古明地さとりは隠居したい   作:小鈴ともえ

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今回はなかなかモチベーションが上がらなかったので短い回です。遅くなっているのに申し訳ございません


そして誰もいなくなるか?

 さとりが紅魔館に出かけた日からしばらく経ち、昼間には蒸し暑くなる日が増えてそろそろ夏の足音も聞こえて来ようかという時期になった。

 そんなある日の早朝、この時間帯は夏でもある程度涼しく、草引きや水やりをするのに適している。初めに異変に気付いたのは草引きをしようと畑に出てきた農夫の一人だった。

 

 いつもなら涼しいくらいであるはずなのに今日は寒く感じるほどで、この時間には白み始めてるはずの空も今日は真っ暗なのだ。月も星も見えないが雲が出ている様子もない。不思議なのは月も星もないのに一寸先も見えないほどは暗くないこと。新月の夜程度の明るさは残されている。

 男が不穏に感じて立ちすくんでいると、どこからか不気味な鳥の鳴き声までもが聞こえ始めた。いよいよもってこの場に居続けるのは危険だと判断した彼がおぼつかない足取りで家の方へと歩き出そうとしたその時―――――――

 

おめでとう。貴方は初めの一人に選ばれた……

 

 という声が誰もいなかったはずの背後から聞こえた。そして振り返る余裕もなく、何も理解できないままに彼の意識は闇に沈んだ。

 

 

 

 

 

 

「そう言えば一朗さんのとこの話、あなたは聞いた?」

「えぇえぇ聞きましたよ。なんでも朝畑から帰ってこないと思ったら倒れていたんですってね」

「それだけじゃないのよ? 目が覚めたと思ったら今度は急に叫び出したんですって。今はまた寝て静かになっているらしいけど……まったく仁美さんも大変よね」

「ほんとほんと。夫がそんな風になったら私の方が泣き叫ぶかもしれないわ」

 

 

 ―――次の日―――

 

 

「今度は大介さんですってね」

「一朗さんと似たような状態になっていたって話よ。小鞠さんったら泣いちゃって、慰めるのに一苦労だったわ」

「昨日まではなんともなさそうだったのに、急にどうしたのかしらね」

 

 

 ―――次の日―――

 

 

「今朝は源蔵さんと息子の源助くんも一緒だと」

「そうそう。支織さんもふさぎ込んじゃって、お見舞いに行ったのに玄関口で突っぱねられたわ」

 

 

 ―――次の日―――

 

 

「今度は優作さん……。良子さんは大丈夫かしら」

 

 

 ―――次の日―――

 

 

『最後のターゲットを失神させたよ。確かにそろそろ巫女が動き出す頃合いだろうがまだ六人。この程度で良かったのかい?』

『十分。あとは私でやっておくから、貴方は尻尾掴まれないうちに寺に戻りなさい。怒ると怖いんでしょ? あの僧侶』

『それは助かるね。聖にバレたら何されるか分かったもんじゃない。しかしどうしてこんなことをする? 人里の人間に危害を加えるのが厳罰であるのをお前が知らないとは思えないけれど』

『妖怪への恐れが薄くなった幻想郷を正すためにやっているわ。人里の外にある畑でならたとえ人間を殺めてしまっても罰の対象とはならない。他でもない、八雲紫が妖怪のために作った抜け道の一つよ』

 

 

 月明かりのほとんどを遮断する黒い霧の下、人間のいない井戸端で話し合う妖怪が二匹。

 しばらくすればこの暗闇は文字通り霧散し、昇り始めた太陽と共に普段と何も変わらない一日が始まることだろう…………犠牲者の妻が目を覚まし、悲鳴を上げるまでは。

 

 

 

 

 

 

 初めの犠牲者が出た時、里の誰もが彼の妻を哀れんだ。一時的な発狂の末に深い眠りにつき、未だに目を覚ましていない。何か恐ろしい妖怪でも見たのだろうという結論に至った里の者たちは、その日はそれ以上何を気にすることも無く普段通りに仕事に打ち込んだ。

