どうしてこうなったんだと思っているのはきっとさとりも同じだろう。どうにもこの辺りの関係と言うのがなかなかに面倒くさい。
確かに紅魔館と地霊殿が地底の異変以前から懇意にしているというのは隠すべき事実だろう。実際仲良くしているのは私とさとりの間くらいだと思うが、それについては今は触れなくていい。
致し方のない事であるとはいえ、さとりとああして暴言を吐き合うのはあまり愉快な事ではない。むしろさとりの発言に本心が混ざっているのではないかと少々不安にもなる。
だが一方であれを楽しんでいたのもまた事実。あのような冗談を言い合える仲にあるのは親友のパチェか、このさとりくらいだからだ。
さとりの場合は私にも理解できるように話を進めてくれるのが尚ありがたい。パチェは偶にチンプンカンプンな小難しい言葉を並べ立てるからか、彼女との会話は心の休息になり辛いという欠点がある。それさえなければ悪い奴ではないんだけど。私を思ってくれてるからこそさとりを嫌うんだろうし。それはそれで迷惑だけどね。
とりあえずこいしについての話に思考を戻そう。
さとり曰く彼女の場所は分からない。監禁も良くないが放任と言うのも困りものだ。
少し気になった問題は「私の猫」が自由気ままなこいしを表す隠語だったのか、それとも文字通り彼女のペットの火車だったのかだ。その後の「貴方の犬」は明らかに咲夜の事だ。
『こいしに危害を加えればどうなるか分かってるんだろうな?』という脅迫まがいのものだったのだろうか。深く読むべきか否かは判断できないが、とりあえず見つけない事には始まらない。
「結局さとりの奴は犯人じゃ無さそうだったな。文のような速さがあるわけではないし、咲夜や紫みたいな反則的な移動手段があるわけでもない。何故か知らんがどっちとも仲は悪そうだったしこの短時間であいつが地底まで戻るのは不可能だっただろう」
「ええそうね。となると影で人を操っているのはいったい誰なのかしら」
そう言えばあの子は八雲紫とも不仲を演じさせられているんだっけ。実際は私よりも仲が良いと思うけど。思い出したくも無い月面旅行の最終的な成功にもさとりは暗躍していたし。一瞬見ただけだったが、あの時も八雲に請われて参加したようだ。まあ彼女が自ら月に行きたいなんて言うはずもないから当然と言えば当然か。
八雲紫……さとりが厄介だと発した言葉の本質もまた理解できてはいない。彼女が放浪者にとって厄介な能力者だから積極的に応援を要請した方が良いと言いたかった可能性もあれば、私たちにとって厄介だから頼らない方が良いと言った可能性もある。
だが彼女が最も伝えたいと思ったのはその次の言葉だろう。八雲紫の能力から隠れるならば位相をずらす。位相と言えば波。それくらいはわかる。しかし波が何に関係するのか、それが瞬時には理解できなかった。
理解できたのは彼女が魔理沙に伝えた言葉の中にヒントが混ぜられていたからだ。あの場面、彼女なら決して無駄な発言はしないだろう。彼女の発言内で最も波に関係のありそうな単語は温泉だったが、温泉に解決策があるとは思えない。
となれば残りは兎鍋の方だ。と言うか兎だ。波に関係する兎と言えば永遠亭に人を狂わせる兎がいたはずだ。名は確か鈴仙・優曇華院・イナバと言ったか。
とにかく次に私たちが目指すべき相手はその鈴仙ということになる。だが、ここで急に彼女の名を出しても魔理沙に疑われるのは明白であり、仮に彼女に頼ろうと私たちの間で決まったとしてもその理由が浅ければあの薬師は貸し出してくれないだろう。
どうにかして魔理沙と鈴仙を納得させるだけの理由を考えなくては、と思っているところで魔理沙が再び口を開いた。どうやら先ほどの私の発言に思うところがあったらしい。
「人を操る…………なあレミリア、次はアリスのところに行ってみないか? 人形を操れるんだったら人一人くらい簡単に操れるかもしれないぜ」
ここに来て更なる回り道を通らなければならないか。答えにたどり着いているであろう私と全く何も情報を持たない魔理沙。
普段ならあり得ない、と一蹴できるような突飛な考えも今は撥ねつけることができない。魔理沙から見れば私も何も知らないはずであるから私は首肯するしかない。
