ゲームの世界に転生した挙句黒幕に飼いならされてます………   作:休も

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第13話

「やったか?」

 

「アシュテル、それフラグ」

 

そんなやり取り通り、土煙が晴れた先に立っているダンタリオンは五体満足だった。左腕を除いて、ほぼ無傷なダンタリオンを見てアシュテルは顔をひきつらせた。ヴィレムの攻撃で倒せなかったからではない。問題はそこではない。

 

狙撃で穿たれたはずの左足が治っている。その事実が、アシュテルを驚愕させた。

 

「利害で周囲の人間を巻き込みつつ、雑魚を捨て駒にしてオレに噛みついてきたわけか。フッ、何が凡人の戦い方だ。主に似て悪だくみが得意なことだ」

 

「人の心理を巧みに利用しているって言ってほしいな」

 

茫然としているアシュテルを見てダンタリオンは薄く笑う。

 

「そんなにこのオレが立っていることが不思議か?」

 

そう言って、ダンタリオンは左腕を撫でる。すると、ヴィレムの魔法で傷ついていた腕の傷が修復されていた。腕を覆っている炎でアシュテルはその魔法の正体を見抜いて見せ、絶句する。

 

不死の焔(フェニクス)ですか………どうやら噂以上の天才のようだ」

 

「………天才か。違うな、足りないぞ。オレは天才ではなく最強だ」

 

不敵な笑みを浮かべるダンタリオンに冷や汗を流し戦慄を抱くアシュテルと事情を知っているが故に、その姿を痛々しく思うヴィレム。

 

両者の反応を眺めた後、ダンタリオンは話を切り出した。

 

「それでどうする。続けるか?オレは構わんが些か興が削がれた。次は手加減はしない」

 

ダンタリオンの魔力が高まる。彼を中心として吹き荒れる魔力の暴風に逆らうようにして、ヴィレムが声を上げる。

 

「こ――――『試合終了ぉぉぉぉぉ!』」

 

それに、かぶさるようにアナウンスが響いた。

 

 

 

 

 

『試合終了ぉぉぉぉぉ!決勝に進むのは、ヴィレム・マーキア、ベレネート・ダンタリオン、アシュテル、アルバトラム・フッド、そして今回のダークホース、アリス・クロックベルです』

 

『いやぁ~、最後は怒涛の展開じゃったな』

 

実況席で満足げに笑うセルベスターに同意するようにレーダも頷いた。

 

『ダンタリオン卿やマーキア選手の方も白熱でしたが、番狂わせは彼ら三人を除いた選手たち相手に一年が一人勝ちして決勝へ進んだことですね』

 

『ウム!名立たる猛者たちを下してよくぞ生き残った者よ。じゃが、オクテット、シトラシア。両名の棄権宣言に救われた形ではあるの』

 

『何で棄権したんでしょう?』

 

『手札を見せたくなかったんじゃろうな、所詮あやつらにとってはこれはお遊びじゃからの』

 

『なるほど、貴族の世界ってだるいですね』

 

『お主も貴族じゃろ?』

 

『ノーコメントで』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「予想外の形で幕が引かれたらしいな」

 

アナウンスを聞き、試合の終わりを知ったヴィレムはそうつぶやいた。それと同時に安堵してもいた。あれ以上続けていれば、負けていた可能性があるからだ。ダンタリオンもヴィレムも本気は出せない。力の詳細を見られるわけにはいかないからだ。だが、それでもダンタリオンの力は圧倒的だ。ヴィレムは本気を出さずに倒せるとは思えなかった。

 

「………ヴィレム。試合は終わった、それは間違いないんですよね」

 

「ああ、そのはずだが?」

 

しばらくして、アシュテルがそんなことを問いかけてくる。彼の声は震えていた。

 

「では、何で転送が始まらないのですか?」

 

「ッ!?」

 

青ざめたその表情をこちらに向け問いかけるアシュテルの危惧はヴィレムにも理解できた。

 

いつの間にか、会場のアナウンスもこちらに聞こえなくなっている。それは外部との連絡が取れなくなったことを意味していた。

 

「転送魔法を施した魔法具が何らかの原因で破壊されたのだろうな」

 

「何かを知っているのか!?」

 

余裕の表情で切り倒された木の上に腰を下ろすダンタリオンのその言葉に食って掛かるアシュテル。

 

「フン、ただの予想だ。こちらに異常が見られない以上、原因は会場側だ。それに、勘づいていることをオレに聞くな。考えられる可能性は一つだ」

 

「転送の魔法具は学園長の特別性。故障するなんて可能性は考えずらい。つまり、何者かに破壊されたってのが一番現実的だな」

 

アシュテルが想定している最悪の可能性を言葉にしたヴィレムにダンタリオンは補足を入れる。

 