 二人目の犠牲者だ出た時も、やはり恐ろしい妖怪の仕業だろうと他人事のように感じていた。

 誰もが不審に感じ始めたのは犠牲者が同時に出た三日目になってようやくだ。早朝の畑仕事に出かけた男と、その手伝いに出ていた息子が同時に同じ状態に陥った。四人の共通点を洗い出して分かったことは、四人とも農家あるいはその息子であることと、犠牲となった日には一番初めに畑に出ていたらしいこと。

 

 しかし、初めに畑に出た者と二番目に畑に出た者の時間差はほとんどないと思われ、発狂した本人が言う状況を他の者が見ていないというのはあまりにも不自然である。

 稗田をはじめとする長者を集めた会議でもやはり妖怪の仕業だろうという結論になったが、会議の終わった時刻が遅かったこともあり、翌日博麗神社に調査の依頼をしようということになった。

 とりあえず早朝の畑には近づかないよう注意書きを張りだしていたが、掲示板は里にいくつもあるわけではなく、見ない者の方が多い。そして今朝、その注意を見ずに畑に出た者が最後の犠牲者として発見された。

 

 

 

 

 

 

「愉快犯ね」

 

 人里に到着した博麗霊夢は阿求から詳細を聞くなりそう断定した。

 

「愉快犯……ですか?」

「えぇ、間違いなくね。まともな妖怪ならば人間を生かしたまま放置することは絶対に有り得ない。取って喰う方がはるかに利点があるもの。ただ気絶だけさせて畑に放置するのは愉快犯に違いないわ。その人間が別の妖怪に喰われれば万々歳ってところかしらね」

 

 霊夢の指摘に阿求もなるほどと納得する。妖怪は人間からの恐怖を生きる意味としている。ただ強い恐怖を得るだけならば喰う方が何倍も良いだろうし確実だろう。しかし、今回の犯人は何故かはわからないが全ての人間を生かしたまま危険な場所に放置するという不可思議な行動をとっている。

 

「何にせよ誰も死んでないのは良い事だわ。で、そいつら医者には見せたの?」

「一応二人目の方はたまたま来ていた薬売りが簡単に診てくれたようです。強いショックで目を覚まさないだけらしいですよ」

「里の医者は?」

「まだ何も。対策会議も昨日始めたばかりで……」

「それで翌朝に犠牲者が出てるんじゃ呆れてものも言えないわね」

 

 口は悪いが実際その通りである。阿求でさえも里の掲示板など普段は見ないのだ。そんなところに張り紙を出したところで読む者がほとんどいないだろうというのは分かり切っていたことだった。しかし、阿求含め長者たちは対策をしたという口実を作るためだけに張り紙を作り、不満が出ても一応の逃げ道だけは残していたのだ。権力者の作る逃げ道は往々にして庶民に冷酷である。

『自分たちの権力を失うわけにはいかない』

 一度権力を手にしてしまった者ならば誰しも思う事だろう。そしてそれは阿求も同じだった。微妙に前世までの記憶を保持しているせいで変に大人びているが、今世ではまだ十年あまりしか生きていない。大人の汚さを知っているせいで彼女もまたそれに染まってしまっている。

 

「阿求、あんたが何のために生きているのか分かっているわよね?」

 

 霊夢は阿求を責めるように畳みかける。

 

「妖怪の生態を纏めて対策とすることで里の人間に安心を与えるために生きてるんでしょう? それがどうよ。今回は――――」

「そこまでだ、霊夢。お前も阿求に偉そうに言えないだろう? お前は一昨日買い出しに来ていたくせにこの人里の事態に気づいてもいなかったんだからよ」

 

 居心地の悪そうにしている阿求に助け舟をだすかのごとく口をはさんだのは魔理沙だ。急いでやって来たのだろう。箒に乗って来た彼女の髪型は少々崩れているように見える。

 

