追記:割とひどいルビ振りミスがあったのでまだ何かあれば誤字報告にてお知らせください
とりあえずフランの部屋の辺りまで来たのは良いのだが、肝心のあの子が何処にいるのか皆目見当もつかない。
「フラーン、フラーン? 何処にいるのー? ……おかしいわね。本当にどこにいるのかしら」
呼びかけても返事も聞こえない。鍵を無理やりにでもこじ開けようか。かなり強固なものだから私の力でも簡単には開かないかもしれないが。
そう思って思い切り取っ手を引っ張ると、恐ろしいほど簡単に扉が開いてしまった。そのせいで思い切り力を入れた私が後ろの壁にたたきつけられてしまったのは言うまでもない。痛い。
思わず咲夜の方を睨むと、何やら勝手に弁明し始めた。別に怒っているわけではないのだが面白いから話させておこう。普段冷静沈着な彼女が、ここまで慌てふためく様はなかなかお目にかかれないだろうからせめて今のうちに脳に刻み込んでおくか。
あとで弄るタネにでも、と咲夜の弁明を背景音にしてフランの部屋を探るがどこにもいる気配が無い。元が然して広くも無い部屋兼地下牢。まさかあんな小さな戸棚に隠れるとも思えないから隠れるような場所も寝床以外には存在しないと考えられる。
しかし案の定と言うべきかそこにもいない。問題はこいしの能力の可能性だが、恐らくそれは無視できるものだと思われる。彼女の能力の限界は彼女自身にまでだろう。無意識を操ると言っても他人を無意識の領域に置くというわけではないはずだ。
どちらかと言えば他人の無意識部分を刺激するというのが正しいか。本人ですら気づかない思いも彼女なら操れるという風なものだろう。つまりここにこいしはいてもフランはいないと見るのが良さそうだ。そうなると地下の三人と言うのがそもそもおかしくなるような……。
「地上で凄い音がしたと思ったら今度はフランドールの部屋? まったく今日は騒がしいわね」
「あらパチェじゃないの。フラン知らない? ここにはいなさそうなんだけど」
そう言うと、つい先ほどまで怠そうにしていたパチェの目が見開かれ、まずはフランの部屋の中を一周ぐるりと見渡した。
次にゆっくりと私の方へ顔を向けてきたが、その顔からは何とも信じられない、と言った感情が読み取れる。フランがここにいないのは彼女も想定外だったらしい。
「ごめんなさいレミィ。今回は私の過失のようだわ。一度あの子が部屋から飛び出した後鍵を修復し忘れていたみたい。あの子は何処に……」
「うひゃー。地上はかなり悲惨なことになってたな」
「あら魔理沙。もう見て来たのね。ご苦労様」
…………そうか。美鈴の探知には確かに三人引っかかった。しかしその三人と言うのがフラン、パチェ、小悪魔ではなく魔理沙、パチェ、小悪魔だったのか。そう言えば今日の午前中に魔理沙が来ていた。もう帰っているものだと思い込んでいたが。
ここに来て私の初めの推理が正しいことになった。フランもこいしも恐らく紅魔館にはいない。恐らく、と言っているのはこいしの能力が未だによくわかっていないからだ。こんなことならさとりにもう少し聞いていれば良かったと思う。
「あれ? 先ほどの爆発はパチュリー様たちには関係なかったんですか? てっきり実験でもしているのかと思っていましたが」
「私たちは何もしていないわ。いつも通り過ごしていたら地上から爆音がしたけれど。美鈴の方こそ地上で何かあったのなら見ていたんじゃないの?」
「え? あはは……何かありましたっけ。特に記憶にはありませんけどね~」
そりゃ寝ていたら記憶にも無いでしょうね。起きていたら事の一部始終を見ていたかもしれないだけに、美鈴の今回の罪は大きい。
「美鈴は後でお仕置きね」
少しきつめの。ここらで灸をすえておかなければいざという時の防衛に支障をきたす恐れがある。戦闘となれば頼りになるのにこの欠点があるから惜しい。美鈴が門前で堂々と寝るせいで紅魔館の品位が疑われる恐れもあるし。
美鈴はその顔に絶望の色を浮かばせて情けない悲鳴なんかあげているが、そんなもの私の知ったことではない。大事な時に寝るからこうなるのである。
