ゲームの世界に転生した挙句黒幕に飼いならされてます……… 作:休も
改めて本文でもどこかの話で補足を入れますが、宝具の売買には(特殊な例外を除き)厳しい法律が存在します。さらに、今回の場合では所有者は学園長でありその宝具の危険性も理解しているため、適合を確認できなかった後その場で宝具を回収する予定でした。その辺お話は出場者は参加する前に書類に目を通してから、参加しているので了承しています。
感想、評価ありがとうございます。とても励みになります!感想はそのうち返します。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!先輩は鬼畜ッス!悪魔ッス!最低の男ッス!!!!!責任取れッスぅぅぅぅ!」
「なんかすごい俺の人格否定されてるんだが」
「当然じゃないっすか?流石にこれは」
「…ですが一周回って少し冷静になれました。彼女には感謝ですね」
目の前の幽霊屋敷から断続的に聞こえる悲鳴を聞いて、男達は各自好き勝手なことをつぶやいた。
なぜこうなったのか。話は少し時間をさかのぼり1時間前。
「こんな建物が森の中心地にあったなんて」
「何で見つけられなかったんだ…?」
「おそらく結界で隠してあったんだろう。非常時にのみ結界が解けるように細工してあったとみるべきだ。ご都合主義みたいなギミックだが、あの人こういうの大好きだからな。ただ、学園長の作成物であることを考えると、この屋敷から転送装置を見つけ出すのは至難だな」
森の中央には大きな屋敷が立っていた。屋敷のひび割れが目立つ煤けた外壁には触手のようなツタがからみつき不気味な雰囲気を醸し出していた。
「雰囲気あるッスね」
屋敷の正面には木製の看板が立っている。そこにはこう書かれていた。
『汝、研鑽した業をもって館を攻略すべし。達成をもって我が傑作の使用者の証とする。P.S 可愛い女の子には便宜を図っちゃうかも♪』
「なんつーか…うちの学園長は…あー………変わり物っすね」
「だいぶオブラートに包みましたね」
「それよりも嫌な予感がするんッスけど…」
「おそらくだが………本当に難易度が変わるだろうな」
男の魔力と女の魔力は微妙に違う。優れた感覚を持つ者ならば、判別可能だ。
正直、技能的な問題でアリスのことを連れて行けとダンタリオンは言っていたのかと思ったが、どうやらそうではなかったらしい。意外に思いながらもヴィレムは説得を行う。
「…アリス、やはりお前の出番だ。頼んだぞ」
「え、いや、あたしまだ1年生ッスから…。実力とか的にここは先輩たちの方がいいんじゃ」
ここまで来て渋りだしたアリスを見てヴィレムはこの屋敷についてアリスは何かを知っているなと確信した。
「ここまで残ったお前は間違いなく学園内で最上位の実力者だ。自信を持て」
「う、うれしい評価ッスけど、「私からも頼みます!」え゛!?」
なおも渋るアリスにアシュテルが頼み込む。
「事態は一刻を争う可能性が高いです。ですから、最適かつ最速の手段で挑むべきです」
「そ、それはそうッスけど………で、でもぉ」
邪念のない真っ直ぐな言葉と熱意を理屈という火薬が打ち出す。見事、被弾したアリスは涙目になっている。
「あー、俺は狙撃以外は能がないんでお任せするっす。適材適所ってやつだな」
「っというわけだ、頼んだ」
最後のダメ押しとばかりにフッドがとどめを刺し、ヴィレムが死体蹴りを行う。
そして現在に至る。
「中で何が起きてるんでしょうね………」
少し罪悪感を感じているのか、歯切れが悪く心配を口にしたアシュテルにヴィレムは返答する。
「まあ、本気で無理だと感じれば逃げ帰ってくる、はずだ」
正直、ヴィレムも少し心配になっていた。ただ、その心配はアリスの物理的な心配ではなく、心理的な心配だ。
「うわぁ!何処触ってるんッスか!!!!!あたしまだそういうのには疎いんで勘弁してッ!きゃっ!へ、変態ッス!!!!!訴えてやるぅぅぅぅ!!!!!」
そんな泣き言が聞こえてきた。
「っていうか!なんなんすか!これ!!!!!趣味ッスか!?学園長の趣味なんッスか????性癖捻じれ過ぎッス!拗らせた思春期少年だってもうちょいマシッスよ!」
聞こえてくる悲鳴に男たちは顔の筋肉をこわばらせる。
「だいぶ、怪しい言動が聞こえてくるけど大丈夫なんっすかね?あれ」
「命の危険はないと確信できるが、社会的な何かが壊れそうな危険性があるな」
「いや、二人とも!何でそんなに冷静なんですか?」
