ゲームの世界に転生した挙句黒幕に飼いならされてます………   作:休も

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全然、書きたい部分までたどり着かない。評価感想ありがとうございます。励みになります。


第11話

王城に帰って、最低限の準備をした後目指したのはアイセアの部屋だった。アイセアの朝は早い。休日でなければ、早朝には起きている。部屋の前まで来てノックをする。しかし返事はなかった。

 

「入るぞ」

 

不思議に思いながらも扉を開けた瞬間、閃光が走る。

 

「グぅッ!!!!?」

 

膝に、激痛が走る。余りの痛みに、膝をついてしまう。何が起こった………?立ち上がろうとした瞬間、体を何かに引きずり込まれ、扉が閉まった。

 

気が付けば手をアイセアに握られていた。まだ薄暗い時間帯であることも一因だが、何故かカーテンを閉め切っているため部屋が暗くて、顔はよく見えない。だが、ベットの上で押し倒されていることは理解できた。

 

「おかえりなさいですね。ヴィレム」

 

「え、あ。はい。ただいま、アイセア」

 

あまりの事態に全く頭が回らず、気の抜けた返事をした。至近距離になって初めてアイセアの顔が目に入る。笑顔だ。いつものように、可憐で美しく魔性で狂気的な笑顔をしている。ただ、目の奥が致命的に笑っていなかった。

 

余りの痛みと感情が読めないアイセアの瞳と目が合い息が詰まる。彼女の柔らかな身体の生々しい感触が洋服越しに伝わってくる。

 

「朝帰りとはいい御身分ですね?今日は随分とお楽しみだったようで」

 

この状態のアイセアと長い間対面するのは本当にマズい。俺の本能がそう警鐘を鳴らし、体勢を変えようと試みる。

 

「息が荒いですね………心拍が上がっています。運動でもしてきたんですか?」

 

酒飲んできたんだよ!とは言えない雰囲気を醸し出していた。

さらにアイセアが目を見つめたまま身を寄せてきた。甘い吐息と魔性を孕んだ瞳が俺を掴んで離さない。

 

「動けば、骨をへし折ってしまいますから」

 

声色が本気だった。

 

「リプロント」

 

それは尋問用の魔法。過去に受けたことのある痛みを呼び起こす魔法だった。実際に傷つくわけではないが、痛みは本物である。血が出ない拷問であると言われ、虐待などに使用されることがあったため使用禁止となった魔法だ。

 

強烈な痛みが体中を突き抜ける。

 

「リプロント、リプロント、リプロント、、リプロント、リプロント、リプロント、リプロント、リプロント、リプロント、リプロント、リプロント!!!」

 

「ッ!!!!!?????!!!!??ガァッ~~~~!!?」

 

声にならない声が静かな寝室に響いた。声が出ないのは、アイセアの魔法で声を封じられているからだ。常識外の激痛。あまりの痛みに涙が出る。

 

「まさか、私が傷をつける前に新しいことを覚えて帰ってくるとは…。どうすればいいのでしょうか」

 

痛い、痛い、痛い、痛い。視界が明滅する。体が燃えているかのような錯覚すら覚える。痛んで思考がまとまらない。

 

「わかっているのですか?あなたは誰なのか?」

 

それでもアイセアの声だけは入ってきた。

 

「あなたはヴィレム。この色あせた世界で、私が欲し、私が見つけ、そして私が拾った、私だけの騎士様(お気に入り)。あなたは私だけのモノなのですよ」

 

あまりに大きく複雑な感情が乗ったその言葉と不安と狂気と執着が、ない混ぜになって宿っている瞳が俺を覗いてくる。それは小さな子供のようだった。その姿は、俺が今まで見てきた中で最も余裕がなく同情すら誘う姿だった。痛みの恐怖と哀れみ(・・・)から俺は動くことができなかった。なぜ、こんな目をするんだろうか。

 

アイセアはしばらくして、我に返ったような顔で俺を見ると、額に手を当て呪文を唱えた。

 

「メモリアリー」

 

直近3時間の対象の記憶を覗き読む魔法だ。それを使用したアイセアは怪訝そうな顔をした後、目を見開くというかなり珍しい表情を見せ笑った。

 

「なるほど、勘違いでしたか。これはお恥ずかしい」

 

空気が変わる。アイセアは俺に麻酔系の魔法をかけ、俺の上からどいた。魔法が解かれていることを確認し、思い切り脱力してしまった。アイセアは虚脱感に身を任せてベットにへたり込む俺を見て申し訳なさと愉快さと安堵をごちゃ混ぜにしたように笑う。

 

「起きたら忘れてますから、安心して眠ってください。良い夢を」

 

結局何だったんだ?

