古明地さとりは隠居したい   作:小鈴ともえ

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会話文同士を一行分空ける時と詰める時の違いは私の中の感覚でしかありませんのであまり気にしないでください。その差異に深い意味など無い事の方が多いです


とうの昔の封印

霊夢と魔理沙、そして早苗が空へ飛び立ったのを見送ってから私も行くべき場所へワープする。昨夜の事の真意をさとりに問わなければならない。何故彼女自身が集めて私に渡したはずの木片を一つだけ持って行ったのか。わざわざ八咫烏を寄越してまで回収したかった理由とは。

 

 

この時間ならばもうさとりも起きているだろうと踏んで部屋にそのまま繋げたのが拙かった。何とか外へ出る前に踏みとどまったが、白黒はっきりつける閻魔は目ざとく私を見つけると、説教の矛先を私にまで向けてきたのだ。

 

四季映姫。公平に白黒つける能力は彼女の仕事柄最適なものであるが私にとっては相性が最悪なものになっている。私の能力は物事に境界を作るわけではなく、物事の境界を曖昧にして操るというものだ。対して閻魔の能力は物事に決して交わることの無い境界を作って二分するもの。

境界とは本来、物同士の間に立つものであり隔てるものだ。その概念を閻魔は打ち壊せてしまう。物事を『白』と『黒』というたった二色に塗り分けて決して交わらせないような境界を生み出すのだ。あるいは境界ではなく間隙と言っても良いかもしれない。

私が昼と夜の境界を弄るときは基本的に黎明または薄暮にある境界線をどちらかへ動かす。私の能力下での昼と夜は、その二者がアナログに変化する一般的なもの。しかし閻魔が昼と夜を能力によって区別する場合、昼という塊と夜という塊に完全に二分してしまう。デジタルな変化しか許されなくなるのだ。その過程をすっ飛ばすような変化さえ許すのが閻魔の定義する境界。私が弄ることのできる境界を作ってくれないのである。

 

境界を作っているように見えて実際は曖昧にしているだけなのが私。閻魔の世界では曖昧が許されないから私とは相性が悪い。折角曖昧にした境界を彼女に定義されてしまうと私にとっては不都合でしかない。

 

だから見かけた時にはすぐに逃げるのが常だったし今回も見つかる前にずらかろうとしたというのに……まったく、ついてない。

 

「丁度良い。八雲紫にも言っておきたいことがあったのです。貴方はいつも私を見るや姿を消してしまいますからね」

 

よく見ると仁王立ちしている閻魔の後ろにさとりが正座させられているのが分かった。今にも口から魂が抜け出していきそうに白目を剥いている。さとりがここまで酷い有様になっている事からかなりの長時間説教されていたのだろうという事が容易に想像できるというものだ。同時に次の照準が自分に合った事への恐怖が生まれるわけだが。

 

「貴方はいつもいつも私を見るたび脱兎のごとく逃げているでしょう。そのくせやらねばならない結界管理となれば己の式神に大方任せて自分は寝ていたりする。そう、貴方は少し怠惰がすぎる。古明地さとり、貴方もですよ。怨霊が逃げ出しているのはあの火車が管理しきれないほど多くの面倒を見させている貴方の責任です。そこに自分の都合など関係ありません。与えられた仕事、引き受けた仕事はきちんと責任を持って行うべきもの。部下の失態は上司の責任です」

 

「お、じゃああたいが昼寝をしても映姫様の責任になr……きゃん!」

 

正直助かった。どこから入ってきたのかはあえて聞かないけれどこのタイミングで来てくれたのは非常にラッキー。閻魔の長い長い説教をさらに長引かせることにならないのであればこのサボり神は意外と優秀である。閻魔に遠慮なく口答えできる数少ない人物の一人だから。

 

「小町……貴方も私の説教を聞きたいの?」

 

「いやいや、違いますよ。そろそろ交代の時間なんで呼びに来たんです。映姫様も裁判に遅れたくないでしょう?」

 

グッド。いや~、今回はこの死神がいい仕事をした。二交代制の良い所は説教の時間が確実に有限であることだ。さとりは恐らくその時間いっぱいくらいまで説教されてきたのだろうが私はまだ来てすぐ。私の来るタイミングがもう少し遅ければ鉢合わせずに済んだと考えれば少し残念だが、鉢合わせてもこの程度ならばまだ耐えられる。

既に意識が行方不明のさとりには申し訳ないけれど私は心から死神に感謝しておこう。

 

「おや、もうそんな時間だったんですね。八雲紫、古明地さとり、次は是非もう少しゆっくりお話しましょうね」

 