それにアリスに興味が無いと言えば嘘になる。パチェと同じ魔法使いであり、さとりや八雲からも高く評価されている。実際さとりが地上にいた時はアリスの作った着ぐるみを着ていたらしい。極秘計画に参加しているところを見ても八雲からの信頼は伊達ではないことがわかる。
私個人としても関りが無いわけではない。偶に紅魔館にも足を運ぶ彼女との仲は悪くないと思っているし、地上では唯一さとりについて穏やかに話ができる相手だ。
ただ私とアリスの関係は悪く言えばその知り合い止まり。共通の話題がさとりの事くらいしかない以上仕方のない事なのかもしれないが、できればさとりが彼女を高く評価する理由、そしてあの八雲紫がさとりと同列までとはいかないものの一目置く理由を是非知りたいものだ。
「相変わらずこの森は陰気臭いわねぇ。よくもまあこんな場所で暮らせるわ」
「おいおい、それは私への当てつけか? あの自称都会派や私だけじゃなくて他にも何人か魔法使いがこの森に住んでるんだからな」
そろそろ夕刻が迫っているのもあるかもしれないが、それを抜きにしても暗い。しかも土が湿っているからなんとなく気持ち悪い。妖怪すらあまり近寄らないのも納得だ。
この瘴気に耐えられるのならばむしろ安全とも言えるだろう。茸の見せる幻覚もさとりの見せる物とは天と地ほども違う。頭を振ればすぐに治まる。
「それにここらの茸は魔法薬に使うには丁度良い物が多いんだ。特殊なモノばかりだからな。あ、その足元にある茸は踏むなよ。昔興味本位で触れてみた時にゃひどい目に遭ったからな。靴の上からでも踏むのはやめておいた方が良い」
「何してるのよ貴方。……茸図鑑でも持ち歩いてみたらどうなの?」
「茸図鑑ん? んなもんあっても無駄さ。昔香霖のとこで見たことがあるが
なんという危険思考。忠告をしてくれるのはありがたいが素直に感謝することはできない。命を削り続ける事の危険性が分かっていないのは流石人間の子供といったところか。
ある程度の安全が保障されている異変解決とは違い、一歩誤れば即座に死に至る。
「……はぁ。パチェが貴方を心配する理由が分かったわ。貴方はいずれその考えで命を落とす。その原因が茸なのか、それとも魔法実験の失敗なのかは分からないけれど、今のままの貴方なら確実に死ぬわ。貴方が死ねばフランもきっと悲しむわよ?」
開いた口を閉じさせる悪魔の一手。
人と言うのはいつでも自分の扱いが一番適当だ。自分の事を思ってくれる人なんていやしない。自分が死んでも誰も悲しまない。とそんなことを考えてしまう種族だ。
一人でも自分の死を悲しんでくれる人がいるのだと知れば、その無鉄砲さも死への渇望も多少は緩和され、あるいは完全に消え失せることもあるかもしれない。
今回はフランが、と言ったが魔理沙が死ねばパチェだってきっと悲しみはするだろう。口では散々文句を垂れているが、なんだかんだで話す相手が増えたのは嬉しいのだろう。たまの喧噪も非日常だと捉えて受け入れている節があるし。
私としては魔理沙が自分の考えを改めてくれるのなら何だって良い。姉として苦しめてきた自分が言うのもなんだが、もうフランが悲しむ姿を見たくはないのだ。
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「あらあら。レミリア……ではないわね。それにしてもこんな場所にお呼びでない蝙蝠が一匹? 凡そ蝙蝠とは言えなさそうな翼だけれど」
「貴方が次の遊び相手? お姉様を探している途中で迷い込んだけど……どこココ」
「ここは永遠亭。貴方たちのような血吸い蝙蝠風情が来て良いような場所ではありませんよ。ここに迷い込むこと自体愚かですが、遊び相手を求めるならば別の場所に行きなさい」
紅魔館を破壊した後にフランドールがやって来たのは迷いの竹林。彼女自身は疾うにこいしを見失っているが、こいしがここに着いても未だにフランドールの近くにいるというのは明らかな事である。
そもそも迷いの竹林は自力で抜け出すことが不可能だと言われるほどに厄介な地形をしている。ここを抜けて
