古明地さとりは隠居したい   作:小鈴ともえ

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遂に一月空きました。前回忘れている方も多いかもしれませんので一応前回のあらすじをば

蓮メリは早苗と邂逅。ただしメリーの方にだけはさとり様とレミリアも見えているという状況。対するさとり様たち三人はまだ邂逅していない時間軸で気ままにのんびりしていました


違和感と非常識と違和感

「早苗さん、起きてください。朝ですよ」

 

明るくなってそろそろ神社にも人が来始める時間であろうに境内には誰一人として姿を見せない。やはりここは時代に取り残されただけの廃神社だったか。一応誰か来ても良いように裏手に回っていたが、この調子なら堂々としていても問題は無さそうだ。

 

目覚めた早苗さんに昨夜頂戴してきた洋服を渡し、レミリアさんには日焼け止めを塗ってやる。吸血鬼に対する日焼け止めにどの程度の効果があるのかは知らないがどうせタダなのだから試してみるだけ試してみればいいという考えである。

 

「うーん……洋服を着るなんて随分と久しぶりです。違和感しかないですね」

 

はるか昔に和服を着なくなった私と生まれた時から洋服だったレミリアさんにはよくわからない感覚だが、逆に私たちが和服を着ればきっと同じように思うのだろう。

 

「それにしてもさとりさんは随分と手が早いですね。まるで初めから分かっていたかのような……」

 

「いえいえ。外の世界における私たちのような存在がどうあるべきかを考えた結果ですよ。私たちの姿が一般人に見えないのは既に分かり切っていることですし。ほら、先手必勝というでしょう? あちらに何か感付かれる前に手を打った方が何かと楽なので」

 

思いもよらなかった鋭い身内切りに対して咄嗟に早口で言い訳をしてしまった。この人間はまさか覚妖怪の弱点を知っているのではないかと一瞬疑ってしまったが、本当にただ気になっただけのようだ。

不意打ちこそ覚妖怪に対する有効打。敵対している状況ならば素直に称賛ものなのだろうが、今回は一応味方同士なので褒めるわけにもいかない。図星だし。

 

「ま、私は何でも構わないけれどね。対策は早めにするに限るし……ってあれ?! なんか焦げ臭いわね」

 

「あー……レミリアさん、早急に日陰に入った方が身のためかと」

 

どうやら日焼け止めは吸血鬼には効果がないらしい。少し考えてみれば当たり前のことで、日焼け止めというのはあくまでも人間が日光に含まれる紫外線から肌を守るために使うものである。対して吸血鬼は日光に当たると焼けこげるのであって紫外線に当たると焼けこげるわけではない。やはり日光そのものを遮断する陰を作り出す必要があるようだ。

 

「これで動き回れればかなり楽だったんですけど。仕方ないので日傘で移動しますか」

 

「え。さとり、貴方いつの間にこんなもの貰って来てたのよ。私ですらさっぱり気付かなかったわよ」

 

「常に最悪を想定して動くのが当たり前ですよ。そもそも日焼け止めに関しては人間の生み出した物ですから効き目がない可能性の方が高かったですし。……あぁええ、傘は自分でさしてくださいね。面倒でしょうが咲夜さんはいませんので。それかレミリアさんだけ夜になるまでこの神社にいても良いんですよ? 私と早苗さんは少々街を散策しますが」

 

レミリアさんは変なところでプライドの高さが出てしまうからなぁ。流石に数時間もこんな辺鄙な場所で待つよりはマシだと納得してくれたが。

 

「日傘なんてさして歩いていれば人の多い場所には行けませんね。大阪の喧噪なんて憧れだったんですが」

 

「そもそもレミリアさんの羽があるので室内でも人が多い場所は難しいでしょうね」

 

私たちにも一応当たり判定はあるが、外の人間から見た私たちはこいしの能力を突き詰めた結果のような存在になっていると推測できる。見えないが触れることはできる。しかし触れたことには一切気づくことができない、と。

加えて私たちは人間の作った赤外線センサーに反応しないことも昨夜のお出かけから分かっている。体温はあるが人間の機械には感知できないズレがあるらしい。多くの妖怪が現れては消えている現代ならではなのだろう。

 

目に見えず、触れたことに気づかない程希薄で、赤外線センサーに反応しないという事は赤外線カメラも気にする必要はない。加えて『物』は私たちが身に付けると同時に人間からは視認できなくなる。これだけ聞けばいくら人間の多い場所に行っても問題なく行動できるように思うだろう。そして実際にその通りではある。

