ゲームの世界に転生した挙句黒幕に飼いならされてます………   作:休も

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第12話

観客席の誰も空の映像を見て動き始めた試合に沸き立っていく。会場の空にまるで窓のように展開された無数の映像を見ながら、セルベスターとレーダは実況を続ける。

 

『どう思いますか?セルベスター様。結構どこも試合が動き始めましたけど』

 

『予想通りじゃなぁ………序盤は退屈じゃ。有力な選手を他の選手が取り囲んで、逆に返り討ちにされる状況が続くじゃろうな。逆に、イエティのように自身の派閥で周囲を固めて罠を張りつつ、守りに入る奴もおるがの』

 

『あー、狙撃で漁夫の利を得ていく選手もいますね』

 

『隠れて敵が減るのを待つ者もおるの。なんにせよ、中盤までは暇じゃなあ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

開けた場所に出た彼を出迎えたのは無数の気絶した生徒たちだった。次第に、光に包まれ闘技場に転送される彼らを見ながら、ヴィレムはその元凶と相対する。

 

「派手に暴れたな、アシュテル」

 

「いえ、これでもだいぶ加減はしました」

 

確かに、全員綺麗に意識を落とされていた。アシュテルは、その容姿と性格に似合わぬ好戦的な笑みを浮かべる。

 

「リベンジさせてもらいますよ?」

 

「やってみろ」

 

腰から取り出した二振りの双剣を携え アシュテルはヴィレムへ鋭く切り込んでいった。

 

突撃してくるアシュテル。

 

速い。

 

ヴィレムはその速さに目を剥いた。アシュテルの手にした鈍色の剣が大気を斬り裂く。

 

振り下ろされた一閃を、ヴィレムは逆袈裟に斬り上げて迎え撃つ。火花が散る。激突した次の瞬間にヴィレムとアシュテルは、互いに弾かれたように後退する。

 

「「ッ!?」」

 

ヴィレムは足裏でブレーキを掛けながら体勢を整える。

 

(随分と速くなっているな)

 

そんな思考をした次の瞬間には、すぐ真正面に剣を振りかざしたアシュテルの姿があり、ヴィレムをその間合いに捉えていた。しかし、ヴィレムに後悔はない。なぜなら、ヴィレムにとってそれは躱せないような攻撃ではないからだ。風の魔法を体にまとい、身体強化魔法で強化したヴィレムは、常人の速さなど置き去りにしている。

 

攻撃を当たり前のように、ひらりと躱すヴィレム。アシュテルは一瞬、ヴィレムを見失う。

 

空中。そこには、剣の切っ先を真っすぐに向けたヴィレムの姿がある。既に攻撃態勢に入っているヴィレム。

 

足裏から放出した風で宙を蹴り、加速するヴィレム。切っ先は、アシュテルの腹部に、正面から突き立てられた。

 

「ッ!?」

 

寸前で体をずらし直撃を避けた。しかし、アシュテルは脇腹を切り裂かれ、腹部を押さえて後退する。そこで、ヴィレムは手を止めない。

 

「『エルウィル―――』」

 

「させない!!!!!」

 

呪文を完成させる寸前でアシュテルが剣を振り上げる。

 

僅かにヴィレムの詠唱が先に完成する―――――――その瞬間、二人は横からの炎の津波に呑まれた。

 

 

「「ッ!」」

 

炎の中から僅かに服を焦がしながら脱出した二人は乱入者に視線を向けた。

 

「うわぁ」

 

「………ベレネート・ダンタリオン」

 

そこに立っていたのは青年だった。冷めた瞳、鷹のような鋭い目つきを持つ青年。左目を髪で隠している。その男をヴィレムはよく知っていた。

 

「常勝無敗の英雄様が何の御用で?」

 

「フン、うるさい羽虫どもを払っていたら貴様たちに出会っただけのこと。用などない。だが————お前には興味があるな、マーキア」

 

ベレネート・ダンタリオン。公爵家の長男にして学園入学から常勝無敗の怪物。教団の幹部の一人である。

 