この竹林はいたずら好きの妖精すら迷わせる。博麗の勘でも迷子は避けられない。抜けられるのは長年住んでこの竹林を知り尽くしている者か、長年をかけて道を見つけた者かだ。
こいしの場合は後者にあたる。そもそも彼女自身自分が何を考えているかすら分かっていないのだから、ここに着こうと考えてフランドールを誘導したわけではないだろう。ただ知っている道を辿っただけに違いない。長期の放浪も思いもよらぬところで役に立ったわけだ。
永遠亭から出て行けと言う永琳だが、当然フランドールが素直にいう事を聞くわけがない。抑圧され続けてきた彼女にとって多少のわがままは許されるべきだと、彼女の中で勝手にそれが肯定されてしまっている。
「お姉様知らない? 館から出るためにお姉様をぶっ飛ばしたいんだけど。あ、でも貴方も練習台には丁度良いかもしれないわ」
「話の通じない子ね。典型的に目的と手段が入れ替わっているし……レミリアの教育不足か或いは…………」
フランドールの中でレミリアをぶっ飛ばすという手段が目的に変わってしまっているという事を指摘する永琳は、自分もまたフランドールの話を無視して自分の考えに浸っていることに気付いていない。話が通じないのはお互い様である。
「レミリア? やっぱりあいつを知ってるのね。何処にいるのか教えて頂戴。さあ早く!」
永琳の口から出てきた姉の名前に興奮しているフランドールとは対照的に、当の永琳本人は敵意を向けられていても素知らぬ顔で考え事を続けている。
「……非常に珍しい妖怪の姉妹……吸血鬼にあるまじき特異な翼……内に秘めた狂気と計り知れない力…………使えるわね。ウドンゲ! ちょっとこっちへ来なさい!」
師匠からの突然の呼び出しに、またお叱りを受けるのだろうかとヒヤヒヤした面持ちの兎が顔をのぞかせる。自慢の長い耳は既に萎れて垂れ下がっている。
医者という他人の命を預かる仕事をしている者の弟子として働いているのだから、永琳が彼女、鈴仙を叱ることは多い。生半可な治療を施すことは許されないからだ。だからこそ彼女は永琳に呼び出された時点でお叱りを覚悟するのである。
しかし今回ばかりはそうでもないらしい。何故か不安を煽るほどの笑顔で、永琳は鈴仙に一つ頼みごとをする。それはこのフランドールを逃がさぬよう監視しておくことだ。
だがそこで鈴仙は違和感を覚えた。彼女の目にはもう一人の少女が映っていたからだ。
「師匠、見張っておくのはこの金髪の子だけで良いんですか? あちらの子は……」
「あちらの子? 何を言っているのかしら。能力の使い過ぎで幻覚でも見えるようになったの? それとも私を馬鹿にしているの? 答えに因っては……分かっているわね?」
失言だったとその場に蹲る鈴仙とそれを睨みつける永琳という構図が出来上がる。激怒しているわけではなくとも注意力が散漫になっている永琳と蹲って下を向いてしまった鈴仙。
驚くほど静かに、先ほどまでの興奮すらも消し去ったフランドールは部屋を出て行く。誰もそれには気づけない。
生まれて初めて無意識の能力を看破されたこいしは逃げの一手を選択したのだ。
しかしそれは結果的には正しかったと言えるだろう。そのままあの場にとどまっていれば鈴仙によって正体が暴かれ、永琳によってフランドール共々ちょっとした実験に付き合わされたかもしれないからだ。無意識に働く防衛本能が彼女らを救った形となった。
「ふぅ、危ない危ない」
「ちょっと古明地こいし、こっちは危ないじゃないの。迷子になりかけたし。ただお姉様の事は知っているようだったけど」
「まさか私の能力が見破られるなんて思わなかったんだよ。お姉ちゃんがでさえ私には気づけないのに」
この二人も結局は会話がつながらない者同士。各々が好きに物を言う妹たちだ。次にどこへ行くか、そんなことでもすぐに揉めてしまうだろう。
姉を探す妹たちと、妹たちを探す姉。舞台はついに禁忌の終着点、妖怪の山へと移る。
もっとギスギスしていけ
私の書く物に完璧なキャラは出てこないです。永琳も紫様もまともですが欠点はあるものだと思ってるので