古明地さとりは隠居したい   作:小鈴ともえ

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サブタイトルが内容を全く表していない異常

昨年は間に合わなかったですが今年は短めにすることで無理矢理間に合わせました。本当に短いです


今日はさとりの日

 人里で阿求と白蓮が話し合っている頃、ここ博麗神社でも気怠げな巫女と溌溂な魔法使いが談笑していた。

 

「霊夢は知ってるか? 最近また例のUFOが頻繁に出現するようになったらしいぜ。それに今度は里でしか目撃が無い。なんだか奇妙じゃないか?」

「あーそれね。知ってる知ってる。人里から調査の依頼も来てたし……何? 調査? そんなのまだ行ってないわよ。里は少し遠いからね、買い出しのついでにでも行こうと思ってるわ」

 

 あまりに暢気な霊夢の様子に魔理沙は思わずこめかみを抑えてしまった。先日大きな異変を解決したとはいえ、それに付随するような内容の異常事態が幻想郷に再び起こっている以上は即座に解決に向かうべきである。特に今回は人里への影響が出ているというのだから尚更だ。

 しかし霊夢は未だに出発の準備もしていないありさまだ。巨悪に対する人里の平和はこのダラけきった巫女に左右されているというのに、本人が一番それを深く考えていない。

 

 それは何故か。霊夢が即座に行動を起こすか否かは彼女が独自に定めている脅威度で測っているからである。紅い霧を出すことや満月を隠すこと、怨霊が湧き出ることなどは早急に対処しなければ幻想郷のバランスを崩壊させかねないものだった。逆に冬があれほど延びたのは、寒くても生活できないことは無いからである。

 これはあくまでも彼女の経験と勘による境界線の引き方であるが、今まではそれで問題なくやって来られたし、今後も長く利用されるものだろう。

 

 だがそんなものを魔理沙は知らない。彼女の目にはただ人里からの要請を無視している怠惰な巫女の姿が映っているだけだ。霊夢の中の基準とはつまるところ彼女の中でしか基準として成立していないわけであって、そのラインがもう少し低く設定されている者からは、危険な域を超えてなお行動に移さないダメ人間と見られてしまうわけだ。

 魔理沙はそのラインを里の人間たちと同程度まで比較的低く設定している。それは彼女が人里の出身だからというのもあるのだろう。博麗神社に訪れる猛者たちの中では彼女が一番人間であった。

 

「そんなことだからこの神社にまともな奴が来ないんだよ。今までは神社が一つだったから良かったが、最近できた守矢に命蓮寺は既に多くの信仰を集めているそうだぜ? これもきっと信仰への考え方の差なんだろうなぁ?」

「あー、もう! 分かったわよ! そうと決まればさっさと行くわよ」

 

 霊夢にとって人里への脅威度よりも神社への信仰の方が行動の理由になる。元々少なかった参拝者が新興宗教団体の増加に伴ってさらに減ってしまう事を示唆すれば彼女は勝手に行動してくれるようになる。霊夢と古くからの付き合いがある魔理沙だからこそ、彼女の扱いは人並みをはるかに凌ぐほど手慣れているのだ。

 もちろん、信仰に関する話題を出せば霊夢のやる気が変化する、というのは神社に度々訪れる妖怪にも広く知れ渡っていることである。しかし霊夢を素早く行動させるにはそれだけでは足りない。彼女の説得に重要になるのは劣等感である。

 

 博麗霊夢は強い。妖怪からも人間にカウントされないほどにその強さは群を抜いている。だからこそ自分に自信を持っているしプライドも高い。他の人妖と魔理沙との相違点はその霊夢のプライドを傷つけることなく刺激できること。

 強く責めすぎず、やんわりとライバルの存在を仄めかすに止める。霊夢が彼女らに劣っている、と直接的に言ってもただ単純に彼女の癇に障ってしまうだけ。その塩梅がなんとも難しいのである。

 

 しかし魔理沙もそれを意識して発言しているわけではない。長年の付き合いの中でいつの間にか身に付いていた話法だ。魔理沙にとっては妖怪よりも怒った霊夢の方が数倍恐ろしいように感じていたからである。

 

「ほら、魔理沙も! さっさと準備しなさい。あいつらになんか先を越されないんだから」

 

 もう手遅れだろう、という言葉を喉元で噛み殺して魔理沙も追従する。

 丑三つ時にはまだほど遠い夕暮れ。博麗の巫女の重い腰はようやく上がった。

 