 

そんなことを思いながら意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、ヴィレムはアイセアから出場の許可を得て、試合会場に立っていた。

 

「今年もやってきたぞ!!!!!剣魔祭の開催だああああああああああああ」

 

快晴の大空に観客の興奮と叫びが吸い込まれていった。

 

広漠とした楕円形フィールドを階段上の観客席がぐるりと囲むこの場所は、学園の魔法闘技場である。観客席には各学年の生徒たちがひしめき合い活気と熱気に包まれていた。

 

「実況は我、セルベスター・クライヘルツとレーダ・トライアスロンがお送りするのじゃ!」

 

「えー。ちなみに学園長は国王陛下に召喚命令を受けて渋々、仕事に行きました」

 

「っというわけで代役として、我がここにおるわけじゃ」

 

観客席のさらに上にある解説席に座っているのは、セルベスターとレーダだった。セルベスターはハイテンションで、レーダはローテンション気味に実況をする。

 

「さて、ルールのおさらいをしましょう。参加者100名の中から生き残るのはたったの5名。生き残りをかけた殺し以外何でもありのデスマッチ。出場者は、学園長が私物化しているバイセッツの森林の中で戦い合ってもらいます。意識を失うか、ギブアップ宣言で失格。こちらの闘技場に転送されてきます」

 

「ざっくり言えば、森林の中で疑似的な殺し合いをして5名になるまで試合を続けるって感じじゃの」

 

「えー、セルベスター様。今回の注目選手は誰ですか?」

 

「そうじゃなぁ、オクテット、シトラシア、ベレネート辺りは生き残るじゃろうなぁ。三年にはフッド、セーレ。二年は、アシュテルとヴィレム、クライシス辺りじゃろうか。そういえば、今年は特別枠で出場権を獲得した1年がおるらしいの」

 

「え?初耳なんですけど」

 

そんな反応をするレーダ。セルベスターはそれを無視して話を先に進めた。

 

「優勝賞品は破魔の金剣じゃ!売れば、遊んで暮らせる!使えば英雄になれる!伝説の宝具じゃ!」

 

学園長(トラブルメーカー)は何を考えて、これを景品にしたんでしょうか………」

 

「まあ、ぶっちゃけ扱えるやつはいないっていう判断じゃろうな。結局、学園側が買い取って優勝者の手元に残るのは現生じゃな」

 

「急にリアルな話し出してきますね」

 

解説席の二人の会話がそこで途切れる。それは剣魔祭の開始を意味する転送魔法が発動したからである。

 

会場には転送先の映像が、学園長お手製の魔道具で投影されている。

 

「さて、配置も完了したようじゃし剣魔祭、開幕じゃ!!!!」

 

 

 

 

 

 

心地の良い鳥のさえずりと場違いな爆発音、そして怒号が聞こえてくる。ヴィレムはそれを聞きながら、散歩をするように森林の中を歩いている。

 

「まあ、そうなるよな」

 

気が付けば、凄まじい数の人間に囲まれていた。ヴィレムは、この展開を予想していた。ヴィレムの名は王女の騎士というだけでなく、挙げてきた武勇と功績によりかなりの強さを誇る魔法使いとしても有名だった。

 

貴族は名声に目がなく、平民は自分の待遇を上げるため功績と箔を求めるため、狙われるのは自然である。

 

ただ、彼らは一つ勘違いをしている。ヴィレムの誇る武勇伝や功績はたまに信じられないようなものが混ざっている。それは、アイセアがヴィレムを縛る意味合いで擦り付けていたものだが、それはデオドールの戦い以降の話。確かにヴィレムは天才ではなく、チートと呼ばれる作中トップクラスの相手には手も足も現時点では出ない。しかし、ヴィレムは原作知識由来の効率的な鍛錬と暗躍を繰り返し、功績を重ねた人間だ。何が言いたいかと言えば、学生レベルは相手にならないということである。

 

「なッ!!!!??!!?」

 

ヴィレムを潰して武功をあげようとしていた生徒が驚愕に目を見開く。それは蹂躙だった。近接戦では素手であしらわれ、魔法の撃ち合いでは当たり前に使われる無詠唱の中級魔法で押し負ける。物量など意味ないと言わんばかりの蹂躙っぷりだった。