レミリアさんの羽に進路を邪魔されたとしても、された当人は邪魔されたという認識すら得られない。ただ真っ直ぐ歩いている自覚しかないのだ。日傘にぶつかっても、サードアイに触れても、それがわかるのは私たちだけだ。

 

しかし私は早苗さんの言葉に乗っかった。人の多い場所には行けないという意見に同調した。

簡単な理由である。私の能力と大衆は絶望的に相性が悪い。ある程度の指向性は持たせられると言えども能力の完全な遮断は不可能だ。大量の人間たちから噴き出すゴミ屑のような負の感情を読み続けるのはさすがにゴメンである。

 

幸いレミリアさんは私の言葉を信用してくれるし、早苗さんも妖怪の言葉として多少疑う部分はあっても概ね信じてくれている。私にとってはありがたい限りだ。だが早苗さんには妖怪を信じることの危険性というモノもまた教えなければならない。

まだ幻想郷に来てから浅い彼女は妖怪について詳しく分かっているわけではない。地上に住んでいる妖怪ならまだしも、地底に閉じ込められたような凶悪で醜悪な妖怪達は基本的には信じるべきではない。当の本人である私が言っても説得力はないかもしれないがそれでもだ。

妖怪の皆が皆、私の周囲にいる者たちのように()()()なわけではない。むしろその逆。妖怪は主に人を騙し、喰う存在。信用とは対極にあるはずの存在。だからこそ早苗さんは危うい。その境界線がはっきりと付けられていない。

 

確かに危ういが恐らく彼女を心配するには及ばないだろう。彼女は真に信じるべきものを心の中に宿している。それを自覚しているし知覚している。

神が信じる者の前に姿を現すのならば、彼女に災厄が降りかかるような事は滅多にないだろう。

 

心配するだけ無駄だが、それはそれとして信用すべき対象を知らなければならないということである。私はそこまでしてやるほどお人好しでもないが、きっといずれあの図々しい神様たちが教えてくれるのだろう。

この娘が神として生きるのであればその長い生を生き抜くために妖怪の持つ善性と悪性をきちんと理解させねばならないし、人間として生きるのであればなおさら死なせるわけにもいかないはずだ。

 

 

 

そんなことを考えながら街に降りてきたのはいいものの、結局人通りの多い場所にしか目ぼしいものはないし、レミリアさんの日傘はこちら視点では非常に不便であるし、流石に眠たくなったようなのでレミリアさんは一足先に神社へ帰っていった。

かつては天下の台所とも呼ばれたこの場所に静かで落ち着いた空間を探すのはなかなか難易度が高かったか。人はどこに行っても多い。むしろ何故こんな都会にあのような寂れた神社が残されていたのか。それが甚だ不思議でならないほどだ。

 

「さてさて、レミリアさんも帰ってしまったことですし、少しばかり人の多い場所にでも行ってみますか?」

 

「え? 良いんですか?!」

 

「ええ。勿論です」

 

そもそも貴方の心を読んだうえで提案しているのだから。

幸い私は小柄だし、レミリアさんのように大きな翼を持っているわけでも邪魔な日傘をさしているわけでもないのでどんな場所に行ってもそこまで困らないはずだ。

人ごみはなるべく行きたくないのだが、ただ私の心が多少汚されるだけであの神様たちへの貸しが作れるのなら安いものだ。

 

「それなら大阪駅に行ってみたいんですよね。電車の数が物凄いという噂ですし」

 

人間(河童も然りだが)の技術発展に些かの興味もない私にとってはどうでもいいことであるが、元現代っ子にとっては大きな憧れがあるらしい。だがここが大阪駅に近いのかどうかはよくわからない。早苗さんも来たことが無いので土地勘に頼ることもできない。

 

「一先ず大阪駅への行き方を誰かに聞いてみましょうか。そもそもここが何処だか分かりませんし迷子にでもなったら悲惨です」

 

方向音痴である、ないにかかわらず知らない地を歩く時には誰かに道を尋ねるのが吉だ。死神や紫さんのような一足飛びの移動方法があれば一番楽なのだが生憎と私や早苗さんにそのような能力はない。まぁ早苗さんの能力なら…………うげ、それは流石にやめてくれ。

 

「早苗さん、それは流石に世間が混乱してしまいますよ」

 

大阪駅にだけ雷を落として場所を特定しようとするなんて恐ろしい人間だ。およそ普通の人間の思考とは思えない。だからこそ幻想郷にやって来たのかもしれないが、よくそんな発想のできる頭で二十年弱も外で暮らせてきたものだ。

