原作もおすすめです。アニメとはかなり異なる部分があるので二度美味しい
まあこれは投稿が遅れている理由にはならないのですが。毎度毎度投稿が遅くなり申し訳ございません
人里に戻った阿求はアリスに礼を言って別れたかと思うと足早に歩き出した。目的地は鈴奈庵。小鈴が例の本の事を知っているとは思わないが、あの小説家については知っているはずだからだ。
小鈴はどんな本だって読む。ジャンルどころか言葉や種族にも縛られないほど、本なら何だって片っ端から読むような少女だ。件の作家、佐戸愛子に関しても何か言及していたことを阿求は忘れていない。
しかしいつもいるはずの場所に彼女の姿は無かった。店内にはただ時計が時を刻む音が聞こえるのみであり、ページを捲る音は一切しない。不思議に思い、いつも小鈴が本を読んでいる椅子の辺りに歩みを進めたところで一枚の書置きを発見した。
『本居小鈴は我らが機密に触れたために捕らえた。返してほしければ明日正午に山の巫女を連れて中心の井戸へ来い。来なければ友の命は無いものと思え』
見覚えのない筆跡でしたためられていたのは小鈴誘拐の旨。あまりにも急だったため、阿求の頭は逆に現実を受け容れまいと冷静になった。だが何度読んでも文章は変わらない。しかも実際に小鈴はどこにいるのかわからない。結局彼女は現実を受け入れたうえでその後を考えることにした。
今代唯一の友人の行方が分からなくなり、パニックに陥ってもおかしくないような状況でも彼女を冷静でいさせたのは、彼女の蓄積した三百年近くの人生経験と彼女の能力である。
『一人の失踪者』
阿求はパチュリーが語ったシナリオを覚えていた。
当然誘拐された小鈴が失踪者であるという根拠はどこにもない。しかし今までの事件の傾向から、少なくとも被害者と呼ばれるような対象ではないと言えるし、この事件の最終盤に起こった誘拐ならば犯人側が失踪に置き換えている可能性は高い。
そして何よりも書置きの内容が不自然だ。本来誘拐するならば対価は金銭だ(早苗の奇跡の力は金では買えないものであるが)。それにこの書置きを誰に宛てて書いてるのかと言えばおそらく阿求。少なくとも親ではない。
この情報を得た結果、彼女は余計にわからなくなった。犯人が何故このような大胆な行動をとったのか、場所まで指定していったい何をしようとしているのか。
不愉快だった。友人を攫うことによって強制的に阿求が動かねばならない状況を作り出そうとする犯人が。そして何よりも阿求がここに来ると分かっていたかのように置いてあった書置きが。
相手の掌の上で弄ばれている感覚。それは探偵として彼女が行動を始めたすぐ後から感じていたものだった。向かう先には必ずヒントが用意されていた。稀覯本とも言える本が運よく図書館にあったというのも冷静に考えれば不自然極まりない。
だとすれば犯人の目的は本当にどこにあるのだろうか。自分はいったいどこからどこまでを誘導されていたのだろうか。
そんな考えが彼女の頭を駆け巡る。犯人の誘導通りに行動すれば確かに解決まで漕ぎつけられるのかもしれない。しかし本当にそれで良いのだろうか。それで解決して、本当に探偵として事件に向き合ったと言えるのだろうか。そもそも今更抗おうとしたところで自己満足以上の結果は得られるのだろうか。
下手を打てば小鈴に危険が及ぶかもしれない。ここまで人間を肉体的に傷つけるような真似はしていないが、だからといって楽観できるわけではない。相手は確実に妖怪なのだからいつ本性を表しても不思議ではない。
阿求はますます思考の沼にはまってしまう。探偵にとって考えるべき時間を浪費することが何を意味するか、彼女が知らないはずはないというのに。
進めばヒントが見つかると分かりきっているのに進むことができない。それが自分の意思であるような気がしないからだ。小鈴の両親が店に戻ってきて騒ぎだすまでの一刻もの間、彼女は何もできずにただ佇んでいることしかできなかった。
「約束の物は?」
「動くかどうかはさておきバッチリできてるよ。あとはもう彼女次第さ。でも本当に彼女は来るのかい?」
「間違いなく。これを彼女が黙って見過ごすわけがない。それに最悪の場合は私が動かすこともできるでしょう。よくやってくれたわ。明日の準備も順調かしら?」
「それは別の奴らが進めてくれた。久しぶりだね。楽しい祭りの始まりだ」
「えぇ。失敗は許されないのだから場所まで慎重に調整お願いします」
「分かっているさ。一番失敗したくないのは我々だからね」
レミリアはパニックに陥っていた。厳重に警戒していたフランドールが気づかぬ間に脱走してしまっていたのだから当然だ。咲夜が作った夕食など食べている暇はない。何処に行けば良いのかも分からないまま、玄関の方へすっ飛んで行った。幻想郷中を探し回るつもりなのだろう。咲夜もワンテンポ遅れながらレミリアに追従していった。
他方、図書館に取り残されたパチュリーはレミリアよりもよほどひどく動揺していた。フランドールを閉じ込めていたのは彼女の魔法であり、フランドールが錠を破壊しない限りはいかなる怪力であっても扉は開かないはずだった。実際に錠が破壊された形跡はない。
しかし扉は開いた。鍵は開かれたのだ。他でもないパチュリー自身の手によって。信じられなかった。どのタイミングで魔法を行使したのか思い出せない。そもそも彼女が自らの意思でフランドールの部屋の開錠をしようとするとは思えない。誰かの意思が介在したに違いないのだ。