 

その最大の原因は実戦経験の差である。ヴィレムは魔法で土煙を上げ、視界を奪ったり、同士打ちを狙っているなど、戦い方が巧いのだった。

 

「クソ、『大いなる炎よ、獄炎を纏い、我が敵を打ち倒せ!』」

 

指揮を取っていた貴族の男が呪文を唱える。収束する魔力が燃え上がる。

 

「『イグニス・フレア!!!!!』」

 

巨大な滝のように燃え盛る灼熱の業火。肌を焼き尽くさんばかりに溢れる熱波。熱気。緋色の輝き。それが津波となってヴィレムに襲い掛かった。

 

炎熱系の中級魔法では最高クラスの威力を誇る魔法である。中級魔法は基本的に3年生で習得する魔法ではあるが、この魔法は中級に分類されていながらも習得難易度、威力が高すぎるため、中級詐欺と言われている魔法だった。

 

中級魔法は実践でも通用する魔法だ。しかしその魔法をヴィレムは剣の一振りで斬り破り蹴散らした。

 

「ッ!??????」

 

中級魔法を破ったその現象はヴィレムが原作の主人公から着想を得て作り出した魔法を斬り無力化する技だった。

 

魔法殺し(スペルキラー)

 

そう呼ばれるこの技はヴィレム・マーキアの代名詞の一つであり、ヴィレムが戦場で生き残ってきた理由の一つである。一属性の魔法であれば威力、種類に関係なく魔法を無力化する。

 

呆気にとられ、茫然とするその生徒に近づき蹴りを叩き込む。ヴィレムの的確な跳び蹴りを受け、吹き飛んでいく生徒。

 

「流石に、普通の学生には負けられないな」

 

そんなヴィレムに声をかける生徒がいた。

 

「ほう、伯爵のくせになかなかできるな」

 

それは恰幅のいい男子生徒だった。恰幅がいいとはいえ、動けないわけではない。強くないわけでもないと思った。少なくとも今までの生徒よりは強いと感じた。

 

「しかし、貴族の戦い方ではないな。この私、チェキートオ侯爵が貴殿に貴族の戦いというものを」

 

「うるさい」

 

次の瞬間、ヴィレムが現れたのは、チェキートオの背後だった。互いに背中を向け、剣を振り切った状態。

 

鮮血が、チェキートオの胸から迸る。

 

その胸板には斬線が、真一文字に引かれている。決して浅い傷ではない。しかし、それは大きな問題ではない。深い傷というわけでもないし、戦闘は続けられる。しかし、チェキートオは今のヴィレムの攻撃を躱せなかった。それが問題なのだ。

 

「な、なんだと!?」

 

チェキートオはが驚きの声を上げる。前後の状況から、ヴィレムは自分をすり抜け様に刀を一閃し斬り付けたのは判る。だが、速い。否、速いなどと言うレベルではない。あれは人間の動きではない。貴族である自分が、侯爵である自分が躱せなかった。その事実はチェキートオの冷静さを失わせた。

 

「この私が伯爵ごときに傷を負わされるだと?ふざけるなぁぁぁ」

 

侯爵は轟音を上げて突進。同時に、振り翳した剣を、真っ向からヴィレムへと振り下ろす。ヴィレムにとっては躱すのは造作もない攻撃。最小限の動きで躱し、呪文を唱える。

 

「エルウィル・ウィンド」

 

掌から放たれたのは風の中級魔法。撒き散らされる破壊。しかし、それは敵にではなく、下に向かって放たれた。土煙が舞う。

 

次の瞬間、ヴィレムが仕掛ける。袈裟懸けに振り下ろした剣閃が、チェキートオを斬り裂く。刻まれる斬線。宙を舞う鮮血。

 

「遅い」

 

チェキートオ侯爵の周囲から光が漏れ出し、その体が消える。会場に戻ったのだ。

 

「今年は、蓄積ダメージでも転送されるんだな」

 

そんなつぶやきはあちこちから聞こえる戦闘音でかき消され、消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ヴィレムの強さを現在の登場人物だけで表すと

アイセア>>>>>>>>>>>(越えられない壁)>>(手を抜いたアイセア)>>セルベスター>ヴィレム>>アグニ>>>>>デルタ>ロバート>>>かませ侯爵>>有象無象

ですかね

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