流石裁判長。事実上の死刑宣告のような言葉を残して二人は瞬間移動してしまった。

 

 

 

 

閻魔の死神が帰ってしばらく、気絶しているさとりを眺めている私という歪な構図が火車の誤解を生んだりしたがそれを何とか解いて、当のさとりとそのペットは朝食を食べに行ったというのが現在の状況である。

私も朝食を一緒にどうか、と誘われはしたが丁重に断っておいた。私がいたら食卓が微妙な雰囲気になる事間違いなしだし、今はなんとなくあの地獄鴉に会いたくなかったからだ。

 

それにしてもさとりの部屋はいつ来ても本だけが多い。本と紙、インクやペン類以外の物がほとんど無い。仕事も趣味もこの一部屋で全て完結してしまえるようにだろう。彼女が地霊殿に缶詰になる前からこんな感じだったような気がするので、彼女にとっては外に出られるも出られないもほとんど関係なかったのだろう。だからこそ自身の死の偽装をあれほど簡単に飲んだのか。

 

それ以外にこの部屋にある物といえば寝具と簡単な紅茶セット、それと額縁に飾られた数枚の絵くらいのものだ。

その絵の中でも最も古いのはさとりが火車と旧都を見て回っている物。まだ彼女が旧都に行けていた頃を描いたこの絵は二百年ほど前からずっと飾ってあるような気がする。この部屋にある絵を描いたのは確か全て橋姫だったはずだ。さとりは絶望的に絵が下手だったはずだから。

 

飾ってある絵のほとんどはさとりではなくペットたち。さとりが描いてあるのは先ほど述べた絵と集合写真のような大きな絵の二枚だけ。こいしが描いてあるのはその大きな一枚絵にのみ。

これが私にはずっと不思議だった。何故さとりはこいしよりもペットの絵をたくさん飾っているのか。いつだったか聞いてみたことがある。その時には確か『絵の中にいないからこそ、もしかしたらそこにいるかもしれないと思わせてくれそうじゃないですか』と言われたっけ。

 

姿が見えないだけで実は全ての絵の中にいるかもしれない。さとりはそう思うために敢えてほとんど描いてもらっていないのだという。確かにあの子の事だから何処かで見つめているのかもしれない。それでも絵の中にさえそれを求めてしまうさとりの如何に悲しい事か。

 

机の上にも一つ小さな写真立てが置いてある。入っているのは絵ではなくこの部屋唯一の写真。写っているのはピンボケだが見る者が見れば辛うじてこいしとフランドールであることが分かる。最近の文々。新聞から切り抜いたものなのだろう。なんだかんだ言ってさとりもこいしの写真を常に目に付くところに飾っているのか。

 

「あぁそれは二月前の新聞から取って来たものですね。あれを期にあの子にも友人ができないものかと思いましたがねぇ」

 

気が付けばすぐ後ろにさとりが立っていた。もう朝食を食べ終えたのか。この部屋には時計が無いから慣れていないとそのあたりの感覚が狂ってしまう。

 

「まぁあの子の性質上仕方ありませんかね。さて、今日紫さんがいらっしゃった理由は?」

 

机の上に置いてあった数枚の紙とペン及びインクを仕舞いながらそう尋ねてくる。私がここに来た理由はどうせさとりにも明白であろう。

 

「例の木片のこと」

 

「そうでしょうね。昨日貴方に渡して昨日取り返したんですからそこを疑問に思われても不思議ではありません。あれが異変解決の鍵になると言ったのは他でもない私ですし。しかし今回の異変は完全に解決させない方が良いと私が勝手に判断したので一部回収することにしたんです」

 

この木片が幻想郷中を震わす異変の原因になっているのは既に証明されたし、力を上書きしてしまえば見た目だけではなく効力も完全に消えることが分かっている。今さとりの手の中にあるのは既に何の力ももたない木片。何故そんな物を求めたのかが分からなかったからこうして訪ねてきたのだ。

 

「これにはもう力がない、と思っていませんか?」

「あら、違うのかしら?」

「はい。確かにもうこれには正体不明の力も酒の価格を上げていた力も付与されていません。しかしそれらとは全く関係の無い力……法力が籠められているんです。力のある妖怪にとっては取るに足らないような微小なものですがね」

 

そう言えばさとりはそのあたりの力にも敏感だったっけ。それにしても法力……法力か。こうして隔離されてからは忘れてしまっていたような力だ。霊力とも神力とも異なるもので使えるのは仏僧たちのみ。神道ばかりだったこの地にも仏教が入ってくるか。

 