「とりあえずフランを探しましょう。きっとさっきの爆発に乗じて逃げたんだわ。あの子の行先に関して何か心当たりのある者は?」
聞いてみたは良いものの当然そんなものに心当たりのある者はいない。だってあの子は外との接点が無かったはずだから。一番外に近い存在は魔理沙だが、それでもフランとは定期的に話す程度。あとフランが関わったことのある奴と言えば霊夢と天狗か。
どちらも今回の件に関わっている気はしない。霊夢はまずあり得ないし、天狗の方は自ら厄介ごとに身を突っ込むくせして意外にも面倒ごとを嫌う質からだ。
フランを攫うとは思えない。まあ結局たどり着くところはこいしになるのだろうが、他に何か心当たりがあればそちらを優先したかった。それだけだ。
「あの、お嬢様……やはり古明地さとりなのではないでしょうか。先の異変の首謀者たる彼奴ならば地上への怨みもあるかもしれませんよ」
「心を読むというあの。なるほど確かにそれは否定できないわね。地底の妖怪共にとって地上はまさに理想の楽園。そこに住む奴らにやられたのだからその報復に来てもおかしくはない、と」
ここに魔理沙がいるのが面倒だ。私たち紅魔館と地霊殿の関係を悟られるわけにはいかない。そんなことが知られたら、また霊夢が退治しに来るかもしれないし。
それに八雲紫も何か言ってくるに違いない。私たちの生活を安定させている最大取引先を失うのは当然大損失。だから咲夜もパチェも、他人の前ではさとりへの憎悪を隠しているのだろう。
それにしてもさとりは不憫だと思う。彼女が何かしたわけでもないのに他者に嫌われるなんて。紅魔館内の問題に関しては、恐らく私が彼女の事を嫌いになればかなりマシになると思われる。でも私にそんなつもりはさらさらないから現状は何も変化しないだろう。可哀そうに。
「ちょっと待てよ。
「ええ間違いないわ。そもそもこの私が主人の妹の話を半分で聞くとお思いで? それこそ天地がひっくり返ってもあり得ない事だわ。次に同じような事を言ったらその時はお嬢様への侮辱とも取るわよ」
「なんて理不尽な奴だ。おいレミリア、お前のとこのメイド教育しなおせよ」
確かに理不尽。そもそも咲夜がフランから聞いたときにはこいしの事をあまり覚えていなかっただろうから、むしろ話半分で聞くべきだったんだけど。
というかそもそも咲夜をメイドとして教育したのは私ではない。
「そういうことは私じゃなく美鈴に言ってちょうだい。ま、咲夜も食いかかるのはみっともないからやめなさい。魔理沙のいう事が間違っているという保証も今は何処にもないんだから」
「そうは言ってもお嬢様……」
「何? 言いたいことがあれば聞いてあげるけれど」
「…………いえ、何でもございません」
これで良し。咲夜は時たま冷静さを欠いて熱くなる癖を直してほしい。満月が熱く、紅く輝くのは異変の時だけで十分だ。
今の状況も異変のようなものだが、それでも今はまだ冷静に物事を見つめていてほしい。
十六夜咲夜、つまりは満月。常に冷たい光を反射し続ける蒼い瞳に対して、また吸血鬼と寄り添う者としての名。
しかし満月は時に荒ぶる。それは月が食われて真の闇が訪れる時だ。闇夜に冷たい光を与えるのが満月ならば、紅く燃えて暗闇を生み出すのもまた満月。時を止め、他者の視界から消える時、咲夜の瞳は紅くなる。
さとりの所に行った時には我を忘れて熱くなる。満月は食われ、自身の姿さえ見えなくしてしまう。残念ながら紅い満月は自分自身をも盲目にしてしまうのが理というわけだ。
だが今はまだ、フランを見つけるための光を放っていてほしい。
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今日は本当に来客が多い。と言うか本日来訪二回目のお客さんは紫さんに続いて二人目なのだが。本当に、下手に仕事に手を付けていなくて良かった。でも今日一日でこれならば明日以降どうなるか分かったものではない。
早くこいしが見つかってお説教されることを祈るばかりだ。あの子は私に迷惑をかけている気はないと思うが、どうやら地上では私に対してあらぬ嫌疑をかけられているようだ。