学園長(一番厄介な戦力)がいないタイミングでの行われた剣魔祭の予選。剣魔祭の開催期間は、貴族や軍関係者の視察のため、結界は緩く警戒が薄い。これだけ揃っていればバカでも推察できる。一番あり得るのは外部からの侵入者による工作だ」

 

アシュテルはその言葉を聞いて走り出そうとする。

 

「………アシュテルッ!落ち着け!」

 

「落ち着けだと!?これが落ち着いていられますか?何で、貴方はそんなに冷静なのですか!?貴方は主が心配ではないのか!!!!!!!」

 

僅かに漏れ出た魔力が周囲に散っていく。それはアシュテルの声にならない叫びの様だった。アシュテルは普段冷静に見えて、信じられないくらいの熱や感情を持っている事を彼は知っていた。

 

「アシュテル!!!!!!」

 

「ッ!!!!?」

 

「セルベスター様はそんなに弱くない。何なら、お前よりも強い。今考えるべきは俺らが戻る方法だ」

 

ヴィレムのその言葉に僅かに目を見開き、そして目を伏せる。

 

「………そう、ですね。すいませんでした」

 

「おそらく、他の二人もここに残っているはずだ。彼らと合流したい。俺たちはここで待っているから、アシュテルは探してきてくれないか?全員で行くと入違った場合が面倒くさい」

 

「ええ、わかりました。探してきます」

 

おぼつかない足取りのまま、森の中に消えていくアシュテルを見てから、ヴィレムは振り返る。

 

「お前、今回の件どこまで関わっている?」

 

ヴィレムの問いかけにダンタリオンは僅かに口角を上げた。

 

「フッ、あの雑魚をこの場から逃がしたのはこれが狙いか。だが、残念だったな。今回はオレは無関係だ。何も知らん。しいて言うのであれば、イボスとアシュタロスが動くことだけだ」

 

「知ってるじゃねえか」

 

「破魔の金剣はあの二人が欲していた兵器だ。故に奴らがこのタイミングで仕掛けてくる可能性を考えてはいた。だが、オレにはどうでもいいことだ」

 

ダンタリオンはあくまで冷静に状況を説明した。破魔の金剣とは学園長が保管する宝具であり、使用者の半径1キロメートルにおける魔力の操作を妨害するというものだ。魔法使い相手には天敵と言えるほど相性の悪い兵器だ。

 

「貴様こそ、あの腹黒王女から何も聞いていないのか?」

 

「イボスとアシュタロスが動くということだけは………」

 

「あの腹黒女がそれ以上のことを知らないとは思えん。何かしら狙いがあるのだろうな」

 

ヴィレムは焦っていた。心配をしているわけではないのだ。ヴィレムはアイセアという少女の規格外っぷりを理解している。

 

「だろうな」

 

アイセアはヴィレムがいない所では死のうとしない。ヴィレムに選択を強いる時のみ、自らの命をカードに脅しをかける。だから、心配しているのはアイセアのことではなく、他の学園生の命だ。例えば、ミストに死なれるのはヴィレムにとって一大事だ………原作は崩壊しているが、修正できない範囲まで行かれるとお手上げだ。せめて、主人公には会ってもらわなければならない。その焦りにダンタリオンは気付いた。

 

「…意外だな。存外、焦っていると見える。貴様からすれば、あの女が倒されるということは解放を意味するのではないのか?」

 

「………語る必要性を感じないな」

 

焦るヴィレムの内心を見透かしたかのような言動を受け、わずかな動揺を露にするがヴィレムは気持ちを落ち着けようとこれから起こる可能性のある未来に対する思考を打ち切った。

 

「まあいい。オレは別行動させてもらおう」

 

「…当てがあるのか?」

 

「フッ、語る必要性を感じないな」

 

「意趣返しのつもりか?雑魚相手に大人げないな」

 

「………」

 

「…シルクハットと背中に天秤を背負った男」

 

その言葉でようやくダンタリオンは歩みを止めた。そして、先ほどまでの戦いが遊びであったと証明するかのような殺気を飛ばしてくる。

 

「貴様、どこでそれを知った」

 

底冷えするようなその声を冷や汗を流しながらスルーしたヴィレムは不敵な笑みを浮かべ、言い放つ。

 

「2年前に俺は遺跡都市アロケーであの男と出会った。痕跡くらいは残ってるんじゃないか?」

 

これが取引だ。ダンタリオンはそう解釈した。自分の欲しているであろう情報を提示してきたのはそういう理由だろう。

 

ヴィレムは原作知識からダンタリオンが殺したいと思っているとある男の情報を出した。重要な人物であると同時に、神出鬼没であるためダンタリオンにはたどり着けないと高を括り嘘を交えて情報を提示した。ダンタリオンはしばらくの間目を閉じ、そしてポツリと言葉をこぼす。

 

「…………森林の中央部に向かえ。薄汚い暗殺者を連れていくといいだろう」

 

それだけ言い残し、ダンタリオンは森の中へ消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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