こういう時の反応は性格が出るなと思う。ヴィレムは冷静を装い、フッドは顔には出さないものの困惑した声を上げる。そして、アシュテルは流石に様子を確認してこようと今にも屋敷に入り助太刀したそうだ。
「あ、これって」
フッドが驚いたように声を上げ看板に触れると看板の文字が消失し、新たな文字が浮かんでくる。
『美少女のみを行かせた諸君らの英断に敬意を表して。祝福を
ちなみにここでの祝福はラッキースケベと読むのじゃよ?』
こいつ何で学園長なんだろう。そんな感想を抱くとともに、屋敷の最上階の窓からアリスが飛び出してきた。
――――――――下着姿で
しかも、体は謎の液体でヌメヌメしており頬は赤みを帯びている。半泣きで体を抱きかかえるアリスは非常に艶めかしかった。
「『ウォルター』」
ヴィレムは流石に罪悪感を感じたようで水魔法でアリスの体を覆っている謎の液体を洗い流した。その後、持っていたタオルで軽く身体を拭って自身のブレザーを着せた。
「悪趣味だとは聞いていたッスけどここまでとは………。も、もうお嫁に行けないッス…」
居たたまれない空気が漂い、男たちを責め立てる。たまらず、ヴィレムはフッドに視線を送る。
(おい彼女持ち。なんかいい感じの言葉を掛けてくれ。俺は思いつかない)
(自分でかければいいだろ!?俺だってこんな状況に対応できないっすよ)
(………)
男たちが何と声を掛ければいいか迷っていると看板があった位置の地面が陥没していく。
長方形の穴が地面に出現し、その中から小さめの直方体の祭壇のようなものがゆっくりと上がってくる。
その上には茜色のキューブが乗っていた。ヴィレムたちはそれが色こそ違うものの、学園内部にあるものと同じ転送装置であることを推測した。
アシュテルが思わず飛びつき、キューブを手に持つ。その瞬間、電子音がキューブから鳴る。いつの間にか、キューブは発光を始め周囲に魔法陣を形成し始める。
『魔道具、転送大砲ガ起動。大砲ノ発射マデ30秒デス』
そんなアナウンスが鳴る。ヴィレムたちの周囲を魔力の膜が包んでいきやがて球体状へと変貌する。
さながらそれは、大砲の弾の様で―――――。上空に伸びた立体魔法陣は大砲の筒のようだった。
「おい…まさか」
「ちょ!アシュテルサン!?その魔道具の起動止められないのか!?」
事態をいち早く察しアシュテルを止めにかかるフッド。
「例え、大砲の弾になったとしても主のところにはせ参じられるのでしたら問題はないです」
「そういう問題じゃないだろ!?あんた、何で転送魔法にこだわっていたのか忘れてんのか?」
慌てた二人のやり取りを聞きながら、ヴィレムはアリスの前で膝をつき目線を合わせて一言つぶやく。
「文句は後で聞く。謝罪もしよう。だから、一つ頼まれてくれ―――――――」
ヴィレムは緊迫した事態の中、慌てた様子もなくただただ言葉を尽くす。
「ッ!?正気ッスか!!!?」
話を聞き終えた瞬間、弾けるように顔を上げたアリスは信じられないものを見たような顔でヴィレムを見つめる。
「必要なことだ」
『起動マデ3――――2―――1―――――強制転送ヲ開始シマス』
四人を包んだ魔力球は魔法陣の輝きに押し飛ばされるようにして発射された。
ミストは迷っていた。セルベスターとイボスの会話を聞きながら、自身の行動の指針を決めあぐねていた。自分の力ではあのテロリストたちには勝てっこないとわかってはいたが、ここでこのまま気絶したふりを続けているべきなのか決めきれないでいた。
他の意識のある生徒たちはセルベスターも含めて全員、闘技場の中心に集められていた。周囲を覆面のテロリストたちが囲っている。
「随分と時間がかかりましたね」
イボスが通路に向けて言葉を掛ける。そこから現れたのはアシュタロスだった。その手には破魔の金剣が握られている。
「ですが目的は達成できましたよぉ。両方とも、ね」
「おお!本当ですか!?それは素晴らしい!ついにあの女狐を屠れたのだな!」
姿を現したもう一人の男に警戒心を向ける生徒たち。同じく警戒心は抱いていたものの、セルベスターには聞き逃せない言葉があった。
とある人物の殺害のために破魔の金剣が必要だとイボスは言っていた。そして、彼らは目的を果たしたといったのだ。ここから考えられるのはこの場にいない人間の殺害を成したということ。そのことを瞬時に理解したセルベスターは大いに焦った。
「のう、聞いてもいいかの?」
冷や汗を浮かべながらも気丈に振るまい、その可能性を聞く。
「何でしょう?」
「お主らの殺害対象とは誰じゃ」
イボスは口角上げ、感情の高ぶった笑みを浮かべる。
「そういえば貴方と彼女は仲がよろしいのでしたね?」
