ゲームの世界に転生した挙句黒幕に飼いならされてます………   作:休も

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第16話

状況が一気に動いた。杖を持ったテロリストは片腕を落とされ、取り残されていたはずのヴィレムたちが戻ってきたのだ。ミストは今こそ動くべきかと考える。だが、答えは否だ。

 

ミストはその場でじっと耐えていた。飛び出せば死ぬだけだとわかっていたからだ。なぜなら、破魔の金剣がテロリストの手にあるからだ。

 

魔法が使えない自分たちと魔法が使えるテロリスト。考えるまでもない。絶対的なアドバンテージがテロリストには存在していた。

 

「無謀ですねぇ!!!!魔法で身体能力を強化しているワタクシと生身のあなたでは勝負になりませんよぉ!!!!!」

 

その言葉通り、戦闘はお世辞にも拮抗しているとは言い難かった。ただ、それでも何とか喰らいついていられるのはアシュタロスの動きを知っているだけでなく、ヴィレムの剣術がアシュタロスのそれを上回っているからだ。

 

しかし、ヴィレムはたった30秒の戦闘で満身創痍だった。体中から血が噴き出している。傷はすべて浅く、大したことはないものの数が多い。その上、剣を持つその腕は震えていた。身体強化を前提に鍛えられたその剣は生身で振るうには負担が大きかった。

 

「おっと!」

 

アシュタロスの背後から炎の矢が飛んでくる。フッドの狙撃だった。

 

ここに来る前にヴィレムから話を聞いていたアリスが狙撃ポイントになりそうな場所にフッドを落としたのだ。正確には、魔法膜の外に蹴り飛ばした。悲鳴をあげながらフッドは落ちていったが、魔法を使えば怪我無く降りられるだろう。そう思って、アリスは見て見ぬふりをした。

 

「え!?フッド先輩を蹴り落とす?正気ですか?」

「ああ、こっちから頼んでもフッドの性格上拒否するのは目に見えている。期待されるのとか、責任が重い仕事嫌いだからな」

「うわぁ」

「だからいいタイミングで蹴り落としてくれ。王都の地形は騎士団にいるお前の方が把握しているだろ?狙撃に適した場所なんて俺はわからない」

 

こんなやり取りが行われていた。

 

フッドは頭が回る方だ。自分に何が要求されているか瞬時に理解しただろう。その予想は当たっていた。

 

「なるほど、イボスの腕を落としたのはこの狙撃ですか!いい判断です!破魔の金剣の効果範囲外からの狙撃!それはこの宝具の正しい攻略法」

 

「だったら!矢に当たれよ!」

 

踏み込むヴィレムに対して金剣を振るう。ヴィレムは何とか剣を割り込ませるが、勢いに押され後方に吹き飛ばされる。

 

「狙撃の腕もいい!ですが、ワタクシを狙うにはまだお粗末ですねぇ」

 

老爺は楽しげに笑う。この男は腐っても教団の幹部。そしてかなりの古株だ。実力はアイセアには及ばないが幹部の中では強い部類に入る。が、彼には弱点がある。それは、気に入った相手を自身の生徒のように扱うことだ。相手の手や行動を評論し、称え遊ぶ。だから、ヴィレムは自分が気絶するまでアシュタロスは殺しに来ないと確信していた。

 

「確かに、お前を殺すには不足かもな。狙撃だけなら」

 

「ッ!?」

 

アシュタロスが後ろを振り返ると目を血走らせ、その瞳に怒りの炎を宿したアシュテルが剣を抜き放つ。

 

火花が散る。体重を全てかけたアシュテルの一撃は決して軽いものではなかった。故に、アシュタロスは金剣で迎え撃った。

 

「カカカカカカ、主の敵討ちですか?まだ生きているでしょう?治療して差しあげるのが先ではないですかねぇ?」

 

「お前を殺さなければセルベスター様の安全が確保できない!」

 

「それは道理ですね。いいでしょう!向かってくるというのであれば、殺して差し上げますよぉ!!!!!」

 

アシュタロスがアシュテルの剣を弾き飛ばし、刺突を放つ。アシュテルのとっさの判断は体をひねることで急所を外すことを選んだ。間に合ったのは偶然だった。破魔の金剣がアシュテルの腹部を貫く。鮮血が舞い、痛みで悲鳴を上げる。

 

「グッ!ッ………」

 

「おや?外してしまいましたか………やはり使い慣れていない獲物はダメですねぇ」

 

苦悶の表情を浮かべるアシュテルに向かってアシュタロスは微笑む。

 

「では魔法で終わらせるとしましょう」

 

アシュタロスはアシュテルに向かって魔法を放とうと魔力を練り上げた瞬間、追い詰められているはずの少年の口元が笑みで歪んだ。

 

「『アルマ・ブロウ』」

 

「ッ!?」

 

電撃を纏ったアシュテルの拳がアシュタロスの頬をえぐるように捉える。

 

「あああああああああああああああ!!!!!!!!」

 