「私にはこの法力に心当たりがありましてね。ごく最近まで地底に囚われていた舟幽霊や入道使い、彼女らはある僧侶を救うために地上へと出て行きました。正確には宝船と共に地上に打ち上げられたんですけど。これはその宝船の欠片。そう紫さんにも説明しましたね?」

 

あれは本当に宝船の破片だったのか。てっきり霊夢たちをやる気にさせるための方便か何かだと思っていた。

 

「彼女らが宝船をある程度修復させると籠められた法力が働いて僧侶の元にたどり着くはずです。彼女らの発言からしてこれは間違っていないでしょう。問題はその先。完全に修復させてしまうと僧侶が完全な力を持って復活するかもしれない、という事を私は危惧しているのです」

 

「それにどこか問題が? 仏教が神道を押しのけると?」

 

「いえ、それは別に私には害が無いので。彼女らが救いに行ったのは過去に人間によって魔界に封印されたという大魔法使いでもあります。もしかしたら人間に強い恨みを持っているかもしれません。そんな者が完全体で復活すれば人妖のバランスは崩れるかもしれない。彼女を慕っていたのは悉く妖の類でしたし」

 

なるほど。僧侶であるが同時に魔法使いでもある、か。人と妖のどちらに味方をするかによって対応は大きく変わるだろう。

それにしても魔界に魔法使いを封印するとは地獄に鬼を封印するのと同じ。親和性がある分封印自体は簡単だが、中で成長すれば手に負えなくなるほど強くなることもある。その可能性を度外視してまで封印された僧侶。確かに危険だ。

 

「これらは何処まで行っても私の推測の域を出ません。魔界にいる僧侶の封印が解かれるところまでは確実でしょうけれど、それ以降はその僧侶次第です」

 

「えらく詳しいのね。貴方が彼女たちの脱出の手引きをしたとかではなくて?」

 

少し揺さぶってみる。実際に話を他の者から聞いただけではそこまで詳しい情報は得られまい。何か彼女たちと強いパイプがあったと考えるのが妥当。むしろそうでもなければ彼女らの計画が全て筒抜けになっているということで、今回の大掛かりな異変に対して管理がお粗末すぎると言わざるを得ない。

 

「実はこの宝船の破片が不思議な力を秘めていたことも知っていたのではないの?」

 

さとりの目が泳いでいる。明らかに指摘されたくなかった様子だがここまであからさまに反応するのも珍しい。慌てているふりをして逆に私を泳がせている?

しかし私が思案している間もさとりの気まずいような表情は変わらない。じっと見つめられている居心地の悪さからか、さとりは漸く意を決したような表情をすると大きく息を吐きだして話し始めた。

 

彼女らは間欠泉が噴出した時に勝手に出て行っただけだが、さとり自身が地上に送り出した彼女らの協力者もいること。木片に付与されていた能力はその協力者の手によるものであろうこと。

 

「私は彼女の事が好きではありませんし彼女も私の事は嫌っていますが協力者であったことは認めますよ。異変解決者が彼女の能力を追っている以上どこかで戦う事にもなるでしょう。私では到底彼女の事を形容できませんのでそこで知ればいいと思いますよ。鵺、大妖怪の一角です」

 

かつて平安京を恐怖に陥れた妖怪だったか。正体不明こそをアイデンティティとする妖怪で、実際に本来の姿を見た者はいないと言われている。人によって違った姿を見せるという事は非常に捕捉しにくいということにもなる。

鵺が大妖怪として恐れられたのは最も単純な正体不明への恐怖を煽ることができたから。隣にいる人が本当は鵺かもしれない。人間不信をも加速させる能力は幻想郷の人里にとっても非常に厄介になるだろう。

 

「結果論ですが鵺の協力があったからこそ彼女らは解決者にそれとなく木片を集めさせることができたのでしょう。船は必ず魔界に辿り着きます。人間が空飛ぶ船を止めることは不可能ですからね。法力で守られている船に我々妖怪が干渉することも不可能です。我々にはもう聖人の復活を止めることはできません」

 

だからこその木片一つだったのか。復活を妨げることはできなくとも万全で復活させないように。確実に人間側が打ち倒せるように。

本当にこの小さな欠片で何かが変わるかは分からない。誰も保証してはくれない。もう一度封印することになるのか、それとも共に幻想郷で暮らす者となるのか。まだ何も分からない。




会話文が多い(n回目)

独自設定、独自解釈は相変わらずモリモリです。実際には取れないUFOも多いですからね。たった一つで変わるわけはないんですがそこは本作の設定ということでお許しください
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