小説の内容通りではない、全く予想もしていなかった事件に動揺するなという方が酷である。自身が関わっているならなおさらだ。その動揺が貧弱魔法使いには効いたのか、パチュリーは小一時間ほど意識を失うことになった。
パチュリーが目を覚ました時に目の前にいたのは美鈴だった。こんなにも早く目覚められたのは美鈴が何かをしたからだろう。
美鈴はレミリアたちから何も話しを聞いていなかったようで、パチュリーに事情を聞いた後、パチュリーがフランドールを探すのに自分もついて行こうと提案した。パチュリーの外出は常に危険が隣り合わせだからだ。
レミリアたちから一歩遅れるかたちにはなったが、一時的に意識を失ったことによってパチュリーの頭は冷静さを取り戻した。他人の意思の介在。パチュリーはその言葉から連想される者に心当たりがあった。そう、さとりである。
パチュリーはさとりの事を詳しく知っているわけではない。できる限り関わらないように努めてきたからだ。そんな彼女もさとりの重要な能力については知っている。他者を操る力だ。どのレベルで行えるのかについては完全に不透明だが、少なくとも数十の妖精を操る分には何の問題も無いらしい。
だからこそ、今回の不思議な経験についてはさとりが犯人だと断定した。もちろんパチュリーを操ろうというのは妖精たちの比にならないほど難しいことだろう。しかし数十もの妖精でも余裕を持って操ることができるのならば、たった一人の魔法使いを操ることができないと楽観することはできない。しかも相手はあの古明地さとりである。
今日紅魔館にやって来たのははたして偶然だったのだろうか。阿求に会って行ったのも偶然で片づけて良いものだったのだろうか。考えても分からないならば直接問いただせば良い。
そんなことを考えて地霊殿へと向かったパチュリーと美鈴であったが、お燐によるとまだ帰ってきていないらしい。
「今日は紅魔館で話があると出て行ったきりですから……てっきりまだ話をしているのかと思ってたんですがねぇ。まああの方は時々変な事に首を突っ込むところがありますからそのうち帰ってくると思いますよ。中で待ってますか?」
もちろんさとりが自らの意思で首を突っ込んでいるわけではない。普段から何かと面倒ごとに巻き込まれているだけであるが、それをお燐が知るはずもなく、結果的にさとりへの勝手な思い込みが加速していくのだ。
「私たちにそんな暇はないわ。それにしても……なんだか地底全体が騒がしいみたいだけれど」
「えぇ。さとり様のおかげですよ。明日は久しぶりに地上へ出る許可が下っているんです。もちろん暴れたら厳罰が下るみたいですが」
妖怪の中でもさらに忌み嫌われ排除された者たちが明日再び地上へ出ることが許された。さとりや萃香含め既に不可侵条項の撤廃を知っていた者たちは勝手に出入りしていたが、そうでない下っ端に位置する者たちにとっては堂々と地上に出られるのはこれが最初で最後かもしれない。さとりは不可侵条項の撤廃を周知する気が無いから下っ端はそれを知らないままなのだ。下手に問題を起こされてはたまったものではないのだから当然である。
浮かれているお燐とは対照的にパチュリーは警戒を強める。明日と言えばシナリオ通りならば事件が解決するはずの日だ。犯人像として濃くなるさとりの影。しかし目的が一切分からないままだ。地上を混乱に陥れたいのならば暴れてはいけないなどという注意を与える必要はない。
ただ地底の妖怪を地上に解き放つ理由は何だ。わざわざフランドールを連れ去った理由は、こんなバカげた風呂敷の広げ方をした理由は……紅魔館を敵に回してまでこんなことをする理由は何だというのだろうか。パチュリーにはその一切が分からない。理解できない。
「あら、こんな場所にいたのね。酷い顔よ? パチェ」
パチュリーを思考のスパイラルから救い出したのは先に行動していたはずの親友だった。何でもフランドールが向かいそうな場所を回りまわった挙句、もうあと可能性があるのは地底くらいだろうという結論に至ったらしい。
しかし残念な事に彼女は地底にもいない。地上よりもはるかに広い地底をくまなく探すことはできないが、地霊殿内部と旧都くらいの比較的狭い範囲ならば美鈴の気配探査が行える。そのどちらにも反応は一切ないし、お燐もフランドールを知っていそうな言動は一瞬も起こしていない。
「となるとあと行っていない場所は……」
「太陽の畑と妖怪の山、人里くらいですね。どこから参りましょうか、お嬢様」
「人里かしらね。山はここに来る前に一瞬通ったけれどいつも通り河童がうるさかっただけだし、それに人里は今回の事件の舞台でもある。フランがいなくても何か話が聞けるかもしれないわ」
ここにフランドールがいないと分かると詳しい事は何も聞かずに次の目的地を決めるレミリア。今の彼女にとっての最優先はやはり妹なのだ。明日行われるらしい百鬼夜行など気にも留めない。
「パチェたちもついてきなさい。ブレインがいてこそ君主は輝くものよ」
かくして紅魔館の四人組は揃って人里へと向かう。フランドールもさとりもいったいどこにいるのだろうか。犯人は何を思ってこのような事件を起こしたのだろうか。
四人は探偵の助手足り得るか。
紅魔館で対話もして少しだけ関係が良好になったと思ったのですが、また一気にパチュリーからの敵判定が飛びました。パチュリーから見たさとり様は親友を唆した害虫なのでまぁこれくらいの扱いで良いでしょう
次回は人里メイン回……ですがいつになるかはわかりません。もしかすると今年中に投稿されるかもしれません