

いつか自分から離れてどこか手の届かない場所に行ってしまうのではないか。そんな不安。しかしそのことをメリーに直接言うわけにもいかず、その話題になる度に蓮子はただ微妙な顔をするだけだ。

 

『―――――――』

 

「ん? 蓮子何か言った?」

 

「いいえ。何も言ってないし聞こえてもないわよ」

 

メリーの覚えた違和感。何かが確実に声を発したはず。まだまだ暑さの残る秋口であるにもかかわらず、メリーは思わず来る身震いを止められなかった。今までのメリーは自分の目を絶対だと信じて疑ってこなかった。これさえあればいかなる境界をも暴くことができると。

だから今回は何かの間違いだったのだろうと結論付ようとした。しかし直後に再び声が聞こえた。何もないはずの空間から、今度はより鮮明に。

 

『そう。未知への恐怖こそ人間に必要なもの。その感情を忘れるべきではないのです』

「こんばんは。こんな夜更けにこんな場所でいったい何をされているんです?」

 

「ひっ!? あ、あああ貴方はいったい……?」

 

今度の声は蓮子にも聞こえたようで、情けない声を出しながらも相手の素性を探るという最低限の行為だけはできた。

 

気配もなく急に後ろに現れた少女は見たところ彼女らと同じくらいの年頃だ。長髪のよく似合うだけの普通の少女にこれほどまでに二人が驚いたのは不意に声をかけられたからなのか。それともこの二人だからなのか。

メリーの見る夢の中でも肝試しの墓場でも、恐怖という感情を一切見せずに只管興味のままに突っ切って来た蓮子がこれ程までに驚き、怯えるのは恐らく後にも先にも今回ばかりだろう。

 

「そ、そんなに驚かなくてもいいじゃないですか。私はただの人間ですよ!?」

 

自らを人間であると主張したことに違和感を覚えたのは蓮子もメリーも同様である。見るからに人間であるにもかかわらず人間を主張する。それはつまり、目の前の少女が人間以外の知的生命体をよく知っているとも言い換えられるのだ。目の前の少女は確実にただの人間ではない。人外か、あるいは二人と同種の存在かであろう。

 

「じゃあそっちの二人? はどうなのよ。貴方の連れにしては物騒だけれど」

「二人? 何言ってるのよメリー。このニンゲンさんはどう見ても一人じゃないの」

「え?」

 

メリーにだけ見えていて蓮子には見えていない()()。突然現れた目の前の少女もメリーの方を怪訝そうな顔で見つめている。

二人には見えていないようでいて、しかしメリーの目にははっきりとその姿が捉えられている。幼い子供のようでいながらも明らかな異形。その片方が、まるで狙い通りと言わんばかりに口元を歪ませた。 

 

 

 

 

 ▼▼▼▼▼▼▼

 

 

想定より少し時間はかかってしまったが、何とか目的の市街地周辺に到着した。しかし流石に人通りの多い所に着地するわけにもいかず、結局この時間は人の少なそうな神社の裏手に降りることになった。

 

「しかしやはりと言うべきか……まぁ人間が妖怪に体力で勝るはずもありませんね」

 

やはり人間の体力を妖怪基準で考えるべきではなかった。出発前は自信満々だった早苗さんも目的地に到着する頃には疲れ果てて寝てしまった。最後の方はレミリアさんに背負われていたくらいだし、流石に幻想郷の巫女二番手と言えどもこの距離は厳しかったようだ。

ただずっとこのまま放置しておくわけにもいかない。紫さんの話が確かならばここは相当に技術の発展した時代。神社であるにもかかわらず神の気配が全くしないほどに幻想の薄い世界。何かしらの対策を練らなければ最悪消滅まで見えてくるか。流石にそうなる前に回収してくれるだろうがあまり楽観的になりすぎない方が身のためだ。

 

「そりゃ守矢の風祝といっても霊夢とも数段違うしねぇ。で、これからどうするの? ここにずっといるわけにもいかないでしょう?」

 

妖怪にとって神社は相性が良くないから、と。

確かに普通はそうだ。この神社の注連縄は既に結界としての効力を失っているようだが。

 

「とりあえず早苗さんが寝ている間に服を調達しましょう。冬用の服のままこの季節に来てしまいましたから」

 