「魔理沙……遅かったわね」

「おいおい、馬鹿にするなよ? お前が何も知らずに縁側で腹を掻いていた時も私は情報収集していたんだ」

「ふうん。で、何が分かったのよ」

「ふふん。被害者は全員農家の男だ。犯人は菜食系の女妖怪に違いないな……おいやめろ、冗談だ冗談。お前がどう考えてここに来たのかは知らんが犯人は明らかに人里に対して悪意のある奴だ。全員畑で襲われているのが一番の証拠だな。他の集落にも寄ってみたが、そこの農民は何もされていない。目的は畑じゃないしむやみやたらに人間を襲っているわけでもないらしい。ここの人口密集地にだけ被害があるんだよ」

 

 幻想郷には人里と呼ばれるこの場所以外にもいくつか人間の集落が存在する。魔理沙によればそこにいる人間たちには一切の被害も出ていないという。

 

「単純にここ以外の里を知らなかっただけじゃないの?」

「確かにその可能性はある。しかし幻想郷に棲んでいてそれを知らないような妖怪はかなり少ないと思うぜ。特にこんな手の込んだような事をする妖怪ではな。あるとすれば人里の中で生まれてそのまま里の中に棲んでいる妖怪か、あるいはここに来たばかりの妖怪くらいしかないだろう。

 で、その二択ならばあり得るのは前者だろうな。ここに来たばかりの奴が人里の決まりを知っているとは思えない」

 

 魔理沙の言うように、幻想郷に棲んでいてこの人里以外の集落の存在を知らない妖怪はほとんどいない。その全てに対して人里と同じような規則が存在し、八雲紫によって管理されているため、幻想郷に棲んでいれば嫌でも知ることになる。

 それを知らないような世界の狭い妖怪か、来たばかりの新規の妖怪か、あるいはこの人里にしか興味の無い妖怪か。普通に情報を整理すればその三択で絞っていくことになる。

 その上で、人間が人里の外でしか襲われていない事実を考慮に入れれば真ん中を除いた二択で考えれば良さそうだ。

 

「心当たりはあるか? 阿求。人里の事は私たちよりよほど詳しいだろ? もっと言うなら人を喰わないような、心を喰う奴がいれば教えてほしい」

「そうですね……パッと思いつくところで言うなら多々良小傘はその代表格でしょうね。由来はよくわかりませんが人里を棲み処にしている妖怪で、驚きの感情を喰らう化け傘です」

「小傘……あぁ、あいつか。早速行くぞ、霊夢」

「言われなくても行くっての」

 

 そう言ってさっさと里を探索し始める巫女と魔法使い。人ごみに紛れてもはや見えなくなった二人にはもはや言葉は届かない。阿求の引き留める声は虚しく消えて行った。

 

「はぁ。あの妖怪がそんなことをするはずがないというのに」

 

 ため息をついて独り言ちる。多々良小傘は阿求の見てきた中でも殊更安全な部類に入る妖怪だ。彼女を危険な妖怪だと考えるのは馬鹿馬鹿しいほどで、人間友好度は高。包丁研ぎから子供の世話まで請け負う世話焼き妖怪でもある。

 彼女が今回のような陰湿な事件を引き起こしたはずはない。阿求はそれが分かっていながら彼女の名前をだした自分に頭を抱えるのだった。




井戸端会議から一人ずついなくなる演出は人数が少なすぎてあまりホラー感無かったですね。口調や性格を会話から読み取ると、一日目は名無しさん、支織さん、良子さん、小鞠さんの順で話していることになります。二日目は支織さん、良子さん、名無しさんの順ですね。ちなみに全く要らない設定なので覚える必要もありません

そして(井戸端から)誰もいなくなった

魔理沙の活躍って私の小説ではかなり少ないので少しくらいは書いてあげたいところです
魔理沙があまり活躍しない理由は、私が彼女を人間扱いしているからです。霊夢は半分くらい人外のつもりで書くのですが、魔理沙はどうしても人間であってほしいという私のエゴが入ってしまうんですね
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