「あ、ありえん!アイセアが負けたとでもいうのか!?」
「そのための破魔の金剣です」
「う、嘘だ!」
「殿下が負けるなんて!ありえない!」
「認めないぞ!このテロリストども!」
騒ぎ出す生徒たちにうんざりしたのかイボスはアシュタロスに視線を向ける。その視線を受けアシュタロスはあるものを取り出した。
「証拠ならありますよ」
アシュタロスと生徒たちとの間に距離はあるもののそれを見ることはできた。それは艶のある灰色の髪の毛だった。魔力感知に優れるセルベスターは瞬時にそれが誰のものか理解した。
「優秀な人材を殺すのは心が痛むものですねぇ。ですがこの世には仕方がない犠牲があるのですよ」
「あの女は殺されるべき人材だった、それだけのことです」
その一言が決定的なものとなった。セルベスターは地面に手を付き、魔法を発動させる。瞬間、土の壁がせり上がり生徒たちとイボスとの間に出現した。
セルベスターは当然のようにイボスの側に移動し、彼を制圧せんと呪文を唱える。
「汝大いなる岩の精霊よ、我に恵みを、蛮族に大地の怒りを、我に応え敵を砕け!『ギガンデスト・ロック』」
詠唱の終了と共に岩でできた巨大な腕が猛威を振るう。イボスはその腕をひらりと躱しながら、地面から次々と出現する岩の腕を見て目を細める。
「狙いは私と生徒たちとの距離を開けることですか。加えて、周囲の信者たちを掃討している。健気なことです。しかし、その殺意は悪くはないですね」
覆面のテロリストたちは成す術もなく、岩の腕に蹂躙されていく。
「主らを許す気はないのでな!」
セルベスターはレイピアを右手に持ち、瞬時に間を詰める。岩の腕に気を取られていたイボスは接敵を許した。だが、後れを取ることはない。瞬時に反応し、杖を振るう。
レイピアと杖がぶつかり火花が飛び散った。驚くセルベスターの目に映ったのは、いつの間にか鉄に変化している杖だった。
「錬金術か!」
「よくご存じで。そちらも細剣を魔法で補強しているのですね。学生らしい手です」
鍔迫り合いの最中、拮抗を押し切りセルベスターは、レイピアを突き刺すように動かす。
その攻撃を予測していたイボスは、すぐにその場から後ろへ跳び相手から距離を取る。そしてすぐさま足に力を込めて再度攻撃しようとしたが、ズボッと足が沈んでいき身動きが封じられた。
「地面の軟化、沼の形成ですか。多彩ですね」
「『アクアリアム・ウエーブ』」
狭い範囲に収束した水の波が押し寄せる。本来広範囲を制圧するための魔法であるが、範囲を絞り威力を上げ被害をとどめた。セルベスターの瞬間的なアレンジだ。その機転と才能には見ていたアシュタロスも思わず、拍手を送ってしまった。
目の前から水の波が押し寄せてくる中、イボスはただ笑っていた。
「私に集中しすぎて一番厄介なものをお忘れの様ですね」
瞬間、水の波が消えた。生徒たちを守っていた土の壁も消え失せ、会場にあるあらゆる魔力的構成物が消失または停止した。
「ッ!破魔の金剣か!」
「カカカ!正解ですよ!そしてさようならですねぇ」
「ッァ!?」
「セルベスター様ッ!!!!!」
「きゃあああああああああああああ!!!!!!」
生徒たちの悲鳴が上がる。セルベスターは自分の身体を見下ろす。そこには自身の腹部から剣が生えている光景があった。
「急所は狙いませんでした。貴方を殺すのにはまだ早いですからねぇ」
金剣を引き抜く。セルベスターの腹部から血が噴き出て地面を汚していく。生徒たちは青ざめて声が出ないものが多く、その惨事の割には会場は静かだ。
「さて、このままお暇しますか」
「………そうですねぇ。彼らを殺す必要性は今はありませんし。ヴィレム君が戻ってくる前に………ん?」
アシュタロスはその音に顔をしかめる。イボスもアシュタロスの反応を見て、耳を澄ませる。そして、二人は同時に上を見上げた。
「「「うわぁああああああぁぁぁぁあああああああ!!!!!!!!!死ぬ!死ぬッスぅ!」」」
叫び声と共にそれは落ちてきた。天井のガラスを破って三人の男女が闘技場に落ちてくる。それはまさに一瞬の出来事だった。落下してきた男女に視線を持っていかれていたイボスは突如自身の腕に衝撃的な熱が走ったのを感じた。見えない何かに両断されたかのようにイボスの腕が宙を舞う。
「セルベスター様!!!!!!!!!!」
アシュテルは主の姿を見てギョッとし、慌てて駆け寄る。アリスはどさくさに紛れて気配を消す。
そして、ヴィレムはアシュタロスに剣を振りかざし斬りかかった。
「久しぶりですねぇ!ヴィレム君!」
「ああ、そしてさようならだ。狂人」