「炎帝よ、煉獄の炎を宿し、我が敵を焼き払え」

 

「!?」

 

ヴィレムは自身に向けられた殺意と魔力に焦りを感じた。それはこの先の未来を予測できてしまったからである。

 

「ここら一帯を燃やす気か!?」

 

「『アトラス・フレア』」

 

並みの炎とは比較にならない超高熱の灼熱業火が津波となり、あらゆるものを飲み込み焼き尽くしていく。炎の上級魔法、アトラス・フレア。上級魔法の中ではこれでも平均的な威力の魔法である。しかし、使用する人間が変われば話は別である。

 

術者を起点に周囲を深紅色に染め上げていくその魔法は、巨大な炎の柱だ。ダンタリオンが、優雅に腕を振るうと炎が猛然と走った。木を地面をそしてヴィレムとアシュテルを焼き尽くさんと暴れまわり、猛威を振るう。

 

「ッ―――――消えろ」

 

銀閃が走り、赤を切り裂く。瞬間、周囲を埋め尽くしていた炎が初めからなかったかのように消えた。

 

「それが、魔法殺し(スペルキラー)か。確かに、悪くない技だ」

 

「お褒めに預かり光栄だな」

 

ダンタリオンは表情を変えずにただただ冷静に分析を始める。

 

「魔法の無力化。聞いていた通り、上級魔法であろうと斬れるらしい。なるほど、厄介ではあるが貴様のその技、それなりに魔力を食うな?平静を装ってはいるが、目に見えて魔力が減っているぞ?」

 

「魔力が見えるのはあんただけだろ…」

 

ダンタリオンの瞳は幾何学模様を浮かべて、発光している。

【魔眼】と呼ばれるそれは、魅了と同じく先天的な才能である。ダンタリオンは、魔眼を通して相手の魔力の流れと量と質を視ることができる。

 

「フン、雑魚の涙ぐましい技だな………魔法戦で押し負ける相手を倒すために開発した技なんだろうが、効率が悪すぎる。あのいけ好かん王女の騎士でありながらそんな雑な魔力制御をしているから余計な魔力を浪費するんだ」

 

その辛口評価にヴィレムはある程度納得していた。ダンタリオンの言っていることは間違いではないからだ。当代、最優の魔法の使い手である王女の騎士としてはヴィレムの魔法戦での腕は拙い。弱いわけではない。実際、王国騎士団や軍の人間と戦闘をしても大抵は勝利する。だが、王女や目の前のダンタリオンのような怪物たちを相手にすると話が変わる。

 

埋まらない差を埋めるためにヴィレムは記憶を取り戻してから、様々な技を習得してきた。だが、絶対的な相手に対しては淡すぎる。

 

「………アドバイスはありがたくいただくが、一つだけ言わせてほしい。お前たち天才はいつも一人で何かを成し遂げたがるがそれは天才の証であると同時に足枷だ。凡人の戦いってやつを見せてやるよ、ベレネート(盲信者)!」

 

「貴様ッ!」

 

ヴィレムは上空に向かって懐に潜ませていた煙球を風魔法で打ち上げる。それに気を取られたダンタリオンはコンマ一秒、反応が遅れる。致命的ではないが、形勢が一瞬傾きかける。

 

「ッ!」

 

ダンタリオンの真後ろにはアシュテルが剣を構えて攻撃せんとしている。

 

「戦闘中に無視されるというのは傷つきますね!!!!!」

 

「チッ!」

 

紙一重で斬撃を躱すダンタリオン。

 

目の前に展開される斬撃の網。それらをすべて素手で(・・・)受け流す。アシュテルがさらに跳躍する。頭上を過ぎたタイミングでダンタリオンは体を反転させる。相手に背後を取られないようにするためだ。

 

その判断は間違いではない。しかし、その無駄な動きは攻撃の機会を減らした。綺麗に着地を決めたアシュテルが追撃を放つ。

 

「一度貴方とも戦ってみたかった!」

 

斬撃のラッシュは止まらない。顔色一つ変えずに攻撃を捌くダンタリオンであるが、攻勢に出ることができない。

 

