【特別短編】柚月ゆずへの、祝いの言葉 作:どこかの竜
「赤貧忍者の神社、か。本当にこの先にあるのか?」
ある時のこと。一人の青年が、ゆっくりと山道を登りながらとある神社をめざしていた。
山の道は険しく、杖もなければ登ることは厳しく、舗装状態も悪いのだ。一歩ずつ道を踏みしめ、彼が進んでいくと、いきなり目の前に階段が現れる。
「これ、か?」
その階段も傾斜が急で、目測で数えるにざっと百八段。煩悩を消すためなのだろうか。などと野暮なことを考えながら、段飛ばしで登る。斜面は急でも、段を飛ばして登ることは案外難しくない。その先にある物を見なければ、きっと彼は納得できなかっただろうから。
そして、上り詰めたその先には、彼が望んだであろう光景が、そこにあった。
「……寂れた神社。しかし、生活感はある」
彼がずっと夢見てきたものが、今目の前にある。そのまま、賽銭箱の前に行くと、五円玉を五個ほど投げ入れた後、後ろを振り向いた。
「おお、お主。こんなところまで来て、どうしたのかの?」
「……あ」
すると、そこには銀髪の中に黄色のまざった幻想的な二色の髪色。花の髪飾り。そして、狐の耳とシッポ。忍びのような装束。それは、紛うことなき彼が探していた人物だった。
「は、はじめまして。えっと」
「緊張しなくともよきよきじゃ! わがはいは柚月ゆず。お主は?」
その微笑みは、月のように美しく、儚く。そしてとても明るく何者も照らすように思える。その声は透き通るような響きで、印象を静かに残していく程の美声だ。
そんな彼女の問いかけに対して、青年は恥ずかしそうに。そして、照れ臭そうに頭をかいた。
「……名前は、今は無いです」
「無い?」
「ええ、ここに来るためには色々無くしてきましたから」
「そ、そこまでしてなのかの!?」
驚くゆずを見ると、少しだけ安心したかのように青年は柔和に微笑んだ。この日が来ると信じていた。とでも言うかのように、彼が手紙を取り出すと、彼女は首を傾げる。
「これは、あなたに対する皆からの気持ちです。読んでください」
「わがはいに、かの?」
彼は手紙を差し出して、それを彼女は受け取ると、おもむろに、封を開いた。すると、その手紙は輝き出す。その光は七色に。暖かな何かを伝えようとするかのように、強い光を放ち煌めいていて。
「な、なんじゃ!?」
「……ふふ」
一瞬眩しくなり、ゆずは目眩んだ。数秒経って、再びその目を開く。そこには、彼女が活動した記録。色々な大会で、残した成績。共に歩んできた仲間のこと。全ての思い出が詰まった光景が、一気に拡がっていく。愛を繋げていく。そう、今日は特別な日だった。
「柚月ゆずさん。私たちの思いを乗せて、僕はここに来ました」
「も、もしやお主は……」
ゆずは、その言葉を聞くやいなや、その意図を察する。そう、彼は優しく微笑むと一つの文字を書き起こした。
「私たちはあなたの、リスナーですよ。主上殿」
「……あ」
そのまま、彼が起こしたリスナー。の文字を見た後、ゆずは少し目に涙が浮かんでしまう。泣き虫と呼ばれる彼女は、あまり泣かないようにしているのに、それでも泣いてしまいそうになったのだ。
銀のしっぽがゆらゆらと揺れ、耳もぴこぴこと動き続ける。彼女の涙が少しずつ溢れてきたが、その顔は笑みに溢れていた。彼女が見ている手紙の中身とは……
”拝啓。柚月ゆず様。
私たちが出会ってから、幾許か時が過ぎたでしょう。私たちはあなたに出会えて、感謝しております。
そして、これを代筆する私もまた、あなたに会えたから、勇気を出すことも出来ました。
私たちは、あなたの事を愛しております。
これからも、あなたが見せてくださる夢を、楽しみにしております。
代筆。どこかの竜。
敬具”
「こ、これは、お主……!」
「なので、僕はここに来るのに名前を捨ててきました。一旦ね。僕はどこかの竜として、ここに居ます」
たくさんの想いが詰まった祝いの言葉。それを彼女に捧げよう。と沢山の人物の願いなどを込め、それを具現化したのが彼だった。
「これは、私達から送れる想いの一つです」
彼は、あくまでも皆の想いを伝えるために、ここまで来た。それほどの価値があったと、彼自身は感じていたし、彼女が喜ぶ姿を見て、それが彼自身の喜びとなっていた。
「……みんな、本当に優しいのう」
「はい。あなたとの軌跡。皆が忘れられませんから。大会で、審査員特別賞を貰った時も、あの時の新曲も。次の大会の時も上位に組み込む程だった時も」
「……懐かしいのう」
だから、彼女が新たな微笑みを見せた時、彼は光を放って空を舞う。想い出に浸れる時間は長くはない。そのリミットは、すぐそこにあった。
「あなたも、ずっと頑張ってください。主上殿。私達も、またあなたに会いに来ますから」
「……もう、行くの?」
「ええ、元々多くを捨ててここに来ていますから」
そのまま彼は、少しずつ遠くへ飛び上がる。そして、そのまま最後に叫ぶのだ。
「チャンネル登録1000人。おめでとう!」
彼女の笑みを最後に見ながら、彼は高く飛び立った。ゆずはそれを見送ると、手紙を大切に胸元に置く。そして、その手紙には、小さな柚の花が添えられていたのだった。
これから、彼女の伝説はさらに続いていく。そう信じたリスナー達の想いは、今夜も響いていく。そして、そのまま未来へと続いていく。夢は、終わらないのだから──。
”改めて、チャンネル登録1000人。おめでとうございます。柚月ゆずよ、永遠に続け!”
これは、どこかの竜が残した小説という名の祝いの言葉と思い出の欠片です。
皆の心に、残りますように──。