そのままアシュテルは全力で拳を振り抜いた。弾いたボールのようにアシュタロスが後方へ向かって吹き飛んでいく。手放される破魔の金剣。電撃で痺れているアシュタロスの体は何度も地面にバウンドしながら尚も止まらずに吹き飛んでいく。まったく予想していなかった攻撃をまともに食らったのだ。

 

金剣が地面に転がった瞬間、何かが割れる音と共にヴィレムたちは魔力の制御ができるようになった。

 

立ち上がろうとするイボスをヴィレムは蹴り飛ばそうと動くが一瞬、イボスの方が早い。

 

「呪光に穿たれよ!」

 

イボスの指先から放たれた光線をヴィレムは紙一重で躱す。だが、二射目は躱せない。それだけ体のバランスが崩れている。

 

「やばッ!」

 

イボスが口角を釣り上げる。呪いが込められたその攻撃を放つそのコンマ数秒前、声が響いた。

 

「―――――『シュトロム』」

 

不可視の弾丸がイボスの無防備だった背中を突き飛ばす。ふわりと空中に浮いたイボスの身体は前方に転がる。最適なタイミングで狙撃がイボスを地面に縫い付けた。

 

「ミスト、最高にいい女だな。お前」

 

「タイミングが悪いね。もっとムードが欲しいな?」

 

観客席から魔法を放ったのはミストだった。得意気な顔をしているミストは達成感と褒められた喜びで、緊張感を忘れている。

 

ヴィレムはイボスから視線を外し周囲の状況を確認し笑みを浮かべる。アリスは気が付かないうちに意識のある生徒を観客席へと移していた。破魔の金剣の効果が切れたことで観客席は魔法の障壁で守られた安全地帯になった。

 

気絶している生徒もアリスが何とかするだろうと思考をやめて、ヴィレムは闘技場の壁面に目線を送る。

 

轟音と共に闘技場の端に激突した老爺は不気味な動きで立ち上がり、狂ったように笑いながらアシュテルに向かって問いかける。

 

「カカカカカカカカカカカカカ!!!!!!!破魔の金剣の最大の盲点ッそれは所有者ではなく宝具に触れているもの全員を効果範囲の対象外にしてしまうこと!………何時、気が付いたのですか?」

 

「気が付いたのは私じゃない。セルベスター様だ」

 

貫かれた傷口を押さえながら静かに種明かしをした。セルベスターは意識が残っている間に自身の得た情報をアシュテルに伝えていたのだ。

 

「なるほど。自身が貫かれたあの一瞬でそれに気が付きますか。満点をあげましょう」

 

ヴィレムは老爺がまったくダメージを負っていないことと余裕が崩れていないことを不思議に思い、問いかけようとした瞬間老爺は無表情でヴィレムに話しかけてきた。

 

「アイセア君はワタクシが殺しました。魔力が戻った今なら彼女の魔力がないのがわかるでしょう?」

 

先ほどまで狂人の様に笑っていた老人の表情に陰りが見える。それは先ほどまでの狂人と同一人物には思えない。

 

「惜しい、実に惜しい子を殺しました」

 

絞り出すように出たその声色には嘘がなかった。

 

「なッ!ふざけるな!!!!お前が殺したんだろう!」

 

アシュテルは老爺の勝手な言い分に傷口を気にせず叫び声をあげる。ヴィレムはその表情を変化させることはない。ただ、ゆっくりと目を閉じる。そして、目を開け真っ直ぐとアシュタロスに向き合った。

 

ヴィレムには焦りはない。悲しみもない。死んでなどいないことをヴィレムは確信しているからだ。

 

「俺はアイセアを信用している。この世で最もアイセアの技量を知っているのは俺だ。断言しよう、お前は嵌められただけだ。憐れな狂人。アイセアがお前ごときに後れを取るなんてありえない」

 

「………」

 

老爺はその場で黙り込んでしまった。なぜなら、ヴィレムの瞳には強い確信がありその魔力の揺らぎのなさが、決して虚言の類でないことをアシュタロスに囁いていたからだ。

 

「イボス、何をすべきかわかりますか?」

 

アシュタロスはイボスに視線を向けることなく問いかける。イボスはそれに無言で答えた。

 

矢による拘束が破られる。そしてイボスはアレに祝詞を捧げた。

 

「汝、異界の(おう)よ!我が魔を喰らい汝の神威を我が身に宿せ」

 

空間が軋む。世界が揺れる。圧倒的な魔力の奔流が男を中心に吹き荒れ、周りを吹き飛ばしていく。

 

それは神を呼び込む祝詞だった。赤い幾何学模様の魔法陣が浮かびだす。

 

「愚かだな、それを使うなんて」

 

輝きを失った魔法陣の代わりにそれは世界に招来した。不完全な神の断片、理解不能がいた。

 

辛うじて人の形状はあると言えなくもない。二足歩行をする生き物をすべて人型と呼ぶならだが。

破れた衣服から覗く皮膚は、黒に近い。皮膚という表現は的確ではないだろう。外皮、という表現の方が正しいのかもしれない。3mを優に超えている超巨大な体躯。脚も、腕も、指も、異常に長い。背中からは無数の棘と触手が生えている。目は鮮血を思わせる赤。そこには理性を感じさせる光は無い。