それは近接戦に特化したアシュテルと魔法戦に重点を置いたダンタリオンの僅かな差だった。しかし、ダンタリオンは平坦な声で淡淡と告げる。

 

「見せてくれよう。才能が努力を圧殺する瞬間を!」

 

アシュテルの剣は学生のモノとは思えないほど洗練され、完成されている。だが、ダンタリオンからすればそんなものは物足りない児戯だ。一気に攻勢に出るダンタリオンは、近接戦で徐々にアシュテルを上回り始める。

 

「言ったろ?ダンタリオン、凡人の戦い方を見せてやるって」

 

ダンタリオンは視界の端に光を捉え、とっさに魔力防壁を張る。それは正解であったが、最適解ではなかった。

 

炎を纏った矢がダンタリオンを穿たんと襲い掛かる。魔力障壁を貫けはしなかったが、隙を作った。そして、その隙をアシュテルは見逃さない。

 

「『アルマ・ブロウ!』」

 

自身の剣に雷をエンチャントさせ、水平に薙ぎ払う。それを躱さんと空中に跳んだダンタリオンは自分が跳ばされたことを理解する。空中に出れば、遮蔽物がない分狙撃に警戒を割かなければならない。

 

そして身動きが取れない自分をヴィレムは見逃さないと考え、パワープレイに出た。

 

「『アルマ・フレイム!』」

 

周囲を焼き尽くさんと炎が荒れ狂う。それは陽炎のように周囲の景色を歪め、ダンタリオンを覆い隠していく。狙撃から身を守る目くらましであり、ヴィレムの襲撃に備える盾でもあった。

 

「『グロギシャス・ストーム』」

 

風の上級魔法にあたるそれをヴィレムは唱えた。ヴィレムの技量では一部の例外を除き中級魔法以上を無詠唱では発動できない。魔法としての体を保てず、暴走する。しかし、今回はそれでよかった、否そうでないといけなかった。

 

「何!?」

 

会場の人間は誰もが目を剥いて驚愕していたことだろう。怒れる風刃が、癇癪を起して暴れまわり、暴風となる。暴風は、渦巻く炎を悉く空の彼方へと吹き散らし消し去っていったのだ。

 

「制御できない力をわざと暴発させたのか」

 

「これが凡人の戦い方だ」

 

ダンタリオンは気が付く。狙撃への対策がなくなったことに。

 

「さっきの煙球は周辺の雑魚にこの場の正確な位置を教える合図か!?」

 

「あなたみたいな大物、誰も一人で倒せるとは思わない。でも、勝ち進むにはあまりにも邪魔な存在だ。利害が一致すれば、あんたを狙うやつは少なくない。それに………最強の狙撃手に話をつけてある」

 

木の上で戦況を眺めていたその男、フッドは口角を釣り上げた。そして、その両目で敵を捕らえる。

 

「『マテリアル・パナトレイション』」

 

放たれた二射は正確にダンタリオンの急所を捉えている。ダンタリオンは、炎を矢に放って撃ち落とす。

 

しかし、撃ち落とされたのは一矢だけ。

 

「重ね撃ちか!?」

 

ダンタリオンは咄嗟に体をひねり、二射目の矢を躱そうとした。しかし、躱しきれず足に矢を受け鮮血が舞う。

 

地面に墜落したダンタリオンを襲おうと、茂みから無数の選手が飛び出してくる。

 

「その首貰い受ける!」

「功績は俺のもんだ!!!!!」

「あの時の恨み!」

「死ね!」

 

殺意高めの選手が一斉に群がる、それを見ながらヴィレムはダンタリオンと距離を取る。瞬間、ダンタリオンの周囲が爆ぜた。

 

紅蓮の炎が周囲の敵を蹴散らしていく。

 

そして、ヴィレムの一閃で炎が消失する。

 

魔法殺し(スペルキラー)!貴様初めからこれが狙いか!」

 

「風帝よ、嵐を纏い、駆け抜けろ!『アトラス・ウィンド!』」

 

無防備のダンタリオンを暴風が捉えた。

 

 

 

 


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