ひょっとして彼女の周りにいた人間たちも相当にぶっ飛んでいたのだろうか。それとも周りには誰もいなかったとか……あまり深くは考えないでおこう。

 

「あらそうですか? 分かりやすいと思ったんですけど残念です。あ、それなら局地的豪雨を降らせるというのはどうです?」

 

「奇跡はそう易々と起こすべきものではありませんよ。他人への迷惑も考慮して行使するべき神の力です。今晴れているのに急に雨が降れば傘が無くて困るでしょう?」

 

この娘はぶっ飛んではいるが常識が無いわけではない。むしろ幻想郷の鬼畜な者たちに比べればかなり常識的な部類に入るだろう。この程度の説得で納得してくれるのが良い証拠だ。博麗の巫女ならばそんなもの知ったこっちゃないなんて言いそうなものだから。

 

「なら仕方ありません……あら? あそこにあるのは電車の駅では? もしかしたらここがどこか分かるかもしれません。ちょっと行ってみましょう」

 

ぐるっと回って来たから気づかなかったが場所としては神社のほぼ真西か。結果論だが先にこちらに降りて来ていればもっと早かったのに。

 

 

 

「流石、都会の線路は全て高架なんですかね」

 

それは知らない。そもそも電車など実際に目で見たことも無いのだ。

 

 

「うわー! 見てください! リニアですよリニア!」

「おぉ! あっという間に見えなくなっちゃいました」

「え? もう次が来たんですか?!」

「リニアがあんなに静かだなんて! 私もっとうるさいものだと思ってましたよ。都会では一体どんな技術が……」

 

 

…………先ほどから早苗さんが一人で勝手に盛り上がってしまっている。リニアなど初めて聞いた言葉であるし、そもそも物理は完全に門外漢である私にとってみれば早苗さんの感動が何一つ理解できない。

だがずっとこのままにしておくと一向に先に進めないので無理矢理現実に引き戻して駅名及び周辺地図を見に行くよう伝える。年頃の女の子が一人で(この時代の人にとっては当たり前の光景を見ながら)目を輝かせていることに対して白い目で見つめる人も出てきた事だし。

 

 

何とかして早苗さんを移動させた先にあった駅名は『旧住吉神社前駅』

なるほど。私たちが根城にしているのは住吉神社の名残というわけだ。かつて相当の権威を持っていたからこそ形だけはまだ残っていたと、そういう事なのだろう。

 

しかしこの駅名を見て瞬時に表情を変えたのは早苗さん。流石は神に仕えている者と言うだけある。まさかこのような形で時間軸のズレに気づくとは。

 

「まさか…………」

 

「えぇ。貴方の予想通りです。ここは貴方の過ごしていた世界と同じ時代ではなく、それよりもはるかに技術が発展した未来。貴方も薄々違和感を覚えていたでしょう? あまりにも妖怪の気配が無さ過ぎると。……はい、私は気づいていました、というよりも昨晩の散歩で気づきました。ここは貴方が想像しているよりもはるかに治安が良く、しかし危険極まりない場所です」

 

人間同士の安全は確かに守られている。相互完全監視社会。どこに行っても誰かの目が付き纏うと考えて良いほど窮屈で安全な社会。だが私たちにとっては存在すら消滅しかねないほど危険な場所なのだ。

ま、半分くらいは脅しだから実際はそこまで急がなくても問題はないだろうが。能力が行使できなくなればいよいよ危ないだろうが今のところその兆しはない。

 

「貴方が過去に生きていた者であること。それをこの時代の人間に悟られてはいけません。混乱どころの騒ぎではない、研究の対象にされかねませんから」

 

「さとりさん、貴方はどうしてそこまで冷静でいられるんです? タイムスリップというのは不可能だとも言われている未知の技術。それを自覚していてなおどうして私が自分で気づくまで黙っていたんです? 貴方はいったい、どこまで知っているんですか?」

 

「さぁどうなんでしょう。私の眼は未来を見透かすためではなく現在と過去を覗くためにあるので。未来を視るのはレミリアさんの得意技でしょう?」

 

今、この瞬間、私は早苗さんの中で『信頼できる者』から『警戒すべき妖怪』へと変わった。それでいい。人間も妖怪も、上辺だけの私しか見られない者たちは決して私を信用してはならない。




住吉大社には儚月抄で出てきた住吉三神の他にも豊玉姫など東方に関りの深い神が祀られていたりします。次回書く話でもそのうちの一柱に関する神社を取り上げる予定です

今回ほど遅くならないように気を付けます
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