 

 

 

「早くも霊夢が動き出したわね。ただし解決はどうなるかしら。相手は平安の大妖怪でしょう?」

「ええ。封獣ぬえ……恐ろしい力を秘めた正真正銘の化け物ですよ」

 

 博麗神社とは離れた場所である地霊殿。ここでも話し込む二人の姿があった。普段ならば紫が訪れてさとりが渋々ながらもてなすという形式で話し合いが行われているが、今回はさとりの方から紫を呼んでの話し合いである。

 内容はつい先日再び小さな異変を起こすと勇んで出て行った封獣ぬえについて。どうせ巫女の前に敗北するだろうと高を括ってはいるものの、一応地上を管理している紫には危険度の高い妖怪が出て行ったことくらい伝えておくべきだと判断したからである。

 

 紫も鵺という妖怪を知らないわけではない。その昔、まだ紫が生まれて百年も経っていない頃に都で猛威を振るっていたとされる妖怪だからである。しかしその当時はまだ山奥の集落を襲っては人を喰うような生活をしていた紫にとって、その妖怪については噂以上の事を知らないのだ。

 曰くその鳴き声は人間が病になってしまうほど不気味であり、鵺は丑寅の方角から煙に乗ってやってくる。見る者見る者が全て違う姿として喧伝するせいで誰も本当の姿を知らないとされる妖怪だ。

 

「それは彼女の能力の部分でしょう。能力だけでも確かに強力で恐ろしいものです。しかし彼女の本領はそこではありません。彼女の本当に恐ろしいところは様々な妖術を使いこなすことのできる器用さと妖力の量でしょう」

「妖術? 藍が使うような種類のものかしら? それとも妹紅が使うようなものかしら?」

「妹紅さんについてはよく知らないですが、少なくとも藍さんの使うようなものではありません。彼女が使うのは神の域にも到達し得る力……境界も後戸も、彼女は無意識のうちに利用しているんです。それだけに危険な存在と言えるでしょう。彼女はそれらを使うことはできても制御ができないのですから」

 

 ここで初めて紫の背筋に寒気が走った。基本的にはスキマ妖怪としての自分しか弄れないような境界や、後戸の国の神である隠岐奈しか弄れないはずの扉すらぬえは無意識で利用しているのだということを知ってしまったからだ。

 さとりが化け物と言いたくなるのも理解できる。一介の妖怪が、劣化版とはいえ紫や隠岐奈と同じ力をセンスだけで行使しているという事実。それだけで頭痛の種になるには十分だった。

 

「そんな危険な妖怪だと分かっていて地上に逃がしたというの?」

「そうです。えぇ、言いたい事は分かりますよ。彼女が地上で何かしでかした時の責任についてでしょう? もちろん彼女が地上で何か深刻な被害を齎したならば責任は私に追及して頂いても構いません。彼女の心を信じてしまった私が悪いということでしょうから」

 

 ぬえによる被害は全て地霊殿負担で賠償される。逆に言えば、彼女自身がどんなことをしようが自分への金銭的損害はゼロで済んでしまう。

 

「ぬえ自身もそれを分かっています。彼女が何か過ちを犯せば私から彼女にきつい説教をすることも理解しています。彼女はきっとただ単純に人間を驚かせたいだけ。そこに明確な悪意など無いはずです」

 

 あればそれを見誤ったさとりの過失である。さとりにも絶対の自信があるからこそぬえを送り出したのだろう。そうでもなければ、いくらさとり自身が彼女に嫌われていたとて簡単に地上に逃がしていいような妖怪ではないからだ。

 紫もそれは理解できるのでそれ以上の追及はしない。罰する必要があれば遠慮なく罰すればいいだけ。そこに私情を挟む余地などないし必要も無い。

 

「それが貴方の考えなのね」

「そうです。言うなれば私の運命を賭けた大博打ですね。私は自分の能力()()絶対の自信を持っていますので」

 

 さとりは自身の能力故に一般的な賭場では何も楽しめない。だからこそこのようなハイリスクな賭けであっても楽しめたりするのだ。紫はそんなさとりの様子に心の中で呆れながらも首肯する。さとりの能力の優秀さは紫も痛いほどよく知っている。それが運命を賭けるためのチップとして十分なのかどうかは知るところではないが。




実は3000字くらいが一番書きやすくて読みやすいとも思っています
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