古明地さとりは隠居したい   作:小鈴ともえ

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人気投票はかなり面白い結果になってましたね。一位の座こそフランドールに明け渡しましたが、一推し票は今回も妖夢が最多。女性票と低年齢層票が比較的少なかったことが影響しましたかね。そこを多く獲得したフランドールと魔理沙が一つ抜けてる形になっていますし、界隈の年齢層が幅広くなったことで中学生以下からの人気を得られるキャラが強い時代になっていると思います

そしてアリスさんはまたTOP10返り咲きならず


解決できるのは私だけ

 十六夜咲夜に連れられてやって来た図書館は、その規模を知っていてもやはり言葉を失ってしまう。何処にどのジャンルの本があるのか私にはさっぱり分からない。

 そういう時に役立つのがこの図書館で本の管理を任されている小悪魔や妖精たちだ。まぁ妖精は馬鹿なので基本的に小悪魔しか頼りにならないし、実際この小悪魔さえいれば本の案内は十分であろうと思えるほど図書館を知り尽くしている。悪魔と言っても契約に縛られた存在なので危険度は非常に低く、口数は少ないが不気味さや恐ろしさは感じない。

 

 小悪魔がこの数の本を把握しているのは、もちろん普段から管理しているからという理由もあるだろう。しかしそれよりもパチュリーが自分のリソースを割いている部分が大きいと思われる。

 これに関しては完全に私の中の仮定であり確認のしようはないが、契約の際に蔵書に関する記録を丸ごと共有するようにしたのだと推測している。この量の本を契約してから記憶しようというのは流石に無謀だからである。

 

 

 咲夜が手を一つ叩くと、並び立つ本棚の一つの陰から赤い髪の小悪魔が飛んできた。私に気づいた彼女はちょっとばかり姿勢を正して何の用なのか聞いてきた。

 

「最近パチュリー・ノーレッジが読んだミステリーあるいは事件簿かつ日本語で書かれたものを教えてほしいのですが」

 

 私がそう言うと彼女はまた本棚の海に飛んで行ってしまった。彼女の頭の中ですぐさま対象の本を選び、その本のある棚まで取りに行ったのだ。恐るべきはその選定速度。二秒に満たない程の短時間で候補を選び出し、その場所までの経路を計算している。

 私の推測はあながち間違ってはいなさそうだが、パチュリーがこの悪魔に割いているリソースがどれほどのものなのだろうか。私では到底想像できない。

 

 数分待っていると薄い物、厚い物合わせて十冊ほどの本を抱えて戻って来た。ちなみに咲夜は待っている間に帰ってしまった。

 

 持って来た本を見れば全てミステリー小説で統一されているのが分かる。実際の事件ではなく、架空の事件の話をしていたことがこれで分かった。だから何だという話にもなるが、これは非常にありがたい結果なのだ。

 なぜならば事件簿とは違い、小説では絶対的な解決法が記されているからである。事件の詳細や犯人の動機、手法までも当然語られている。あらすじだけを追って、今回の事件に似ているものがあればチェックする。とりあえず持って来られた分それを繰り返せばいい。

 

 並べられた本を見ていると、最近パチュリーがどのような本にハマっているのかが分かる。私の本が三冊。これは私が今まで出した本の全てだ。私の本は候補から外せる。

 となれば残りは七冊。著者は佐戸愛子。シリーズ物のようだが、番号は途中からになっている。七冊全てが私の小説よりも分厚いが、その中でも一際存在感を出しているのがおそらく最も新しい物。他に比べて三倍近くの厚さがある。上中下巻に分けるよりはかさばらないかもしれないが、手軽に読もうと思えるサイズではない。

 

 ここで一つ問題がある。チェックするにあたってあらすじを追うことになるのだが、ミステリー小説は基本的に初めから丁寧に読まなければ面白さが分かりづらいと思っている。何も知らない初見の面白さが消滅してしまうのだ。

 試されている。相手にその気がないにせよ、パチュリーがシリーズとして読み続けたものならば少なくともそこそこ以上には面白い小説のはずで、私自身他人が書いたミステリーに興味が湧いてきたところなのだ。結果を知った上で読むという人もいるが、それは私のポリシーに反する。

 

 いや、何も最後まで読む必要はないのでは? 結局知りたいのは犯人でも動機でもなく、里で起きている事件に似た犯行そのもの。初めの方を少し読むだけならば犯人も分からない。流石、私って天才。

 

 

 

 六冊目までを流し読みしたことで、この人間の書く小説がここまで分厚い理由が分かった。他ではあまり見られないような独特な比喩がいたるところに使われている。酒を呑んで喉が焼けるというような使い古された表現も、『まるでマムシが食道を内から喰っているような気持ちの悪い痛みが走る』という風に常人には理解できないような独特な比喩表現が使われている。理解はできないが、吐きそうなほどの気持ち悪さと激甚な痛みは伝わってくる。

 

 比喩以外に、緻密な心理描写も多く描かれている。各登場人物がそれぞれに対してどのような感情を持っているのか、どの程度言葉を信用しているのか、またそれが何故なのか……。思わず引き込まれてしまいそうになる。きちんと文章を追ってしまっている自分に気づいては流し読みに戻る、という過程を難度繰り返したか。

 六冊目までざっと見た感じでは無い。最後に残った七冊目。異常に分厚いそれのどこに書いてあるのか、探すのさえ億劫になる。急いで読んでしまいたいところではあるがそろそろ日も傾き始める時間。里に帰らねば心配されてしまうだろう。変に騒動が増えるのは望ましくない。

 

「蔵書の貸し出しは行っているんですか?」

 