「早苗を連れて行かない理由は何かあるのかしら?」

 

「巫女服の人が町中を歩いていたら不自然極まりないでしょう?」

 

多分この時代には既に巫女すらほとんどいない。神がいない神社に巫女がいる理由がないから。レミリアさんはここが未来だとは知らないはずだからこれで誤魔化すほかない。どうせすぐに嫌でも気づかされるのだろうが。

 

「確かにそうね。でも大丈夫かしら?」

 

「…………あぁそのことですか。まぁ問題ないでしょう。私たちの事が見えないという事は何かを盗られても気づけないということですから、よほど大きな物や目立つ物でもなければ騒ぎにもならないでしょうね」

 

見えないとはそういう事。人間は見える物こそが正しいと考えがちだ。空気のように、確かにそこにあるのに見えない物など掃いて捨てるほどあるというのに。自然現象と偶然によって全てを解決した気になっているのが外の世界。その()()の産物である私たちが何かを盗ったとしても誰も何も分からないだろう。

 

「盗んだりなんかして大丈夫かしら。万が一見つかったら危ないわよ?」

 

流石良い所のお嬢様は言う事が違う。それとも自身が過去に外で暮らしていたことによる経験則か。

 

「問題ありませんよ。法とは人間が人間を抑止するためのもの。私たちが何をしても法では裁けないのです」

「つまり…………?」

「私たちにとっては幻想郷と同じ、無法地帯です。幻想郷と違ってこちらの人間には制限があるので治安は随分良いでしょうけど」

 

幻想郷は人里以外では窃盗など日常茶飯事だと聞いている。殺人だって妖怪によって日常的に起こるもの。そんな場所で長年生きていたのに今更人間のための法に従おうなどという気は起きない。私としてはむしろ毎日のように様々な被害に遭っているであろうレミリアさんがまともな感性をもっていることに驚いた。

 

「さて、行きましょうか。早苗さんが目覚める前に明るい街へ小旅行と洒落込みましょう」

「……驚くほど様になっていないわね」

「私はただの統治者でしかありませんからね。紳士淑女の作法など分からないんですよ」

 

 

 

 

 

そんなわけで早速人のいる場所にやって来たわけだが、私の予想通り、私たちを視界に入れられるような人間はここにはいないらしい。人間からは見えないということに対してレミリアさんも初めこそ疑心暗鬼になっていたが、人間の目の前で大きく手を振ってみても何も反応が無かったことから信じざるを得なくなったらしい。

まあ私たちが人間から見えるのならば、わざわざ結界を張ってまで隔離する必要はなかったのだから当り前である。レミリアさんの基準で言う人間というのが幻想郷の人間たちであるから信じられないのは分からないでもないが。

 

「うわ……眩しいわ。天狗の写真機でもあんなに眩しくないのに」

 

「人間は天狗や吸血鬼とは違って極端に夜目が効きにくいからでしょうね」

 

昔の人間は闇夜の恐怖を凌ぐために灯をつけた。そしてそれが妖怪を、延いては神秘を滅することに繋がっていった。しかしこの時代は何故こうも明るくしているのだろうか。既に名のある神秘はほとんどが消えるか幻想郷に封じられているはず。

もはや人間が恐れるべきものは大いなる自然くらいしかない。町を点々と照らすだけの灯りだけでも妖怪に対する効果は大きいはずなのに。

 

「ふうん。でも不思議な気分だわ。昼間のように明るいのに一切のダメージが無いというのは。どういった仕組みなのかしら」

 

「さぁ、どうなんでしょうね」

 

ただの電気にしては眩しすぎる。魔力を使えば再現できそうではあるがここはそんな力を嫌う外の世界。私には何が夜をここまで明るくしているのか判断することは不可能だ。

 

「でもきっと大多数の人間も知らないと思いますよ」

 

時代が進んでも場所が変わっても夏の暑さは変わらない。回らない頭をリフレッシュするためにもまずは手ごろな洋服店に入ることにした。




時間軸が分かりにくいかもしれないので前半と後半を逆にすべきだったかも
一応前半は前回から三日後の蓮メリ。後半は前回の数時間後の三人です。投稿間隔を空ければ空けるほど読者様方は前回の内容を忘れてしまうはずなのでわかりやすさを重視するべきではあるのでしょうが……
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