そして、最も目立っているのはその背中から左右へと伸びる、蒼い炎の翼。まるで出来の悪い天使だ。イボスの身体は神威に耐え切れず出来損ないの天使に変貌したのだ。

 

「な、なんッスかあれ………」

 

「あ、ああぁあぁ」

 

「ウッ………」

 

それを見た人間は困惑と気持ち悪さに支配される。

 

「カカカカ、何度見ても素晴らしい!不完全とはいえ邪神の断片の再現です。あなた方に止められますかぁ?」

 

その場に居た全員が息をのんでいた。あまりに冒涜的で悍ましく、本能が逃走を囁くその異物は周囲の空間を狂気と不完全な神威で侵していく。

 

「Gaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!!!!」

 

咆哮。もはや物理的な衝撃波すら有したそれを、咄嗟に展開したミストの防音の魔法と正面に展開させた障壁によって回避する。怪物が跳躍した。一瞬でミストとの距離を詰めて、障壁を叩き割る。

 

「はぁ!?????」

 

怪物がその剛腕を一閃する。間一髪のところで飛び込んできていたヴィレムがミストを抱えて脱出した。

 

「え?わッわわ!あ、えっと………」

 

命の危機からお姫様抱っこの切り替わりに頭が付いて行かない。ミストは大混乱状態であった。

 

「ミスト!アシュテルを連れて観客席の連中を避難させろ!」

 

「へ?あ、は?」

 

「いいから!頼む!マジで余裕がない!さっきの見ただろ?観客席はもう安全じゃない!!!!!」

 

ミストを降ろしヴィレムは剣を抜く。走り出すと同時に意識のあった教団メンバーが全員いなくなっているのを確認して、苛立ちを覚え罵声が飛び出す。

 

「クッソが」

 

怪物に向かって突貫する。

 

(あれは神威のバケモノ。魔力で動いているわけではない分、魔法殺し(スペルキラー)は効かない。だが、魔法が通用しないわけではない。そして、長期戦は不利。というか相手が俺の動きになれたら死ぬ。最適解は一撃で決めること)

 

「『アトラス・ウィンド!』」

 

近距離から放たれる残りの魔力のほとんどを費やした全力の一撃だった。

 

土煙が轟音と共にその場を覆っていく。確かな破壊痕と衝撃、二つを確認してヴィレムは淡い期待を抱き、絶句した。土煙が晴れる瞬間に見えたのは無傷の否、怪物の傷が消失している光景だった。そのからくりを次の瞬間ヴィレムは目の当たりにする。

 

ダメージを負った側から再生しているのだ。蒼い炎が怪物の傷口を覆うように広がり瞬時に傷を再生させた。

 

「がッ!?!?!?」

 

驚愕で反応が鈍ったヴィレムは怪物の触手の直撃を受け腹部から鮮血をぶちまける。

 

そのまま怪物に殴り飛ばされ後方に飛んでいった。

 

「「ヴィレムッ!!!」」

 

「先輩!!!!!」

 

観客席の非難を進めていたミスト、アシュテル、アリスが大きな悲鳴を上げる。

 

ヴィレムはそれを聞きながら焦燥感に支配されていた。

 

「やべぇ………死ぬ…」

 

致命傷は避けた。だが、傷が深いのだ。出血を止めなければ死にかねないだろう。ただ、あの怪物はピンピンしているし戦えるやつはアリスとフッド以外手負いだ。フッドもアレに対して狙撃はたいして意味がないという判断から除外すればアリスだけだ。

 

「全滅エンドか?笑えないな」

 

ヴィレムはアイセアに助けを求めそうになった。

 

「―――――アイセ………何を言ってるんだ俺。敵を頼ってどうする」

 

それでもヴィレムには選択肢がなかった。視線を応戦するミストたちに向ける。使えば彼女たちに力を見られてしまう。でも、ここで見捨てることが正解か?原作の主要人物を見捨てれば最悪世界が滅ぶ。ミストやセルベスターを見捨てることはあり得ない。それにアシュテルやアリスもそうだ。

 

だが、なによりも。彼女であれば彼らを助けようとする。確信があった。ここで彼らを見捨てれば、きっと彼女に会えない気がした。

 

「………最終手段はある。…できて3分、しくじれば発狂。ヒーローはガラじゃないんだがな」

 

(ネリア………俺は必ずお前に―――――)

 

ヴィレムはその場から立ち上がり覚悟を胸に祝詞を捧げる。

 

「汝、異界の神よ。我が魔に応えその神威を我に(よろ)わせ給え」

 

世界が歪む。

 

全能感と壮絶な苦痛と違和感に身を焦がす。

 

ヴィレムの中の何かが軋んでいく。

 

体を黒い霧のようなものが覆っていく。皮膚には正気を削がれかねない紋様が生じる。

 

「『邪神の衣(マッドキング)』」

 

忌むべき邪神の力を纏いヴィレムは殺意をみなぎらせる。

 

ヴィレムの顔には脂汗が浮かんでいる。が一瞬体の負担が軽減される。ヴィレムは複雑な感情を抱いている主のお節介に当惑しながら、剣を下段に構える。

 

その身を削る3分間が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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