 ダメもとで聞いてみるが小悪魔から返って来た答えはやはりNo。分かってはいたがしかし、ここで『はいそうですか』と簡単に引き下がるわけにもいかない。今日たまたま用事が無かっただけで、明日は長者との話し合いがある。なるべく早く読んでおきたいのだ。

 

「時間は限られているんです。たとえ貴方が断っても主人に直談判する覚悟ですよ」

 

 迷惑だと分かっていても今の私にできることはこれだ。魔理沙さんのように無理矢理盗って行くなんてことはできない。

 私の口調の変化に戸惑っているのか、それとも主人になんと言えば良いか分からないのか、小悪魔はただオロオロするばかりだ。

 

「貴方の主人……パチュリー・ノーレッジを呼んできてください」

「それには及ばないわ。それで? その本の貸し出しだったかしら」

 

 振り返れば図書館の入口にパチュリーとアリスさんが立っていた。レミリアは自室へと帰り、咲夜もそれに従って行ったか食事の準備でもしに行ったのだろう。

 

「貴方になら本を貸し出すのはやぶさかでない。魔理沙とは違って信用に値する人間だから」

「では……」

「けれどその本から手掛かりを得るにはもはや時間が無さ過ぎる。えぇ、貴方の持っているその本が私の言っていた本よ。……何? 私が読んだ本を忘れるわけがないでしょう? 本に限れば貴方と同程度の記憶力を持っていると自負しているわ」

 

 パチュリーは私の探していた本を初めから知っていた。その上で敢えてぼかしてヒントだけ与えたうえで放流していたのだ。性格の悪さ云々ではない。妖怪にとってはこれこそが長い生を埋める愉しみの一つだからだ。

 私はそれに弄ばれた。この世界では騙される方が悪い。今回はたまたま遊ばれただけだったから良かったものの、もっと凶悪な相手であれば簡単に命を落としてしまう。この辺りの注意も縁起には記しておこうと思う。

 

 とにかくだ、今私が抱えている本こそが探していた本であるらしい。また騙されている可能性も一瞬頭をよぎったが、パチュリーは無意味に他人を騙すような性格はしていない。彼女自身が面倒くさがりだからだ。

 

「時間がないとは? また同様の事件が起こると言うのですか?」

「起こるわ。その本を読めば分かるでしょうけれど」

「全てが本の通りになるとは限らないと思いますが」

 

 ここまでは確かにパチュリーの読んできた内容通りに事件が進んできたのかもしれない。しかしそれがミスリードだとしたら? どこかでこの事実に気づいて探偵気取りの愚か者を誤った方向へ導くための罠だとしたら?

 私の考えを余所にパチュリーは、絶対にこの通りに事は進むと確信している、と断言した。

 

「手に持っている本の一番後ろを他の本と比べてみなさい。……分かったでしょう? その本だけが公に出版されたものではない。その本を知っている者はごくごく一部に限られるという事よ。その上でわざわざミスリードを狙おうとしているのなら、はっきり言ってセンスがない。探偵役が上手くその本に辿り着くとは限らないのだから。その本は世界に一冊しかないかもしれない。そう考えると犯人は自ずと絞れるわね」

「まぁそれはそうなんですが、肝心の次の事件について教えていただけませんか?」

「貴方は探偵でしょう? でも時間も少ないしヒントだけ教えてあげるわ。今、事件は井戸を囲むように円形に起こっている。この事件は最終的にあと二軒の襲撃と一人の失踪者を出したのちに解決される。襲撃された家を辿ると前方後円墳の形になるそうよ。規模は知らないけれどね」

 

 それこそがこのタイトルに現れていたわけか。なるほど。今回里で起こっていることが殺害であったならば、もう少し大規模に行われていたならば確かに巨大な墓にもなっただろう。

 

 

 

 

 

 

 同刻、人里ではパチュリー以外にもこの事件に勘付いた者がいた。貸本屋の一人娘、本居小鈴である。店の営業時間が終わるや否や、彼女は店を飛び出して次の事件が起こりそうなポイントを目指す。遊び心のある犯人ならば今夜子の刻近くにここに現れるだろうと踏んだのだ。

 その犯人の顔を拝み、あわよくば捕まえて本の感想を聞いてみようと企んでいるのである。しかし、彼女は殺人事件にばかり気を取られていたせいで一つ重要な点を忘れていた。失踪者である。

 

本居小鈴……お前は知りすぎた。解決は探偵の仕事だ。さぁついて来い

 

 脳に直接話しかけれたような、か細いのに雑踏の中でも不思議と確かに聞き取れる声が彼女を呼んだ。次の瞬間、彼女は人里の外へと歩き始めていた。傍から見ればなんてことも無くただ普通に歩いているだけ。

 門の出入りを取り締まるはずの門番は日中の疲れからなのか眠りこけており、小鈴を止める者は誰もいない。

 

「まったく……ただの暇つぶしがこんなに大変だったとは思わなかった。でもこれであと二人。殺しちゃいけないのはやっぱり手間だね」

「ここは幻想郷だもの。私は暇でもないんだけど」

 

 四つの人影が山の方へ消えていく。本居小鈴の失踪は今夜中に人里を駆け巡ることになるだろう。知りすぎた者は容赦なく排除する。解決者は探偵役を買って出た阿求ただ一人でなければならない。




本文で阿求が言及しているように推理物の場合、先に犯人を知った上で初めから各行動の意味に注目して読む人と、何も知らないまま最後まで犯人を推理する過程を楽しむ人の2パターンがあると思います。私は本文中からも分かる通り後者の人間です。そして犯人が分かった後もう一度読みます
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