「お久しぶりですね魔理沙さん……と貴方はレミリア・スカーレットですか。碌な事ではなさそうですが本日はどのような御用で?」
「何、うちの咲夜がお世話になったそうじゃない。お礼でもと思ってね」
ああ、またこの茶番を演じなければならないのか。これが割と面倒くさい。本当の関係を知らない者の前で地上と地底の不仲を演じるためには、どれだけ心が痛もうとも相手を傷つけるような発言をしなければならない。
と同時に私自身も傷つけられるような発言を聞くことになる。私の場合は相手の心まで読めるからダメージは少ないが。
それでも割と辛いのは本当だ。紫さんの場合はきちんとこちらに重圧までかけてくる徹底ぶり。それに耐えつつ演技もしなければならないのだから疲労は倍増である。
「ほほう? それは面白い。彼女の主だというからどんな化け物かと思えば小さな子供ですか。その
「お、おい。二人とも急に険悪になるのはやめろよ。な、レミリア、さとりだって最近ペットがいじめられて怒りのやり場が無いだけだと思うぜ?」
「あら、魔理沙はそいつの味方をしようっての? くっくっく……別に構わないわよ。怒りのやり場が無いのはこちらだって同じこと。うちのメイドがさんざん可愛がられたんだもの」
レミリアさん…………楽しんでるんじゃないよ。これ以上変に拗れると魔理沙さんの精神がもたなくなりそうだ。私は精神を壊すことはできても修復することはできない。
ただの猿芝居で精神崩壊なんぞ起こされれば堪ったものではない。地上の貴重な戦力が削がれることになるから紫さんにもお叱りを、酷ければ折檻される恐れもある。
「可愛がってあげたのですからお礼の一つくらいしてくれればいいですのに。今日はそのメイドもいないんですか? いればあの時以上に可愛がってあげたのに」
「
あくまでもこの言い合い擬きは続けるというスタンスか。これ、私だけ異常に不利じゃないか? 下手すればかなり長引くかもしれない。
私よりも魔理沙さんがこの状況で平静を保てるかが心配だ。少しずつイライラが募っているようだしできるだけ手っ取り早く終わらせるのが吉だ。
「知らないですよ。私はあくまでも放任主義なんでね。貴方のところと違って縛り付けないでのびのび生活させてるんですよ。でも私の猫に手を出すようなら貴方の犬を無惨に作り変えてあげる」
「
本来ならば
嘲笑を間の繋ぎに使うでない。でも私も紫さんに頼るのが最適だと思う。彼女ならばおよそ行けない場所はない。あとは……そう言えば鈴仙とかいう玉兎は波長を操って姿を隠しても音を消しても気づけるような者だったはず。
「奴は面倒ですからね。奴から姿を隠すなら位相を変えるくらいしなければ。ま、私にはできませんし当然貴女ごときにできるものでもないでしょうけれどね。奴から逃れるのは実質不可能。鬱憤は鬼にでも晴らすと良いわ。さ、出てった出てった」
これ以上滞在させると流石に魔理沙さんが爆発しかねない。紅魔館の爆発に次いで地霊殿まで爆破されるなどどうにかしてでも避けねばなるまい。
ということでさっさと帰らせる。私だって自分の命が惜しいからね。
「すみませんね魔理沙さん。今度地底にいらした時には温泉と兎鍋でも提供しましょう。もちろんそのチビッ子吸血姫を連れて来さえしなければ歓迎しますよ」
結局傍で聞いていただけの魔理沙さんにとっては最後まで罵詈雑言が飛び交っていたわけである。これに関しては致し方なかったとはいえ申し訳ないと思っている。完全にこちらの都合で居心地の悪い雰囲気にしてしまったのだから。
次来るなら歓迎しよう。ただしレミリアさんの場合はその従者親友たちが付属するから却下。あの容赦ない嫌悪を向けられたら覚として情けないが私の心がきっともたない。
実は満月は地平線付近ならば皆既月食に関係なく赤いです。話の中では月食時に固定していますが
最後の方のさとり様とお嬢様の会話は傍から見てる人にとってはなんのこっちゃよくわからないでしょう。何故か唐突に帰れと言われるんですから